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閉じるメタバースは、未来を形づくるためのビルディング・ブロック
メタバースについて考えるとき、すぐに思い浮かぶものと言えば何でしょうか。友人とゲームに興じるα世代の子供たちでしょうか。それともNFTでしょうか。VR(Virtual Reality:仮想現実)用のヘッドセットを身につけた人たちでしょうか。あるいは、Second Life™に夢中になったころを思い出すという方もいるかもしれません。ただ、Second Lifeが世に出たのは20年近く前のことですから、既に忘れてしまったという方もいるでしょう。
メタバースの潜在的なユース・ケースとしては、ひとりの想像力ではカバーできないくらい多様なものが考えられます。ただ、その市場はまだ確立されているわけではありません。メタバースを活用すれば、実に様々な体験が得られるようになる可能性があります。それらに共通するのは、強力な基盤技術と補完的な技術に依存するということです。
電卓付きの腕時計からメタバースへ

数学者のEdward Thorp氏は、1960年代に史上初のウェアラブル・コンピュータを開発しました。それは、「ルーレットの結果を予測する携帯型デバイス」というアイデアに基づいたものでした。現在では、様々な場所でウェアラブル・デバイスを目にするようになりました。その種類は、腕時計型のものに限定されることなく拡大しています。現在では、VR用のヘッドセットやAR(Augmented Reality:拡張現実)用のヘッドセットも含まれるようになりました。
ヘッドセット向けの技術は成熟し続けています。その結果として人気、需要は高まり、競争は激しくなっています。IDCのアナリストが発表した報告によれば、2021年にAR/VR用ヘッドセットの出荷台数は前年比で92%を超える成長率を記録しました。今後も指数関数的な成長が続くと見られており、2022年の出荷台数は前年比で更に46.9%も増加すると予想されています。しかも、2026年までは2桁成長が続く見込みです。そうすると、AR/VR用ヘッドセットの世界出荷台数は、2026年までに5千万台以上に達することになります。
この出荷台数の急増を支えているのはゲームです。実際、その一部はメタバースの形で実現されています。しかし、ゲームはあくまでもメタバースの一用途にすぎないと考えられます。この仮定は、長い時間を要すことなく現実のものになるはずです。
メタバースは一夜にして構築できるものではありません。アナログ・デバイセズは、お客様がメタバースによる没入型の体験を提供するために必要となる大規模なインフラの構築を支援しています。この分野で優位な立場にいることは間違いありません。クラウド、ネットワーク、エネルギー用のインフラからエッジ・デバイスに至るまで、当社は、メタバースの世界を旅するお客様を支援するための卓越した技術を提供しています。
メタバースがB2Bにもたらす機会
メタバースについては、インターネットの進化した利用法として説明されることがよくあります。インターネットの黎明期には、一方向のコミュニケーションしか行えませんでした。コンテンツは静的なページとして提供され、それに対して双方向のやり取りを行う方法は存在しませんでした。その後、インターネットはよりソーシャルなものへと進化しました。ユーザは、コンテンツとの間で、あるいはそれを提供する企業との間で相互にやり取りすることができるようになりました。つまりソーシャル・メディアが誕生したのです。この進化を受けて、Amazon、Meta(Facebook)、Googleなどの企業はインターネット業界の世界最大手として大きな成長を遂げました。現在は、まだ次の進化の段階に移行したとは言えません。しかし、ユーザが制御可能なインターネット、あるいは家庭内で没入型の体験が得られる新たな環境といった形で、よりパーソナライズされた世界が提供されるようになることは約束されています。
JPMorgan Chaseの調査によれば、メタバースによって市場にもたらされる機会は1兆米ドル(約145兆円)を超える規模になるといいます。その上で同社は、「メタバースは今後数年間のうちに何らかの形であらゆる分野に浸透する可能性が高い」との予測を示しています。特に、メタバースはゲーム、小売、イベントといった民生市場に多くの機会をもたらすと考えられています。ただ、JPMorganは「現在、世界中のビジネス・リーダーや企業の役員は『当社にとって、メタバース向けの戦略とは何だろう? メタバースによって何をすればよいのだろう?』と自問している状態にある」と指摘しています。
無限の可能性を秘めるメタバース
没入型のゲームは、AR/VR用ヘッドセットの販売を牽引しています。ただ、没入型の体験というのは、必ずしもヘッドセットを装着して仮想世界で生活するということと同義ではありません。現実の世界でありつつ、拡張された世界に踏み出せば、没入型の体験を得ることが可能です。
例えば、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)のパンデミックによって、私たちは新たな事実に気づかされました。それまでであれば、病院に行かなければ対処できなかったはずの多くの病気について、快適な自宅で効率的に診断してもらい、治療を受けられることがわかったのです。メタバースは、この考え方を更に一歩進める役割を果たすことになるでしょう。つまり、メタヘルスと呼ばれる仮想診療所が創り出されることが想定されます。

健康の面で何らかの問題が検出されたら、スマートウォッチによって診療所に対する通知と予約が行われる――。そのような世界を想像してみてください。その世界では、あなたのアバターが受付の人とやり取りを行います。他の患者から風邪をうつされる心配のない仮想待合室で待機し、医師または医師のアバターの診察を受けるのです。また、あなたまたはあなたのアバターは、医師と共に同じ資料を見ながら、検査結果を確認し、治療の選択肢について話し合うことも可能です。もしかすると、医師はあなたの診断に役立つ専門家を連れてきてくれるかもしれません。その専門家は、実際にはあなたの家から飛行機を使わなければ行き来できないほど遠い場所に住んでいるのかもしれません。メタバースは、快適な自宅までその専門家を連れてきてくれるのです。
この例から、次のような状況も連想できるのではないでしょうか。例えば、店員のアバターは、リビング・ルームをデジタル的にコピーした空間で家具を見せてくれるかもしれません。飛行機で実際に予約をとる前に、訪問を考えている街やホテルの下見をすることも可能でしょう。あなたのモデルになってくれるアバターにより、パジャマを着替えることなく、洋服の試着/購入を行えるようになるのかもしれないのです。
メタバースの導入を成功に導くための4つの要素
メタバースには、現在の1000倍もの驚異的な演算能力が必要になります3。メタバースを何らかの方法で活用しようとする場合、この数字を指針にしなければなりません。その際には、以下に挙げる4つの重要な要素を含めて適切なアプローチを採用する必要があります。

<1> クラウドの演算能力
現在のインターネットの使用方法は、既にハイパースケールのデータ・センターの急速な成長を後押ししています。一方、Intel®は「メタバースがその力を発揮しようとすると、必要な演算能力は1000倍に膨れ上がる。それに伴って、より高度なデータ・センターが成長する」と見ています。メタバースをより強力なものとし、それによる成果を得るためには、高密度のサーバ、AI用のアクセラレータ、ストレージ、ネットワーク・システムが必要です。それだけでなく、ギガビットのレベルで接続を実現する光制御方式のソリューションと、データ・センターのインフラを整備するためのセンサー・ソリューションを用意する必要があります。

<2> ネットワーク用のインフラ
遅延を伴うビデオ、長いロード時間、貧弱な接続は、メタバースの成功を阻害する重大な問題です。現実の世界にバッファリングは存在しないので、メタバースの世界でもバッファリングを行うべきではありません。ここで言う遅延とは、ネットワーク上のあるポイントから別のポイントにデータが届くまでにかかる時間のことです。現在の世界でも遅延は重要な問題だと捉えている方であれば、メタバース内の人、物、場所に対するやり取りに及ぶ遅延の影響について想像するのは難しいことではないでしょう。ある調査によれば、「VR用のヘッドセットを使用する際に生じる『VR酔い』の主原因は遅延である」といいます。

<3> エネルギー
別の調査では、「あるAI用の処理モデルのカーボン・フットプリントは、62万6千ポンド(約284t)以上のCO2を排出することに相当する」との推定値が示されています4。メタバースを利用すると、エネルギーの消費量とCO2の排出量が天文学的な数値に達します。そのため、太陽光や風力といったグリーン・エネルギー源の活用が必須となります。最大の課題は、それらによって得られたエネルギーの貯蔵方法と分配方法です。未使用のグリーン・エネルギーを貯蔵して最大の効果を得るためには、バッテリが重要な要素になります。そして、バッテリを有効に活用するためには、優れたバッテリ管理(バッテリ・マネージメント)システム(BMS)が必須です。それによりバッテリ・システムの監視、制御、分配を行うことで、バッテリの寿命が尽きるまで信頼性の高い充放電が行われるようにする必要があります。

<4> エッジ・デバイス
現在、インテリジェントなエッジの分野には革新がもたらされています。エッジ・コンピューティングは、分散型のデバイスの帯域幅を大幅に拡張したいというニーズに応えて生み出されました。特にメタバースのリアルタイム・アプリケーションでは、世界中で生成されるデータに対応するためにローカルの処理やストレージ機能が必須になります。メタバースでは、没入型の体験を提供するために、映像、音声、ヒューマン・マシン・インターフェースを扱うサブシステムに多くの技術を導入しなければなりません。それらは、いずれもエッジにおける大きな処理能力を必要とします。電力と遅延を最小限に抑えつつ処理能力を高めるためには、エッジにおけるAIの活用方法が鍵になります。また、センサーの近くで処理を行うことにより、デバイスからデータを転送するための電力を削減することができます。更に、クラウドではなくローカルの演算能力を活用することで、遅延を最小限に抑えることが可能になります。
造らなければ人は来ない

メタバースには、私たちの生活のあらゆる面に影響を及ぼしそうなレベルの勢いがあります。ただ、アナログ・デバイセズは、メタバースを広く普及させるためには満たすべき条件があると考えています。まず、いつでもどこでもメタバースに簡単にアクセスできるようにすることが重要です。加えて、ヘッドセットが人を制限したり、邪魔になったりするものであってはならないと考えています。
上記の目標は、それらに対応するために必要なインフラを構築できて初めて達成できます。インテリジェントなエッジは、必要な演算能力を確保するために行われる連携に基づく取り組みにおいて、重要な役割を果たすはずです。再生可能エネルギーを効率的に利用し、ネットワーク・インフラを拡張することで、これまでにないレベルのデータに対応することになります。現在、アナログ・デバイセズはそうしたインフラの構築を支援する立場にあります。
アナログ・デバイセズは、データ・センター向けソリューションのポートフォリオを用意しています。パワー・マネージメント、ギガビット・レベルの接続向けの光制御、データ・センターのインフラを整備するためのセンサー・ソリューションなど、多岐にわたる分野に対応しています。現在、当社は、低遅延の5Gネットワーク向けのインフラを実現するために、その中核となるワイヤレス技術の企画、設計、構築の最前線に立っています。省電力技術、セキュリティ技術、スマート・アルゴリズムなどを活用することで、前例のないレベルの高い性能を実現すべく取り組みを行っています。更に、消費電力の削減とグリーンな電源の実現には、当社のバッテリ管理ソリューションが大いに役立ちます。
今後はメタバースの普及に向けて、メタヘルス施設、仮想ショッピング体験、起爆剤となり得る没入型のゲーム体験といったものを設計しなければなりません。いちばん重要なのは、そのために必要な堅牢性の高いインフラを設計することです。
参考資料
1「AR & VR Headsets Market Share(AR/VR用ヘッドセットの市場シェア)」 IDC
2 「JPMorgan Study Estimate(JPMorganの調査に基づく推定値)」JPMorgan Chase、2022年
3「Powering the Metaverse(メタバースの実現に必要な能力)」Intel、2021年12月
4 Karen Hao「Training a Single AI Model Can Emit as Much carbon as Five Cars in their Lifetimes(AI用の単一モデルの学習処理により、5台の車が生涯に排出するのと同等のCO2が発生)」MIT Technology Review、2019年6月