

Signals+ ニュースレター登録
Signals+はコネクティビティ、デジタルヘルス、モビリティ、スマートインダストリーに関する最新情報をお届けします。
ありがとうございます。ご登録のメールアドレスにお送りしたメールを確認し、ニュースレター登録を完了させてください。
世界中の人々の生活に影響を与える、画期的なテクノロジーに関する最新情報をタイムリーにお届けします。
閉じるJVCケンウッドが開発したミッション・クリティカルな通信用の無線機、人命救助に不可欠な手段に
自然災害の襲来により、人命が危機にさらされたとします。初期対応者(ファースト・レスポンダー)は、その災害により地上のインフラにも被害が及んでいる場合でも、救助や復旧活動を連係させるために堅牢性の高い無線通信を確立しなくてはなりません。消防、警察、緊急救助隊の間で情報を迅速かつ正確に広めることができれば、それらの機関は最新情報をリアルタイムで入手しながら円滑に協力し合い、新たな事態の動きにも効果的に対処することができるからです。また、通信は、負傷者の治療、建造物等の再建、被災地支援といった長期的な復興プロセスの管理においても重要な役割を担います。
既存のネットワーク・インフラが被害を受けた場合でも、復旧活動を後押しできる通信機器があります。それは陸上移動無線機(LMR:Land Mobile Radio)と呼ばれるものです。LMRを導入すれば、その高出力のトランスミッタにより、広い範囲にわたってLMR間で直接通信を実施することができます。また、暫定的なモバイル・インフラを配備すれば、より長い通信距離を実現することも可能です。LMRとネットワークがあれば、初期対応者は密林や山岳地帯のような厳しい環境においても接続を維持することができます。そのような状況では、初期対応者は無線機を長時間使用しても充電が1日中持つことを望むものです。また、LMRは、初期対応者の日々の活動においても頼りになります。LMRを使用できれば、車両停止、火災警報、医療緊急事態への対応といった日常的な活動におけるコミュニケーションや連係が円滑になるからです。
JVCケンウッドは、LMR開発のトップ企業として市場を牽引しています。一方、アナログ・デバイセズには、技術イノベータとして20年にわたりソフトウェア無線(SDR:Software-defined Radio)に対応するICを開発してきたという実績があります。JVCケンウッドは将来のLMRの基盤になる中核技術として、アナログ・デバイセズの無線トランシーバーIC「Nevis」を採用していますが、同ICの開発は両社連携の下で進められました。この連携によって、JVCケンウッドは、同社のLMRの無線性能と信頼性を高めると共に、通信システム事業を強化することを狙いました。一方、アナログ・デバイセズはNevisを更に進化させつつ、JVCケンウッドを強力にサポートすることを目指しました。その結果、両社にとってウィン‐ウィンの関係が築かれたのです。
本事例の概要
顧客企業の概要
JVCケンウッドは日本のエレクトロニクス企業。無線通信、オーディオ、ビデオに関する技術に強みを持つ。通信システムに関する事業では、信頼性の高い無線通信機器の提供に尽力している。それにより、安全/安心な社会の実現に貢献している。
アプリケーション
デジタル信号処理とアナログ・デバイセズの汎用トランシーバー「ADRV9104」を組み合わせる。ADRV9104はSDR対応のICであり、ダイナミック・レンジが広く、消費電力が少ないことを特徴とする。
課題
次世代のLMRの電力効率を改善する。また、SWaP(サイズ、重量、消費電力)を最小限に抑えつつ、高いRF性能を達成する。更に、各種のコンプライアンス基準を満たすと共に、周波数利用の面で混雑した環境や機器の動作条件の面で厳しい環境における性能の強化を図る。
目標
次世代のミッション・クリティカルなLMRの開発/普及を図る。そのLMRは、緊急時以外には公共安全チームが使用し、自然災害の発生時には対応(レスポンダー)チームや救助チームが使用することを想定して設計する。また、他の通信デバイスの将来的な導入に向けた土台作りをする。
危機対応の最前線に立つLMRユーザのニーズを取り込む
LMRは、ミッション・クリティカルな通信システムです。しかも、妨害信号や干渉信号を生じさせる可能性がある商用のセルラ・ネットワークと共存する必要があります。このことは、LMRが直面する多くの課題の一部に過ぎません。JVCケンウッドの先行開発チームは、次世代のLMR製品においてユーザ・エクスペリエンスを改善することを目指していました。そこで、危機対応の最前線に立つユーザたちのニーズを直接フィードバックしてもらうことにしました。
フィードバックを受けたJVCケンウッドは、一部のユーザがLMRの充電がより長く持つことを望んでいることに気づきました。緊急対応が長時間に及ぶ場合、停電などが原因で、バッテリを充電する手段を見いだすことが困難になることがあります。また、頻繁な再充電が必要になった場合、そのことが活動の支障になるかもしれません。加えて、JVCケンウッドは、無線性能の向上に対するニーズが高いことも把握しました。特に、近くに妨害信号があってもLMRが良好に機能することが非常に重要であることを認識しました。
より有用な成果を上げるための協業
JVCケンウッドは、ユーザからのフィードバックによって得た知見をアナログ・デバイセズと共有しました。また、様々な無線機のユース・ケースや、ミッション・クリティカルな通信の市場が対処すべきニーズに関する知見もアナログ・デバイセズに伝達しました。アナログ・デバイセズで狭帯域トランシーバー担当シニア・プロダクト・マーケティング・マネージャを務めるMatthew Hazelは「この協業は、単に要件を告げられるだけのビルドtoプリントのプロセスではありませんでした」と述べています。「私たちは活発なやり取りを行いました。例えば、ハードウェアの性能を高めるために、両社で連携してテストの作業を実施しました。また、当社からはシミュレーション結果やハードウェアのテスト結果を提供しました。それにより、JVCケンウッドはシステム・レベルのニーズに基づいて当社のデバイスの性能を評価することができました。そのようにして得た知見をベースにすることで、システムの開発プロセスの後半で起こり得る重大なリスクを軽減することができました」とHazelは説明しています。
アナログ・デバイセズとJVCケンウッドは有益な情報を交換し、それらに基づいてあらゆることを進化させました。2年以上にわたり、ハードウェアとソフトウェアの両面から更なる強化/改善のための作業を繰り返したのです。この取り組みは、ターンキー・プロジェクトのような性質のものではなく、非常に複雑かつ変動要素の多いものでした。そのため、アナログ・デバイセズは、JVCケンウッドと足並みを揃えつつ、重要顧客の開拓マイルストーンと整合性を持たせられるように開発スケジュールの調整を図りました。
「無線機によって提供すべき中核的なサービスは、ミッション・クリティカルな通信を実現することです。そのためだけに、無線機は非常に優れた性能を発揮しなければなりません。」
ソリューションの提供
一般に、トランシーバーでは、RF信号をビット・データに変換する機能が主要なものとして位置づけられています。ただ、アナログ・デバイセズは、JVCケンウッドとの共同作業を通じ、その一般的な役割を超えるものになるようNevisを進化させました。Nevisは、アナログ・デバイセズとしては初のソフトウェア定義モデム(SDM:Software-defined Modem)を統合したSDR対応のICです。そのSDMプラットフォームは、LMRやそれ以外の狭帯域アプリケーション向けに最適化されています。また、SDMのアーキテクチャは、プログラムマブルなプロセッサを使用して構成されています。それを補完するものとして、一連のハードウェア・アクセラレータ、ペリフェラル、インターフェースが使用されています。ハードウェア・アクセラレータは、特定の処理タスクを実行する専用の集積回路として実現されています。ソフトウェアによって同じ機能を実現する場合と比べると、より高い効率、より少ない消費電力が実現されるようになっています。ペリフェラルとインターフェースは、Nevisによってシステムの他の要素を制御するために使用されます。例えば、システムのタスクをスケジューリングしたり、外部のコーデックやプロセッサとのインターフェースを確立したりすることが可能です。
NevisのSDMには、従来はアプリケーション・プロセッサでしか実現できなかった機能を組み込むことができます。それにより、トランシーバーの機能が拡張されます。結果としてエッジに近い位置で信号処理を実行できることから、無線機の設計にいくつものメリットがもたらされます。アナログ・デバイセズのHazelは「信号処理のタスクをNevisに統合し、それらの機能をソフトウェアではなくハードウェアで実行するようにしました。それにより、当社のお客様は、システムで使用するプロセッサをスケール・ダウンしたり、その能力をより高度な無線機能に割り当てたりすることができます。お客様は、この新しいアーキテクチャのメリットを享受することで、期待どおりの性能と機能を実現することが可能になります。しかも、充電がより長く持つ無線機を実現できます」と説明しています。
アナログ・デバイセズの技術「Nevis」
SDMを統合したSDR対応のIC
NevisはSDMを統合したSDR対応のICです。この種の製品は、アナログ・デバイセズとしては初のものになります。SDRは、入力されたRF信号からベースバンドのデジタル信号への変換(RFからビットへの変換)またはその逆の変換を主機能とします。また、SDMとSDRの間では双方向に情報を交換することが可能です。そのため、Nevisはより多くの高度な機能を実行することができます。

Nevisの長所
以下、Nevisがお客様にもたらすメリットについて簡単にまとめます。
- オンチップの信号処理:ICに統合されたSDMを活用すれば、無線プロトコルに応じたモデム機能を含む信号処理の機能を実行できます。また、ハードウェア・アクセラレータのライブラリを活用することにより、プロセッサの負担を軽減し、システム全体の電力効率を高めることが可能になります。
- 優れたRF性能:Nevisを用いて構築した無線機を使用すれば、周波数利用の面での混雑や悪質な妨害信号が存在するような厳しい環境でも、より信頼性の高い無線接続が得られます。加えて、Nevisは狭帯域(kHzのレベル)の信号にも広帯域(MHzのレベル)の信号にも対応可能です。そのため、5GやP25といった無線プロトコルに対応する様々な携帯型無線機に容易に組み込むことができます。
- 効率と省電力: Nevisは、少ない消費電力で優れたRF性能を発揮します。そのため、新たなベンチマークになり得る存在だと言えるでしょう。実際、Nevisは革新的な設計手法を採用することにより、RF性能を犠牲にすることなく、消費電力の削減を実現しています。省電力モードでは、無線機能が休止している間、使用していない内部回路の電源が遮断されます。それにより、Nevisの消費電力は大幅に削減されます。また、Nevisのモニタ・モードを使用すると、無線プロセッサをディスエーブルにすることができます。その際、Nevisは無線システムが動作を開始する必要があるか否かを表す信号を確認(リッスン)し続けます。
将来に向けて
ミッション・クリティカルではない日常的な業務においても、リスク管理、運用やチームワークの強化といった面で無線通信は重要な役割を果たします。
ここまでに説明したように、NevisはJVCケンウッドとアナログ・デバイセズの連携によって開発されました。両社は、共通の目標としてミッション・クリティカルな通信に必要な卓越した性能を実現したいと考えていました。実際、両社が協業したことにより様々なメリットが得られました。それだけでなく、将来に向けた柔軟性も得られたほか、緊急事態と非緊急事態の両方において固有のニーズを満たせる可能性ももたらされたのです。
JVCケンウッドの取締役、専務執行役員でセーフティ&セキュリティ分野責任者の鈴木昭氏は、「当社の業務用無線市場における高度な専門知識と、アナログ・デバイセズの高度なIC技術を組み合わせることで、お客様に対してより一層強力なシステム・ソリューションを提供できるようになります」と述べています。
通信アプリケーションは、以下に示すような目的にも役立つ可能性があります。
- 農業:農場の運用状況の管理と監視
- 建設:橋梁、高速道路、高層ビルといった大規模な建造物の管理
- 接客業:ホテルや大規模なイベント会場におけるスタッフやセキュリティに関する調整
- 公共交通機関:バス、電車、地下鉄で使われる各種システムの間の通信の確保
- 電力/ガス/水道やエネルギー:電力、ガス、水道を扱う公共事業部門や工場における運用効率の向上
アナログ・デバイセズは20年以上にわたり、SDR対応のICを開発し続けてきました。そしてどの世代品の開発においても、機能、性能、統合の拡張を通じて、JVCケンウッドのようなお客様がより迅速に製品を市場に投入できるよう支援することを目標としてきました。それにより、人々がコミュニケーションを取りながら、それぞれの世界をうまく動かすための技術への道が開かれます。
