パッシブ送信/受信ミキサICの広帯域LOノイズ

2006年03月15日
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要約

FETクワッドとダイオードリングで構成されるパッシブダブルバランストミキサは、セルラ基地局トランシーバのアップコンバータまたはダウンコンバータとして使用することができます。ローレベルの局部発振器信号を必要とする高直線性(IP3)、低ノイズ、およびスプリアス応答のアップコンバータとダウンコンバータは、FETまたはダイオードミキサコアとともにバッファアンプを内蔵することによって実現しています。バッファアンプ段の広帯域ノイズは、受信信号や送信信号を損ねます。このノイズは、1つのパラメータによって特性を表したり、規定したりすることができます。パッシブミキサICにノイズパラメータ(dBc/Hz)を導入すると、基地局の送信/受信のアプリケーションでこのICを使用するときに、システム関連の減衰を計算することができます。

はじめに

理想的には、セルラ基地局のトランスミッタは、専用の周波数割当て内ですべての電力を送信する必要があります。このため、パワーアンプによる不要スペクトルの発生がない場合であっても問題が生じることになります。アップコンバートされた送信信号に存在する広帯域の残留位相ノイズフロアは、レシーバとの共存性に問題をもたらします。この広帯域ノイズは、近接位相ノイズに比べて極めて低いレベルにありますが、同一場所にあるレシーバの受信能力を奪うだけの高いレベルになる可能性があります。基地局トランスミッタで使われている従来のディスクリートのパッシブダイオードやFETミキサコアでは、LOポートは50Ωにマッチングされており、LO信号をLOポートに加える前に広帯域ノイズをフィルタリングすることができます。内部局部発振器ドライバ段を提供するミキサと変調器の統合ソリューションでは、内部回路によって広帯域入力ノイズが低下します。アップコンバートされた信号は、局部発振器バッファ出力の持つスペクトルのスカートとフロアを示します。LOバッファでの広帯域ノイズが低くなるように仕様および設計を行うと、帯域外送信ノイズが低下します。これによって、フロントエンド機器の高Q送信フィルタとディプレクサフィルタに関する除去要件が緩和されます。

セルラ基地局のレシーバは、微弱な帯域内信号を受信したときに高レベルのブロッキング干渉源を処理する必要があります。ブロッキング信号は、ミキサコアにおいて局部発振器のノイズと相互に混合され、IF出力端における信号帯域内のノイズフロアが増大します。このアプリケーションノートでは、基地局のミキサICとミキサのノイズについて考察し、1つのパラメータを規定して、「ダウンコンバータとして使用するときのレシーバのシングルトーン感度低下」と「アップコンバータとして使用するときの帯域外広帯域送信ノイズ」の両方に対処しています。

基地局のミキサ

パッシブダイオードとFETリングのミキサは、常に基地局レシーバの主力となっています。これらの装置は、高IP3を実現するために、17dBmを超える大きな局部発振器による外部駆動を必要とします。図1は、パッシブのディスクリートミキサを基地局レシーバで使用する方法を示しています。パッシブディスクリートミキサは、表面弾性波(SAW)フィルタを駆動するディスクリートIFアンプと共に動作し、ディスクリートLOバッファアンプによる駆動を必要とします。利得付きのアクティブICギルバートミキサが利用可能ですが、基地局で要求される直線性とノイズの要件は満たされません[2、3]。ただし、最近では、高直線性(IP3 = 34dBm)と低ノイズ性(NF = 7dB)を備えたいくつかの新しいシリコンミキサIC[7]が、基地局の要件を満たしています。これらのミキサは、内部に局部発振器ドライバを備えているため、大信号の外付けドライバアンプは不要です。パッシブミキサをベースにしたICは、ギルバートセルミキサをベースとしたICとは異なり、相反する特性を持つデバイスになります。これらは、アップコンバータおよびダウンコンバータとして動作します。また、IFアンプをカスケード接続することによって、高IP3(26dBm)と低NF(10dB未満)が得られ、またレシーバでのSAWフィルタ損失を相殺するだけの利得が得られます。図2は、標準的な高ダイナミックレンジ(HDR)のミキサICの機能ブロック図を示しています。これらの装置は、-3dBmという低い局部発振器レベルで動作します。この集積回路は、ディスクリートよりも小さなフォームファクタを備え、実装面積の小さな5mm x 5mmのQFNパッケージで提供されています。

図1. 基地局レシーバの標準的なダイオードリングまたはFETパッシブミキサ。挿入図に示したパッケージは、Mini-Circuits®  TTT 167(表面積12.7mm x 9.5mm)です。
図1. 基地局レシーバの標準的なダイオードリングまたはFETパッシブミキサ。挿入図に示したパッケージは、Mini-Circuits® TTT 167(表面積12.7mm x 9.5mm)です。

図2. 標準的な高ダイナミックレンジのシリコン基地局受信ミキサICの5mm x 5mmパッケージ。内部RFとLOバラン、LOバッファ、FETまたはダイオードリングのミキサ、およびIFにてアンプ機能が組み込まれています。サイズを小型化し、機能を向上させてディスクリートミキサに匹敵する性能が実現されています。
図2. 標準的な高ダイナミックレンジのシリコン基地局受信ミキサICの5mm x 5mmパッケージ。内部RFとLOバラン、LOバッファ、FETまたはダイオードリングのミキサ、およびIFにてアンプ機能が組み込まれています。サイズを小型化し、機能を向上させてディスクリートミキサに匹敵する性能が実現されています。

ミキサのノイズモデル

熱雑音は、受信ミキサで規定および測定される、最も一般的なノイズです。50ΩマッチングのRF入力ポートと-174dBm/Hz(kTo)のノイズ電力密度を備えたミキサのノイズ性能を表します。入力換算の熱雑音は、ミキサのノイズ指数(10log10F)の規定から導出したものです。

相互ミキシングは、RFポートに強いRF信号が存在する場合に起こります。これは、ノイズ指数の測定時に考慮されない追加のノイズです。入力に換算した相互混合ノイズNrmiは、特定のブロッカレベルSblで求めることができます。ミキサへのLOノイズフロアがLで帯域幅がBとすると、IFにおける相互混合ノイズは、次のようになります。

干渉源周波数のオフセットが所望の信号より十分に大きいオフセットである場合、位相ノイズは平坦であると仮定されます。これら2つのノイズ源は独立しており[4]、図3に示すように加算することができます。ブロッカが存在する場合の、入力から出力までの信号対ノイズ比の劣化は、次式で表すことができます。

図3. (a)LOポートからの広帯域LOノイズを含んだ電力レベル(Sbl)におけるRFブロッカの相互ミキシング。(b)2つの独立したノイズ源(NthiおよびNrmi)で表現
図3. (a)LOポートからの広帯域LOノイズを含んだ電力レベル(Sbl)におけるRFブロッカの相互ミキシング。(b)2つの独立したノイズ源(NthiおよびNrmi)で表現

広帯域LOノイズに対する基地局のシステム要件

レシーバは本来、感度と許容受信障害((理想的でない挙動によって生じる障害)について規定されています。たとえば、GSMシステムにおける基地局は、規定の最大許容エラー率で-104dBmの信号を受信することができる必要があります。干渉トーンがあると、GSM基地局のレシーバ感度は3dBだけ低下する可能性があります。この干渉トーンレベルとキャリアからのオフセットを図4に示します。帯域幅B = 200kHz、ブロッカレベル(Sbl)が-13dBm、および所望の信号レベルが-101dBmのGSMシステムの場合、広帯域LOノイズはL = 151dBc/Hzと算出されます[4]。

図4. オフセット周波数の関数として表した、GSMシステムにおける干渉源レベル。
図4. オフセット周波数の関数として表した、GSMシステムにおける干渉源レベル。

基地局のトランスミッタは、帯域内と帯域外の信号に対するスペクトルマスクに適合した信号を送信することが許されています。GSMはまた、受信帯域における最大許容送信エネルギとして-98dBmを規定しています[8]。たとえば広帯域ノイズが160dBc/Hzの43dBm(20W)を基地局が送信した場合、-117dBm/Hz(43 - 160)が同一場所にあるレシーバに流出します。200kHzのGSM受信帯域(B)に集積するノイズレベルは-64dBmです。このノイズは受信帯域における不要な干渉源となり、最小受信信号レベルの-104dBmよりも40dB上になります。トランスミッタとレシーバの両方を1つのアンテナに接続するディプレクサは、-60dBmから-98dBmを十分下回る送信ノイズを十分に押え込む必要があります。送信ミキサICで生成される広帯域ノイズが多くなるほど、ディプレクサにおける受信帯域のフィルタリングがますます必要となります。

基地局のミキサICにおける広帯域ノイズの特性パラメータL

レシーバの場合

高直線性パッシブミキサICの局部発振器バッファアンプは、さまざまな範囲の入力信号レベルにおいて、一定したより高いレベルでミキサコアを駆動することができるように設計されています。これらのバッファの出力は、高直線性(IP3)が得られるようにミキサコアをじかに駆動する高レベルな信号です。パッシブミキサICで使用される局部発振器バッファが飽和すると、フィルタリングされた低レベル入力の広帯域信号対ノイズ比が低下します。広帯域ノイズフロアは-174dBm/Hzにまでフィルタリングすることが可能です。0dBmの信号レベルであれば、広帯域信号対ノイズ比は、ICのLOポートの入力端において174dBcです。実際のICの局部発振器の大信号バッファは、システム要件を満たすため、この比を155dBc/Hz未満に低下させることはできません。これらのバッファは非50Ωシステムのチップ内部にあり、LOバッファの出力にアクセスすることはできませんが、これらのバッファアンプの信号対ノイズの劣化を測定することはできます。受信ミキサのこの劣化は、ブロッキング信号を使用し、50ΩのIFポートでのノイズ出力を測定することによって、その特性が明らかにされています。式4で表した特性パラメータL(dBc/Hz)は、ノイズ測定から推定することができます[4]。

図5のグラフは、ブロッキングレベルの関数として、PCS/DCS/UMTSバンドのパッシブミキサをベースとしたダウンコンバータ(MAX9994)のRF対IFのSNR劣化を示しています。これは、局部発振器ノイズL(dBc/Hz)の関数として式4を表したものです。4種類のノイズ領域をグラフで確認することができます。低いRFブロッカレベルでのSNR劣化は主として熱Fです。熱雑音はミキサでよく参照される「ノイズ指数」です。ブロッカレベルが上昇するにつれて、領域2に移行します。この領域では、熱雑音と局部発振器の相互混合ノイズが等しくSNR劣化に影響します。領域3は、特性の直線部分であり、SNR劣化は主として局部発振器ノイズによって決まります。基地局の受信ミキサは、領域3のブロッカレベルを処理可能なように設計されています。データポイントは、式3と4によって表されるモデルに対して、シミュレーションと測定の間で良好な一致を示しています。領域4では、測定データと特性曲線の間のずれが顕著になります。これは、圧縮効果によるものであり、単純なモデルでは説明することができません。

図5. RFレベルの関数として表したMAX9994 HDRミキサICノイズの特性曲線。曲線のさまざまな領域と主な原因を強調表示しています。受信ミキサは、曲線の直線部分におけるブロッカレベルに合わせて設計されています。
図5. RFレベルの関数として表したMAX9994 HDRミキサICノイズの特性曲線。曲線のさまざまな領域と主な原因を強調表示しています。受信ミキサは、曲線の直線部分におけるブロッカレベルに合わせて設計されています。

MAX9994ダウンコンバータは、IFアンプとカスケード接続したパッシブミキサを備えています。このダウンコンバータは、公称利得が8.5dB、NF = 9.5dB、P1-dB = 13-dBmとなるように設計されており、また220mAのDC電流を必要とします。入力インターセプトポイント(IP3)は、公称では26dBm~27dBmです。ブロッキング状態でのSNR劣化は、『Microwave Journal』の記事に記述されているセットアップを使用して測定することができます[4]。ブロッカレベルが5dBmのSNRin/SNRoutは19-dBです。これは、ブロッキング状態でダウンコンバートされた信号の出力ノイズフロアを測定することによってわかります。このポイントは、図5L = -160dBc/Hzの曲線の真上に位置します。この領域は、LOノイズ(L)の特性を測定するのに理想的です。バッファアンプのノイズが累積的なSNR劣化の主な要因であり、また熱雑音を1次近似として無視することができるからです。19dBのSNR劣化からLOノイズを照合することができます。ノイズを入力に換算すると、Ni = -174 + 19 = -155dBm/Hzが得られます。使用されるブロッカレベルは5dBm(Si)であるため、信号対ノイズ比L = -160dBc/Hzとなります。

トランスミッタの場合

MAX2039は、MAX9994と同一のLOバッファを備えたパッシブFETミキサを使用しています。MAX9994のIFアンプは内部でバイパスされています。このICはアップコンバータまたはダウンコンバータとして使用することができます。どちらの場合でも変換損失(Lc)は7.0dBです。IP3は、ダウンコンバータとして34.5dBm、アップコンバータとして33.5dBmです。アップコンバータとして使用するとき、「レシーバセクション」でのレシーバ測定によって得られた同じLOノイズパラメータが、RFポートでの広帯域の出力ノイズフロアも決定するはずです。これが本当であれば、ダウンコンバータに入力RFブロッカを備えた局部発振器のバッファアンプノイズ(L)の相互ミキシングは、RF送信ポート端に出力されるノイズ(L)を含んだIF信号の相互ミキシングと同じになります。MAX2039と同じパッシブミキサとバッファアンプを使用するMAX9994においてLを測定することができれば、同じLを使用してMAX2039の広帯域送信ノイズを推定することができることになります。目的は、受信測定によって得られたLを使用して送信ノイズを推定すること、および測定によって送信ノイズを検証することです。

特性の領域3にブロッカが存在し、Prf = 5dBm、IFアンプは圧縮されていないものとします。MAX9994のパッシブミキサの出力端におけるノイズフロアは、IFアンプの入力換算ノイズ(2.5 - 174dBm/Hz)と比較して高くなります(Pin - Lc + L = 5 - 7 + 160 = -158-dBm/Hz)。このノイズはIFアンプによって容易に増幅されて、MAX9994の出力端に現れます。このように、MAX9994のパッシブミキサ部のLOノイズ測定は、IFアンプによって妨害されることはありません。

パッシブミキサを受信モードで動作させることによって得られるLOノイズL = 160dBc/Hzと、ミキサの変換損失Lcを使用して、トランスミッタに関して以下の結果を導き出すことができます。入力IF信号レベルが10dBmの場合、出力端における3.0dBmのRF信号と、3 - 160 = -157dBm/Hzのノイズフロアが得られます。ノイズフロアがセットアップ内の22.0-dBの外部RF利得によって増幅されると、Nout = -135dBm/Hzが生成されることになります。図6の測定セットアップはこれを示しています。したがって、[4]に記載されたブロッキングノイズ測定で推定される、1つのパラメータL (dBc/Hz)だけを使用して送信ノイズフロアを求めることができます。

図6. アップコンバータのRF出力ノイズを測定するための実験的なセットアップ
図6. アップコンバータのRF出力ノイズを測定するための実験的なセットアップ

結論

基地局の受信/送信ミキサに対するLOノイズの影響を考察しました。特に、バッファアンプ段によって駆動される相互FETとダイオードコアミキサ上で局部発振器のSNRを測定することによって、以下を得ることができました。

  1. ブロッキング状態の下でのダウンコンバージョンレシーバのSNR劣化(感度抑圧)
  2. アップコンバータとして動作したときのRF出力端におけるノイズフロア
基地局のパッシブミキサをベースとしたICにおいて、ただ1つのLOノイズ規定L (dBc/Hz)によって、送受信アプリケーションにおけるシステムの不良状態を評価可能であることを示しました。

参考資料

  1. Frequency Mixers Level 17(www.minicircuits.comで入手可能)
  2. H .Wohlmuth and W.Simburger『A High IP3 RF Receiver Chip Set for Mobile Radio Base Stations Up to 2 GHz』IEEE JSSC、2001年7月
  3. U. Karthaus『High Dynamic Range SiGe Downconverter with Power Efficient 50O IF Output Buffer』2004 RFIC Symposium Digest、551~554ページ
  4. K.Krishnamurthi and S.Jurgiel『Specification and Measurement of Local Oscillator Noise in Base Station Mixer ICs』Microwave Journal、2003年4月、96~104ページ
  5. E.Ngompe『Computing the LO Noise Requirements in a GSM receiver』Applied Microwave and Wireless、54~58ページ、1999年7月
  6. Draft GSM 05.05 V8.1.0、European Telecommunications Standard Institute、29ページ、1999年11月
  7. マキシムの統合化製品MAX9994MAX9996、およびMAX2039のデータシート
  8. 『Requirements for Spurious emissions in Receiver Bands』ETSI TS 101 087 V8.5.0 (2000-11)、41ページ、6.6.2.1.4項
この記事に類似した内容が2005年8月号の『Microwaves & RF』誌に掲載されています。

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