ウェアラブル市場はバイオメディカル分野のオールラウンダーを歓迎

2020年02月01日
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概要

酸素飽和度、心電図、血圧、呼吸数などの測定は、かつては病院のモニタリング装置だけに限られていました。これらのパラメータのモニタリングは重要で、特に、事故や手術の後、あるいは深刻な病気と診断された場合など、医療的な危機にさらされている人々にとっては非常に大きな意味を持ちます。高齢者人口が増加して全体的な医療費に強い関心が寄せられている今、病院以外の場所で医療用モニタリング機器を利用する傾向が高まっています。現在、何らかのリスクを抱える患者については、一定の症状を早期に検出するために日常生活の中でモニタリングが行われるようになっています。あるいは、より快適な環境でより早期の回復が望めるように、モニタリング装置を持たせて患者を病院から自宅に戻す場合もあります。更に、病気と診断される前でも、予防のためにこれらのパラメータを測定することを目的とするユーザで構成される、3つめのグループも存在します。

すべてのマルチパラメータ・モニタには同じ条件が求められます。つまり、正確でサイズが小さく、1回のバッテリ充電で長時間使用できることです。こうした動向に対応するために、シングル・チップのバイオメディカル・アナログ・フロント・エンドの新たなファミリが開発されました。

ADPD4000の概要

市場には、2つ以上の測定機能を組み合わせたマルチパラメータ・システムが数多く存在します。装着した人の活動を追跡するために、心拍数モニタとモーション・センサーを組み合わせる場合、あるいは、ストレス・モニタリングや睡眠分析などのアプリケーション用に、心拍数変化とインピーダンス検出を組み合わせる場合を考えてみましょう。ほとんどの場合、それぞれの測定は専用のアナログ・フロント・エンドによって行われます。したがって複数のチップが使われることになり、それぞれのチップが個々にA/Dコンバータ(ADC)とメイン・プロセッサへのインターフェースを備え、複数の電源やリファレンス電圧を使用することになります。更に、それらの電源やリファレンス電圧はデカップリングする必要があります。その結果、多くの冗長なビルディング・ブロックが存在することになりますが、これは、サイズや消費電力の点で最適なシステムとは言えません。ウェアラブル・システムは、各センサーを接続できる1つのメイン・シグナル・チェーンで構成するのが最も簡単な方法です。新しいADPD4000ファミリによるバイオメディカル・フロント・エンドは、この市場のギャップを埋めるものです。図1に、ADPD4xxxファミリの簡略ブロック図を示します。フロント・エンドは、同時サンプリングが可能な2つの同じ受信チャンネルを中心に設計されています。各チャンネルは差動構成になっており、シングルエンド測定モードでも差動測定モードでもセンサー入力を測定できます。入力段はプログラマブル・ゲインのトランスインピーダンス・アンプで、その後段にはバンドパス・フィルタと積分器が置かれています。積分器はサンプルあたり7.5pCの積分が可能です。ADCは14ビットの逐次比較レジスタ(SAR)コンバータで、最大サンプリング・レートは1MSPSです。それぞれのシグナル・チェーンの前段には8チャンネルのマルチプレクサが置かれていて、様々なセンサー信号を柔軟にアナログ・フロント・エンドへルーティングできるようになっています。

図1. ADPD4000ファミリの簡略ブロック図

図1. ADPD4000ファミリの簡略ブロック図

図1に示すように、このチップは様々な信号を測定することができます。アナログ・フロント・エンドは、例えば心拍数や酸素飽和度を光学的に測定するために、光学フロント・エンドに変更することができます。このモードでは光電流を測定するので、電流を電圧に変換するために高トランスインピーダンスの入力段が必要になります。また、周囲光による干渉を打ち消す必要もあります。もう1つの使用例は、心電図(ECG)センサーまたはEMGセンサーからの生体電位信号を測定する場合です。これには異なる入力シグナル・チェーンのセットアップが必要で、そのためにはフロント・エンドの設定をやり直す必要があります。このチップは、受信シグナル・チェーンに隣接して、スティミュラスの供給に使用できる8つの出力ドライバも備えています。測定時には、1つまたは複数の出力を光学測定用のLEDを駆動するよう設定できます。あるいは、1つまたは複数のドライバ出力をインピーダンス測定用の励起信号として使用し、生体電位の測定時に、皮膚インピーダンス(皮膚電気活動:EDA)や電極インピーダンスを測定することができます(これらのインピーダンスは測定品質に影響します)。

このチップでは、それぞれの設定や測定を、一定のタイム・スロット内に予めプログラムすることができます。サポートされているタイム・スロット数は最大12で、この設定を行えば、システムは非常に使いやすいものになります。更に、このチップには追加のプロセッサ・リソースが不要です。これはシステムの合計消費電力を最小限に保つ助けとなります。また、ADCの有効ビット数(ENOB)を改善するために、オーバーサンプリングと平均計算を行うことができます。デシメーション後のデータ・パスは32ビット幅です。測定結果は、深度256バイト(ADPD400x)または512バイト(ADPD410x)のFIFOに保存できます。

チップには、複数の接続センサーからのデータ・サンプルを同期できるように、タイム・スタンプ機能が組み込まれています。これは、様々な測定結果同士の相関関係を知るために、複数のセンサー・データを使用する場合に必要となります。図2に、このチップを使用してECG測定をフォトプレチスモグラフィ(PPG)測定に同期させた場合の例を示します。血圧は、脈波伝播時間(PPT)測定技術に基づいて連続的に測定することができます。これは、高血圧症の人にとっては非常に魅力的です。タイム・スタンプ機能がこれを可能にしています。

図2. 血圧値予測のためのECGとPPGの同時測定

図2. 血圧値予測のためのECGとPPGの同時測定

図3(a)は、タイム・スロット動作がサポートされる仕組みを示しています。プリコンディション・パルスでタイム・スロットが開始されるごとに、スティミュラス・パルスがこれに続き、最後に、フォトダイオード電流または他のセンサーからの信号がADCによってサンプリングされます。

図3. タイム・スロット動作とADPD4000測定シーケンスの例

(a). Timing Operation Per Time Slot.

図3. タイム・スロット動作とADPD4000測定シーケンスの例

(b). Time Slot Sequence Example for Multiple Measurements.

図3. タイム・スロット動作とADPD4000測定シーケンスの例

図3(b)は動作シーケンスの例です。起動後はリセット動作が実行され、チップはスリープ・モードに入ります。チップのウェイクアップ後は、2つのECG信号(例えばLEAD IとLEAD II)を順番にサンプリングすることができ、その後にSpO2読出しのための光学測定と、皮膚インピーダンスの測定が行われます(EDA/ストレス)。これらの各測定を行うためのプロセスについては、以下のセクションで説明します。

ECG測定がはるかに容易に

ECGは心臓で生じる電気信号の測定で、この信号は心拍ごとの心筋の脱分極と再分極によって発生します。通常、この信号の振幅は0.5mV~4mV、測定周波数範囲は0.05Hz~40Hzです。ECGは心拍数の測定だけを目的に行う場合もありますが、波形自体に興味が向けられることが多く、その場合は心機能の指標として、あるいは心房細動や慢性高血圧といった心疾患の兆候を示す材料として使用することができます。心臓の活動は、皮膚に電極を取り付けることによってモニタできます。診断アプリケーションでは、電極と人体の良好な接触を確保するために、通常は湿式電極が使われます。最も広く使われているのは銀/塩化銀(Ag/AgCl)電極です。病院以外で使用する場合、これらの電極は快適性に欠ける上に乾きやすく、皮膚が炎症を起こすおそれもあります。また、乾式電極も広く使われていますが、皮膚と電極の接触に関しては湿式に劣り、モーション・アーチファクトが発生しやすいため、指示値の正確さという点でも問題が残ります。

病院外(外来患者向け)のアプリケーションでは、常に電極の品質と快適さのトレードオフが課題になります。ADPD4000ファミリはこれを解決すると同時に、電極の品質に関わらず正確な測定を可能にします。ECG回路は、電圧入力ではなく、検出用コンデンサに蓄積される電荷を測定します。受動RC回路とサンプリング・レートから計算した最適な時定数を使用することにより、この充電プロセスは皮膚と電極の接触インピーダンスの変動による影響を受けにくくなっています。ECG信号がRC回路を介してチップに取り込まれる構成を図1に示します。このECG回路は、本質的に、皮膚と電極の接触インピーダンスの変動に影響されにくくなっています。

図4に2つのECG波形を示します。青い波形は、51kΩの直列インピーダンスと47nFの容量を持つ良好な品質の電極を使って測定したデータです。これに対して赤い波形は、直列インピーダンスの大きい低品質の電極で測定したものです。この電極の接触インピーダンスは510kΩ、容量は4.7nFです。ADPD4000による測定の結果は、電極の品質に関わらず、どちらの波形もほとんど同じであることが分かります。これは、市場に流通している他のソリューションに勝る、このフロント・エンドの大きな利点です。その他の利点としては、この回路の電力効率が極めて高いことが挙げられます。これは、充電コンデンサにECG信号を取り込む際に、回路がアクティブになっている必要がないことによります。もう1つの利点は、消費電力がわずか150µW~200µWであることです。

図4. 異なる電極で測定した2つのECG波形

図4. 異なる電極で測定した2つのECG波形

PPGと生体インピーダンス測定

光学測定では光を放射するために、また、生体インピーダンス測定では人体への電流を励起するために、LEDドライバが必要です。多くの光学システムは、1つだけではなく複数の波長を使用するので、このチップの多用途性は極めて有効です。ADPD4000には8つの出力ドライバがあります。そのうちの4チャンネルが同時に使用でき、出力電流はチャンネルあたり最大200mA、またはドライバ・セクション合計で400mAの範囲でプログラム可能です。また、構成に応じて複数のタイム・スロットを使用し、それぞれのタイム・スロットで、例えば、光学式心拍数測定、SpO2測定、水分補給または脱水状態の測定などを測定するために、個別の波長を使用することができます。それぞれの受信シグナル・チェーンにはプログラム可能なトランスインピーダンス・アンプがあり、その後段には周囲光による干渉を除去するための2段式除去ブロックがあります。送受信シグナル・チェーンのS/N比(SNR)は、ADPD41xxファミリの場合で最大100dBです。これにより、このデバイスは、酸素飽和度や血圧など、ノイズに敏感な光学測定に極めて有効なものとなっています。光学システムの消費電力は、サンプリング・レートやデシメーション・レート、使用するLED電流といったシステム構成に大きく依存します。また、人体上の測定位置や被測定者の肌の色あいにも左右されます。

多くのウェアラブル・システムは、EDA、ストレス、または心理状態モニタリングなどのアプリケーション用に、皮膚のコンダクタンスを測定することもできます。この場合は、電圧降下を測定するための励起電流が必要です。ADPD4000ファミリはこのような用途にも使用でき、チップは2線または4線測定モードに設定可能です。機能を拡張した波形発生器やDFTエンジンは含まれていないので、インピーダンス分光法が必要な場合はAD5940をコンパニオン・チップとして使用し、ADPD4000を補完する必要があります。インピーダンス機能は、電極品質の測定やリードオフの検出にも使用できます。

ADPD4xxxは8チャンネルのマルチプレクサを備えているので、システム内の電圧、容量、温度、またはモーションを測定するための補助入力もサポートできます。

ほぼ理想的

ADPD4000/ADPD4001の実用化により、ウェアラブル・デバイス、ボディ・パッチ、薬物送達システムなどの設計に際して設計者が直面する多くの課題が解決できるようになりました。これらの事例のいずれにおいても、性能、サイズ、消費電力は非常に重要な仕様です。この新しいバイオメディカル・フロント・エンドは、高性能のデュアルチャンネル・センサー入力段、スティミュラス・チャンネル、デジタル処理エンジン、およびタイミング制御機能を備え、これらの条件をすべて満たしています。ADPD4000とADPD4001は既に量産が開始されて販売中であり、次世代のADPD4100/ADPD4101も2020年第一四半期には発売される見込みです。この新世代のデバイスはS/N比が改善されており、システム全体の消費電力を更に低減する機能も追加されています。これらのすべての機能が1つのチップに組み込まれているにもかかわらず、それぞれのシステムを明確に定義するために設定できるパラメータが数多くあるため、電子回路設計者が冗長な作業を強いられることはありません。

著者について

Jan-Hein Broeders
Jan-Hein Broeders。アナログ・デバイセズのEMEAヘルスケア・ビジネス開発マネージャ。ヘルスケア産業界と緊密に連携し、市場をリードするアナログ・デバイセズのリニア・コンバータ技術とデータ・コンバータ技術やデジタル信号処理製品、電力用製品をベースに業界の現在および将来の要求をソリューションに反映させる業務に従事しています。アナログ・フィールド・アプリケーション・エンジニアとして半導体業界で働き始めて20年以上、2008年からは...

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