装置状態監視用ウェアラブル:状態基準保全

2019年10月01日
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状態基準保全(CbM)は、インダストリ4.0のウェアラブル・フィットネス・デバイスに相当する概念です。ネットワーク接続の爆発的な広がりと共に、これまでには考えられなかった形で物理的な世界を監視し、稼働中の物理的プロセスをリアルタイムで細部に至るまで確認できるようになりました。工業システムで理解しておくべき重要なプロセスの1つが、装置や機械の経年変化のプロセスです。これは、石油やガス、風力発電、更には工業用プロセス制御に至る幅広い市場において重要なものです。これらの市場は設備コストが高く、ダウンタイムは大きな損失となります。

予定外のダウンタイムは、1時間あたり数千ドルのコストを招くことがあります。2017年に行われたある調査によれば、企業から報告されたダウンタイムの平均コストは200万ドルに及んでいます。予定外のダウンタイムは、予定された保守によるダウンタイムよりもはるかにコストがかかります。これは、原因を調べて部品を発注し、修理を行う間、装置類をオフラインにしなければならないからです。

装置類を仕様範囲内で継続して稼働させた場合に予想される残寿命は、稼働時間、負荷や稼働環境の変化、損傷を発生させる事象などの変動要素によって影響を受けます。状態基準保全は、これらの影響を定量化し、直ちに注意が必要な場合は警告を発して、いつ介入が必要になるかを正確に予測しようとするものです。

通常、経年変化のプロセスはゆっくりとしたもので、ほとんど感知できないレベルですが、装置はすべて異なり、経年変化も様々な形で進行します。時間と共に進行するわずかな変化を見逃さないように注意深く観察していない限り、経年変化は気付かぬまま進行していきます。その結果、突然故障が発生するわけですが、多くの場合これは致命的なものとなります。つまり、装置が停止し、修理が必要な事態を招きます。エンド・ユーザは差し迫った故障を早期に察知し、事前に十分な余裕を持ってダウンタイムを計画できることを求めています。また、紙やシート・メタルなどの、最終製品の品質に影響を及ぼし得るごくわずかな装置の変化の指針となるものも求めています。

装置の消耗の兆候を少しでも早く把握したい、あるいは装置の出力品質に関する情報が欲しいという要望が、より敏感で、時と場所を選ばずに使用できる検出機能に対するニーズに拍車をかけています。測定のタイプもその範囲を広げており、温度や振動などを利用する検出方法は、音響、モータ電流、電圧などの測定によって補完されるようになっています。これらの測定システムは装置の状態をより総合的に把握するために組み合わせて使用されますが、これは、装置あたりの測定チャンネル数が増えることにつながります。多くの場合、例えば振動のx、y、z軸の測定のように、個々の測定の相互関係を示すためには、それらの測定を正しく同期させる必要があります。この同期の必要性は、システムを一層複雑なものにします。

測定用のノードと方法が広がりを見せているということは、手動リソースに基づく手動の検査および測定ルーチンでは、もはや状況に対処できなくなっていることを意味します。システムは、既存の有線インフラストラクチャを使用する接続や、堅牢で安全なワイヤレス・システムを使用する接続によって、工場全体やリモート・サイトに展開可能なものでなければなりません。サイズが大きく高価なセンサーやアグリゲータ・ユニットも、これらの環境に合わせるために、小型かつ安価で、より電力効率の良いものを使用する必要があります。

図1 圧電センサーとハンドヘルド・ロガーを使用した、手作業による装置の検査

図1 圧電センサーとハンドヘルド・ロガーを使用した、手作業による装置の検査

コンポーネントやサブシステムのレベルでは、より高レベルで集積された新しい高精度のソリューションが存在します。システム・ビルダはこのソリューションを使用することによって、この進化した検出機能の未来を、現時点において実現することができます。

データ・アクイジション

装置の消耗をできるだけ早い時点で示すには、未来を見通すといったことが必要です。状態監視分析の領域において、このことはシステムの温度、振動、あるいは音響などの兆候の別を問わず、システム内の極めて些細な変化を見つけ出すことによって実現されます。このようなわずかな変化を検出するには、大きな振動や高い温度の中でも、できるだけ低い検出レベルで小さな変化を明確に識別できるセンサーとデータ・アクイジション・システムが必要です。これには、極めて広いダイナミック・レンジを備えたシグナル・チェーンが必要です。これは、非常に低ノイズの性能を持つと同時に、信号レベルの大きな変化にも対応できるシステムが求められることを意味します。例えば、往復ポンプの初期摩耗を検知するには、300mmあまりのストロークを持つピストンのストローク・エンド位置の変化を、1/10mm未満の単位で検出する必要があります。この変化を捉えられるようにするには、システム・ノイズを、少なくともこの1/10未満に抑えなければなりません。これにより、検出レベルには1:300,000、つまり109dBという厳しい値が求められ、この要求を満たすには18ビット以上の精度を持つデータ・アクイジション・システムが必要になります。

考えるべきもう1つの問題は、対象帯域幅を拡大する必要性です。モータの軸や多くのギア・システムの固有振動数は比較的低く、多くの場合、軸の回転数に近いか、その数倍程度です。しかしシステム内には、より高い周波数特性域を持つコンポーネントも存在します。ボール・ベアリングやオイル・ベアリングといった周波数特性域の高いコンポーネントの摩耗状態を検出するには、検出機能が、10kHz~80kHzの周波数域で高い分解能と広いダイナミック・レンジを実現できるものでなければなりません。

図2 代表的な振動周波数特性

図2 代表的な振動周波数特性

これらの周波数領域の特徴をシステムの周波数プロファイルによって解決するためには、検出システムの仕様に、広いダイナミック・レンジ(DR)と極めて低い全高調波歪み(THD)が含まれていることが必要です。これらのシステムでは、最新の高精度広帯域シグマデルタ(Σ-Δ)コンバータを使ってA/D変換ステップを実行します。これらのシステムの鍵となる条件を満たす、極めて精度の高いA/Dコンバータ(ADC)は複数あります。このカテゴリのコンバータは、優れたダイナミック・レンジとTHD(通常は+108dBのDR、−120dBのTHD)で仕様規定されており、その値はDCから少なくとも80kHzまでの帯域幅で実現されています。また、アナログ入力プリチャージ・バッファ、内蔵デジタル・フィルタ、マルチチャンネル位相マッチング用のデバイス間同期などの使いやすい機能と組み合わされており、このような重要コンポーネントを利用して、最大限の性能を備えたCbMデータ・アクイジション・システムを構築します。パワー・スケーリング機能を使用すれば、同じ物理的ハードウェアを特定の上限電力に合わせて調整できますが、この際、ダイナミック・レンジまたは帯域幅と合計電力のトレードオフが必要になることがあります。DCおよび広い帯域幅で精度が確保されているので、入力チャンネルは温度と応力をはじめとするDCまたは低帯域幅での検出ニーズに同一プラットフォームで対応できます。これにより全体的な状態監視システムのアーキテクチャが簡素化され、複雑さが緩和されます。つまり、1つのプラットフォームですべてのCbMセンサー・タイプに対応することができます。

同時サンプリング

CbMシステムでは、時間領域データ・セット間の位相関係を維持できるように、同時サンプリングが使われます。例えば、互いに直角に配置した2個の振動センサーを使用すれば、振動フェーザの方向と振幅を検出することができます。概念的には、それぞれのセンサー入力経路を通じた位相遅延はよく一致して温度に応じて変化することが必要です。

サンプリング・レートや帯域幅、パワー・スケーリングに関するニーズの範囲を広げるために、より高い設計上の柔軟性が求められるCbMシステムには、SAR ADC製品も適しています。これらのデバイスは、広いダイナミック・レンジ、高い高調波歪み性能、最大2MSPSの高いスループットを備えている他、シグナル・チェーンの消費電力軽減と複雑さの緩和、より高いチャンネル密度などを実現する、使いやすい機能が組み込まれています。高い入力インピーダンス・モードを備えたコンバータは、これらのADCを直接駆動できる低消費電力の高精度アンプの選択肢を広げると同時に、最適な性能を実現します。

システム・ビルダが、よりコンパクトな、あるいはより分散された形態のアクイジション・ノードで最大限のチャンネル密度を実現できるように、あるいは製品市場投入までの時間を短縮できるように、高レベルで集積化されたシグナル・チェーンμModule®製品が開発されています。

このµModuleデバイスは、データ・アクイジション・シグナル・チェーン設計に多用される重要コンポーネントを組み合わせて、コンパクトな集積回路(IC)並みのフォーム・ファクタにまとめられています。

図3 μModuleアセンブリの3Dレンダリング

図3 µModuleアセンブリの3Dレンダリング

µModuleを使用するアプローチは、アナログ信号コンポーネントとミックスド・シグナル・コンポーネントの選択、最適化、レイアウトなどに要する設計上の負担を設計者からデバイスへ移すことにより、設計とトラブルシューティングに要する合計時間を短縮し、最終的に、製品をより短期間で市場に投入できるようにします。小型パッケージに収められたµModuleデバイスは、チャンネル数の少ない分散型のコンパクトなCbMシステムや、よりチャンネル数の多いラックベースのシステムに最適です。

センサー

広いダイナミック・レンジと帯域幅、そして高い電力効率とチャンネル密度を実現しても、それがシグナル・チェーンのデータ・アクイジション部分だけのことであれば、CbMシステムに関する設計上の課題の一部を解決するにすぎません。従来使われてきた集積化電子圧電型(IEPE)振動センサーは、サイズが大きくかさばる上に価格も高く、データ・アクイジション・システムよりかなり高い電圧レールで動作するものでした。一般的な圧電センサーは-24Vの単電源を使用して2mAを超える電流を消費し、重い金属製ケースに収められています。通常、センサーの電源はデータ・アクイジション・モジュールによって供給されるので、ボックス内のチャンネル密度が増大すると、電力密度やコンポーネント密度に関する問題が生じます。これに加えて、バッテリを電源とするワイヤレスのアクイジション・ノードへのニーズが出てきたことにより、従来の圧電振動センサーは、このようなシグナル・チェーンの要求に合わなくなっています。

現在このシステムの条件を満たしているのは、MEMSの振動センサーおよび慣性センサーです。最新の広帯域MEMSデバイスは、CbMアプリケーションに最適なノイズおよび帯域幅性能を備えている上、小型で標準の表面実装パッケージでこの性能を実現します。しかも、その消費電力レベルは、同等性能を有するIEPEセンサーのわずか1/20です。これらのMEMSセンサーの小さなサイズと電力プロファイルは、恒久的かつ持続的な状態監視用の小型多軸バッテリ電源システムの開発を可能にします。

電力およびネットワーク接続

装置の温度、振動、あるいはノイズを検出し、これをデジタル情報に変換することは監視タスクの重要な部分ですが、これらの詳細情報だけで完全な全体像を把握できるわけではありません。状態監視システムを構築するには、設計時にアナログ信号、デジタル信号、およびミックスド・シグナルを使用するすべてのコンポーネントに細心の注意を払う必要があります。データ・アクイジション・チェーンのノイズを低く抑えるには、低ノイズのセンサーやA/D変換コンポーネントだけではなく、低ノイズの電源設計も必要となります。更に、システムの消費電力を低く抑えるには、設計を複雑にすることなくバッテリや現場配線から効率的に電力を取り込む、電力コンポーネントも必要になります。

図4 代表的な高精度データ・アクイジション・シグナル・チェーンのサブブロックのブロック図

図4 代表的な高精度データ・アクイジション・シグナル・チェーンのサブブロックのブロック図

ネットワーク接続へのニーズは、具体的なアプリケーション環境によって異なります。多くの工業施設には、プロセス制御用や、温度などの既存環境変数の検出用に、様々な配線が既に存在しています。しかし、これらの既存インフラストラクチャの多くは、広範な状態基準保全のために必要な大量の未加工データやデータ・レートを扱うことができません。

1つの方法は、既存の機能に影響を与えない方法でより多くのデータを追加することによって、既存配線の能力増強を図ることです。例えば、HART®技術を使用して、広く使われている4mA~20mAのアナログ・インターフェースにデジタル形式の診断情報を追加します。同様に工業用イーサネットは、既存のイーサネット配線に確定性とリアルタイム制御機能を追加して、制御アプリケーションの遅延を確定的なものにしたり、振動データやFFTデータが必要な場合に帯域幅を拡大することを可能にします。また、各リンクに複数のノードを配置することもできます。

もう1つの方法は、ワイヤレスで情報を伝送することです。工業環境には、堅牢で安全なワイヤレス・ネットワークが必要です。最新のインテリジェント・メッシュ無線製品はワイヤレス・チップや証明済みのPCBモジュールで構成されており、これらの製品は、条件が厳しく動的に変化するRF環境においても、低消費電力の通信と99.999%以上の信頼性を実現します。状態基準保全においては、これは障害や過渡的イベントのホストへの転送が確保され、最短時間でこれらのイベントに対応できることを意味します。

CbMの将来

エネルギー、石油、ガスなどを使用する産業分野では予定外のダウンタイムが生産コストに直接影響するので、これらの分野における投資コストの高い装置には、状態基準保全が不可欠です。状態監視保全は、工場の生産現場においてもますます重要になりつつあります。工場では、これを装置保全の予防的な手法として使用できる他、各種装置を正常に稼働させて安定した製品生産を維持する方法としても使用できます。これらの状態監視機能の価値が明確になるにつれて、この技術は、私達が毎日使用する多くの装置類に使われるようになると見込まれます。今後のCbMは風力発電機や製紙工場などにおける保守整備などに止まらず、列車、航空機、自動車などに加えて、最終的には洗濯機や、より小型の家電製品にも使われるようになるでしょう。

システム・コンポーネントのメーカーは、センサーだけではなく、チャンネル全体をコンポーネントに組み込むようになるでしょう。モータには振動や電流の検知機能が組み込まれるようになり、ベアリングやギアボックスについても同様のことが予想されます。ユーザのモバイル・デバイスにレポートを送る自己完結型のセンサー・ノードが出現し、これをガレージのドアなどに取り付けて、愛車が故障を起こす前に警告が送られるようにすることも可能です。

これらの様々なシナリオにおける検出ニーズの拡大に対応するために、装置メーカーにはプラットフォーム型の、しかもより少ないプラットフォームのセットで、より多くの異なるニーズに対応することができるアプローチをとる必要が出てくるでしょう。測定チャンネルには、種々のセンサーの組み合わせに応じてラックベースの装置のタスクを再設定できるよう、様々なセンサー・タイプを扱うことが求められるようになります。小型機器においては、同じ監視ノードを洗濯機やバッテリ電源のツールにも使用できるように、システムを様々な電源プロファイルに合わせて変更できることが求められるでしょう。

まとめ

状態基準保全は、装置内の測定可能な様々なパラメータを検出することによって、装置の状態を定量化しようとするものです。これらの測定の精度と感度を高め、監視装置のサイズを小型化して、重量、電力を削減すれば、工場管理者は、この検出機能を工場全体に展開できるようになります。

これにより工場は、いわば健康モニタ(フィットネス・トラッカ)を備えたことになり、工場の運用に関する新たなレベルの判断材料を得ることができます。工場管理者には刻々と変化する装置の状態が報告され、管理者はこの情報を使い、十分な情報に基づいた判断を早い段階で下すことができます。

事前に保守の予定を組み、真に必要な装置だけにその対象を絞れば、保守のコストを大幅に削減することができます。また、定時外の呼び出しや当直技術者にかかるコストをなくすことも可能です。

工場の管理態勢を強化することによって、設備コストを削減することができます。コンポーネントの消耗を早期に検出して交換することは、装置全体の健全性を保護することになります。綿密な監視は致命的故障の発生を減らし、装置はその寿命が終了するまで注意深く管理されるので、装置の寿命を延長することが可能になります。

工場における最終製品の生産コストも削減できます。装置の状態に関する判断材料を収集することで、装置の許容差管理を維持、継続することも可能になり、最終製品の完成品質もロットごとに安定したものとなります。また、装置が許容限界を超えたり突然停止したりするような事態も減少するので、製品の修正や廃棄が必要になる事態も減ります。

アナログ・デバイセズによる問題解決支援の方法

アナログ・デバイセズは、設備の効率と寿命を最大限まで高めたいと考えているお客様の検出や測定に対するニーズを理解し、その測定および分析のためのソリューションをエンド・ユーザに提供しているお客様のニーズを理解しています。

CbMに必要とされる検出および測定タスクは、アナログ・デバイセズの技術を組み合わせることにより、コンポーネント・レベルで解決することができます。これはほとんどのお客様が慣れ親しんでいる方法ですが、シグナル・チェーンμModuleデバイスや電源μModule製品を使用することにより、更に高レベルの集積が可能になりました。これは、プロトタイプ作成までの時間短縮や、お客様の製品に活用できる製品の設計を可能にします。

アナログ・デバイセズは、低消費電力のMEMSセンサーや高い性能と電力効率を備えたデータ・コンバータから、ワイヤレス接続ソリューションやパワー・マネージメント・ソリューションに至るまで、シグナル・チェーンに関わるあらゆる製品とソリューションを提供することができます。アナログ・デバイセズの技術は、今後もラックベース・システム用の最高性能のオプションを提供し、分散型モニタリング・ノードのニーズに対応します。アナログの世界はデータが生み出される世界です。アナログ・デバイセズは、その世界に意味を持たせ、それを実際に意味のある使用可能な情報に変換するという仕事の最前線に立ち続けています。

アナログ・デバイセズの状態基準保全ソリューションの詳細については、analog.com/jp/cbmをご覧ください。

更に詳しい内容については、「Choose the Right Accelerometer for Predictive Maintenance」をご覧ください。

著者について

Stuart Servis
Stuart Servisは、アナログ・デバイセズのプロダクト・アプリケーション・エンジニアです。計装/高精度技術グループの高精度シグナル・チェーン・チームに所属しています。ΣΔ ADCとSAR ADCをベースとする高精度のデータ・アクイジション用シグナル・チェーンが専門です。アイルランド国立大学ゴールウェイ校で応用物理およびエレクトロニクスに関する学士号を取得しています。

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