最適な電圧リファレンスの選択

2010年05月10日
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要約

単純で一定のリファレンス電圧である、電圧リファレンスよりもさらに基礎的なものがあるでしょうか?すべての設計トピックと同じようにトレードオフが存在します。このアプリケーションノートはさまざまなタイプの電圧リファレンス、その重要な仕様、および精度、温度依存性、電流駆動能力、電力消費、安定性、ノイズ、およびコストなどの設計のトレードオフについて論じます。

ほぼすべての高度な電子製品には、単体またはより大きい機能に内蔵された形で電圧リファレンスが含まれています。この技術およびシステムの誤差バジェットについて理解することは、設計上の重要な検討事項です。スペースに制約があるため、ここではシステムの概念を簡単に説明し、詳細については脚注の参考文献を読むことを推奨します。たとえば、

  1. 電圧レギュレータでは、リファレンスは既知の値を提供し、それを出力と比較することによって出力電圧の調整に使用するフィードバックが生成されます1

    1. アプリケーションでリモート電圧調整および電源マージニングが必要になる場合があります2、3、4
  2. データコンバータでは、リファレンスは絶対電圧を提供し、それを入力電圧と比較することによって適切なデジタルコードが決定されます5

    1. アナログ-デジタルコンバータ(ADC)と電圧リファレンス、またはデジタル-アナログコンバータ(DAC)と電圧リファレンスの組み合わせに対する誤差バジェット6
    2. その他のデータコンバータの誤差発生源、有効分解能、およびビット数7、8
    3. コンバータの精度とクロックジッタ、信号帯域幅、およびTHD用のツールおよび計算器9、10
  3. 電圧検出回路では、リファレンスは動作点を設定するための絶対スレッショルドとして使用されます11

必要とする仕様はアプリケーションに依存します。このアプリケーションノートではさまざまなタイプの電圧リファレンス、その重要な仕様、および設計のトレードオフを論じます。このアプリケーションノートは設計者が各アプリケーションに最適な電圧リファレンスを選択するのに役立つ情報を提供します。

理想

理想的な電圧リファレンスは完全な初期の正確さを備え、その電圧を負荷電流、温度、および時間の変化に関係なく維持します。現実には、設計者は以下のようなトレードオフを考慮しなければなりません。初期電圧精度、温度ドリフトおよびヒステリシス、電流のソースおよびシンク能力、自己消費電流(または電力消費)、長期安定性、ノイズ、およびコスト。

リファレンスのタイプ

2つの最も一般的なリファレンスはツェナーとバンドギャップです12, 13。ツェナーは通常2端子シャントトポロジに使用されます。バンドギャップリファレンスは通常3端子シリーズトポロジに使用されます。

ツェナーダイオードとシャントトポロジ

ツェナーダイオードは逆バイアスブレークダウン領域で動作するように最適化されたダイオードです。ブレークダウンは比較的一定であるために、逆方向に既知の電流を駆動して安定したリファレンスを生成するために使用することができます。

ツェナーの大きな利点の1つは、利用可能な電圧範囲が2V~200Vと広いことです。またツェナーは数ミリワットから数ワットの広い範囲の電力の取扱い能力も備えています。

ツェナーダイオードの主な欠点は高精度のアプリケーション用には充分に正確でなくそれらの電力消費は低電力アプリケーションにとっては厳しい選択になります。1つの例としてBZX84C2V7LT1Gをあげると、それはブレークダウンまたは公称リファレンス電圧が2.5Vで変動は2.3V~2.7V、または±8%の精度です。これは精度をほとんど必要としないアプリケーションにのみ適します。

ツェナーリファレンスの別の関心事は出力インピーダンスです。上の例では5mAで100Ω、1mAで600Ωの内部インピーダンスを備えています。インピーダンスがゼロでない場合、負荷電流の変動に依存してリファレンス電圧の変動の原因になります。低出力インピーダンスを備えたツェナーの選択によってこの影響が最小になります。

埋め込みツェナーダイオードは通常のツェナーよりも安定した特別なタイプのツェナーです。それはシリコン表面下に置かれる構造だからです。

現実のツェナーの代替はツェナーをエミュレートするアクティブ回路です。この回路はツェナーの従来の限界をデバイスが大きく改善することを可能にします。そのようなデバイスの1つがMAX6330です。この製品は100µA~50mAの負荷の変動において、1.5% (max)と優れた初期精度を備えています。この種のICの標準的な実装を図1に示します。

図1. ツェナーダイオードをエミュレートするアクティブ回路としてMAX6330 を使用

図1. ツェナーダイオードをエミュレートするアクティブ回路としてMAX6330 を使用

通常のシャントレギュレータの選択

すべてのシャント構成のリファレンスはリファレンス素子と直列に電流制限抵抗が必要です。この抵抗は次の式で計算することができます。

ここで、

VINは入力電圧範囲です
VSHUNTはレギュレートされる電圧です
ILOADは出力電流範囲です
ISHUNTは最小シャント動作電流です

負荷の存在に関係なく、シャント回路は常にILOAD (max) + ISHUNTを消費します。

同じシャントはRSを適切な大きさにすることによって10VINまたは100VIN用に使用可能です。RSに最大の公称抵抗値を選択すると、最小の電流消費になります。使用する抵抗のワーストケースの許容差を考慮して安全マージンを確保するようにしてください。抵抗の電力定格が充分であることも確認する必要があります。この場合、以下の2つの汎用電力式のいずれかを使用してください。

PR = IIN(VIN(max) - VSHUNT)
= I²INRS
= (VIN(max) - VSHUNT)²/RS

バンドギャップリファレンスと直列モードトポロジ

シャントとシリーズリファレンスとの主な相違は3端子シリーズモードの電圧リファレンスは外付け抵抗が不要で自己消費電力が非常に小さいことです。最も一般的な形態は汎用のバンドギャップリファレンスです。

バンドギャップの基礎

バンドギャップリファレンスには2つの電圧が現れます。1つは正の温度係数(tempco)でもう1つは負の温度係数です。この両方を合わせると出力はゼロ温度係数となります。

正の温度係数は通常、異なった電流レベルで動作している2つのVBEの差で作られます。負の温度係数は自然なVBE電圧の負の温度係数を使用します(図2を参照)。

実際には、温度係数の和は正確にゼロではありません。IC回路設計、パッケージング、および製造試験能力などの設計の詳細に応じて、これらのデバイスは通常VOUTの温度係数として℃あたり1~100ppmの温度係数を持ちます。

図2. バンドギャップ電圧リファレンス

図2. バンドギャップ電圧リファレンス

マキシムのBandgap Reference Calculator (BGRC) Users Guide (Calculatorのzipファイルに含まれる)によって、ブロコウバンドギャップリファレンスセルをシミュレートすることができます。絶対温度0~175℃の温度に対してバンドギャップ調整の効果が示されます。曲率補正回路も調整可能で、設計エンジニアはリファレンスIC設計プロセスを理解することができます。結果の誤差波形および振幅に対する理解とともに、設計の背後にある物理現象が明らかになります。

シャントまたはシリーズトポロジのいずれを使用するかは通常アプリケーションおよび所望の性能によって決定されます。シャントトポロジとしたツェナーとシリーズトポロジとしたバンドギャップ間のいくつかの比較については表1を参照してください。

表1. 電圧リファレンスの比較ガイド
What Zener - Shunt Topology Buried Zener - Shunt Topology Bandgap - Series Topology
Pros
  • Wide/high VIN capable
  • Best for non-power-critical applications due to higher IQUIESCENT (1mA to 10mA)
  • 1% FS initial accuracy
  • Wide/high VIN capable
  • Best for non-power-critical applications due to higher IQUIESCENT (1mA to 10mA)
  • 0.01% to 0.1% FS initial accuracy
  • Typically lower VIN range
  • Low quiescent current (µA to ~1mA)
  • No external resistor
  • Lower IQUIESCENT
  • 0.05% to 1% FS initial accuracy
  • Low dropout voltages
Cons
  • Current is always used
  • Requires external resistor
  • Lower precision
  • Can only sink current
  • High dropout voltage
  • Higher IQUIESCENT than bandgaps
  • Limited VIN range
  • Pass element losses
Gotchas
  • Long-term stability
  • Not all series devices sink current
  • Not all series devices sink current

システム設計問題とリファレンスの選択

電力消費


高効率の±5%電源または最小の電力を必要とする、おそらく8ビットのデータ収集システムなどの中程度の精度を設計する場合は、MAX6025またはMAX6192などのデバイスが使用可能です。両方とも最大35µAを消費する2.5Vリファレンスです。両方とも非常に小さい出力インピーダンスを備えているため、リファレンス電圧は事実上IOUTからは独立しています。


ソースおよびシンク電流


他の仕様は電流をソースおよびシンクするリファレンスの能力です。

ほとんどのアプリケーションでは電圧リファレンスは電流を負荷に供給することが必要で、当然そのリファレンスは必要とする負荷電流を供給することができる必要があります。また電圧リファレンスはIBIASまたは漏れ電流を供給する必要もあり、それらの和が負荷電流を超える場合もあります。

ADCとDACは通常MAX1110などのコンバータでは数十µA、AD7886などのデバイスでは10mA (max)までを必要とします。MAX6101~MAX6105のファミリのリファレンスではソースが5mAでシンクが2mAです。真の重負荷に対しては、MAX6225/MAX6241/MAX6250ファミリのソースおよびシンクは15mAです。


温度ドリフト


温度ドリフトは通常修正可能パラメータです14, 15。それは通常は非常に再現性のあるエラーです。修正は較正ステップを追加するか、または予め特性評価しておいたルックアップ関数から値を読み出すことによって達成可能です。


出力電圧の温度ヒステリシス


このパラメータは、連続した、しかし反対方向の(すなわち、高温から低温へのあとで低温から高温への)温度変化に起因する、リファレンス温度(+25℃)での出力電圧の変化として定義されます。その振幅はシステムの温度変化に直接比例するため、この影響によって非常にネガティブな効果が発生する可能性があります。多くのシステムでは、このタイプの誤差にはあまり再現性がありません。このパラメータは、IC回路の設計の関数であるとともに、パッケージからの影響も含まれます。たとえば、3ピンSOT23に実装されたMAX6001デバイスの温度ヒステリシスは130ppm (typ)です。しかし、8ピンSOに実装されたMAX6190などの、より大型の、安定したパッケージの場合は、わずか75ppmです。


較正16、17、18、19、20


較正は高精度のシステムでごく普通に行われます。16ビットのシステムでは、民生用(0℃~+70℃)の全温度範囲で+25℃をリファレンスポイントとした場合、±1 LSB内に留まるためには1ppm/℃より良好なリファレンスが必要です。ΔV = (1ppm/℃ × 5V × 45℃) = 255µV。この同じ温度ドリフトが産業用の温度範囲に拡張されると、14ビットシステムに対してのみ許容されます。

  • なぜ較正によって部品の許容誤差、利得、およびオフセットを補正する必要があるか16、17
  • ADCとDACの精度およびサーマルノイズの無料の計算器19、20
  • シミュレーション、デカップリングコンデンサ、およびフィルタの設計ツール(無料または低コスト)18
  • 較正回路の概念、ヒント、およびFAQ21、22、23、24

ノイズ


ノイズは通常ランダムな熱ノイズで構成されますが、フリッカノイズやその他のスプリアスノイズ源も含められます。MAX6150、MAX6250およびMAX6350はそれぞれ35µV、3µV、および3µVP-Pのノイズ性能を備えており、すべて低ノイズアプリケーションに最適な選択です。これらすべては、測定において1 LSB以下のノイズを提供します。オーバサンプルして平均化する方法がありますが、これはプロセッサパワーのコストとなり、システムの複雑性とそのコストが増加します。

マキシムのThermal Noise Calculator (TNC) Users Guide (Calculatorのzipファイルに含まれる)は、抵抗およびその他のノイズ源で発生するサーマルノイズの分析に寄与します。TNCは、ホワイトノイズのスペクトル密度および1/fコーナー周波数が既知の場合に、任意のデバイスによって生成されるノイズ電圧を算出します。TNCは、関数電卓のHP 50g上または無料のエミュレータプログラムを使用することによってPC上で実行することができます。

図3. 標準的なスペクトルノイズ密度

図3. 標準的なスペクトルノイズ密度

サーマルノイズ計算器は、指定した帯域幅にわたってノイズ寄与を示すことができます。


長期安定性


このパラメータは時間経過による電圧変化として定義されます。これは主にダイの応力または恐らくパッケージまたはデバイスファミリに存在するイオンマイグレーションに起因します。回路基板の清浄度が時間経過、特に温度と湿度による長期変化として現れる可能性があることを知っておくことが重要です。この影響が本来のデバイスの安定性よりも大きくなる可能性が時折あります。長期安定性は標準的にはリファレンス温度、通常は+25℃でのみ規定されます。


まとめ


どのようなシステムにとっても設計を困難にするのはコスト、大きさ、精度、電力消費などのトレードオフのバランスです。設計に対して最適なリファレンスを選定する場合、関連するパラメータのすべてを考慮することが重要です。興味深いことに、多くの場合、より高価な部品を使用した方が、多くの製造フェーズで補償/較正のコストが低減するため、トータルのシステムコストが下がるという結果が得られる可能性があります。

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