PLLシンセサイザの位相ノイズ、インテジャーN型とフラクショナルN型にはどのような差が出るのか?
はじめに
高い周波数に対応し、直線性に優れる信号源を構成するには、位相ノイズを抑えることが不可欠です。位相ノイズは、信号の位相の望ましくない変動やばらつきを表す指標です。周波数領域で測定されますが、位相ノイズは時間領域で言えばジッタに相当します。PLLシンセサイザを使用する場合、トータルの位相ノイズは、様々な回路ブロックやコンポーネントのノイズを合算したものになります。それらは、最終的な値に個々に影響を及ぼします。そうした回路ブロック/コンポーネントとしては、VCO(Voltage Controlled Oscillator:電圧制御発振器)、リファレンス・クロックとそれに関連する回路、PFD(Phase Frequency Detector:位相周波数検出器)、様々な内蔵バッファなどが挙げられます。

逆に言えば、各回路ブロック/コンポーネントがトータルの位相ノイズに対し、それぞれどれだけの影響を及ぼしているのかということを分析することが可能です。つまり、リファレンスのノイズ、PFDのノイズ、VCOのノイズ、広帯域のノイズといった具合に分類することができます。最後に挙げた広帯域のノイズは、アンプ/バッファやその他の内部回路に起因するものです。これによって、帯域外の位相ノイズ・フロアが決まります。

PLLシンセサイザ製品は、大きくインテジャーN型(整数分周型)とフラクショナルN型(分数分周型)に分類できます。どちらを使用するか選択する際には、トータルの位相ノイズ、コスト、周波数のステップサイズ、PLL回路全体の設計の複雑さ、スプリアス・ノイズ(フラクショナルN型のPLLシンセサイザが内蔵するアキュムレータやシグマ・デルタ[Σデルタ]変調器に起因するフラクショナル・スプリアス)、整数境界スプリアス(これもフラクショナルN型の原理に起因)、リファレンス・スプリアス、ループのロック時間の重要性について検討する必要があります。
フラクショナルN型の長所
フラクショナルN型のPLLシンセサイザには、インテジャーN型のPLLに勝る複数の長所があります(ただ、アプリケーションによっては、そうした長所が重要であるとは限りません)。例えば、フラクショナルN型ではリファレンス周波数として大きな値を設定することができます。つまり、分周比の値Nが小さくなります。PLLの位相ノイズは、選択したNの値に比例します(fOUT = fREF×N)。フラクショナルN型のPLLでNの値を小さくする場合、リファレンス周波数にNを乗じることによる位相ノイズの増分は、20log(N)〔dB〕だけ減少します。その一方で、PFDのノイズ(-10log(fPFD〔dB〕)は増加するため、一部は相殺されます。なお、ここでは理解しやすくするために、リファレンスの分周比Rは1で、fREF = fPFDであると仮定しました。整数値が大きいほどノイズは大きくなります。フラクショナルN型のもう1つの長所は、小さいステップサイズを実現できることです。つまり、高い分解能が得られます。インテジャーN型のステップサイズは、数十kHzほどにもなることがあります。それに対し、フラクショナルN型のPLLでは、数十Hzのステップサイズを実現可能です。また、フラクショナルN型のPLLは、インテジャーN型を使用した同等のソリューションと比べてロックが高速です。フラクショナルN型ではNの値を小さくできるので、ループ・フィルタの帯域幅を広くとることができます。それによってロック時間を短縮できるということです。
フラクショナルN型の短所
フラクショナルN型のPLLが抱える代表的な欠点は、フラクショナル・スプリアスと整数境界スプリアスが生成されることです。また、ループ・フィルタの設計が複雑になるという短所もあります。加えて、場合によってはコストが増加してしまうことがあります。そのような理由から、インテジャーN型のPLLが選択されるケースも少なくありません。しかし、アナログ・デバイセズが提供するフラクショナルN型のPLL製品であれば、これらの欠点が緩和されています。まず、整数境界スプリアスが非常に小さくなるように設計されています。また、フラクショナル・スプリアスについては、分数分周器として同スプリアスが発生しない高度な4次ΣΔ変調器を採用しています。複雑さに関しては、ループの設計作業を簡素化できるようにするためのソフトウェア・ツール「FracNWizard」を提供しています。同ツールは、PLL向けの高度な設計/シミュレーション機能によってユーザを支援します。
データシートを正しく読み解く
インテジャーN型/フラクショナルN型の製品のデータシートを参照する際、フラクショナルN型の方が位相ノイズは小さいはずなのに、位相ノイズの仕様はほぼ同等になっているケースがあります。これについては戸惑いを覚える方もいるかもしれません。例えば、フラクショナルN型のシンセサイザ「LTC6947」のデータシートを見ると、最初のページに「特長」というセクションが設けられています。そこには、位相ノイズについて、「正規化された帯域内位相ノイズフロア:-226dBc/Hz」、「正規化された帯域内1/fノイズ:-274dBc/Hz」、「広帯域出力位相ノイズフロア:-157dBc/Hz」の3つが掲げられています。一方、インテジャーN型のシンセサイザ「LTC6945」のデータシートにも同様の記載があります。しかも、それぞれの値はLTC6947と同一です。
ここで重要なのは、最初の2つの仕様は正規化された値であるということです。これは、設計を完成させるために必要ないくつかの要素を考慮せずに値を算出しているということを意味します。そのようにすることで、これらの値を直接比較することが可能になります。但し、この製品を使用した場合にそれらの値が必ず得られるというわけではありません。そうではなく「性能指数(figure of merit)」です。実際のアプリケーションでは、その値を“非正規化(unnormalize)”することになります。つまり、最終的な値にはPLLの分周比Nとリファレンス・クロックの周波数の影響が加わります。
上記のとおり、フラクショナルN型の製品であるLTC6947とインテジャーN型の製品であるLTC6945の性能が同じ値になっている理由は正規化にあります。一般的なアプリケーションで使用する場合、通常はフラクショナルN型の製品の方が帯域内の位相ノイズははるかに小さくなります。通常、フラクショナルN型では、リファレンス周波数(またはPFD周波数)をより高く設定し、Nの値をより小さくすることができます。そのため、全体的な位相ノイズは小さくなります。
例として、ステップサイズが100kHz、出力周波数が3GHz、PFD周波数が100kHzの条件でインテジャーN型のLTC6945を使用するケースを考えます。同等の回路でフラクショナルN型のLTC6947を使用すると、PFD周波数をはるかに高い値に設定できます。ここでは、同周波数を50MHzに設定するとしましょう。そうすると、最大周波数誤差は約100Hz(50MHz/218)/2)となります。218で割るのは、LTC6947では18ビットのΣΔ変調器を採用しており、ステップサイズが1/1000であるためです。
同等の回路を使用して3GHzの出力を得る場合、フラクショナルN型のLTC6947ではインテジャーN型のLTC6945を使うよりも帯域内のノイズが約27dB低くなります(正規化された帯域内位相ノイズの値が同じであると仮定した場合。詳しい計算方法については、LTC6945のデータシートのp.21に記載されている式(11)、およびLTC6947のデータシートのp.25に示されている式(16)をご覧ください)。LTC6947を分数モードで動作させた場合、正規化された帯域内の位相ノイズは、LTC6945よりも1dB高くなります。しかし、帯域内の位相ノイズ・フロアは26dB低くなります。
なお、位相ノイズ・フロアはスプリアス成分には依存しません。そのため、フラクショナルN型でもインテジャーN型でも同等の値になります。
アナログ・デバイセズは、インテジャーN型のPLLシンセサイザ(LTC6945や「LTC6946」)もフラクショナルN型のPLLシンセサイザ(LTC6947や「LTC6948」)も提供しています。どちらの方式の製品も優れた位相ノイズ性能を備えています。ステップサイズを小さく設定して位相ノイズを最小限に抑えたい場合には、フラクショナルN型の製品が適しています。一方、コストと複雑さを抑えたい場合には、インテジャーN型の製品を選択するとよいでしょう。アナログ・デバイセズのPLLシンセサイザ製品については、こちらをご覧ください。
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