低電圧/大電流に対応するDC/DC電源、負荷の分担と冗長性を実現可能
はじめに
コンピュータ・システムやネットワーク・システムでは、引き続き大規模化と高速化が進んでいます。それに伴い、電源電圧を下げる取り組みが行われていますが、消費電力の増大に歯止めがかかっているわけではありません。結果として、電源回路には大きな負荷電流を供給するための能力が求められます。そのための具体的な手法としては、複数の電源モジュールを並列に接続した電源回路が使用されます。また、データ処理装置や通信装置に適用される高性能の電源には、卓越した信頼性とフォールト・トレラント性が求められます。例えば、ミッションクリティカルなデータ処理システム用の電源には、99.999%を超える稼働率が求められるといった具合です。そうしたシステムのニーズを満たすためには、負荷分担機能、フォールト・トレラント性、冗長性を備えるパワー・マネージメント・ソリューションが必要になります。
本稿では、比較的シンプルな回路によって上述したすべての要件に応えるパワー・マネージメント・ソリューションを紹介します。そのソリューションは、主に2つの要素によって構成されます。1つは、PolyPhase®技術を適用した降圧型のDC/DCコントローラIC「LTC3729」です。もう1つはホットスワップが可能な負荷分担コントローラIC「LTC4350」です。

図1. 負荷分担機能と冗長性を備えたDC/DC電源
PolyPhase技術を適用したDC/DCコントローラ
LTC3729は、PolyPhase技術を適用したデュアル電流モードのコントローラICです。低電圧、大電流で稼働するコンピュータ・システムやネットワーク・システムに必要な性能と信頼性を提供する製品です。PolyPhase技術では、並列に接続された複数のパワー段のクロック信号をインターリーブすることにより、入力と出力のリップル電流を低減します。それにより、入出力コンデンサの値を小さく抑えつつ、それらの信頼性の維持と寿命の延伸に大きく貢献します。LTC3729は正確な電流検出方式を採用しているので、信頼性は更に向上します。位相間の電流分担の能力に優れており、熱の分布が均等化されるため、パワー半導体や出力インダクタの信頼性が損なわれるのを防ぐことが可能です。それ以外にも、真のリモート・センシング、大電流に対応するMOSFET用のドライバ、過電圧保護、フォールドバック電流制限、オプションの過電流ラッチオフといった高度な機能を備えています。それらすべてにより、高い信頼性と性能を備える低電圧/大電流対応の電源を構成することができます。
ホットスワップが可能な負荷分担コントローラ
LTC3729の後段にLTC4350を追加することで、システムの信頼性を更に高めることができます。LTC4350は、ホットスワップが可能な負荷分担コントローラです。これを使用することで、並列に接続された複数の電源によって負荷電流を分担して供給することが可能になります。その結果、フォールト・トレランス性と冗長性が実現されます。LTC4350は、冗長構成の電源によって負荷を分担できるようにするために、共有バスによって設定された値に各電源の電流値が一致するまで各電源の出力電圧を調整します。また、電源に障害が発生した場合には、直列に接続されたMOSFETをオフにすることによってその電源を隔離すると共に、障害の情報をシステムに通知します。障害が発生した電源は、システムの動作を停止させることなく、除去したり、新しい電源に交換したりすることができます。
LTC4350は、ORingダイオードの代わりにオン抵抗RDS(ON)の小さいMOSFETを使用できるようにすることで、システムの効率を高めます。
汎用性の高い製品であり、「LTC3728」(詳細は後述)、「LTC1628」、「LTC1629」、「LTC1778」など、任意のDC/DCコントローラICと共に使用できます。
負荷分担機能と冗長性を備えた3.3V/40A出力の電源
図2aと図2bとして示したのは、負荷分担機能と冗長性を備えた3.3V/40A出力の電源回路です。それらのうち、図2aは回路の上流側に相当します。この回路は、LTC3729を使用して構成した2フェーズの同期降圧DC/DCコンバータです。これにより、5V~12Vの入力電源バスから3.3V/40Aを生成することができます。この回路では、主要な構成要素として、LTC3729が1個、SO-8サイズの超小型MOSFETが8個、1µHの薄型/表面実装型インダクタが2個使用されています。その効率は、入力電圧範囲の全体にわたり91%~93%に達します。図3に、2A~40Aの負荷電流範囲における効率の測定結果を示しました。

図2a. 冗長性と負荷分担機能を備えた電源におけるDC/DCコンバータ部の回路

図2b. 負荷分担およびホットスワップに対応する部分の回路

図3. LTC3729を使用した回路の効率の測定結果
図2bに示したのは、LTC4350を使用して構成した下流側の回路です。これにより、負荷分担の機能とホットスワップの機能が実現されます。各電源の負荷電流は、共有バス電圧によって決まります。各電源チャンネルにおいて、LTC4350のIOUTピンは、LTC3729に接続された電圧フィードバック用の抵抗R10に接続されています。これにより、LTC3729のローカルの出力電圧を、共有バスによって設定された値に各電源の電流値が一致するまで調整することが可能になります。LTC4350は、UVピン(低電圧)とOVピン(過電圧)によって、各電源のローカルの出力電圧VOUTを監視します。この方法により、低電圧、高電圧、オープン・サーキットなどの障害が検出されたとします。その場合、LTC4350は、直列に接続されたMOSFETをオフにして障害が発生した電源を隔離します。また、LTC4350は、STATUSピンによって、局所的な障害の情報をシステムに通知するためのオープンドレイン信号を供給します。ただ、LTC3729も、出力過電圧と短絡に対する保護機能を搭載しています。そのため、この例では回路を簡素化するために、各モジュールにおいて単方向のMOSFETを使用しています。
図4に示したのは、負荷を分担するために並列接続された2個の電源におけるパルス状の負荷に対する電流波形です。これを見ると、負荷がない状態(負荷電流が0A)から負荷が高い状態(同40A)へ遷移する際、2つの電源によって適切に電流が分担されていることがわかります。図5に示したのは、ホットスワップ動作について示した波形です。2個の並列モジュールにより、トータルで40Aの出力電流を分担している際の動作を表しています。負荷トランジェントとホットスワップ時の負荷電流のセトリング時間は、LTC4350のCOMP1ピンとCOMP2ピンに接続する補償用の抵抗とコンデンサの値によって調整可能です。詳細については、LTC4350のデータシートをご覧ください。

図4. 並列接続した2個の電源のパルス負荷に対する電流応答。LTC3729とLTC4350を組み合わせた場合の結果です。

図5a. モジュール2のスワップ・イン

図5b. モジュール2のスワップ・アウト
図5. 並列接続した2個の電源におけるホットスワップ時の電流波形。LTC3729とLTC4350を組み合わせた場合の結果です。
マルチ出力のアプリケーションにおける冗長性の実現
図6に示したのは、3つの出力を備えるシンプルかつ堅牢な冗長電源システムの構成例です。この回路では、LTC3728を3個使用して電圧制御を行います。同ICは、LTC3729と同様の製品ですが、2つの出力を備えています。LTC4350を6個使用することによって、ホットスワップが可能な負荷分担が実現されています。各LTC3728は、互いに180度位相がずれた2つの出力をレギュレートすることにより、入力コンデンサの値を最小限に抑えることを可能にします。

図6. 3つの出力を備える冗長電源システム
まとめ
LTC3729は、PolyPhase技術を適用した電流モードのDC/DCコントローラICです。また、同ICのデュアル出力版であるLTC3728も提供されています。これらの製品を使用すれば、部品点数を最小限に抑えつつ、高い性能と信頼性を備え、低電圧/大電流に対応可能な電源回路を実現することができます。そのようにして構成した電源回路に、ホットスワップが可能な負荷分担コントローラICであるLTC4350を組み合わせれば、より高度なシステムが得られます。すなわち、ミッションクリティカルなアプリケーションに適した冗長性とフォールト・トレランス性を備える電源システムを容易に構築することができます。
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