VCO 内蔵のロー・コスト PLL でコンパクトな LO ソリューションを実現

2015年03月01日
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新しい PLL+VCO(電圧制御発振器内蔵フェーズ・ロック・ループ)技術を利用すれば、25 MHz ~ 13.6 GHz のセルラ/4G、マイクロ波無線、および防衛アプリケーション用の低位相ノイズ・シンセサイザ・ソリューションを迅速に開発することができます。

セルラ/4G、マイクロ波無線、試験装置、および防衛サブシステム・アプリケーションの無線設計者は、低 BER(ビット・エラー・レート)、低スプリアス出力、低位相ノイズといったシステム・レベルの目標を満たすために、高品質の局部発振器(LO)を使用しています。すべての RF およびマイクロ波通信とセンサー・システムには、それらがアナログ変調に基づくものかデジタル変調に基づくものかを問わず、クリーンな LO 信号源が必要ですが、無線の能力が高いほど LO 信号に関する要求も厳しくなります。この要求を満たすためにさまざまなアーキテクチャが使われていますが、その中で最も一般的と言える方法の 1 つが、低位相ノイズの電圧制御発振器(VLO)を安定したリファレンスおよびフェーズ・ロック・ループ(PLL)と組み合わせて、周波数シンセサイザを構成することです。しかし、非常に高い LO 性能を追求する場合、設計者は PLL/シンセサイザ、VCO、チャージ・ポンプ、ループ・フィルタ間の相互作用に関わるさまざまな課題に取り組む必要があります。基板レイアウトや望ましくない電源ノイズによって生じる問題がそれに含まれることは、言うまでもありません。

アナログ・デバイセズは、MMIC VCO、フェーズ・ロック発振器(PLO)、低ノイズ・プリスケーラ、位相周波数検出器(PFD)、RF 入力周波数が 13.6 GHz までの 一連のデュアル・モード(フラクショナル/インテジャー)PLL/シンセサイザ IC など、周波数生成部品の核となる技術を開発してきました。

アナログ・デバイセズの業界をリードする VCO 内蔵 PLL 製品について、その概要を表 1 と表 2 に示します。これらの VCO 内蔵 PLL 製品は、25 MHz ~ 13.6 GHz の RF およびマイクロ波周波数をカバーしています。

表 1. アナログ・デバイセズの VCO 内蔵 PLL の性能概要

部品番号 周波数範囲(GHz) 市場アプリケーション 位相ノイズ(dBc/Hz)@ 10 MHz オフセット、インテジャー・モード*、FCOMP = 50 MHz、BW = 100 kHz 位相ノイズ(dBc/Hz)@ 1 MHz オフセット、オープンループ VCO POUT(dBm)  RMS ジッタフラクショナル モード(fS 内部位相ノイズフラクショナル・モード(° rms)
HMC830LP6GE 0.025 to 3.0 RF 通信システム –114 @ 2 GHz
–141 @ 2 GHz +5
159 0.114 @ 2 GHz
HMC832LP6GE 0.025 to 3.0 RF 通信システム –114 @ 2 GHz
–139 @ 2 GHz +7
159 0.114 @ 2 GHz
HMC835LP6GE 0.33 to 4.1 RF 通信システム –105 @ 4 GHz
–133 @ 4 GHz +7 <160
0.23 @ 4 GHz
HMC833LP6GE 0.025 to 6.0 RF 通信システム –114 @ 2 GHz –141 @ 2 GHz –4 159
0.11 @ 2 GHz
HMC829LP6GE
0.045 to 1.05
RF 通信システム –108 @ 4 GHz –134 @ 4 GHz +4 159
0.23 @ 4 GHz
 1.4 to 2.1
 2.8 to 4.2
HMC834LP6GE
0.045 to 1.05
RF 通信システム –108 @ 4 GHz –134 @ 4 GHz
+5
159
0.23 @ 4 GHz
1.4 to 2.1
+2
2.8 to 4.2
+2
5.6 to 8.4
–10
HMC764LP6CE 7.0 to 8.2 RF 通信システム –102 @ 7.6 GHz –140 @ 7.6 GHz +15 196 0.55 @ 7.6 GHz
HMC765LP6CE 7.8 to 8.5 RF 通信システム –102 @ 8.2 GHz –139 @ 8.2 GHz +13 193 0.58 @ 8.2 GHz
HMC767LP6CE 8.45 to 9.55 RF 通信システム –107 @ 9 GHz –138 @ 9 GHz +12 93
0.3 @ 9 GHz
HMC769LP6CE 9.05 to 10.15 RF 通信システム –106 @ 9.6 GHz –140 @ 9.6 GHz +12 82
0.28 @ 9.6 GHz
HMC783LP6CE 11.5 to 12.5 RF 通信システム –100 @ 12 GHz –134 @ 12 GHz +11 181
0.78 @ 12 GHz
HMC807LP6CE 12.4 to 13.4 RF 通信システム –98 @ 13 GHz –134 @ 13 GHz +8 175 0.81 @ 13 GHz
*シンセサイザの性能指数(FOM)は –221 dBc/Hz/–226 dBc/Hz です(フラクショナル/インテジャー)。

表 2. アナログ・デバイセズの VCO 内蔵 PLL の性能概要

部品番号 周波数 範囲 (GHz) 市場アプリケーション 位相ノイズ(dBc/Hz)@10 kHz オフセット、インテジャー・モード、FCOMP = 61.44 MHz、BW = 20 kHz 位相ノイズ(dBc/Hz)@1 MHz オフセット、オープンループ VCO POUT(dBm) RMS ジッタフラクショナル・モード (fS) 内部位相ノイズフラクショナル・モード (° rms)
ADF5355 0.05 to 13.6 RF 通信システム –90 @ 6.8 GHz –132 @ 6.8 GHz –3 150 –221
ADF4355-2 0.05 to 4.4 RF 通信システム –95 @ 3.4 GHz –138 @ 3.4 GHz +3 150 –221

これらの製品は、標準的な 5 mm × 5 mm および 6 mm × 6 mmの QFN プラスチック・パッケージに収められ、図 1 の機能ブロック図に示すように、高機能のフラクショナル N シンセサイザと超低ノイズ VCO を実装しています。集積度が高いので、外付け部品の数を最小限に抑えることが可能です。これらの製品は、超低ノイズの商用および防衛用アプリケーション向けに設計されており、超低ノイズの周波数検出器(PFD)、高精度に制御されたチャージ・ポンプ、きわめて細かい周波数ステップを可能にする高度な変調器構造が組み込まれています。

図 1. アナログ・デバイセズの VCO 内蔵 PLL 製品の機能ブロック図と代表的アプリケーション回路

また、近接位相ノイズがきわめて低くスプリアスも小さいため、より広いループ帯域幅、高速の周波数ホッピング、低マイクロフォニック・ノイズのアーキテクチャとすることができます。さらにスプリアス出力も小さいので、多くのアプリケーションでは、コストのかかるダイレクト・デジタル合成(DDS)リファレンスを使用する必要がなくなります。

RF 市場アプリケーション用の VCO 内蔵 PLL

HMC830LP6GE は、セルラ/4G、マイクロ波バックホールの IF、および試験/計測などのアプリケーションをターゲットとした8 種類の VCO 内蔵広帯域 PLL 製品の 1 つです。この製品ファミリーは、高性能フラクショナル N PLL/シンセサイザと内蔵低ノイズ VCO の機能を組み合わせた製品で構成されています。この RF アプリケーション向け VCO 内蔵 PLL のアーキテクチャにより、5 V 以下にチューニングされた高性能 VCO を使用することが可能となっています(図 2 参照)。ループ・フィルタ内にオペアンプを置く必要がないので、性能を向上させる一方で、コストと基板スペースの両方を削減することができます。VCO 内蔵 PLL は1 つの温度限界値でロックして、再ロックや再キャリブレーションを行うことなく全温度範囲で作動させることができます。これは高信頼性アプリケーションに必要とされる機能ですが、競合ソリューションの中にはこの機能を備えていないものもあります。

図 2. VCO 内蔵 PLL HMC830LP6GE のチューニング電圧と周波数の関係

図 3 に示すように、これらのデバイスは非常に優れた位相ノイズ性能を備えており、通常、帯域内ノイズおよび遠く離れた位置のノイズ・フロアの両方で競合デバイスより 10 dB 優れた値を示します。低スプリアス・モードか低ノイズ・モードかの選択をする必要はありません。100 Hz から 1 MHz までの積分ノイズは −55 dBc(代表値)で、これは FOUT = 1 GHz で 0.1° の rms ジッタ、あるいは 278 fs rms に相当します。

図 3. VCO 内蔵 PLL HMC830LP6GE の SSB 位相ノイズと周波数の関係

図 4 に示すように、HMC830LP6GE は他の集積化ソリューションよりも大幅に性能が向上しています。

図 4. 最悪のスプリアス(50 MHz リファレンスに固定、出力周波数 = 2 GHz)

例えば、HMC830LP6GE の近接位相ノイズは TI の LMX2581 より約 5 dB 低く、20 MHz を超えるオフセット周波数での位相ノイズ・フロアも 7 dB 低くなっています。さらに、HMC830LP6GE は優れたスプリアス性能を備えており、全帯域を通じてフラクショナル・スプリアスがはるかに小さく、ノイズもスペクトラム出力全体を通じて低くなっています。HMC830LP6GE は、ドロップアウトが生じないように、バンド・エッジでも変わらぬ温度性能を備えています。

VCO を内蔵した ADF5355 PLL は同クラスで最も広い 55 MHz ~13.6 GHz の周波数範囲をカバーしており、ADF4355-2 は 55 MHz~ 4.4 GHz の周波数範囲をカバーしています。どちらのデバイスも超低位相ノイズの VCO を内蔵しており、ADF4344-2 の位相ノイズは 3.4 GHz、オフセット 1 MHz で −138 dBc/Hz、ADF5355では 6.8 GHz、オフセット 1 MHz で −132 dBc/Hz です。

ADF5355 と ADF4355-2 の優れた VCO 位相ノイズ性能は、新しい VCO トポロジーと、アナログ・デバイセズが独自に開発した新しい先進的 SiGe-BiCMOS プロセスに合わせて開発されたアーキテクチャを通じて実現されています。超広帯域 RF およびマイクロ波通信アプリケーションでは、このきわめて低い位相ノイズによりシステム全体のエラー・ビット・レートが改善されてデータ・スループットが向上すると同時に、ノイズ耐性が改善されてダイナミック・レンジも広くなるという利点があります。

また、コスト効果に優れた、アナログ・デバイセズのこの新しい広帯域 PLL シンセサイザ IC は 、最大 125 MHz の位相コンパレータ周波数と 38 ビットの分解能を備えており、ジッタを低減して非常に細かいステップ・サイズを提供する一方で、先進的な BiCMOS プロセスに基づく VCO 内蔵 PLL が、ディスクリートの GaAs 実装よりもパッケージ・サイズを大幅に小型化する他、消費電力も削減します。また、1 つの PLL シンセサイザを 55 MHz ~ 13.6 GHz の範囲で作動するように構成できるので、設計者は、複数の周波数帯をサポートしたままより迅速にシステム設計を変更し、部品在庫を減らすことができます。

マイクロ波市場アプリケーション用のVCO 内蔵 PLL

VCO を内蔵した HMC764LP6CE PLL は、狭帯域の高性能マイクロ波通信アプリケーション用に最適化されています。アナログ・デバイセズは、動作周波数が 6 GHz 以上の VCO 内蔵 PLL を市場に投入した業界初のサプライヤです。これらの製品は、いずれも非常に優れたマイクロ波 VCO 性能を備えていることで高い評価を受けており、さらに、高度な集積化フラクショナル・シンセサイザの機能も備えています。代表的なアプリケーションとしては、マイクロ波およびミリ波無線、工業用/医療用試験装置、防衛用通信、電子戦(EW)、電子妨害手段(ECM)サブシステムなどが挙げられます。

図 5 に示すように、HMC764LP6CE は帯域幅全体を通じて一貫したチューニング感度と最大 16 dBm の高い出力電力を発揮することで、アナログ・デバイセズの高い直線性を備えたダブル・バランスド I/Q ミキサーやアップ/ダウン・コンバージョン製品の多くについて、その LO ポートを直接駆動するのに理想的なデバイスとなっています。

図5. VCO 内蔵 PLL HMC764LP6CE のチューニング感度、RF 出力電力、出力周波数の関係

低/中/高周波数範囲における HMC764LP6CE の優れた単側波帯(SSB)位相ノイズ性能とオフセット周波数の関係を、図 6 に示します。このデータは、50 MHz のリファレンス周波数と 100 kHzのループ帯域幅、および PFD に 50 MHz の比較周波数が存在する状態で測定したものです。モノリシック構造を採用していることから、位相ノイズ性能は温度変化および機械的衝撃に関わらず安定しています。さらに、FSK モードが組み込まれているので、シンプルかつ低コストの直接 FM 送信源としてデバイスを使用することができます。

図 6. VCO 内蔵 PLL HMC764LP6CE の SSB 位相ノイズと周波数の関係

このように先進的な機能と高い集積度をもってしても、高性能プログラマブル局部発振器の開発にはかなりの設計時間が必要です。このため、アナログ・デバイセズは VCO 内蔵 PLL の設計者用リファレンス・キットを開発しました。このキットにより、進行中の設計を直ちに評価することができます。

図 7 に示す代表的な評価用 PCB は、設計時間を短縮してラピッド・プロトタイピングを促進する、使いやすい汎用評価キットの一部です。設計者用リファレンス・キットは、オンボード・リファレンス発振器と電圧レギュレータを含み、汎用ループ・フィルタ構成をサポートしています。内蔵ソフトウェアを使用することによって、PLL をプログラムしたり先進機能にアクセスしたりすることが可能です。詳細なオペレーティング・ガイドで、評価用ボードを迅速に起動して初期化する方法をステップ・バイ・ステップで紹介しています。このガイドには、評価用ボードに使われている部品に関する包括的な検討事項が記載されており、外部リファレンスに合わせた評価用ボードの設定変更や、次数を選択できるオンボードのパッシブまたはアクティブ・ループ・フィルタといった高度なトピックが扱われています。

図 7. 各設計者用キットに含まれる VCO 内蔵 PLL 評価用 PCB

各設計者用リファレンス・キットにはアナログ・デバイセズ独自の ADIsimPLL 設計ツールが含まれているので、標準の評価用PCB ループ・フィルタを、ユーザ固有のアプリケーションに合わせてカスタマイズすることができます。包括的な PC ベースのPLL 制御ソフトウェアと、USB インターフェースを介して PLL をプログラムする PC 互換レジスタ・ファイルも付属しています。PC、シグナル・アナライザ、および DC 電源だけで、完全にロックされた局部発振器をごく短時間で評価することができます。また、この独自の製品をすぐに使用できるように、アナログ・デバイセズの経験豊富なアプリケーション・エンジニア・グループの支援を得ることも可能です。

アナログ・デバイセズの VCO 内蔵 PLL 製品は、低位相ノイズ、先進機能、超小型サイズなどの属性を独自に組み合わせた製品で、マイクロ波/ミリ波無線、試験装置、マイクロ波センサー、光ファイバ通信、防衛用通信およびセンサーを含む、さまざまなスモール・フォーム・ファクタ・アプリケーションに最適です。

通常、ハイブリッドベースのシンセサイザは、ガラス繊維ベースの基板素材とディスクリート VCO、大きな共振器、プレス加工された金属カバーを使用します。このアセンブリ手法は、RFグラウンドに関する問題を引き起こしたり、不要な電気的影響やマイクロフォニックの影響に関する問題を引き起こしたりする可能性があります。ディスクリート・ハイブリッド・シンセサイザ/VCO 構成に比べ、アナログ・デバイセズの集積化周波数生成ソリューションは、安定した性能、高い信頼性、小型化という設計者の目標を達成可能にします。また、アナログ・デバイセズの VCO 内蔵 PLL は、通常よりもはるかに小さい共振器を備えているので、サイズの大きいハイブリッド設計よりも優れたマイクロフォニック性能を提供します。これらの VCO 内蔵 PLL 製品は、RoHS 準拠の QFN リードレス・パッケージに収められており、高速大量生産の SMT アセンブリ・ラインに最適です。

著者について

James Lee
Paul Taylor

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