任意の 5V 電源から大容量バッテリを高効率充電する、パワー素子内蔵の I2C 制御リチウムイオン・パワー・マネジメント IC
携帯型電子機器の設計者は、あらゆる処理をこなすと同時に、1 回の充電で無限に動作する装置を作り出すという難題を突きつけられています。この難しい要求を完全に満たすことはできませんが、バッテリの世代が進むに従って少しずつではありますが、目標に近づいています。現在、大型で鮮明なタッチパネル式ディスプレイ、マルチコア CPU とグラフィック・プロセッサ、あらゆる場所で高速通信を行うための複数の無線モデムを誇る装置では、大容量のバッテリが不可欠です。バッテリ・メーカは、30 ワット時を超える容量を備えた、軽量で小型の電池により、この目標を達成しました。
USB は装置の相互接続、同期、およびデータ交換について主流の標準規格になりましたが、その電力供給能力は、バッテリ側の要求に追い付いていません。USB 2.0で対応できる負荷は最大 2.5W ですが、USB 3.0 では、限度が 4.5W に広がっています。効率が 100%ですべての電力が直接バッテリに充電される場合でも、USB を介して満充電に至るためには、一晩中充電しなくてはなりません。USBは大容量バッテリのメイン電源としては適していませんが、装置がパソコンなどの USB 給電機器につながっている時にバッテリの放電を防ぐための補助電源としては有効です。
大電流充電と USB 給電の両立
LTC4155は、小規模なプリント基板面積で 3.5Aという高い電流で効率良く充電できるモノリシック・スイッチング・バッテリ・チャージャです。標準的アプリケーションで必要な部品を図 1に示します。2.25MHz のスイッチング周波数により、小型のインダクタおよびバイパス・コンデンサを使用できるので、プリント基板の総面積を最小限に抑えることができます。
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図1.I2C制御の大電力バッテリ・チャージャ/USBパワー・マネージャ
高電流を効率良く充電できるということは、入力電力の有効活用につながるだけではなく、携帯型機器の内部の電力損失を抑えることにも役立ちます。効率の悪い充電回路を用い、密閉された狭い空間で大量の電力損失が発生すると、機器を手で持つことができなくなる位に温度が上昇してしまいます。LTC4155の内蔵パワー・スイッチは、100mΩ を十分に下回るオン抵抗特性を備えており、機器の温度を上げずに充電することが可能です。
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図2.スイッチング・レギュレータの効率
LTC4155 のパワー・スイッチは、USB から供給可能な電流よりも多くの電流を処理できるサイズになっており、LTC4155 は、補助的な充電について USBとの完全な互換性を維持します。入力電流は内部で自動的に測定され、ユーザがI2C経由で設定可能な16種類の電流リミットが選べます。これらの設定値のうち 3 つは、USB 2.0 の 100mA および 500mA、USB 3.0 の900mAという保証最大限度に対応しています。ACアダプタやその他の電源と併用した場合には、最大 3Aまでのその他の電流リミットを任意に選択することもできます。
LTC4155 は、ピンでプログラム可能な電源投入時のデフォルト入力電流をサポートしています。USB 互換性を必要としない大電力アプリケーションでは、CLPROG1ピンに 1本の抵抗を接続することにより、デフォルトの電源投入時入力電流が設定されます。この抵抗は、特定のアプリケーション、目的の電源供給能力などに最適な初期電流制限値に対応するように選択されます。入力電流制限値は、電源投入後、I2C 制御により、3Aまでの 16 種類の設定値のいずれかに変更できます。
USBアプリケーションの場合は、CLPROG1ピンおよび CLPROG2ピンを 1箇所に接続することにより、USB 電流制限規則を適用するようLTC4155 を設定できます。入力電流制限のデフォルト値は、外部電源を印加すると100mA になります。USB ホスト・コントローラによる確認が正常に完了すると、入力電流制限の設定値は、I2C 制御によって 500mAまたは 900mA に増加できます。システム負荷およびバッテリ・チャージャに供給可能な電流を図 3に示します。スイッチング・レギュレータの出力電流は、USB 制限の入力電流より大きい値であることに注意してください。電源が AC アダプタ、専用の USB チャージャ、または USB 以外のその他の電源であることをシステムが検出すると、入力電流制限の設定値は、I2C 制御によって最大 3A のその他の設定値まで増加できます。
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図3.バッテリの放電前に利用可能なUSB準拠の負荷電流
複数の入力間のシームレスな切り換え
LTC4155 は、オプションで 2 つの電源からの入力を受け付け、2 つの異なる物理コネクタから製品へ高度な判別処理をして電力を供給するという課題を解決します。2 つの入力電源が同時に接続されると、どちらの電源を使用するかの判断は、ユーザがプログラム可能な優先順位に基づきます。各入力電圧が有効な動作範囲内にある限り、どちらの電圧が他方より高いかを気にする必要なく、いずれか一方を選択できます。これにより、たとえば、4.5V/2A の AC アダプタを 5V/500mA の USBポートより優先させることができます。このUSB 接続を取り外して、同じポートに 5V/3Aの AC アダプタを接続すると、入力電源の優先順位は I2C を介して変更され、より電力の大きい新しい電源に切り替わります。
LTC4155 は、その 2 つの電源入力のそれぞれに対して、I2C でプログラム可能な独立した入力電流制限値をサポートしています。優先順位の高い入力電源を取り外すと、入力電流制限がより小さい新しい値に自動的に減少し、充電を途切れずに継続できます。システム・マイクロコントローラがリアルタイムに制御する必要はありません。
入力マルチプレクサの外付け部品の選択によっては、アプリケーションで必要な場合、±77V までの過電圧保護および逆電圧保護を容易に実現できます。さらに、LTC4155は、外付け部品を追加することなく、USBOn-The-Go 対応の 5V 電流制限付き電源をUSBコネクタに供給できます。
充電アルゴリズムのためのプログラミング性および遠隔測定
LTC4155 は、I2Cステータスの連続通知機能を備えているので、入力電源の状態、フォルト状態、バッテリ充電サイクルの状態、バッテリの温度、およびその他のいくつかのパラメータをシステム・ソフトウェアによってすべて表示することができます。
重要な充電パラメータを I2C 制御によって変更して、カスタマイズした充電アルゴリズムを実現できます。マイクロコントローラ・ベースの充電アルゴリズムやその他のプログラム可能充電アルゴリズムとは異なり、ソフトウェアの I2C 制御によって設定できる LTC4155 の可能なすべての設定値は、バッテリにとって本質的に安全です。4.2Vより高いか、4.05Vより低いフロート電圧を設定することはできません。同様に、バッテリ充電電流は、15 種類の可能な設定値のいずれかに設定できますが、バッテリ容量および最大充電速度に一致するようにプログラミング抵抗を選択することによって、設計者が設定したレベルを超える制限値をソフトウェアで設定することはできません。
バッテリ温度の連続データをシステム・ソフトウェアで読み取って、システムまたはチャージャの動作を動的に適合させ、制限値付近の極端な動作状態を管理できます。たとえば、フロート電圧または充電電流あるいはその両方を I2C 制御によって低減し、高い周囲温度でのバッテリの安全余裕度を増やすことができます。同様に、充電電流または全システム負荷電流は、製品筐体内部でのさらなる発熱を抑えるため、高温に対応して低減することができます。
バッテリ・チャージャのプログラミング性のその他すべての側面と同様に、LTC4155 は、ソフトウェアによる調整なしで(あるいは調整があってもそれに関係なく)本質的に安全な充電の解決策を実現します。セルの温度が 0°Cより低くなるか、40°Cより高くなると、バッテリの充電は必ず一時停止します。さらに、セルの温度が 60°Cより高くなるたびに、フォルトによる割り込みを任意に発生させることができます。LTC4155 バッテリ温度データ・コンバータの伝達関数を図 4 に示します。この図では、自律的なチャージャ遮断温度のしきい値が強調表示されています。
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図4.LTC4155バッテリ温度データ・コンバータの伝達関数。自律的なチャージャ遮断温度のしきい値を強調表示。
POWERPATH 瞬時オン動作
バッテリに直接接続されているほとんどの従来型ポータブル機器の電源構成では、過放電のバッテリが問題になる可能性があります。バッテリ電圧が低すぎてシステムが動作できない場合は、入力電源に接続した数分後であっても、製品が反応しないように見える場合があります。これによって、サポートデスクへの無用な電話がかけられる可能性があります。供給できる充電電流に比べてバッテリの容量が非常に大きい場合、問題はさらに複雑になります(たとえば、大容量バッテリを備えた USB 給電システムなど)。
LTC4155 など、リニアテノロジーのPowerPath™製品は、システムの電源レールをバッテリから切り離して瞬時オン動作を可能にし、完全に放電したバッテリによって生じる最も厄介な 2 つの問題を解決します。
最初の問題は、システムの電源レールをバッテリに直接接続すると、充電電流とシステム負荷が区別できなくなることです。バッテリが完全に放電している場合、セルの電圧がより安全なレベルに達するまで、初期の充電電流を大幅に減らすようバッテリ・メーカは推奨しています。このトリクル充電電流は、システムの負荷電流が最小か流れないと仮定して、バッテリの安全レベルに設定する必要があります。
第 2 に、直接接続のバッテリ・システムでは、トリクル充電中にシステムが動作している場合、バッテリに流す予定の充電電流のかなりの部分がシステム・レールに分流することです。その結果、バッテリの充電電流が減少し、それに比例して回復時間が長くなります。システム負荷が相当に大きい場合は、正味のバッテリ電流が逆方向に流れるので、バッテリをさらに放電します。この低電圧バッテリ状態の期間中、携帯型システムの電源レールの電圧が不十分なので、システムはユーザに応答できない場合があります。バッテリとシステム電源レールは共通接続されており、ここに供給される電力が減るので、無応答の期間は10 倍以上長くなります。
LTC4155 は、バッテリが完全に放電されている場合、システムのレールに 3.5V を供給して、瞬時の起動を可能にします。充電前の段階でバッテリ電圧が上昇すると、LTC4155 は、継ぎ目なく自動的に高効率モードに移行して、充電速度を上げ、熱産生を最小限に抑えます。システム電源レールに供給可能な電圧をバッテリ電圧の関数として図 5 に示します。
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図5.VOUTの電圧とバッテリ電圧
LTC4155 のバッテリ充電電流は、バッテリ充電電流の制約を入力電力の制約から切り離すために、入力電流制限値とは無関係に設定されます。入力電流制限値は、入力電源の制限事項のみに基づいて設定できます。同様に、バッテリ充電電流は、バッテリ容量のみに基づいて設定できます。LTC4155 は入力電流制限を常に実施し、必要に応じて、バッテリの充電よりもシステム負荷への電力供給を優先させます。
理想的ではない電源であっても堅牢
LTC4155 は、入力電圧が許容できないレベルまで低下し始めると入力電流を自動的に低減する機能を備えています。充電電流レベルが高いと、細い線で接続された場合、小型のアダプタに接続された場合、軽度の腐食があるコネクタを介して接続された場合、または設計時には想定していなかったいくつかの条件が重なった場合に、入力電圧が下がってしまうことがあります。
ユーザが介入しない場合、IC への入力電圧は降下し続け、最終的には低電圧ロックアウトしきい値より低くなります。ICはその後シャットダウンし、入力電圧を回復させてサイクル全体を再開できるようになります。LTC4155は、悪い状況の中で最善を尽くします。入力電圧が 4.3V まで低下すると、LTC4155 は、入力電圧がさらに減衰するのを防ぐために必要な大きさだけ入力電力をスムーズに低減します。このモードでは、システム負荷およびバッテリに供給される電流は設定値より少なくなりますが、入力電圧が低電圧ロックアウトと回復をくり返した場合よりも多くなります。さらに、LTC4155 は、I2Cステータス・レポートおよびオプションの割り込み信号を発生して、最大限の充電電流供給機能を復元するために、エンド・ユーザが是正または診断することが必要であることをシステムに通知します。
まとめ
LTC4155 は、高い電流供給能力と高い効率を兼ね備えたモノリシック IC で、プリント基板の占有面積が小さい大容量のリチウム・バッテリで動作する携帯型機器に最適です。こうした機器では、基板スペースに余裕がなく、発熱や充電時間が敵となります。USB 互換の入力電流制限設定値により、汎用性がさらに拡張され、広く普及しているが比較的低出力の電源から補助的な充電が可能です。広範な遠隔測定により、自律的なバッテリの安全性を損なうことなく、充電環境やアプリケーションの条件に基づいて、カスタム動作が可能です。完全に放電したバッテリや細い抵抗性の入力電源ケーブルなど、よくある問題に面した場合でも、連続した電力がシステム・レールに供給されます。LTC4155 は、4mm × 5mmの 28ピン QFN パッケージで供給されます。
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