IO-Linkトランシーバーに最適なTVSダイオードを選択する方法

2019年06月24日
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要約

一般に、IO-Link®に対応するトランシーバー(以下、IO-Linkトランシーバー)は堅牢性を重視して設計されます。とはいえ、電圧サージや電流サージといった過渡的な事象からデバイスやシステムを保護するためには、外付けの保護機能が必要になることも多いでしょう。Maximは、様々なIO-Linkトランシーバーを提供しています。本稿では、それらの製品に最適なTVS(Transient Voltage Suppressor)ダイオードを選択する方法を紹介します。実例を示すために、リファレンス設計で使用するTVSダイオードを選択した際の手順をガイドラインとして紹介することにします。

はじめに

産業分野で使用されるICは、非常に過酷な環境で動作することになります。一般に、IO-Link®トランシーバーは、より堅牢性を高められるように設計されます。しかし、落雷に代表される危険な事象からデバイスやシステムを守るためには、外付けの保護機構も必要になることが多いでしょう。また、エネルギーの放出によって生じるアーク放電が原因となり、静電放電(ESD:Electro Static Discharge)が発生することもあります。そのような電圧サージからも確実にデバイス/システムを保護できるようにしなければなりません。

IO-Linkは、IEC 61131-9として規格が定められているインタフェース技術です。産業分野のシステムでは、スマートなセンサー/アクチュエータとの通信を実現するためにIO-Linkが広く使われるようになりました。IEC 61131-9では、システムが一定のレベルの電磁環境適合性(EMC)を満たすことを求めています。そのためには、静電放電(IEC 61000-4-2)や電気的高速トランジェント/バースト(IEC 61000-4-4)の試験に合格する必要があります。ただ、IEC 61131-9では、サージ(IEC 61000-4-5)の試験に合格することは必須の要件とはなっていません。とはいえ、ほとんどのユーザからは、サージの規格に準拠することが求められるはずです。産業用のシステムでは、保護用のデバイスとしてTVSダイオードが広く使用されています。本稿では、まずTVSダイオードの特性について再確認します。その上で、MaximのIO-Linkトランシーバーに最適なTVSダイオードを選択するためのガイドラインを紹介します。

電気的トランジェントからシステムを守る

プリント基板上のデバイスに対し、ESDやサージ・パルスのような高電圧の過渡的事象が及んだとします。その場合、絶対最大定格を超える過電圧(スパイク)が印加されると、センシティブなICが損傷してしまうかもしれません。そのような状況を避けるためには、何らかの形でシステムを保護する必要があります。システムの条件にもよりますが、IO-Linkを利用する場合、電源ラインとインタフェースのラインの両方を保護しなければならないでしょう。一方で、回路に保護用のデバイスを適用する場合には相応の注意が必要になります。保護用のデバイスは、通常の条件ではアイドル状態になり、誤りなくデータを通過させる必要があります。そして、過渡的な事象が生じた場合だけ、保護機能を有効に働かせなければなりません。TVSダイオードは、このような要件を満たす保護用のデバイスです。様々な電圧、電力、形状に対応する製品が、多くのメーカーから提供されています。

TVSダイオードに関連する用語

図1は、TVSダイオードの主要なパラメータの概要を示したものです。ここでは、この図を読み解くために理解しておくべき用語について説明します。

逆スタンドオフ電圧VRM

逆スタンドオフ電圧(Reverse Standoff Voltage)は、最大動作ピーク電圧としても知られています。これは、保護の対象であるデバイスが通常の状態で動作するか否かの境界となるスレッショルド電圧に相当します。TVSダイオードに印加された電圧がこのスレッショルド電圧より低い場合、保護の対象となる回路から、同ダイオードはハイ・インピーダンスに見えることになります。

逆ブレークダウン電圧VBR

逆ブレークダウン電圧(Reverse Breakdown Voltage)は、降伏電圧としても知られています。TVSダイオードが規定された量の電流を伝導し始めるスレッショルド電圧がVBRです。VBRは、保護の対象となるICの絶対最大定格を超えてはなりません。

クランピング電圧VCL

クランピング電圧(Clamping Voltage)は、保護の対象となる回路上に現れる最大電圧です。つまり、トランジェントによる過電圧は、VCLとして定義された電圧レベルにクリップされます。VCLは、次に説明するピーク・パルス電流に対して定義されます。

ピーク・パルス電流IPP

ピーク・パルス電流(Peak Pulse Current)とは、TVSダイオードが損傷を受けずに耐えうる最大サージ電流のことです。これは、サージ電流の過渡的な波形に基づいて定義されます。ほとんどの産業用アプリケーションでは、図2に示す波形が使われます。この図において、ピーク値までの立ち上がり時間t1は8マイクロ秒です。また、ピーク値の50%に電流が減少するまでのパルス幅t2は20マイクロ秒です。8/20μsと呼ばれるこの波形に対して、TVSダイオードが耐えられる最大のサージ電流がIPPです。

図1. TVSダイオード(片方向)のI-V特性

図1. TVSダイオード(片方向)のI-V特性

図2. IPPの定義に使用されるサージ電流の波形

図2. IPPの定義に使用されるサージ電流の波形

TVSダイオードを選択するためのガイドライン

TVSダイオード製品のデータシートには、同ダイオードの一般的な選択方法がガイドラインとして掲載されています。考慮すべき非常に重要な事柄としては、保護の対象となる回路の電気的特性と、その回路が満たさなければならない試験方法/規格が挙げられます。最もよく取り上げられる規格はIEC 61000-4-5です。このサージ規格では、電圧レベル、電流レベル、デバイス/システムへのトランジェントの印加方法といった試験方法に関する事柄が明確に定められています。通常、IO-Linkに対応するセンサー(以下、IO-Linkセンサー)については、±1kV/500Ωという値が規定されています。一方、IO-Linkに対応するマスタ(以下、IO-Linkマスタ)については、42Ω + 0.5μFのカップリング回路を使用した場合で±1kVという規定が設けられています。

通常、TVSダイオードは、以下に示す手順によって選択します。

  1. 保護の対象となるデバイスの通常の動作電圧よりもスタンドオフ電圧が高いTVSダイオードを選択します。また、TVSダイオードの最大クランプ電圧が、保護の対象となるライン上の全デバイスの絶対最大定格より低いことを確認します。過渡的な事象が生じたとき(例えば、大きな伝導電流によってクランプ電圧が高くなる)について検討するだけでなく、過渡的な事象が生じていない通常動作時について考慮することも重要です。
  2. ピーク電流の規定値が、想定されるピーク電流の値より大きいことを確認します。また、過渡的な事象が生じた際、TVSダイオードが、求められる量の電力を処理できることを確認します。小さすぎるTVSダイオードや、印加される電流に対処できないTVSダイオードは故障してしまうかもしれません。あるいは、サージや電気的高速トランジェントが生じた際、保護の対象となる回路が損傷してしまう可能性があります。
  3. 選択したTVSダイオードについて、クランピング電圧VCLの最大値を算出します。通常、TVSダイオードのデータシートには、製品の選択に役立つよう、IPPの値に対するVCLの値の一覧が掲載されています。ただ、実際のピーク・パルス電流の値が表に掲載されている値と異なれば、VCLの値を計算によって求めなければなりません。そこで、TVSダイオードのメーカーは、データシートに、IPPの値を使用してVCLを算出するための計算式を掲載しています。その式を使って、実際のIPPの値に対するVCLの値を算出してください。
  4. 算出したVCLの値が、対象となるピンの絶対最大定格より低いことを確認します。

IO-Linkトランシーバーの保護

IO-Linkに対応するデバイスとしては、IO-Linkセンサー用のトランシーバーとIO-Linkマスタ用のトランシーバーが挙げられます。いずれのトランシーバーにも、保護を必要とする4本のピン(L+、C/Q、L-、DI/DO)が存在します。各種の試験はそれらのピンを対象として行われます。例えば、サージに対する保護については、任意の2つのピンの間で正負のサージ・パルスに耐えられるか否かという試験が実施されます。TVSダイオードを選択する際には、これらのピンの絶対最大定格が与える影響について理解することが重要です。MaximのIO-Linkトランシーバーは、非常に高い絶対最大定格に対応しています。そのため、かなり小型のTVSダイオード製品を使用することが可能です。つまり、基板上の実装面積とコストを削減できることになります。以下で示す例をご覧いただけば、そのことをご理解いただけるはずです。

65Vの絶対最大定格、40Vに対する保護

ここからは、具体的なテスト・ケースを想定し、絶対最大定格が回路の最終的な実装面積にどのような影響を及ぼすのかを確認してみます。IO-Linkトランシーバーの例としては「MAX14827A」を取り上げます。図3に示したのが、同ICにTVSダイオードを適用した回路の例です。MAX14827AのC/Qピンに(L-をリファレンスとして)過渡的なサージ・パルスが印加された際、保護機構に流れる電流の向きと電圧の値を示してあります。サージ・パルスが±1kVで、デバイス間のインピーダンスが42Ωという標準的な値だとすると、最大電流は±24Aになります。

図3. MAX14827AにTVSダイオードを適用した回路。C/QとL-の間にサージ・パルスが印加された場合の電流/電圧の状態を示してあります。

図3. MAX14827AにTVSダイオードを適用した回路。C/QとL-の間にサージ・パルスが印加された場合の電流/電圧の状態を示してあります。

2.9mm × 5.25mmのSMAJを選択する

まずはTVSダイオードとして、STMicroelectronics®の「SMAJ」シリーズの製品を選択するケースを考えます。先述した手順に従い、以下のように選択を実施します。 

  1. TVSダイオードのスタンドオフ電圧は、MAX14827Aの通常の動作電圧より高くなければなりません。ここではL+が24Vだと仮定します。通常の動作条件に対する許容誤差が20%だとすると、通常動作時の最大電圧は24V × 1.2 = 28.8Vとなります。ここでは、適切な保護を実現するためにVRMが33Vの「SMAJ33A」を候補として選択します。
  2. SMAJ33Aのデータシートによれば、8/20μsのインパルス波形に対応するIPPは33Aであり、先ほど概算した24Aを上回っています。つまり、この製品は想定されるピーク電流に対応できます。
  3. データシートに記載されている式を使ってVCLを算出します。

    上記の手順3について、具体的には以下のような計算を実施します。

    1. SMAJ33Aのデータシートを参照すると、表1に示したように仕様が定められていることがわかります。
    2. VCL(MAX) = VCL- RD × (IPP - IPPAPPLI)
      = 69.7V - 0.884Ω x (33A - 24A)
      = 61.7V
    3. VCLの値が、IO-Linkトランシーバーの絶対最大定格より低いことを確認します。
    4. 上記の手順3の確認は次のように行います。

      1. MAX14827Aの絶対最大定格は65Vであり、VCLの値を上回っています。したがって、1kVのサージに耐えられます。
      2. 絶対最大定格が65Vより低い(61.7Vを下回る)IO-Linkトランシーバーは、1kVのサージに耐えられないことになります。
表1.SMAJ/SMABJ/SMCJシリーズ(STMicroelectronics製)の電気的特性*
品番 IRM max @ VRM VBR min @ IBR VCL max @ IPP (8/20µs) RD (8/20µs)
µA V V mA max V A
SMAJ33A 0.2 33 36.7 1 69.7 33 0.884
SMBJ33A 0.2 33 36.7 1 69.7 57 0.512
SMCJ33A 0.2 33 36.7 1 69.7 143 0.204
*TA = +25°C

3.95mm × 5.6mmのSMBJを選択する

続いて、「SMBJ」シリーズの製品の選択方法を示します。先ほどと同じ手順に従い、「SMBJ33A」のデータシートと表1を使用して以下のように選択を実施します。

  1. SMBJ33Aのスタンドオフ電圧は33Vであり、MAX14827Aの通常の動作電圧である24Vを上回っています。
  2. SMBJ33Aのピーク電流の値は57A(24Aより大きい)なので、SMBJ33Aは想定される電流に対処できます。
  3. VCL(MAX) = VCL- RD x (IPP - IPPAPPLI)
    = 69.7V - 0.512Ωx (57A - 24A)
    = 52.8V
  4. SMBJ33AのVCLは、IO-Linkトランシーバーの絶対最大定格より低いことを確認できました。SMBJ33Aを保護用デバイスとして使用した場合、絶対最大定格が55V未満のIO-Linkトランシーバーはサージに耐えられないことに注意してください。

6.25mm × 8.15mmのSMCJを選択する

次に、「SMCJ」シリーズの製品の選択方法を示します。先ほどと同じ手順に従い、「SMCJ33A」のデータシートと表1を使用して以下のように選択を実施します。 

  1. SMCJ33Aのスタンドオフ電圧は33Vであり、MAX14827Aの通常の動作電圧である24Vを上回っています。
  2. SMCJ33Aのピーク電流は143Aであり、24Aを上回っています。つまり、SMCJ33Aは想定される電流に対処できます。
  3. VCL(MAX) = VCL - RD × (IPP - IPPAPPLI)
    = 69.7V - 0.204Ω × (143A - 24A)
    = 45.4V
  4. SMCJ33AのVCLがIO-Linkトランシーバーの絶対最大定格より低いことを確認できました。SMCJ33Aを保護用デバイスとして使用した場合、絶対最大定格が47V未満のIO-Linkトランシーバーはサージに耐えられないことに注意してください。

65Vの絶対最大定格がもたらすメリット

MAX14827Aと「MAX14828」の絶対最大定格は65Vです。そのため、サージからピンを守るための方法に柔軟性がもたらされます。他社のIO-Linkトランシーバー製品は、寸法が大きく高価なTVSダイオードを必要とします。それに対し、絶対最大定格の高いMaximの製品には、以下に示すような小型かつ低コストのTVSダイオード(あるいはバリスタ)を適用できます。

  • 標準的なサージ(±1kV/2A)に対応できる最小のTVSダイオード:Semtech®の「μClamp®3603T」(基板上の実装面積は1.7mm2
  • 標準的なサージ(±1kV/2A)に対応できる最も低コストのバリスタ:KYOCERA AVXの「VC060330A650DP」(コストは標準的なTVSダイオードの約50%)
  • 高レベルのサージ(±1kV/24A)に対応できるTVSダイオード:SMAJ33(実装面積はSMCJ33と比べて1/5)

IO-Linkのリファレンス設計に適用された保護手法

ここでは、IO-Linkトランシーバーのリファレンス設計で使われたいくつかの保護手法を紹介します。

MAX14828をベースとするセンサー・アプリケーション

MAXREFDES164#」は、IO-LinkトランシーバーとしてMAX14828を使用した温度センサーのリファレンス設計です。この設計では、実装面積を小さく抑えることが重要でした。そこで、保護用のデバイスとしては、KYOCERA AVX®のバリスタ製品であるTransGuard®を採用しました。具体的には、30Vの動作電圧と67Vのクランピング電圧に対応するVC060330A650DPを使用して、30Aのピーク電流に対応しています。MAX14828の絶対最大定格は65Vなので、1.6mm × 0.8mmの小型バリスタ(標準的な0603パッケージ)を使用することが可能です。そのため、このリファレンス設計の実装面積をかなり小さく抑えることができました(図4)。試験の結果、この基板は、IO-Linkに対応するピンの異なるペアの間で±1.2kV/500Ωのサージに耐えられることが確認されています。

図4. MAX14828をベースとするMAXREFDES164#

図4. MAX14828をベースとするMAXREFDES164#

サージ保護の機能を備えるMAX22513をベースとしたセンサー・アプリケーション

MAX22513」は、定格±1kV/500Ωのサージに対する保護機能を備えるIO-Linkトランシーバーです。これを使用すれば、最小のフォーム・ファクタでスマート・センサーのソリューションを実現できます。 

MAXREFDES171#」は、MAX22513を使用して構築した距離センサーのリファレンス設計です(図5)。この基板では、外付けのTVSダイオードやバリスタを使用していません。それでも、IO-Linkに対応するピンの異なるペアの間で±1.2kV/500Ωのサージに耐えられることが試験によって確認されています。より高いレベルの保護が求められるシステムについては、外付けのTVSダイオードを追加することで対処を図れます。

図5. MAX22513をベースとするMAXREFDES171#

図5. MAX22513をベースとするMAXREFDES171#

MAX14819をベースとするIO-Linkマスタ

MAX14819」は、IO-Linkマスタ用のトランシーバーです。このトランシーバーを活用した例が「MAXREFDES165#」です。図6に示したように、このリファレンス設計では4ポートのIO-Linkマスタを構成しています。TVSダイオードとしては、STMicroelectronicsの「SMM4F33A」を使用しています。このTVSダイオード(SMM4FxxAシリーズ)の最大クランピング電圧は56.4Vであり、MAX14819の絶対最大定格である65Vを下回っています。

この基板の試験を行った結果、IO-Linkに対応するピンの異なるペアの間で±1.2kV/42Ωのサージに耐えられることが確認されました。

図6. MAX14819をベースとするMAXREFDES165#

図6. MAX14819をベースとするMAXREFDES165#

まとめ

TVSダイオードを回路に適用すれば、センシティブなデバイスを保護することができます。回路が通常動作している際、TVSダイオードはその回路の性能に重大な影響を及ぼしてはなりません。高電圧のトランジェントが発生したときだけ活性化し、回路上の電圧を制限できるものが必要です。大きな電圧パルスや電流パルスといった過渡的な事象に対する十分な保護を実現するためには、サイズの大きいTVSダイオードが必要になることが多いでしょう。それに対し、MaximのIO-Linkトランシーバーには、より小型のTVSダイオードを適用できます。それらのトランシーバー製品は、電圧の許容誤差が大きく、最高65Vの絶対最大定格に対応しています。そのため、高い堅牢性が得られます。それだけでなく、TVSダイオードを選択する際の柔軟性が高まります。また、MAX22513などの製品はサージに対する保護機能を内蔵しています。多くのアプリケーションでは、それらの製品を採用した場合、外付けのTVSダイオードを使用する必要はありません。

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