Over-The-Topアンプにより、 アナログ・フロント・エンドを過電圧から守る

2021年11月01日
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はじめに

産業用アプリケーションにおいて、高電圧への対応は常に変わらぬ懸念事項です。高電圧から回路を保護する方法を見いだすことが、これまでも、これからも重要な課題であることは間違いありません。本稿では、Over-The-Top®(OTT)アンプを使用して、過電圧に対する保護を実現する方法を紹介します。

産業用アプリケーションでは、システムの電源電圧よりも高い電圧が生じることがあります。車載システムほどの高電圧ではないにせよ、一般的なシステムで使われる電圧よりも高い電圧が発生することは少なくありません。多くのオペアンプにとって、システムで使われる電圧は高すぎることがあります。このことは、アナログ・フロント・エンド(AFE)における大きな課題になります。例えば、標準的なアンプの入力部に存在するダイオードを導通させるほどの高い電圧が印加される可能性があるからです。その状態が長く続くと、誤動作が起きたり故障に至ったりすることがあります。アンプの入力部に、ダイオードや抵抗を使用した保護回路を外付けすれば、それなりの効果は得られます。しかし、そうした追加のコンポーネントは基板上のスペースを消費することになります。また、リーク電流、追加の容量、ノイズが発生するといったデメリットも生じます。このような理由から、過電圧に対しては別の対策手法が望まれます。そうした代替手法として、OTT技術を適用したICは最適な選択肢になり得ます。

OTTアンプの動作

OTTアンプの動作について理解していただくために、ここでは最新世代のOTTアンプ「ADA4098-1」、「ADA4099-1」の内部回路を例にとります。ADA4098-1は低消費電力の製品です。一方のADA4099-1は、広い帯域幅を備え、電圧の立上がり時に高いレートを実現できることを特徴とします。これらの製品は、それぞれ2つの入力段を備えています(図1)。1つは、エミッタ接地(エミッタ共通)型の差動入力段です。図1では、PNPトランジスタQ1、Q2で構成されています。これらは、負の電源電圧(-VS)から、正の電源電圧(+VS)より1.25V低い電圧までの信号を入力として受け付けます。2つ目の入力段は、ベース接地(ベース共通)型で構成されています。コモンモード電圧が+VS - 1.25V以上の入力信号で動作する複数のPNPトランジスタ(図1のQ3~Q6)で構成されます。

図1. OTTアンプの内部回路。ADA4098-1を例にとっています。

図1. OTTアンプの内部回路。ADA4098-1を例にとっています。

このように、2つの入力段の動作範囲は異なります。それによって補完関係が実現されています。2つの入力段のオフセット電圧は厳密に調整されており、データシートに規格値が明示されています。

この構成では、入力のコモンモード電圧が+VSに近づくと、2つ目の入力段がアクティブになります。これでオペアンプはOTTモードに移行したことになります。また、これはアプリケーションにおいて過電圧が発生している状態に相当します。例えば、ハイサイドの電流測定を行う際には、寄生要素や負荷に関連する影響によって、入力電圧がシステムの電源電圧を超えることがあります。一般的なオペアンプでは、許容可能な入力電圧の最大値は電源電圧に等しくなります。入力電圧がそれを大幅に超えた場合、通常はアンプ内部のダイオードがターンオンします。その結果、ダイオードにかなり多くの電流が流れます。このようなスパイク電圧/電流は、アンプの動作を妨げます。最悪の場合、アンプが故障してしまうこともあります。

一般的なオペアンプでは、上記のような問題が生じる可能性があります。それに対し、OTT機能を備えるオペアンプであれば、最大80Vの差動入力電圧に耐えられます。その際、出力は飽和し、その電圧は正の電源電圧(+VS)と等しくなります。その状態でも、出力はデータシートで定められた範囲内の電流をソース/シンクする能力を保っています。入力が正常な範囲(-VS~+VS)に戻ると、出力レベルもDC精度の低下や損傷を伴うことなく通常の線形範囲に戻ります。これは、最大70Vのコモンモード電圧に対するときと似た状態です。

OTTアンプを使用するアプリケーションの例

図2に示したのは、OTTアンプを使用して電流を測定する回路の例です。図2(上)の回路はローサイドの測定に使用します。

図2. OTTアンプを使用した電流測定用の回路。ADA4098-1を例にとっています。

図2. OTTアンプを使用した電流測定用の回路。ADA4098-1を例にとっています。

この回路では、抵抗R2、R3によってゲインが決まります。ダイオードD1は、負荷電流が少ない場合に単電源のアンプ回路の精度を高める役割を果たします。

図2(下)の回路はハイサイドの電流測定に使用します。この回路では、1kΩと100Ω(最上部)の抵抗によってゲインが決まります。オペアンプの入力部の抵抗は、主にフィルタ効果を得るために使用しています。これらの例では、許容誤差が1%の抵抗を使うことが推奨されます。入力バイアス電流がこれらの抵抗を流れると、電圧降下が生じます。そのため、許容誤差の小さい抵抗を使用し、電圧降下の影響を最小限に抑えるべきです。

ADA4098-1は、負荷が存在しない場合、レールtoレール(正負の電源電圧から45mV以内)の出力を実現できます。ソース電流は24mA、シンク電流は34mAです。また、200pF(最小)の負荷容量を駆動できるように内部補償が適用されています。より大きな容量性負荷と出力の間に50Ωの抵抗を直列に挿入すれば、容量性負荷に対するアンプの駆動能力を高めることができます。

出力VOUTによって、電位がより低い下流の回路を駆動するケースを考えます。その回路は自身の電源レール用の保護ダイオードを備えていると仮定しましょう。その場合、VOUTに抵抗を接続すれば、下流の回路に流れる電流を制限することができます。

ADA4098-1はSHDNピンを備えています。このピンがハイにアサートされると、同アンプは超低消費電力のシャットダウン状態に移行します。論理レベルのハイとして認識されるのは、-VSピンを基準としてSHDNピンに1.5V以上の電圧が印加された場合です。そのとき、VOUTピンは高インピーダンスの状態になります。別の方法として、正の電源電圧を遮断すれば、同アンプを効果的に低消費電力の状態に移行させられます。どちらのモードでもOTT機能はアクティブのままであり、入力ピンには-VSより最大70V高い電圧を印加することができます。

OTTアンプの用途は、電流測定や電力測定に限られるわけではありません。センサーのフロント・エンドや4~20mAの電流ループで使用することも可能です。詳細な情報、アプリケーションの例、各種の計算方法についてはデータシートをご覧ください。

まとめ

本稿では、OTTアンプを採用することにより、過電圧保護がどのように実現されるのか説明しました。OTTアンプには、高度かつ高精度の内部回路が実装されているので、堅牢性と精度の高さも同時に実現されます。

アナログ・デバイセズは、OTTアンプとしては既に第5世代品を提供しています。それらの製品は、試作から実際の回路設計までのあらゆるフェーズで、最新の過電圧保護機能を提供します。ADA4098-1やADA4099-1のようなOTTオペアンプは、オフセット誤差とノイズを低く抑えつつ、電源レールよりも高い電圧に対応します。

著者について

Hakan Uenlue
Hakan Uenlueは、アナログ・デバイセズのシニア・フィールド・アプリケーション・エンジニアです。ハードウェア開発者やフィールド・アプリケーション・エンジニアとしての経験を経て、2015年に入社しました。シュトゥットガルト大学で電気/電子工学の修士号を取得しています。

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