デジタル・ポテンショメータを使ってプログラマブルな発振器を構成

2019年11月01日
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デジタル・ポテンショメータ(以下、digiPOT)は様々な用途に使用できる汎用的な製品です。例えば、AC信号の生成やフィルタリングといった用途にも使用可能です。アプリケーションによっては、必要に応じて発振信号の周波数を変更しなければならないことがあるでしょう。そうした場合には、適切なインターフェースを介して周波数を調節できるプログラマブルなソリューションが非常に有用です。それにより、設計/開発の作業を大幅に簡素化できることもあります。本稿では、digiPOTを使ってプログラマブルな発振器を実現する方法を紹介します。比較的単純な構成により、発振周波数と振幅をそれぞれ独立して調節可能な回路を実装できます。

図1に示したのは、典型的なウィーン・ブリッジ発振器です。ダイオードを使用することで、振幅を安定化する機能も実現しています。この回路の出力VOUTPUTとしては、約10kHz~200kHzの範囲の正弦波を得ることができます。ウィーン・ブリッジ発振器は、一方のブリッジの経路にバンドパス・フィルタを配置し、もう一方の経路に分圧器を配置することで構成します。図1の回路では、レールtoレール出力の高精度アンプ「ADA4610-1」とデュアルチャンネルのdigiPOT「AD5142」を使用しています。AD5142は、独立して制御できる2つのポテンショメータ回路を内蔵しています。いずれもステップ数は256です。図2に示すように、抵抗値のプログラミングはSPIを介して行います。この製品の代わりに、I2Cによる制御が可能な「AD5142A」を使用することもできます。どちらの製品も、抵抗値については10kΩと100kΩの選択肢が用意されています。

図1. プログラマブルなウィーン・ブリッジ発振器。一般的な構成で使われる抵抗をdigiPOTで置き換えています。振幅を安定化する機能も備えています。
図1. プログラマブルなウィーン・ブリッジ発振器。一般的な構成で使われる抵抗をdigiPOTで置き換えています。振幅を安定化する機能も備えています。
図2. AD5142のブロック図

図2. AD5142のブロック図

図1に示した発振回路において、抵抗R1AとR1B、コンデンサC1とC2を含む経路は正帰還を形成しています。一方、負帰還は抵抗R2AとR2B、並列に接続された2個のダイオードD1、D2によって形成されています。ここで、D1、D2の抵抗値をR DIODEと表現することにします。負帰還の経路の抵抗値については、以下の式で表すことができます。

数式1

安定した発振を持続させるためには、ループ・ゲインの位相シフトを回避する必要があります。発振周波数は以下の式によって表されます。

数式2

ここでRは、AD5142においてプログラムが可能な抵抗値です(以下参照)。

数式3

上式において、DはAD5142でプログラマブルに設定されるデジタル符号(10進数の値)、R ABはポテンショメータのトータルの抵抗値です。

発振を持続させるためには、ウィーン・ブリッジを比較的平衡な状態に保つ必要があります。つまり、正帰還のゲインと負帰還のゲインが同等でなければなりません。正帰還のゲインが大きすぎると、発振信号の振幅V OUTPUTが大きくなり、アンプが飽和するという結果に陥ります。一方、負帰還のゲインの方が大きい場合には、それに応じて発振信号の振幅が小さくなります。

図1の回路では、ゲインを決めるR2/R1の値を約2に設定するか、またはそれより少し高めの値に設定すべきです。それによって確実に発振が始まります。

その後、負帰還ループのダイオードが交互にターンオンするようになります。すると、一時的にゲインが2より小さくなり、結果として発振が安定します。

発振周波数が所望の値に定まったら、R2によって、周波数とは無関係に発振信号の振幅を調整できます。これについては次式が成り立ちます。

数式4

変数IDとVDは、それぞれD1とD2の順方向電流と順方向電圧を表します。R2Bが短絡している場合に、発振信号の振幅は約±0.6Vになります。R2Bの値が適切であれば安定な状態を実現でき、V OUTPUTの値が収束します。図1の回路では、R2Bとして100kΩのdigiPOTを使用しています。

まとめ

10kΩのデュアルdigiPOTを使用して図1の回路を構成した場合、8kΩ、4kΩ、670Ωという抵抗値によって、発振周波数をそれぞれ8.8kHz、17.6kHz、102kHzに設定できます。周波数誤差はわずか±3%です。より高い周波数を設定することも可能ですが、周波数誤差に影響が及びます。例えば、200kHzを得たい場合には周波数誤差が6%に増加します。

周波数に依存するアプリケーションにおいて、このような回路を使用する場合には、digiPOTの帯域幅の制限を逸脱しないようにすることが重要です。この帯域幅はプログラムされる抵抗値の関数として表されます。また、図1において周波数を設定する際には、R1A、R1Bの値を同一にしなければなりません。加えて、2つのチャンネルの設定は順次行われるので、瞬間的にクリティカルな中間状態に陥ります。アプリケーションによっては、これを許容することができないかもしれません。そうした場合には、「AD5204」などのdigiPOTをデイジーチェーン・モードで使用し、両方の抵抗値を同時に変えられるようにするとよいでしょう。

著者について

Thomas Brand
Thomas Brandは、2015年10月、修士論文を作成する中で、ミュンヘンのアナログ・デバイセズでのキャリアを開始しました。2016年5月~2017年1月、アナログ・デバイセズのフィールド・アプリケーション・エンジニア向けトレーニング・プログラムに参加し、その後、2017年2月よりフィールド・アプリケーション・エンジニアとしての業務を開始しました。この業務において、主に産業分野の大型顧客を担当しています。更に、産業用イーサネットを専門...

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