環境モニタリング・ニーズに応えるガス・クロマトグラフィ・センサー

2024年05月01日
myAnalogに追加

myAnalog のリソース セクション、既存のプロジェクト、または新しいプロジェクトに記事を追加します。

新規プロジェクトを作成

概要

本稿では、環境質モニタリングにおけるアプリケーションに対応するガス・クロマトグラフィ・センサー・システムの動作原理と構成要素について概説します。水質汚染および土壌汚染に関連した化合物を、ガス・クロマトグラフィでどのようにして正確に分析できるかを説明します。更に、吸気、温度制御、ディテクタ、電源サブシステムなど、ガス・クロマトグラフィの主要要素について解説します。また、高精度測定を可能にする、低ノイズ・アンプ、A/Dコンバータ(ADC)、電圧リファレンス、パワー・マネージメントICに関する推奨事項についても述べます。

はじめに

排出ガスのモニタリングは、環境保護において重要な役割を担っています。産業廃棄物が排出される結果として、一部の揮発性有機化合物が空気中に分散し、自然環境や人体に影響を及ぼすことになります。

こうした排出物を減らすための環境モニタリングが高い関心を集めています。しかし、従来のセンサー・システムでは、現在必要とされる速度と精度の要件を満たすことはできません。この課題を解決するためには、環境モニタリング・システムも高い精度に対する要求に対処できるよう強化する必要があります。

本稿では近年注目されているガス・クロマトグラフィ技術とその利用可能なソリューションについて概説します。

ガス・クロマトグラフィの基本理論

ガス・クロマトグラフィ・システムは主に、ガス吸気システム、オートサンプラ・システム、分離システム、制御システム、ディテクタ・システム、データ処理で構成されています。ガス・クロマトグラフィのブロック図を図1に示します。

図1 ガス・クロマトグラフィ・システムの図

図1 ガス・クロマトグラフィ・システムの図

ガス・クロマトグラフィのキャリア・ガスは移動相であり、被験サンプルは固体と液体の混合物を含め固定相と呼ばれます。固定相はガスの流れの変化に伴って分離され、順次クロマトグラフ・カラムを離れます。その後、ディテクタに入りイオン流の信号を生成します。これらの小信号は、レコーダで適切な振幅に増幅されて、クロマトグラムの様々な成分に反映されます。混合物から2種類のサンプルが分離されるプロセスを図2に示します。緑色と紫色が2種類のサンプルを表し、青色が混合物を表しています。

図2 分離のプロセス

図2 分離のプロセス

ガス・クロマトグラフィ・システム・ソリューション

図1に基づき、アナログ・デバイセズでは、ガス・クロマトグラフィの信号および電源のチェーンに適用できる、様々なコンポーネントを提供しています。これらのコンポーネントは、システム要件を満たすのに適しており、低消費電力かつ低ノイズの性能を実現するよう最適化されています。

吸気システム

正確にディテクタ・システムを通過するようキャリア・ガスの流れを制御して混合物を分離するには、非常に高い精度が要求されますが、これは、ガス・センサーを利用することで実現できます。ガス・センサーには、電流信号、4~20mAのループ信号、電圧信号など、多様な出力があります。吸気システムのシグナル・チェーンを図3に示します。

図3 吸気システムのシグナル・チェーン

図3 吸気システムのシグナル・チェーン

  • 電流信号:ADA4530-1は、入力バイアス電流がフェムトアンペア・レベルのオペアンプで、I/V(電流から電圧への)変換に用いられます。入力バイアス電流が極めて小さい(フェムトアンペア)ため、システムの正確さの性能目標を確実に達成できます。また、このデバイスは、非常に低いリーク電流が要求されるタイプのアプリケーションに必要な、低オフセット電圧、低オフセット・ドリフト、低電圧/低電流ノイズ特性も達成しています。

    図4 ADA4530-1のデータシート

    図4 ADA4530-1のデータシート

    電流信号を電圧信号に変換した後、AD7175(24ビット、8/16チャンネル、250kSPSのシグマ・デルタADC)を用いて正確な結果を得ます。AD7175は、低ノイズ、高速セトリングのマルチプレクス型8/16チャンネル(完全差動/擬似差動)のシグマ・デルタADCで、帯域幅の狭い入力信号を対象としています。


  • 4mA~20mAの信号のサンプリング:AD4111 ADCは、電流と電圧のサンプリング用にセンス抵抗を内蔵しているため優れたチャンネル・マッチングを実現しており、4~20mAの信号で伝送されるエア・センサー出力をサンプリングするのに適したデバイスです。このデバイスは、低消費電力、低ノイズ、24ビットのシグマ・デルタADCで、完全差動またはシングルエンド、高インピーダンス(≥1MΩ)バイポーラ、±10Vの電圧入力、0mA~20mAの電流入力のアナログ・フロント・エンド(AFE)を備えています。このADCはアナログおよびデジタルの主要なシグナル・コンディショニング・ブロックを内蔵しており、使用するアナログ入力チャンネルごとに8つの個別の設定が可能です。データを完全にセトリングできる最大チャンネル・スキャン・レートは6.21kSPS(161μs)です。また、電圧入力に対する断線検出機能も内蔵しており、5Vまたは3.3Vの単電源を用いてシステムレベルの診断が可能です。

  • 電圧信号:高分解能の外部ADCを選択する場合、ADR4xxxシリーズ(つまり、ADR4525/ADR4530)が、そのADCに対して高精度のリファレンス電圧を供給できます。あるいは、低コストの方法として、マイクロコントローラ・ユニット(MCU)に内蔵されたADCを用いてサンプリングを行うこともできますが、この場合、測定精度が犠牲になる可能性があります。

温度制御システム

温度は、クローズド・ループ・システムで制御されます。サーマル・クーラーを制御するための熱電クーラー(TEC)回路としてパルス幅変調(PWM)を行うMOSFETブリッジをLT1241を用いて駆動し、また、測温抵抗体(RTD)が温度をリード・バックして、超低ノイズ、超低消費電力のシグマ・デルタADCであるAD7124にそれを伝達します。AD7124は、温度測定アプリケーションを目的としたものです。温度アクイジションの精度を高めるため、このデバイスは2線式熱電対に対応でき、様々なユーザの要求に応えられるよう3線式RTD構成に対して最適化されています。 

TECコントローラを内蔵しているADN8835も使用できます。図5に、温度制御システムの図を示します。

図5 温度制御システムのシグナル・チェーン

図5 温度制御システムのシグナル・チェーン

ディテクタ・システム

ディテクタ・システムは最終段であり、クロマトグラムを作成するのに用いられます。フロー・センサーと圧力センサーを用いて、様々なサンプリング条件に従ってキャリア・ガスの流れの変化をモニターするため、マルチチャンネルに対応するAD7124とLTC2498が選択されています。

図6 ディテクタ・システムのシグナル・チェーン

図6 ディテクタ・システムのシグナル・チェーン

ディテクタに入るイオン電流信号は通常、ピコアンペア・レベルであり、ADA4530-1はエレクトロ・メータ・アンプとして機能します。これは、入力バイアス電流が小さいというだけでなく、ノイズおよびオフセットが少ないことによる利点でもあります。また、ADA4530-1は、ゲイン帯域幅積(GB積)が2MHzのオペアンプでもあるので、ゲインの帰還抵抗が非常に高くなる場合があります。これは信号の帯域幅は通常数kHz未満であるためです。2段目のアンプとして、ノイズとドリフトが極めて小さいアンプを持つADA4522-2デバイスをカスケード接続すると、ADCの入力範囲に十分なゲインを確保できます。ADA4522-2は、低ノイズ、低消費電力、グラウンド・センシング入力、レールtoレール出力が可能なゼロ・ドリフト・オペアンプで、時間、温度、電圧の各条件に対して総合的な精度を確保するよう最適化されています。

電源

システムの電源は24VDCから供給され、降圧コンバータ(バック・コンバータ)に接続されて、アンプ、ADC、プロセッサなどの回路への電源となります。

LT8471LTM4655はどちらも、正と負の両方の電圧を出力します。コントローラ、パワーMOSFET、インダクタ、フィルタをシグナル・チェーンに含むLTM4655は、設計の複雑さを軽減すると同時に良好なEMI耐性を備えるよう設計されています。

図7 システムの電源チェーン

図7 システムの電源チェーン

まとめ

ガス・クロマトグラフィは、環境保護のために汚染物質をモニターする上で重要な役割を担っています。また、より多くの物質を測定しモニターするために、液体クロマトグラフィなど、他の手法に組み込むこともできます。現在のニーズや今後生じる可能性のあるニーズに応えるため、アナログ・デバイセズでは、ユーザからの要求を満たし、システム設計を簡略化できる、低ノイズで高精度のソリューションを幅広く備えています。

水質モニタリング

  • 表流水や地下水は、主にニトロベンゼン化合物と重金属イオンで汚染されています。溶解した汚染物質は、工業生産時の不完全な変換が原因で残留し、公衆衛生上深刻な脅威となります。ガス・クロマトグラフィは汚染物質を高精度にモニターできます。

土壌の残留農薬モニタリング

  • 農業活動において、農業従事者が作物に対して散布する農薬は害虫を退治しますが、人々の健康を害することもあります。ガス・クロマトグラフィは、農薬の成分を正確に分析できます。

一般に、ガス・クロマトグラフィは、より多くの物質を測定できるよう、液体クロマトグラフィなど、他の手法に組み込めるという便利さもあります。そのため、ほとんどの産業および試験施設において広く用いられる手法になっています。これに対し、アナログ・デバイセズでは、システム設計の複雑さを軽減すると共に高分解能や堅牢さなどをあわせ持つ優れた性能を実現する、低ノイズ、高精度のシグナル・チェーン・ソリューションを提供しています。

著者について

Linlong Zhang
Linlong Zhangは、2019年にシンガポールの南洋理工大学で集積回路設計の修士号を取得しています。2019年にアナログ・デバイセズに入社し、コンスーマ市場およびヘルスケア市場におけるフィールド・アプリケーション・エンジニアとして勤務してきました。2022年以降、複数の市場に焦点を置いています。

最新メディア 21

Subtitle
さらに詳しく
myAnalogに追加

myAnalog のリソース セクション、既存のプロジェクト、または新しいプロジェクトに記事を追加します。

新規プロジェクトを作成