UHF帯RFIDリーダーのRFフロント・エンドの開発、アナログ・デバイセズのソリューションを活用

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はじめに

UHF 帯を使用するRFID(無線周波数識別)技術を採用したシステムは、アセットの管理やアパレルの小売といった分野で広く使われています。最近では、無人スーパーマーケットや、自動車の電子識別などの用途でも注目を集めています。本稿では、アナログ・デバイセズのシグナル・チェーンをベースとして、UHF 帯RFID リーダーのRF フロント・エンドを実装する方法を2つ紹介します。1つ目の実装では、アナログRF フロント・エンド「ADF9010」とミックスド・シグナル・フロント・エンド「AD9963」を使用します。2つ目の方法は、RF トランシーバー「AD9361」をベースとします。本稿で対象とするのは、中国における自動車の電子識別アプリケーションです。それらは、中国の国家標準規格であるGB/T 29768-2013(Information Technology―Radio Frequency Identification―Air Interface Protocol at 800/900 MHz)1 と、GB/T 35786-2017(General Specification for Read-Write Equipment of the Electronic Identification of Motor Vehicles)2 に準拠する必要があります。ADF9010 とAD9963 を使用する1 つ目の実装と比べると、AD9361 を使用するソリューションでは、設計の複雑さ、部品点数、実装面積を大幅に抑えられます。但し、レシーバーの感度が低下するというトレードオフがあります。上記のとおり、本稿で示すのは、特定の用途に対応するRF フロント・エンドです。しかし、本稿で示す検討方法とフロント・エンドそのものは、どちらも一般的なUHF 帯RFID リーダーに適用することが可能です。

中国国家標準規格の概要

上述したように、自動車の電子識別に関連する中国国家標準規格としては、GB/T 29768-2013とGB/T 35786-2017があります。これらに基づくものとしては、タイプ2の高性能リーダーが挙げられます。そのエア・インターフェースの主要なパラメータと要求される性能について、表1、2、3にまとめました。

表1. リーダーからタグへの通信に使用する物理MAC層の主要なパラメータ
パラメータ 説明
周波数範囲 920MHz~約925MHz
占有帯域幅(OBW) 250kHz
チャンネルの中心周波数 920.125 + 0.25nMHz(0≦n≦19)
ACLR 隣接チャンネル:-40dB未満
次隣接チャンネル:-60dB未満
リーダーの最大ERP チャンネル0とチャンネル19:20dBm
チャンネル1~チャンネル18:33dBm
リーダーの帯域外発射 表2を参照
変調方式 DSB-ASK、SSB-ASK
変調度 30%~約100%
データ符号化方式 TPP
Tari値 6.25マイクロ秒または12.5マイクロ秒
表2. リーダーの帯域外発射に求められる仕様
周波数範囲 規格値〔dBm〕 測定帯域幅 ディテクタ・モード
最大出力電力モード
30MHz~約1GHz –36 100kHz rms
1GHz~約12.75GHz –30 1MHz
806MHz~約821MHz
825MHz~約835MHz
851MHz~約866MHz
870MHz~約880MHz
885MHz~約915MHz
930MHz~約960MHz
–52 100kHz
1.7GHz~約2.2GHz –47 100kHz
スタンバイ・ モード
30MHz~約1GHz –57 100kHz
1GHz~約12.75GHz –47 100kHz
表3. タイプ2のリーダーに対する主要な要求性能
項目 規格値
レシーバーの感度 -65dBm以下
静止時の読み出し距離 25m以上
静止時の書き込み距離 12m以上
動的識別性能 車速が150km/時以下の場合:
ICの識別子データ・バンクと車両登録データ・バンクの情報を正しく読み出し可能

車速が150km/時~200km/時の場合:
ICの識別子データ・バンクの情報を正しく読み出し可能

システムのリンク・バジェットの検討

パッシブ型のRFIDを使用するシステムの場合、リンクには2つの基本的な制約があります。通常、フォワード・リンクは、RFからDCに変換されてタグの電子回路に供給される最小電力による制限を受けます。また、リバース・リンクは、リーダーのレシーバーの感度が制約になります。フォワード・リンクとリバース・リンクのバジェットを計算する式は、以下のようになります34

数式1
数式2
数式3

ここで、各変数の意味は以下のとおりです。

Prip: タグの受信等方電力
Ptx: リーダーの送信電力
Gtx: リーダーの送信アンテナ利得
Gtag: タグのアンテナ利得
FSPL: 自由空間伝搬損失
Prx: リーダーの受信信号電力
Grx: リーダーの受信アンテナ利得
ƞmod: タグの変調効率
d: リーダーからタグまでの距離
λ: 自由空間における信号の波長

GB/T 35786-2017のセクション6.2とセクション6.5.2.2では、Ptxは30dBm、フィーダ・ケーブルの挿入損失は1dB未満と定められています。そのため、実際のPtxは約29dBmになります。フィールド・テストで使用されるアンテナの利得は10dBi~12dBiなので、Gtxは12dBi程度だと想定されます。一般に、自動車の電子識別では、リーダーとしてはモノスタティック構成のものが使用されます。1本のアンテナで送信と受信の両方に対応するので、GrxはGtxと等しく12dBiになると考えてよいでしょう。また、通常のタグでは、ダイポール・アンテナに似た構造のアンテナが使用されます。したがって、Gtagは約2dBiと見なすことができます。タグの変調効率ηmodは、タグのアンテナにおけるマッチングと、変調時のタグに生じるインピーダンスのシフトに依存します。ηmodの値は、-8dBと見なしてよいでしょう。中心周波数は922.5MHzなので、λは0.33mとなります。以上の式とパラメータの値に基づき、システムのリンク・バジェットは、図1のように見積もることができます。

図1. フォワード・リンク/リバース・リンクのバジェット(計算値)

図1. フォワード・リンク/リバース・リンクのバジェット(計算値)

規格で定められている25mというリンク範囲をサポートするには、タグとリーダーにはそれぞれ-18.7dBm以上、-70.4dBm以上の感度が必要になります。タグについての検討結果は、規格が定める-18dBmという値とほぼ一致します。一方、リーダーの感度については、規格では-65dBmと定められています。したがって、検討結果とは、かなりの隔たりがあるということになります。この隔たりは、タグのアンテナ利得に起因している可能性があります。自動車の電子識別では、タグのアンテナとして全方向性のものを使用する必要はありません。リフレクタを追加すれば、アンテナの利得は更に3dB増加します。また、タグのアンテナ利得Gtagは、式(2)を見ると2乗されています。そのため、リーダーの感度は、検討上は6dB増加して-64.4dBmになります。この検討結果は、規格の要件と一致します。

UHF帯RFIDリーダーの自己妨害

UHF帯RFIDを利用するシステムにおいて、リーダーは連続波(CW:Continuous Wave)信号を送信してパッシブ・タグに電力を供給します。それと同時に、同じ周波数でタグからの後方散乱信号を受信します。トランスミッタとレシーバーが十分に隔離されていないので、強力なCW信号は、それに関連するトランスミッタのノイズと相まってレシーバーに漏れ込みます。この漏洩信号は、自己妨害(SJ:Self Jammer)信号と呼ばれます。そして、この信号は、リーダーにおける感度低下の原因になり得ます。

自動車の電子識別に使用するRFIDリーダーでは、トランスミッタとレシーバー用のデュプレクサとして、ディレクショナル・カプラが一般的に使用されます。SJ信号は、主にアンテナでの反射、ディレクショナル・カプラのアイソレーション不足、カプラ・ポートに接続された回路による反射によって生じます。

SJ信号の問題には、次の2つの方法によって対処できます。1つは、レシーバーのLNA(低ノイズ・アンプ)の前段に配置する自己妨害信号用のキャンセル(SJC:SJ Cancellation)回路を設計するというものです。もう1つは、トランスミッタとレシーバーで同じ局部発振器(LO)を使用しつつ、レシーバーのアーキテクチャとしてダイレクト・コンバージョン方式を採用するというものです。この場合、SJ信号は、ベースバンドでDCに変換されます。また、DCカット用のコンデンサを使って信号はAC結合されます。したがって、DCカットが行われた後は、SJ信号が除去された状態になります。その結果、後続の部品では、ダイナミック・レンジに関する要件が緩和されます。これは、ベースバンドに十分な利得を適用してレシーバーのノイズ指数(NF:Noise Figure)を低減することができるということを意味します。上記の2つの方法は、個別に適用することも、組み合わせて適用することも可能です。図2に、標準的なSJC回路を示しました5

図2. 標準的なSJC回路

図2. 標準的なSJC回路

リーダーの主要なRF性能の検討

図3に示したのは、SJC回路を含むUHF帯RFIDリーダーのRFフロント・エンド部です。詳細については改めて説明しますが、このフロント・エンド部は、AD9963やADF9010を使用して構成できます。AD9963は、それぞれ2チャンネルのD/Aコンバータ(DAC)とA/Dコンバータ(ADC)を内蔵しています。ADF9010は、送信側の変調器、PLL/VCO(フェーズ・ロック・ループ/電圧制御発振器)、受信側のベースバンド・フィルタ、PGAを集積しています。ADF9010の評価用ボードには、直交復調器「ADL5382」が実装されています。LNAとしては、ノイズ指数が小さく、利得が高く、直線性に優れる「ADL5523」を使用しています。RFパワー検出器「LT5538」のダイナミック・レンジは75dBです。そのため、SJC回路で使用するRFパワー検出器として最適です。

図3. UHF帯RFIDリーダーのRFフロント・エンド部

図3. UHF帯RFIDリーダーのRFフロント・エンド部

トランスミッタのデジタル領域では、信号にローパス・フィルタを適用する必要があります。周波数領域の隣接チャンネル漏洩電力比(ACLR:Adjacent Channel Leakage Ratio)の要件と時間領域のRF包絡線の要件の両方を満たすことが目的です。トランスミッタのアナログ領域では、パワー・アンプ(PA)の直線性とLOの位相ノイズがACLRに影響を及ぼします。ローパス・フィルタを通過し、TPP(Truncated Pulse Position)方式で符号化したASK(振幅偏移変調)信号では、ピーク対平均電力比(PAR:Peak-to-Average Ratio)が約2dBとなります。PAの平均出力電力は約32dBm(マージンは1dB)なので、P1dB(1dB利得圧縮時出力電力)が35dBm以上のPAを選択する必要があります。LOの位相ノイズについては、125kHz~375kHzの積分位相ノイズが-40dBc未満、375kHz~625kHzの積分位相ノイズが-60dBc未満でなければなりません。帯域外発射については、トランスミッタの高調波の周波数における要件を満たすためにRFフィルタが必要になります。動作周波数付近の要件については、915MHzや930MHzの周波数で測定帯域幅が100kHzの場合に-52dBmが求められるといった具合です。通常、RFフィルタによって減衰していなければ、出力電力が0dBmの場合の変調器のノイズ・フロアは、-52 - 10×log10 (105) - 30 = -132dBm/Hz程度になります。5MHzのオフセット周波数における位相ノイズの要件も-132dBc未満となります。

レシーバーの感度については、GB/T 35786-2017では-65dBmと定められています。リーダーは、すべてのデータ・レートでこの値を満たす必要があります。なお、バック・リンク周波数(BLF:Back Link Frequency)はワースト・ケースで640kHzと想定されます。RFIDリーダーにおいて、アンテナ・ポートからSJC回路の出力までの挿入損失は約15dBです。したがって、SJC回路の出力における感度の要件は-80dBm、DCを除くタグの後方散乱信号電力は-80 - 3 = -83dBmとなります。ASK信号を復調する際の閾値は約11dBで、BLFが640kHzの場合のアップリンク信号の信号帯域幅は2.56MHzです。したがって、トータルのNFに対する要件は、NF≦-83 - (-174 + 10×log10 (2.56×106) + 11)= 15.9dBとなります。この要件には、SJCを適用後のレシーバー回路のノイズ、SJC回路によるノイズ、トランスミッタの漏洩ノイズが含まれます。ベクトル変調器の信号の分岐とSJの分岐については遅延がマッチしていると仮定すれば、CW信号に起因するSJ信号とトランスミッタの漏洩ノイズはどちらも除去されます。トランスミッタの漏洩ノイズは、位相ノイズ、振幅ノイズ、白色ノイズの3つから成ります。通常、振幅ノイズと白色ノイズは、-174dBm/Hzのノイズ・フロアを下回るレベルまで除去されます。残りの位相ノイズについては、トランスミッタとレシーバーが同じLOを使用することから、ダウン・コンバージョンを実施する際、距離相関効果6によってDCに変換されます。この場合、ベクトル変調器の分岐ノイズだけが追加のノイズとして発生します。ベクトル変調器の分岐ノイズが-162dBm/Hzのノイズ・フロアを形成すると仮定した場合、SJC回路の出力における実効NFは-174 - (-162) = 12dBとなります。また、SJCの実施後におけるレシーバー回路のNFに対する要件は、10×log10 (101.59 - 101.2) = 13.6dBとなります。

ADF9010/AD9963をベースとするソリューション

ADF9010は、840MHz~960MHzに対応する受信側用のアナログ・ベースバンド・フロント・エンドです。完全集積型の製品であり、RF送信変調器、LOなどを内蔵しています。AD9963は、分解能が12ビット(または10ビット)で低消費電力のミックスド・シグナル・フロント・エンドです。内蔵する2チャンネルのADCは、サンプル・レートが100MSPSです。同じく2チャンネルのDACは、170MSPSのサンプル・レートに対応しています。

図4に示したのは、ADF9010とAD9963を使用して実装したUHF帯RFIDリーダーのRFフロント・エンド部です。ADL5523、ADL5382、レシーバーの利得を24dBに設定したADF9010をカスケード接続しています。この構造によるNFは3dB未満です。

図4. ADF9010とAD9963を使用して実装したUHF帯RFIDリーダーのRFフロント・エンド部

図4. ADF9010とAD9963を使用して実装したUHF帯RFIDリーダーのRFフロント・エンド部

UHF帯RFIDリーダーのRFフロント・エンドを実装するために、SJC用の適応型アルゴリズムを実装したSJC回路のボードと、ADF9010/AD9963を実装したボードを開発しました(図5)。ADF9010/AD9963のボードには、復調器としてADL5382も実装しています。2つのボードをカスケード接続し、送信時/受信時のシステム・レベルのRF性能をテストしました。

送信側のテストに向けて、ダウンリンクの信号をPython®を使って作成しました。その仕様は、符号化方式がTPP、変調度が50%、変調方式がDSB-ASK(Double Side Band-ASK)、Tari(Type A Reference Interval)値が12.5マイクロ秒というものです。作成したデータは、FPGAを実装したボードにダウンロードしました。PAの出力電力を32dBmとし、アンテナ・ポートにおける周波数領域のACLRと時間領域のRF包絡線のテストを実施しました。その結果は図6のとおりです。ACLRについては、隣接チャンネルは約-42dBc(マージンは2dB)、次隣接チャンネルは-64dBc(マージンは4dB)となっています。RF包絡線のリップルは、1%未満に抑えられています。5%という規格値に対して十分なマージンが得られました。また、立上がり時間と立下がり時間は、それぞれ1マイクロ秒と8.25マイクロ秒という規格値内に収まっています。

図5. テスト用ボードの構成

図5. テスト用ボードの構成

受信側のテストには、RF用のSPDTスイッチ「HMC545A」を使って構築したタグ用シミュレータを使用しました。その制御は、マイクロコントローラ・ユニットによって行います。制御パターンとしては、RFIDシステムのアップリンク側に対応するFM0符号化データのリストを使用しました。ASK信号を復号化するプログラムは「MATLAB®」で作成しました。このプログラムでI/Qデータを復号化し、データ・リストに含まれる元のデータと比較することにより、ビット誤り率(BER:Bit Error Rate)とレシーバーの感度を計算することができます。図7は、受信したI/QデータのFFT結果と復号化したデータを示したものです。この図は、RFIDシステムにおいて、BLFが320kHzという条件下で、電力が-74dBmのアップリンク信号をプログラムによって正しく復号化できたということを表しています。

図6. 送信側のテストの結果

ACLR

図6. 送信側のテストの結果

RF包絡線

図6. 送信側のテストの結果

図7. 受信したデータのFFT結果と復号化したデータ

図7. 受信したデータのFFT結果と復号化したデータ

AD9361を使って実装したフロント・エンド

AD9361は、集積度の高いRFトランシーバーです。構成(コンフィギュレーション)が可能なので、様々なアプリケーションに対応させることができます。また、あらゆるトランシーバー機能を提供できるようにするために、数多くのRF/ミックスドシグナル/デジタル・ブロックを1つのICとして集積しています。UHF帯RFIDリーダーを実装する場合、距離相関効果を利用するために、トランスミッタとレシーバーで同じLOを使用する必要があります。そこで、通常の受信パスの代わりに、AD9361が備える送信側のモニタ用パスを使用します。このパスは、AD9361が内蔵するLNAを迂回します。そこで、ADL5523などのLNAを外付けで追加します。ADL5523は、GaAs pHEMTをベースとする高性能のLNAです。そのNFは0.8dB、利得は21.5dBとなっています。図8に示したのは、AD9361を使用して実装したUHF帯RFIDリーダーのRFフロント・エンド部です。ADF9010/AD9963を使用して実装した場合と比べて、AD9361を採用したソリューションは、かなり簡素化されることがわかります。AD9361のベースバンド部では、AC結合ではなくDC結合を使用します。この場合、SJC回路により、アナログ回路が飽和しないようSJ信号を十分に低いレベル(例えば-35dBm未満)まで抑える必要があります。そうすれば、SJ信号をDC信号に変換し、デジタル領域で除去することが可能になります。

図8. AD9361を使用して実装したUHF帯RFIDリーダーのRFフロント・エンド部

図8. AD9361を使用して実装したUHF帯RFIDリーダーのRFフロント・エンド部

AD9361が備える送信側のモニタ用パスでは、フロント・エンドの利得(送信モニタ利得)と受信ローパス・フィルタの利得GBBFによってトータルの利得が決まります。送信モニタ利得は、0dB、6dB、または9.5dBに設定できます。GBBF は、0dB~24dBの範囲において1dB単位で設定可能です。このように利得を柔軟に設定できるので、レシーバーのAGC(Automatic Gain Control)機能を簡単に実装できます。ここでは、UHF帯RFIDリーダーの送信モニタ利得を3dB、GBBF を6dBに設定しました。AD9361の利得を3dBに設定した場合、ADL5523がカスケード接続されたAD9361の送信モニタ・ポートにおけるNFは約12.6dBとなります。検討によって得られた13.6dBという値と比べると、1dBのマージンがあります。残りのSJ信号が-35dBmの場合、デジタル領域の電力は-7dBfsとなります。

AD9361ベースのソリューションのテスト

UHF帯RFIDリーダーのRFフロント・エンドを実装するために、SJC用の適応型アルゴリズムを実装したSJC回路のボードを開発しました。それをAD9361とカスケード接続し、送信時/受信時のシステム・レベルのRF性能をテストしました。図9と図10に、テスト用の構成を示すブロック図と実際の構成を示しました。

図9. テスト用の構成を示すブロック図

図9. テスト用の構成を示すブロック図

図10. テスト用ボードの構成

図10. テスト用ボードの構成

テストの結果は図11のとおりです。ACLRについては、隣接チャンネルが約-42dBc(マージンは2dB)、次隣接チャンネルが-61dBc(マージンは1dB)となりました。RF包絡線については、リップルが1%未満という結果が得られました。5%という規格値に対して、十分なマージンを確保できています。また、立上がり時間と立下がり時間はそれぞれ1マイクロ秒と8.25マイクロ秒という規格値内に収まっています。

図11. 送信側のテストの結果

ACLR

図11. 送信側のテストの結果

RF包絡線

図11. 送信側のテストの結果

受信側のテスト用に、RFIDシステムのアップリンク側に対応するFM0符号化データのリストを作成しました。そのリストを信号発生器「SMW200A」(Rohde & Schwarz製)にダウンロードしました。そして、このリストに基づきDSB-ASK信号を送信するように、SMW200Aを設定しました。AD9361が受信したI/Qデータは、FPGAのボードに取り込まれます。FTPツールを使用して、そのデータをPCに転送します。ASK信号を復号化するプログラムは、MATLABで作成しました。それによって復号化したデータを、データ・リストに含まれる元のデータと比較して、BERとレシーバーの感度を計算しました。図12は、MATLABベースのプログラムで取得したFFT結果と復号化したデータを示したものです。RFIDシステムにおいて、BLFが640kHzという条件下で、プログラムにより電力が-65dBmのアップリンク信号を正しく復号化できることが確認できました。

図12. 受信したデータのFFT結果と復号化したデータ

図12. 受信したデータのFFT結果と復号化したデータ

まとめ

本稿では、まず、自動車の電子識別に関する中国国家標準規格の概要を示しました。次に、UHF帯RFIDについて、システム・レベルのリンク・バジェット、システムに必要な主要技術(SJCなど)、RF性能に関する主な要件について説明しました。その上で、UHF帯RFIDリーダーのRFフロント・エンド部を実装し、システム・レベルの性能をテストしました。フロント・エンド部としては、ADF9010とAD9963を使用して実装したものとAD9361を使用して実装したものを用意しました。ADF9010とAD9963を用いたソリューションでは、高い性能が得られます。GB/T 29768-2013とGB/T 35786-2017の要件をかなりのマージンを確保した状態で満たすことができます。一方、AD9361を用いた集積度の高いソリューションでは、レシーバーの感度が低下するというトレードオフが生じます。それでも、両規格で定められた要件を満たせることが確認できました。また、ADF9010/AD9963をベースとする場合よりも、かなりの簡素化が実現されます。本稿で示したRFフロント・エンドは特定の用途に向けたものです。しかし、本稿で示した検討方法とフロント・エンドそのものは、いずれも一般的なUHF帯RFIDリーダーに適用することが可能です。

著者について

Van Yang
Van Yang は、アナログ・デバイセズの中国上海支社に所属するフィールド・アプリケーション・エンジニア(FAE)です。2015年に入社し、医療分野や産業分野に携わる中国の顧客をサポートしています。アナログ・デバイセズに入社する前は、Texas Instruments社のFAEとして4年間勤務していました。2011年に武漢にある華中科技大学で通信および情報システムに関する修士号を取得しています。バスケットボールの大ファンで、余暇にはハイキ...
Eagle Zhang
Eagle Zhangは、アナログ・デバイセズ(深セン)のフィールド・アプリケーション・マネージャです。2001年に入社し、フィールド・アプリケーション・エンジニアとして勤務。その後、中国の中核市場を担当するテクニカル・サポート・マネージャと、中国南部を担当するフィールド・アプリケーション・マネージャを務めました。フィールド・アプリケーション・マネージャを務めた際には、中国南部を担当するフィールド・テクニカル・サポート・チームを立ち上げまし...
Aaron He
Aaron Heは、アナログ・デバイセズ(上海)のシステム・アプリケーション・エンジニアです。2017年に入社しました。その前は、シニアRFエンジニアとしてEricssonに勤務。10年以上にわたり、無線通信基地局の設計、統合、製品用のテスト・システムの開発に従事しました。2001年に西安交通大学で通信工学の学士号、2006年に華中科技大学でマイクロ波工学の修士号を取得しています。

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