展開可能な10BASE-T1Lシングルペア・イーサネット状態監視振動センサーの設計

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概要

状態基準保全(CbM)用センサーの開発において、10BASET1Lとも呼ばれるシングルペア・イーサネット(SPE)は、センサー・サイズの小型化、複雑さの緩和、低コストのケーブル配線オプションを含め、標準的なイーサネットと比較して大きな利点を提供します。本稿では、CbMセンサーに使用する小型の電力/データ共用インターフェース(PoDL)を設計する方法を示します。また、センサー・ソリューション全体の電源設計、機械的設計、MEMSセンサーの選択、およびソフトウェア設計についても述べます。

はじめに

10BASE-T1Lとも呼ばれる新しいシングルペア・イーサネット(SPE)はIEEEによって開発された新しい物理層規格で、状態基準保全(CbM)アプリケーション用に、アセットの状態に関する情報の通信を行うための新たな接続ソリューションを提供します。SPEは、電力と広帯域幅データに共用できるアーキテクチャを提供します。このアーキテクチャでは、10Mbpsデータと電力が、長さ1000メートル以上の低コストの2線ケーブルを共有します。

アナログ・デバイセズは業界初の10BASE-T1L MAC-PHY(ADIN1110)を設計しました。これはMACを内蔵するシングルペア・イーサネット・トランシーバーです。ADIN1110はシンプルなSPIバスを使って組み込みのマイクロコントローラと通信しますが、このようにすることで消費電力を削減し、センサーのファームウェア開発時間を短縮できます。

本稿では、図1に示すような、小型ながら強力なセンサーを設計する方法を説明します。取り上げる項目は以下のとおりです:

  • 小型の電力/データ共用通信インターフェースを設計する方法
  • センサー用の超低ノイズ電源を設計する方法
  • マイクロコントローラとソフトウェア・アーキテクチャの選択
  • 適切なMEMS振動センサーの選
  • デジタル・ハードウェア設計とメカニカル・エンクロージャの統合
  • 使用するPCでのデータ収集UI例

図1 10BASE-T1Lシングルペア・イーサネットによる状態監視(振動)センサーのプロトタイプ。

図1 10BASE-T1Lシングルペア・イーサネットによる状態監視(振動)センサーのプロトタイプ。

小型の電力/データ共用通信インターフェースを設計する方法

PoDLとは


電力とデータは、図2に示すように、インダクタ・コンデンサ回路を使いシングル・ツイスト・ペア線で分配されます。図2(a)において、電流パスはPSEとPD(受電デバイス)間のIPWRとして示されており、電力はCbMセンサー・ノードの結合インダクタを使ってこの線から引き出されます。図2(b)に示すように、高周波データは直列コンデンサを通じてデータ線に結合されますが、これらのコンデンサはADIN1100 10BASE-T1L PHYをDCバス電圧から保護する役割も果たします。図2(c)には、データ線に接続された結合インダクタを介してPSE(給電デバイス)コントローラに接続された電源が示されています。図2(c)に示すように、24VDC電源はACデータ・バスにバイアスをかけます。.

図2 電力/データ共用線(PoDL)の基本原理

図2 電力/データ共用線(PoDL)の基本原理

小型PoDL回路の設計方法


図2にはPoDL動作に必要な最も基本的なコンポーネントとして、結合インダクタと直列コンデンサが含まれています。その他のコンポーネントは、堅牢性とフォールト・トレランスのために必要なものです。

PoDLの結合インダクタは非理想コンポーネントなので、コモンモード変換にある程度の差が生じます。このコモンモード・ノイズは信号品質を低下させます。ケーブル・コネクタの近くにコモンモード・チョークを接続することは、この非理想動作の影響を緩和して、ケーブルによるコモンモード・ノイズから設計を保護する助けになります。コモンモード・チョークについては、その電流容量とDCRがセンサーに妥当な電力を供給できる値かどうかを確認するために、これらの値をチェックする必要があります。

ケーブル極性の誤配線(例えばPSE PHYの24VDCを、誤ってPD PHYの0VDCに配線してしまった場合)に対する保護のために、ブリッジ整流ダイオードの使用を推奨します。また、EMC耐性を確保するために、動作電圧が24VDCより大きいTVSダイオードを使用する必要があります。センサー・ハードウェア設計のサイズを大きくできる場合は、追加のEMCコンポーネント(例えば信号線の高電圧コンデンサ)を使用できます。

これらすべてのコンポーネントを使用して小型のPoDL回路を設計することは容易ではないかもしれませんが、幸い、ほとんどのベンダーは整流ダイオード、TVSダイオード、および受動コンポーネントに使用可能な競争力のあるサイズのソリューションを提供しています。一般に、信号の歪みを最小限に抑えるには、容量が極めて小さいコンポーネントを選ぶ必要があります。結合インダクタのインダクタンス値とコンデンサの容量値はそれぞれ220µHと220nFとすることを推奨しますが、シミュレーションやテストの際には、設計マージンのために、これより大きい値とすることができます。センサーに設計できる非常に小さいサイズのコンポーネントの選択例を表1に示します。

表1 小型センサー設計のためのPoDLインターフェース用コンポーネントの選択
部品 部品番号 コメント
コモンモード・チョーク Würth 744242471 470 µH
TVS Bourns CDSOD323-T36SC
結合インダクタ(電力) Coilcraft LPD5030-224MRB 220µH
ブリッジ整流ダイオード Bourns CD-HD2006L
直列コンデンサ 太陽誘電 HMK107C7224KAHTE 220nF

結合インダクタの定格電流は、リモート給電されるMEMSセンサー・ノードに必要な電流の合計値以上でなければなりません。LPD5030-224MRBの定格は少なくとも240mAであり、10BASE-T1Lセンサー・ノードに必要な値を十分上回っています。ここでの定格電流条件は比較的低いので、インダクタのサイズを小さくすることができます。表2は、4.8mm×4.8mmのLPD5030-224MRBが、10BASE-T1Lリンクの条件を満たす最小のコンポーネントであることを示しています。

表2 パワー・インダクタ - パッケージ・サイズに関する制約
パラメータ インダクタのパッケージ・サイズとの関係 LPD5030-224MRBの値 コメント
十分に大きいインダクタンス インダクタンス値を大きくしようとすると、内部の巻線数が増えてパッケージ・サイズも大きくなる。 220µH ±20% 推奨PoDLインダクタンス。
高いSRF(自己共振周波数) SRFが高いということは、内部の巻線数が少なくなりサイズも小さくなることを意味する。 5.53MHz 10BASE-T1Lリンクの最大データ・レート10Mbpsより高い。
高い定格電流と飽和電流 内部巻線数は少ないがパッケージ・サイズが大きい。 0.24A、0.31A 10BASE-T1L MEMSセンサーの条件より高い条件を満たす。
低DCR DCRを小さくするにはワイヤ径を大きくして巻線数を少なくする必要がある 3.3Ω 小さいパッケージで巻線を太くするのは困難。

設計したPoDL回路が機能するかどうかの確認方法

10BASE-T1Lに関するIEEE 802.3cg-2019規格は、電圧レベル、タイミング・ジッタ、電力スペクトル密度、リターン損失、信号ドループ(低下)を含めて、PHYが満たすべき電気的仕様の概要を定めています。PoDL回路は通信チャンネルに影響を与えますが、その大きな要因はリターン損失と信号低下(ドループ)の2つです。

リターン損失はネットワーク上で発生し得る信号反射の尺度で、これはケーブル・リンク沿いのあらゆる場所でのインピーダンス不整合によって起こります。リターン損失はデシベルで表され、10BASE-T1Lで使われる高データ・レートの通信や長いケーブル(1700m)を使用する通信で特に問題となります。LTspice®によるシングルペア・イーサネット(SPE)10BASE-T1L規格(10SPE)物理層(MDIとも呼ばれる)のシミュレーション回路を図3に示します(Graberの研究1に基づく)。このシミュレーション回路には、アナログ・デバイセズのADIN1110またはADIN1100 10BASE-T1LイーサネットPHY/MAC-PHY用に、100Ω±10%の終端抵抗が含まれています。信号結合容量、電力結合インダクタ、コモンモード・チョーク、その他のEMC保護コンポーネントがモデル化されています。電力結合インダクタンスの公称値は1000µHで、これは、それぞれ2つの巻線を備えた2個の220µHインダクタで構成されています(880µH + マージン)。一部のコンポーネントについては、LTspiceのモンテカルロ法を使って推奨コンポーネント値と許容値範囲が追加されています。LTspiceを使って追加した対応モンテカルロ・シミュレーション波形と限界ラインを図4に示します。選択したコンポーネントと許容差は、リターン損失マスクの仕様に合致します。

図3 LTspiceのモンテカルロ機能を使ったMDIリターン損失のシミュレーション

図3 LTspiceのモンテカルロ機能を使ったMDIリターン損失のシミュレーション

図4 モンテカルロ・シミュレーションの波形

図4 モンテカルロ・シミュレーションの波形

超低ノイズ電源の設計方法

有線式の状態監視センサーには、厳しいノイズ耐性条件が定められています。鉄道、オートメーション、および重工業(例えばパルプおよび紙加工)のCbMでは、データ・アクイジション/コントローラにおける振動レベルの誤トリガを避けるために、振動センサー・ソリューションの出力ノイズ・レベルを1mV未満とする必要があります。これは、電源から測定回路(MEMSシグナル・チェーン)に出力されるノイズ(出力リップル)を、設計時点で非常に低く抑える必要があることを意味します。また、MEMSセンサーの電源設計は、電力/データ共用ケーブルに結合したノイズに対しても、高い耐性(高PSRR)を備えていなければなりません。

MEMSセンサーが非常に小さい振動も検出できるようにするには、非常にノイズの小さい電源が必要です。ADXL1002 MEMS加速度センサーの出力電圧ノイズ密度仕様は25µg√Hzです。通常動作中のMEMS電源は、センサー性能の低下を防ぐために、この仕様以上の性能を発揮できる必要があります。

通常、有線CbMセンサーには24VDCから30VDCの電源を使用しますが、消費電力を最小限に抑えてセンサーの長期的な信頼性を向上させるために、広い入力範囲と高い効率を備えた降圧コンバータが必要です。容量性負荷の状態が理想的なものではないので、降圧コンバータの電圧リップルは数十ミリボルトとなる可能性があり、3V/5V MEMSセンサーへの電源供給には適しません。コモンモード・チョークやバルク・コンデンサを使用すれば、降圧出力のリップル電圧を減らすことができます。しかし、ノイズがマイクロボルト単位の電源をMEMSセンサーに供給できるようにするには、降圧出力に超低ノイズのLDOレギュレータが必要です。

10BASE-T1Lセンサー・プロトタイプへの給電

デジタル有線MEMSセンサー用の電源設計を図5に示します。LT8618は工業用センサー向けに特に設計されたもので、以下のような特長を備えています:

  • 最大60Vの広い入力範囲
  • 100mAの低出力電流
  • 最大効率90%
  • 小型の2mm×2mm LQFNパッケージ

図5は24VDC入力のLT8618で、出力は3.7VにレギュレーションされてLT3042に入力され、そこからMEMSセンサー回路に3.3Vの電源が供給されます。 

図5 デジタル有線MEMSセンサー用の電源設計

図5 デジタル有線MEMSセンサー用の電源設計

LT3042は高性能の超低ノイズLDOレギュレータで、以下のような特長を備えています:

  • 0.8µVrmsの超低rmsノイズ(10Hz~100kHz)
  • 超高PSRR(1MHzで79dB)
  • 小型の3mm×3mm DFNパッケージ

EMCシミュレーションにLTspiceを使って最良の結果を得る方法 – パート12という記事にはLTspiceシミュレーション回路の詳細が示されており、LT8618とLT3042のEMC性能についても述べられています。この記事の図19と図20には、LT3042の入力にEMC擾乱を加えた場合のシミュレーション結果が示されています。これは、入力に1Vp-pのEMC擾乱が加わった場合でも、LT3042の電圧リップルは200µV未満であることを示しています。

デジタル・ハードウェア設計とメカニカル・エンクロージャの統合

MEMS振動センサーの格納にはスチールまたはアルミニウムのエンクロージャが使われており、モニタ対象のアセットに高い剛性で取り付けることができる他、水や埃への耐性も備えています(IP67)。振動センサーの場合は、エンクロージャの固有振動数がMEMSセンサーで測定する振動負荷の固有振動数より大きくなければなりません。

ADXL1002 MEMSの周波数応答を図6に示します。ADXL1002の3dB帯域は11kHzで、共振周波数は21kHzです。ADXL1002の格納に使用する保護エンクロージャは、検出軸における第1固有振動数が21kHz以上でなければなりません。同様に、3軸センサーの設計時には、メカニカル・エンクロージャの垂直方向とラジアル方向の固有振動数を解析する必要があります。

図6 MEMSおよびメカニカル・エンクロージャの周波数応答設計目標

図6 MEMSおよびメカニカル・エンクロージャの周波数応答設計目標

センサー・プロトタイプはモーダル・シェイカーでテストします。モーダル・シェイカーを使用すると、制御された環境で振動テスト・レベルを設定し、周波数掃引をしてテストを行うことができます。センサー周波数応答のテスト結果は、図6に示すMEMSセンサー情報に近いものでなければなりません。


モーダル解析


モーダル解析は、エンクロージャの振動特性を詳しく理解するために広く使われている手法です。モーダル解析を行うと、設計の固有振動数と固有振動モード(相対変形)を知ることができます。構造のモーダル応答のシミュレーションには、ANSYSや同様のプログラムを使った有限要素法(FEM)を用いることができます。これは設計を最適化し、センサー・プロトタイプを繰り返す回数を減らす助けとなります。

式1は、1自由度システムのモーダル解析の支配方程式を単純化したものです。固有振動数は、エンクロージャ設計の質量行列(M)と剛性行列(K)に関係しています。式1を使えば、設計を直感的に判定することができます。センサー・エンクロージャの高さを減らすと剛性が向上して質量が減るので、固有振動数は高くなります。また、エンクロージャの高さを増すと剛性が低下して重量が増え、結果として固有振動数は低くなります。

数式1

ほとんどの設計は複数の自由度を有しており、設計によっては数百という場合もあります。有限要素法を使用すると式1の計算を手早く行うことができますが、これを手計算で行うと非常に時間がかかります。

ANSYSのモーダル解析を使ってシミュレーションすると、固有振動数とモード刺激係数(MPF)の両方がソルバーによって出力されます。MPFは、その設計にとって、どの固有振動数が最も重要であるかを決定するために使われます。MPFが比較的高い場合は、その設計において特定の周波数が問題となり得ることを意味します。表3に示す例は、シミュレーションでx軸方向の固有振動数が500Hzになると予測されていますが、そのモードは弱共振で、問題になる可能性は低いことを示しています。800Hzの強共振モードはエンクロージャのx軸で生じ、MEMSの検出軸がエンクロージャのx軸方向になっている場合は問題となります。しかし、設計者がMEMSセンサーのPCBの向きをエンクロージャのz軸に合わせた場合は、この800Hzでのx軸強共振モードが考慮の対象となることはありません。

表3 固有振動数(周波数、Hz)、モード刺激係数(MPF)、および対象軸
モード 周波数、Hz MPF MPFコメント
1 500 x 0.001 弱モード
2 800 x 0.45 強モード
3 1500 y 0.6 強モード
4 3000 y 0.002 弱モード
5 10,000 z 0.33 強モード

10BASE-T1Lセンサー・プロトタイプのモーダル解析

モーダル解析を活用し、振動センサー用の優れた筐体を設計する3という記事には、モーダル解析の概要が比較的詳しく示されています。ANSYSは構造のモーダル応答を解析するための効率的で洗練されたツールですが、その基礎となる式を理解することは設計の助けとなります。これらの式は、エンクロージャの固有振動数が材料の選択と形状の両方に影響されることを示しています。断面積の大きい円筒形状は、すべての軸における剛性と固有振動を高める上で、矩形形状より望ましい構造です。これに対し矩形形状の場合は、センサー方向や装置取り付けに関する選択肢が円筒形状の場合より多くなります。設計例やシミュレーションの結果については上記の記事を参照してください。

この10BASE-T1Lセンサー・プロトタイプは、3軸の1kHz帯域幅MEMSセンサー(ADXL357)を使って設計されていて、その設計目標は、1kHzを超える周波数に対応するエンクロージャを作成することです。図7に示すような矩形のエンクロージャを設計し、ANSYSを使ってシミュレーションを行いました。固有振動数およびモード刺激係数によるシミュレーション結果を表4に示します。結果は、すべての軸で帯域幅が6kHz以上であることを示しています。この設計ではx軸方向の端面にM6用の固定金具を設けています。これらの取り付けポイントを使用すれば、剛性の高い取り付けと最大限のモーダル性能を実現することができます。

図7 ADXL357 3軸MEMSセンサーおよびADIN1110 10BASE-T1L MAC-PHY回路用のエンクロージャ

図7 ADXL357 3軸MEMSセンサーおよびADIN1110 10BASE-T1L MAC-PHY回路用のエンクロージャ

表4 10BASE-T1Lセンサー・プロトタイプの固有振動数(周波数、Hz)、モード刺激係数(MPF)、および対象軸
Mode Freq, Hz Axis MPF
1 11663 x 6080
2 6632 y 0.057
3 30,727 y 0.187
4 6080 z 0.370

適切なMEMS振動センサーの選択

加速度センサーの選択時に注意すべき仕様


振動センサーを分類する公式な規格は存在しませんが、図8に示すように、センサーの有効分解能を使って、いくつかのカテゴリに分けることができます。図からは、MEMS加速度センサーのカバーする範囲が、圧電センサーのそれと比較して明らかに狭いことが分かります。MEMS加速度センサーの多くは、特定のアプリケーション専用に設計されています。例えば、エアバッグの衝突検知、自動車の横転検知、ロボットアームの位置決め、プラットフォームの安定化、高精度傾斜検知を始めとする様々な用途です。MEMSセンサーのメーカーが、IEPE振動センサーと競合できるだけの十分な性能のセンサーを開発したのは、数年前に過ぎません。結果として、この技術は未だ黎明期にあり、図8の左側に示すように、有線CbM設備に占めるその範囲は限られています。しかし、より多くのMEMSベンダーが状態監視用振動センサー・ソリューションに投資していることから、これは今後数年間で成長していくと見込まれています。

図8 MEMSセンサーと圧電センサーが有線アプリケーションで占める範囲

図8 MEMSセンサーと圧電センサーが有線アプリケーションで占める範囲

MEMSセンサーには、振動センサーの世界に破壊的な影響をもたらすことが証明されつつある利点がいくつかあります。例えば、市場で入手可能なMEMSセンサーの大部分は、3軸、内蔵ADC、デジタル・フィルタリング機能、優れた直線性、低コスト、軽量といった特長を備えており、表5を見れば明らかなように、圧電式センサーあるいはIEPE/ICPセンサーと比較して非常に小型化されています。極めて重要なアセットには今後もIEPEセンサーが引き続き使用されていくでしょうが、保守責任者や設備管理者は、重要度がそれほど高くないアセットについては、生産性、効率、持続性の向上実現へ向けたシフトの中で、より有効な情報を取り出せるようになることを期待しています。これは、予定外のダウンタイムを最小限に抑えてアセットの寿命を延長することになります。MEMSかIEPEかを問わず、このようなシナリオには低コストで性能も限られたセンサーが使われますが、それによってある疑問が生じます。それは、優れたノイズ性能と帯域幅性能を備えた1軸IEPEセンサーの方が、常に3軸MEMSセンサーより優れた選択なのかということです。

表5 異なる加速度センサー・タイプと最も重要な設計仕様
  ADXL357 ADXL1002 圧電センサー(603C01)
サイズ(mm) 6 × 5.6 × 2.2 5 × 5 × 1.8 18 × 42.2
ADC内蔵 あり なし なし
軸数
3 1 1
電源(V) 2.25~3.6 3.3~5.25 18~28
インターフェース SPI アナログ アナログ
重量(g) <0.2 <0.2 51
ノイズ(µg/√Hz 80 25 350
帯域幅(kHz) 1 11 10
消費電流 200µA 1mA 2mA~20mA

3軸MEMSセンサーとIEPE振動センサーの性能比較


表6に概要を示すように、3軸MEMS加速度センサーの有効性については、はるかに高い性能を備えた1軸または2軸のIEPE振動センサーが検出できなかった特定の異常を絶対的な信頼性の下で検出するという形で、広範なテストが行われてきました1。取り付け前に特定の異常を捉えるためにある種の用意をしておかない限り、シャフトの曲がり、ロータの偏心、ベアリングの問題、ロータの傾きといった異常を、1軸振動センサーによって絶対に間違いなく検出することはできませんでした。使用できるのが1軸の振動センサーだけの場合、一定の不具合をより高い信頼性で検出できるようにするには、モータの電流や磁界などを検出する他のCbMセンサーが必要になります。

優れたノイズ性能と帯域幅性能を備えた1軸センサーと3軸検出の間には、トレードオフが存在しますが、これらの追加的な軸は垂直、水平、および軸方向の振動を検出するので、取り付け位置に関する課題を緩和することを可能にする上に、アセットの動作についてより詳細な情報を提供します。1軸センサーが3軸MEMSセンサーよりも優れたノイズ性能と帯域幅性能を備えていたとしても、表6に示す結果から分かるように、ほとんどの場合は、方向を変えたりテストを繰り返したりせずには1軸センサーで不具合を確実に検出することはできませんでした。

表6 3軸MEMS加速度センサーにより検出された一般的装置不具合の周波数領域における兆候の概要
不具合 スペクトラム上の兆候 1軸での検出可能性 コメント
z軸(垂直方向)での検出可能性 y軸(水平方向)での検出可能性 x軸(軸方向)での検出可能性 1軸での確実な検出
アンバランス負荷 基本(1×) 基本(1×) 9×、10× あり 軸数が増えれば測定の信頼性も向上
ロータの偏心 基本(1×)
3×  なし 軸方向の兆候はロータの偏心を明確に示している
ロータの傾き
基本(1×)   3×、4×、5×、6×、7×、8×、9×、10× なし 高調波における軸方向の兆候はロータの傾きを明確に示している
シャフトの曲がり 基本(1×) 基本(1×) 可能 軸方向の兆候はシャフトの曲がりを明確に示している
BPFO 3×(BPFO)、4× 3×(BPFO)、4×   あり x軸の1軸測定では検出できない
BPFI 基本(1×) 5×(BPFI)   なし x軸またはz軸上での測定では検出できない

他に使用できる振動センサーの種類と性能比較


それでは、3軸MEMSセンサーは、様々な種類がある振動センサーの中でどのような位置を占めるのでしょうか。図9は、現在使用可能なMEMS振動センサーの概要を、そのノイズと帯域幅を基準に示したものです。図にはIEPEセンサーも含まれています。これは比較の基準にするためと、様々な種類の振動センサーの中でMEMSセンサーがどのような位置を占めるのかを分かりやすく示すためです。図からは、考えられるユースケースに割り当てて使用できる異なるタイプのMEMSセンサーが、自然とグループを構成する形になっているのがよく分かります。例えば、最もコストの低いセンサー(MEMS3軸センサー)は比較的重要度の低いアセットに使われ、最も高価なセンサー(IEPE)は非常に重要度の高いアセットに使われます。1軸IEPEセンサーは数十年間にわたって使われてきたもので、重要度の低いアプリケーションから高いアプリケーションまであらゆる領域に対応しており、図9に示すように、コストと性能の面では非常に広い範囲に分布しています。3軸IEPEセンサーは3軸MEMSセンサーと同様の性能を持つことが明らかに見て取れますが、コストははるかに高くなります。3軸IEPEセンサーはコストが高いので、比較的重要度の低いアセット用のグループには使用できません。しかし、このことは、3軸MEMSセンサーがノイズと帯域幅に関して一部のIEPEセンサーと競合できるという点を更に強調することにもなります。

図9 3軸のMEMSとIEPE、および1軸のMEMSとIEPEに分類した振動センサーの比較

図9 3軸のMEMSとIEPE、および1軸のMEMSとIEPEに分類した振動センサーの比較

展開可能なシングルペア・イーサネット状態監視センサーに最適なセンサーとその理由

この展開可能なシングルペア・イーサネット状態監視センサーは振動センサーを格納するために設計されたものですが、そのシステム・アーキテクチャには、アナログ出力かデジタル出力かを問わず、温度、圧力、音響、位置といった多くのタイプのセンサーを使用することができ、しかもマイクロコントローラ・ファームウェアの変更は最小限で済みます。展開可能なシングルペア・イーサネット状態監視センサーのサイズおよび性能上の条件を満たすために、振動センサーは小型でデジタル出力(SPIまたはI2C)を備え、高集積(アンプ、ADC)でなければなりません。表5に示す仕様に基づいて、3軸のデジタル出力MEMS加速度センサーを選択しました。

ノイズ性能と帯域幅性能で勝る1軸MEMSセンサーではなく、低ノイズの3軸センサーを選択したのは、より多くの診断情報を得る(3軸と1軸)ためと、1軸センサーに付随する取り付けに関する課題を緩和するためです。次に考慮すべき重要な点は消費電力です。ADXL357はADCやオペアンプが不要なので、他のセンサーよりIP6xモジュール内での自己発熱量が小さいことは明らかで、これにより全体的なソリューション・サイズが小さくなってBOMコストも減少します。ソリューション・サイズが小さくなればメカニカル・エンクロージャも小さくなり、モーダル解析のセクションで説明したようにモーダル周波数性能も向上します。

ADXL100xファミリのように最大14ビットの分解能を備えた、より高性能の1軸広帯域(11kHz~23KHz)MEMSセンサーは、システムにシームレスに組み込むことができますが、ほとんどの低消費電力マイクロコントローラは12ビットADCしか内蔵していないので、その性能を生かすために外部ADCが必要になることがあります。しかし、適切なマイクロコントローラがあれば、オーバーサンプリングとデシメーションを使用して12ビットを超える分解能を実現できます。これは、1軸のアナログ出力MEMS加速度センサーを、最小限の労力で既存システムに組み込めることを意味します。ただし、13ビットを超える分解能が必要な場合は、表7に示すようなアナログ出力のMEMSまたはIEPEセンサーを使用する必要があります。

表7 高性能MEMSおよびIEPEセンサーの比較
センサー 範囲(±g) 出力範囲、ピークtoピーク(V) チャンネル数 直線性(±%FSR) NSD (µg/√Hz) 1/fコーナ(Hz) フラットBW(kHz) フラットBWノイズ(µg rms) DR @ Flat BW(dB) フラットBWでのENOB 共振周波数(kHz)
ADXL1002 50
4 1 0.1 25 0.1 11 2622.02 82.60 13.43 21
ADXL1004 500 4 1 0.25 125 0.1 24 19364.92 85.23 13.87 45
ADXL356B
40 1.6 3 0.1 110 0.1 1 3478.51 78.20 12.70 5.5
PCB 621B40 500 10 1 1 10 1000 30 1732.05 104.95 17.14 85
PCB 352C04 500 10 1 1 4 400 10 400.00 118.93 19.46 50
PCB 333B52 5 10 1 1 0.4 1000 3 21.91 98.50 16.07 20

マイクロコントローラとソフトウェア・アーキテクチャの選択

振動センサー・ベースのシンプルなMQTTアーキテクチャを図10に、PCまたはRaspberry Piに接続した展開可能なシングルペア・イーサネット状態監視センサーの概略ブロック図を図11に示します。メッセージ・キュー・テレメトリ・トランスポート(MQTT)はモノのインターネット用の軽量メッセージ・プロトコルで、ネットワーク・クライアントが低帯域幅環境でテレメトリ・データを配信することを可能にします。MQTTが軽量といわれるのは、そのメッセージのコード・フットプリントが小さいからです。パブリッシュ/サブスクライブ型のメッセージング・トランスポートはリモート・デバイス同士の接続に最適で、最小限のコード・フットプリントとネットワーク帯域幅で使用できます。MQTTは、石油およびガスから自動車、電気通信、製造まで、非常に広範な産業分野で使われています。パブリッシャがメッセージを送信して、サブスクライバは必要なメッセージを選択して受信します。ブローカはパブリッシャからサブスクライバへメッセージを渡します。いくつかのMQTTブローカが、同時に接続された数百万におよぶMQTTクライアントを処理します。これは非常に魅力的な機能の1つで、図10に示すように、多くのセンサーを1つのSPEデバイスに接続して、センサー・データのパイプラインを作り出すことができます。パブリッシャとサブスクライバは共にMQTTクライアントで、MQTTブローカとのみ通信を行うことができます。MQTTクライアントは任意のデバイスが可能です。例えば、Arduino、Raspberry Pi、ESP32、もしくはNode-REDやMQTTfxなどのアプリケーションです。

図10 MQTTのシンプルなパブリッシュ/サブスクライブ・アーキテクチャ

図10 MQTTのシンプルなパブリッシュ/サブスクライブ・アーキテクチャ

図11 展開可能なシングルペア・イーサネット状態監視センサーのブロック図

図11 展開可能なシングルペア・イーサネット状態監視センサーのブロック図

図11の最初の4つのブロックは、センサー、マイクロコントローラ、MAC-PHY、メディア・コンバータで構成されています。センサーは、振動を検出できるデジタル出力の3軸MEMSセンサーです。ADXL357からのデータ読み取りには、MAX78000MAX32670などの、SPIインターフェースを持つ任意の標準的な低消費電力マイクロコントローラを使用することができます。MAX78000には、組み込みの畳み込みニューラル・ネットワーク(CNN)ハードウェア・アクセラレータを使って超低消費電力のエッジAI処理ができる、という利点も付加されます。

測定した振動データは、やはりSPIを介してMAC-PHYへ転送するために、MQTTトピック内に置かれます。低コストのCortex®-M4マイクロコントローラは、SPIを介してADIN1110 MAC-PHYとの間で読出し/書込みを行い、PoDL ONまたはOFF、T1Lスペシャル、メインまたはサブノード、1Vまたは2.4Vなどの様々なモードや構成をイネーブルするために使用できます。ADIN1110はMQTTデータ・トピックを10BASE-T1Lフォーマットに変換し、1700m以上にわたり信頼性を確保する強化シールド機能を備えた300m以上のIP67等級ケーブルを介して送信します。更にメディア・コンバータは、データ・フォーマットを10BASE-T1Lフォーマットから10BASE-Tフォーマットに変換して、PCやRaspberry Piがデータを解釈して処理や表示ができるようにします。


ADIN1110 10BASE-T1L MAC-PHY


ADIN1110は、工業用アプリケーションをターゲットにした、信頼性の高いシングル・ポートの低消費電力10BASE-T1LイーサネットMAC-PHYトランシーバーです。MACインターフェースを内蔵したADIN1110は、SPIを介して様々なホスト・コントローラに直接接続することができます。このSPI通信チャンネルは、MACを内蔵していない低消費電力のプロセッサの使用を可能にすることで、システム・レベルの総合的な消費電力を最小限にします。ADIN1110は、ビルや工場内、そしてプロセス・オートメーション用に展開されるエッジ・ノード・センサーやフィールド計測器向けに設計されています。このデバイスは、1.8Vまたは3.3Vの単電源レールで動作します。1.0Vおよび2.4Vの両方の振幅動作モードと外付け終端抵抗をサポートするADIN1110は、本質安全防爆環境で使用できます。プログラマブルな送信レベル、外付け終端抵抗、独立した受信ピンと送信ピンによって、ADIN1110は、本質安全防爆アプリケーションに適したデバイスとなっています。

フィールドやエッジに対してイーサネットが目指すものは、すべてのセンサーとアクチュエータを、ITとOTが融合したネットワークに接続することです。これら一部のセンサーには電力とスペースに関する制約があるので、この目標を実現するには、システム・エンジニアリング上の課題がいくつかあります。センサーおよびアクチュエータ・アプリケーション用に大きな内部メモリ容量を備えた、低消費電力および超低消費電力のマイクロコントローラの市場は成長しています。しかし、これらのプロセッサのほとんどには1つの共通点があります。それはイーサネットMACを内蔵していないということで、いずれもMII、RMII、あるいはRGMIIなどのメディア非依存型(イーサネット)インターフェースをサポートしていません。従来型のPHYをこれらのプロセッサ/マイクロコントローラに接続することはできません。

展開可能なシングルペア・イーサネット状態監視センサー用のファームウェア実装を表8に示します。

表8 ファームウェアのコード・サイズ
メモリ・タイプ 内容 サイズ(kB)
合計RO(定数) コード + ROデータ 110
合計RAMサイズ RWデータ + ゼロ初期化データ 121
合計ROMサイズ コード + ROデータ + RWデータ 110

十分なメモリ容量を持つ低コストのCortex-M4マイクロコントローラは、そのほとんどがこのアプリケーションに適しています。SPE状態監視センサー・ソフトウェアのアーキテクチャを図13に示します。これは複数の要素で構成されており、対応するブロック図を図12に示します。このマイクロコントローラは、オペレーティング・システム(FreeRTOS)とMQTTライブラリ、そして軽量IPスタック(lwIP)を容易に操作できます。lwIPは、フルスケールのTCPを使用しながらRAM使用量を減らすために設計された、TCP/IPプロトコル・スイートの小さい独立オープンソース実装です。FreeRTOSは、ドキュメントとサポートが非常に充実したオープンソースのオペレーティング・システムで、新しい機能ブロックを簡単にコードに追加することができます。lwIP TCP/IP実装の目的は、リソースの使用量を減らす一方でフルスケールの伝送制御プロトコル(TCP)を提供することであり、それによりlwIPを、数十kBのRAM空き容量と約40kBのコードROMを持つ組み込みシステムでの使用に最適なものとすることにあります。また、MQTT機能を提供するために使われる、MQTTクライアントのようなアドオン・アプリケーションもあります。MQTTブロックはパブリッシュ/サブスクライブ・モードで構成されており、合理化された高効率のソリューションを提供します。ADIN1110のドライバは、マイクロコントローラとADIN1110間のシームレスなネットワーク通信を確立できるように、lwIPスタックと通信する前にアドレス解決プロトコル(ARP)ブロックと通信する必要があります。

図12 ソフトウェア・アーキテクチャ

図12 ソフトウェア・アーキテクチャ

図13 センサーのブロック図と各ブロックのコード開発条件

図13 センサーのブロック図と各ブロックのコード開発条件

PyMQTTは、MQTTクライアントをウェブ・アプリケーションに組み込むための、Pythonベースのライブラリ拡張です。これはSPEセンサーをサブスクライブしてデータを抽出し、それをGUI上に表示するために使われるもので、paho-mqttパッケージのラッパーとして効果的に動作し、PythonアプリケーションへのMQTTの組み込みを容易にします。

ADIN2111:10BASE-T1L PHY搭載、低複雑性の2ポート・イーサネット・スイッチ

ADIN2111は、長距離に対応した10BASE-T1L技術を使用して工場やビル内のあらゆるノードにイーサネット接続機能を追加し、ネットワークの運用と管理を容易にします。ADIN2111は低消費電力のエッジ・ノード設計をサポートしており、SPIを介して様々なホスト・コントローラとのインターフェースを構成します。ADIN2111のような2ポート・スイッチは、ライン型トポロジまたはリング型トポロジで制約付きエッジ・ノード同士のデータをデイジーチェーン接続するために使用できます。ライン型トポロジおよびリング型トポロジは、産業用の展開において主流を占めるアーキテクチャです。各デバイスには入出力用に2個のポートが必要なので、それぞれにスイッチと2つの10BASE-T1L PHYが必要になりますが、ADIN2111はこれらの条件を満たしています。

図14 ADIN2111の機能ブロック図

図14 ADIN2111の機能ブロック図

ADIN2111は一連の診断機能を備えており、試運転の時間とシステムのダウンタイムを短縮するために、リンク品質をモニタして不具合を検出することができます。これは、1kmを超えるケーブルに対し2%の精度でリアルタイムに不具合の検出と位置特定を行うことを可能にし、ダウンタイムと試運転時間の短縮を助けます。ADIN2111は、既に展開されている既存のシングル・ツイスト・ペア線のインフラストラクチャを利用しながら、センサー、アクチュエータ、およびコントローラのネットワークをライン型トポロジまたはリング型トポロジで接続することを可能にします。

データ・アクイジションとGUI

振動データは、PythonベースのGUIを使い、図15に示すように時間領域と周波数領域で表示できます。Python GUIは実行型なので、変更を加えたい場合を除けばコード開発は不要です。

図15 人間には感知できない20Hzの振動を測定するSPEセンサー
図15 人間には感知できない20Hzの振動を測定するSPEセンサー

SPEセンサー・システムの性能を確認するために、一連のテストを実行しました。アンバランス負荷テストは振動センサーの性能をテストするための信頼できる方法で、時間領域と周波数領域における不具合の兆候を容易に確認することができます。図16の左側に時間領域データ、右側に周波数領域データを示します。y軸とz軸には、モータの回転数または基礎回転数で加えたアンバランス負荷から測定された振動に対応する、明確な正弦波信号が現れています。これは、y軸とz軸の位置が、アンバランス負荷を加えたモータからの最大振動応答を測定するように取られているためです。x軸ではある種の繰り返しデータが測定されていますが正弦波ではなく、振幅がy軸およびz軸より1桁、あるいはそれ以上小さくなっています。しかし、周波数領域プロットにおけるx軸は明らかにアンバランスの兆候を示しています。これはyおよびzでも同様ですが、振幅はずっと大きくなっています。

図16 ロータに偏心重量を取り付けた9V<sub>DC</sub>モータからのアンバランス負荷を検出するSPEセンサー

図16 ロータに偏心重量を取り付けた9VDCモータからのアンバランス負荷を検出するSPEセンサー

また、システムのノイズ性能を調べるために別のテストを行いました。このテストでは、SPEセンサーと同じベース・プレート上にトーン・ジェネレータを設置しました。振動は人間の手では感知できないほどのものでしたが、10BASE-T1L通信パイプラインと組み合わせたADXL357は、3軸すべてで確実に異常を検知しました。

図17 750Hz振動トーンの測定

図17 750Hz振動トーンの測定

まとめ

状態監視分野におけるアナログ・デバイセズの深い知識と経験、そしてセンサー、パワー・デバイス、イーサネット接続の強力なポートフォリオとの組み合わせは、設計者が最初から適切な設計で市場投入を果たすことを可能にします。ADIN1110シングルペア・イーサネットMAC-PHYは、イーサネットのIPアドレス指定機能を使い、いつ、どこからでもアセットの状態情報にアクセスできる振動センサーを作製しようとする設計者にとって、最良のオプションです。

本稿で紹介したのは、アナログ・デバイセズが提供するセンサー、パワー・デバイス、マイクロコントローラのほんの一部に過ぎません。詳細については、アナログ・デバイセズの状態基準保全のページを参照してください。

著者について

Richard Anslow
Richard Anslowは、アナログ・デバイセズのシニア・マネージャです。産業用オートメーション・ビジネス・ユニットでソフトウェア・システム設計エンジニアリングの分野を担当。専門は状態基準保全、モータ制御、産業用通信を対象とする設計技術です。アイルランドのリムリック大学で工学分野の学士号と修士号を取得。パデュー大学でAIと機械学習を対象とした大学院の課程も修了しています。
Chris Murphy
Chris Murphyは、アイルランドのダブリンに本拠を置くEuropean Centralized Applications Centerのフィールド・テクニカル・リーダーです。2012年からアナログ・デバイセズに勤務し、モータ制御製品と工業用オートメーション製品の設計サポートを行っています。電子工学の修士号とコンピュータ・エンジニアリングの学士号を保有しています。

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