状態基準保全向けのワイヤレス・システムに最適なMEMSセンサーの選び方【Part 2】機械的な障害を検出する方法

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はじめに

本シリーズでは、振動監視用のプラットフォーム「Voyager」について3回に分けて解説しています。前回の記事「状態基準保全向けのワイヤレス・システムに最適なMEMSセンサーの選び方【Part 1】」では、MEMS(Micro Electro Mechanical System)ベースの3軸加速度センサーを使用してワイヤレスで振動を測定する際に注意すべきいくつかの重要な機能について説明しました。Part 2となる今回は、一般的なAC誘導モータ(ACIM:AC Induction Motor)の障害に焦点を絞ることにします。特定の種類の障害を検出して診断を実施する方法を紹介すると共に、他の振動センサーと比較した場合の3軸MEMS加速度センサーの長所を明らかにします。


アセットの故障が製造に及ぼす影響


例えば、工場で重要な役割を担っているモータが予期せずに故障したとします。その場合、おそらくは製品の生産が止まってしまうことになるでしょう。モータの特定の部品やモータ全体を交換しなければならなくなったら、大きなリード・タイムが発生する可能性があります。予定外のダウンタイムが発生した場合、計画的なダウンタイムが生じる場合と比べて10倍のコストがかかると言われています1。また、工場におけるダウンタイムは年平均で約800時間に達するとされています1。このようなデータが明らかになったことから、状態基準保全(CbM:Conditional Based Maintenance)の市場は急速な成長を遂げました。その背景には、ワイヤレス技術とMEMSセンサー技術の進化があります。そうした新しい技術を利用することにより、非常に効果的なワイヤレス対応のCbMシステムを構築できるようになったのです。工場全体あるいはメンテナンスを担当する管理者は、そうしたシステムを工場に迅速に配備することで、予定外のダウンタイムによる損失を抑えることができます。3軸のMEMS加速度センサーは、このワイヤレス革命の中核をなす可能性があります。しかし、その種の振動センサーを利用することで、どのようなことが可能になるのかということについては、まだ十分に理解されていない部分があります。


3軸のMEMSセンサーは、どのような振動検出に適しているのか?


工場のダウンタイムを最小限に抑えるためには、モータで発生し得る障害について把握し、それらに対処する準備をしておくことが不可欠です。アナログ出力の1軸MEMS加速度センサーは、圧電振動センサーに匹敵するものになるよう特別に設計されています。最近では、障害の診断という用途に対し、低~中レベルの圧電センサーと同等の性能を達成していると言えます。これについては、Part 1で説明したとおりです。今回は、狭い帯域幅(0Hz~1kHz)を対象とした監視に焦点を絞ることにします。この用途では、3軸のMEMS加速度センサーが広く使われています。多くのCbMシステムは、アセット(設備)で生じ得る障害の診断や予測に焦点を絞って設計されます。ただ、すべてのシステムが予測を前提として構築されているというわけではありません。アセットの種類によっては、やや後の段階になって障害が検出されることも許容されます。その場合、やや性能の低いセンサーを採用し、コストを抑えるという選択を行える可能性があります。ここで図1をご覧ください。これを見ると、高性能(25µg√Hz以下の低ノイズ)の3軸MEMSセンサーを低コストのソリューションとして利用できる可能性があることがわかります。図中の圧電センサー「PZT 8」は、アナログ・デバイセズの3軸MEMSセンサー「ADXL356」の約20倍も高価です。両者の間には、高性能で低コストのMEMSセンサー製品がほとんど存在しません。この領域の市場は、今後数年のうちに大幅に成長することが期待されています。

Figure 1. Triaxial MEMS sensors for CbM compared to higher performance MEMS and IEPE sensors. 図1. CbM向け振動センサーの比較。3軸MEMSセンサー、高性能/アナログ出力の1軸MEMSセンサー、IEPE対応の1軸圧電センサーを比較しています。

図1. CbM向け振動センサーの比較。3軸MEMSセンサー、高性能/アナログ出力の1軸MEMSセンサー、IEPE対応の1軸圧電センサーを比較しています。

なぜ10Hz/600rpm未満の振動を検出する必要があるのか?

CbMアプリケーションの中には、低い周波数領域を対象とするものがあります。そうしたアプリケーションでは、測定の対象となる振動は0.1Hz~10Hz(6rpm~600rpm)の帯域幅内にあると考えられています。ただ、10Hz(600rpm)未満の動きが生じても振動はほとんど生じません。そのため、低い周波数を対象とするシステムは機械を監視する一般的なシステムよりも複雑になります。通常は、高感度のセンサーを使用して高い周波数の振動データを取得すれば、特定の障害を検出することができます。例えば、ベアリングの剥離、ギアの噛み合わせの問題、ポンプのキャビテーションといった不具合を検出することが可能です。それにより、アセットの残存耐用年数に関する有用な知見を得ることができます。しかし、重要な情報はDC(0Hz)に近い周波数にも存在することに注意しなければなりません。実際、モータのシャフトの変位や芯ずれ(ミスアライメント)といった問題を検出するために、周波数の高い振動に加え、0Hz付近の振動を高い精度で測定するということが行われています。その場合、振動センサーとしては、渦電流用の変位計や近接プローブといった特殊な用途向けの非接触センサーが使われます。しかし、そうしたセンサーは、アプリケーションによってはMEMSセンサーと比べて配置が難しくなることがあります。また、その種のセンサーはより高価です。確かに、渦電流用のセンサーを使用すれば、過酷な条件下でも0.1nm未満の変位を検出できます。一方、MEMSセンサーは、その代替品となるようには設計されていません3。ただ、低コストのCbMシステムや、0Hzまでの加速度を検出できるワイヤレス・システムを実装したい場合にはどうでしょうか。そうしたアプリケーションにおいて、MEMS加速度センサーは費用対効果の高い代替品になり得ます。

製紙/パルプ加工、食品/飲料、石油/ガス、風力タービン発電、金属加工/鉱業などの分野では、非常に低速のモータが使用されます。その基本回転速度(それに対応する周波数)は1Hz未満です。特にインバランス(不均衡)や芯ずれといった障害を検出しようとする場合には、その基本回転速度(rpm値)の振動を測定できるセンサーを選択することが非常に重要です。IEPE対応の圧電センサーやその他の圧電センサーの中には、周波数応答が0.1Hzから始まる特殊な低周波対応製品が存在します。ただ、より一般的な汎用品の場合、その周波数応答は2Hz~5Hzから始まります。圧電センサーと比較した場合のMEMSセンサーの重要な長所としては、0Hzまでの振動を検出可能であり、傾きの情報を得ることができる点が挙げられます。このような特性は、モーダル加振器を使ってテストすることはできません。そのため、図2に示すように、0.01Hzまでに範囲を制限して測定が行われます。0.1Hz付近より高い周波数領域では、MEMSセンサーと比べてはるかに高価な圧電センサーの方が高いノイズ性能を発揮します。しかし、それより低い領域では、MEMSセンサーのノイズ性能の方が優れています。また、その優位性は0.01Hz~0Hzの範囲にも及びます。この低周波領域の性能は、多軸MEMSセンサーのすべての軸で実現されます。そのため、MEMSセンサーを活用すれば、アセットの低周波領域の挙動について更なる知見が得られる可能性があります。これは、特殊な要件に対応できるよう特別に設計された圧電センサーでも不可能なことです。

Figure 2. MEMS vs. piezo low frequency response. 図2. MEMSセンサーと圧電センサーの低周波領域の応答

図2. MEMSセンサーと圧電センサーの低周波領域の応答

ベアリングの監視を行う場合、加速度センサーの周波数応答はシャフトの回転速度の40~50倍に対応していることが望ましいとされます。また、ファンやギアボックスでは、ブレードの通過周波数の5倍に対応することが推奨されます4。抄紙機のローラ、スクリュー・コンベア、砕石装置など、非常に低速で動作する機械の多くはローラ・ベアリング(転がり軸受)を備えています。機械によっては、回転速度はわずか0.2Hz(12rpm)程度です5。そして、不均衡、芯ずれ、機械的な緩みの検出と診断には回転速度の1×、2×、3×に対応する情報が不可欠となります(1×、2×、3×は、それぞれ回転速度の1倍、2倍、3倍という意味です)。また、スタンピング機械のクランク・ベアリングの場合、0.18Hz(11rpm)という低い速度で動作させることがあります5。ワイヤレスのCbMシステムについて言えば、現状の渦電流センサーは消費電力が多すぎて実用的なものではありません。MEMS加速度センサーの性能はそれより劣ります。しかし、圧電センサーや渦電流プローブが使用されるようなマルチモーダルな振動測定や変位測定においては、低コストの代替品になり得ます。


Voyagerによる猫脚や傾きの問題の検出


AC誘導モータのサイズや出力は様々です。大型のモータを使用する場合、図3に示すように剛性の高い基礎が必要になることがあります。AC誘導モータの代表的なアプリケーションとしては、産業用のポンプが挙げられます。その場合、動力は直接的な接続または何らかのカップリング部材を介してシャフトからポンプへ伝達されます。そうした接続部での芯ずれは、半径の方向、軸の方向、接線の方向で発生する可能性があります。安定した芯出し(アライメント)を実現するためには、ポンプを強固な基礎にしっかりと固定し、振動を最小限に抑えなければなりません。均一かつ高い剛性を備える安定した基礎を使用することにより、振動を抑えて信頼性を高めることができます。その結果として、モータの耐用年数を効果的に延伸することが可能になります。通常、産業用のポンプは、機械加工されたベースプレートにボルトで直接固定されます。付随する機器も、位置合わせを行った上で同じベースプレート上に固定されます。このように構成したアセンブリをコンクリートの基礎に接着します。

Figure 3. Soft foot is a common issue when aligning rotating equipment. 図3. 基礎で生じる問題。回転機器の芯出しを行う際には、猫脚(ソフト・フット)が問題になります。

図3. 基礎で生じる問題。回転機器の芯出しを行う際には、猫脚(ソフト・フット)が問題になります。

基礎が柔軟すぎたり凹凸が存在したりする場合、芯出しの問題が発生したり、振動の振幅が増大したりといった課題が生じる可能性があります。最終的には予定外のダウンタイムにつながってしまうかもしれません。通常は、モータの設置時、運転の初期段階、メンテナンス/修理作業の後、定期メンテンナンス中に芯出しのテストを実施します。隙間ゲージ、キャリパ、ダイヤル・ゲージなど、様々な機械的機器を使用することで芯ずれを検出します。そうした機器の代わりになるものとして、レーザ式の芯出しシステムといったツールも使われています。その種のツールは、モータのシャフトやそれが駆動する装置の芯出しの用途で広く使用されています。

設備の稼働が始まったら、定期メンテナンスによって、モータと基礎の位置合わせやモータの取り付けに異常がないかどうかを確認します。ただ、その頻度は数ヵ月に1回といったレベルになるかもしれません。現在のメンテナンスでは、振動のデータを利用することで不均衡や芯ずれを検出します。この種の手法は数十年にわたって成功を収めており、その有用性は証明されています。一方、加速度gが小さい場合には、3軸MEMSセンサーを使うことで振動や傾きの変化を連続的に監視/検出することができます。これらの手法を組み合わせると、測定の信頼性が高まります。また、早期に障害を検出できる可能性も得られます。

MEMSセンサーで、どのようにして傾きを測定するのか?

図4をご覧ください。1軸の加速度センサーを面に水平に置いた場合、感度軸は重力と垂直になります。その結果、センサーは0gに相当する信号/値を出力します。センサーを重力の方向に傾けると、1gの場による加速度(重力加速度)が検出されます。図4(右)に示したグラフの傾きは、このデバイスの感度を表します。センサーのX軸と水平がなす角度が増加するにつれて、感度は低下するということに注意してください。

Figure 4. MEMS accelerometer with sensitive axis perpendicular to 1 g. 図4. 1gに対して垂直な方向の感度軸を備えるMEMS加速度センサー

図4. 1gに対して垂直な方向の感度軸を備えるMEMS加速度センサー

図5は、CbMモジュールであるVoyagerによって重力または静的な加速による加速度を測定した結果です。Voyagerを直立させると、Z軸方向では1g、X軸方向とY軸方向では0gという加速度が計測されます。このグラフは、22秒のタイミングでVoyagerをX軸方向に4°傾けた結果です。ご覧のように、傾きはDCオフセットとして簡単に観測することができます。測定した加速度を傾斜角に変換するには、測定した加速度の逆正弦関数をとります。つまり、sin-1 0.07g = 4°となります。

Figure 5. Voyager module detecting 4° of the tilt under static conditions. 図5. Voyagerによる傾きの検出。静的な条件下で4°の傾きを検出しています。

図5. Voyagerによる傾きの検出。静的な条件下で4°の傾きを検出しています。

CbMアプリケーションでは、振動が生じている条件下で傾きを検出しようとすると、いくつかの問題が発生します。1つは、静的な条件の場合と比べ、より測定の難易度が増し、多くの検討が必要になることです。また、傾き/傾斜を測定するアプリケーションでは、通常はノイズを低減するために帯域幅を制限します(100Hz未満)。それに対し、CbMアプリケーションにおける測定では、帯域幅が広い(1kHz以上)方が有利に働きます。モータをはじめとするアセットの傾きを検出する際、最大測定範囲が±5°(±87mg)に限られているといったケースがあり得ます(図6)。このような制限は、加速度の大きい振動が存在する可能性がある場合には課題になると考えられます。

Figure 6. Output acceleration vs. angle of inclination under static conditions. 図6. 静的な条件下における出力加速度と傾斜角の関係

図6. 静的な条件下における出力加速度と傾斜角の関係

加速度の測定値に三角関数を適用すると、傾斜角を簡単に求めることができます。但し、衝撃や振動が生じている場合には、それらが傾斜の測定に影響を与える可能性があります。図7の例では、2gの衝撃によって82°という傾きが生じています。

Figure 7. Inclination data with high g vibration present and averaged data. 図7. gの大きい振動が発生した場合の傾斜のデータと平均化したデータ

図7. gの大きい振動が発生した場合の傾斜のデータと平均化したデータ

瞬間的な打撃、衝撃、振動は、モータの実際の傾きや傾斜には影響を与えません。しかし、加速度から傾きへの変換処理を行うと、図7に示したように、それらの影響が傾きの値として反映されます。そうした影響を排除するためには、データの平均化や平均値の生成といった手法が一般的に用いられています。Voyagerでは、プラットフォームが提供するGUI(Graphical User Interface)によって、そうした機能を利用できるようになっています(図8)。

Figure 8. Mean vibration on three axes. 図8. 3軸で検出した振動の平均値

図8. 3軸で検出した振動の平均値

図8に示した測定値は、モータが1秒後に動き始め、約18秒の段階で4°の傾きが加えられたことを表しています。Y軸とZ軸にも多少の変化が見られますが、X軸では明らかな傾きが検出されています。この結果からは、3軸センサーの重要な長所が見てとれます。このケースでは、Z軸の振動の検出を主な目的としています。それに続く優先順位でY軸の振動も検出できるようにセンサーが取り付けられています。X軸は振動を測定するために使われているわけではないので、より正確に傾きを検出することができます。動的な条件下で傾きの大きさを高い精度で取得するのは困難です。しかし、モータの単純な特性評価を行いたい場合であれば、良好な結果を得ることができます。あるいは、傾斜の許容範囲によっては問題のない結果が得られるでしょう。図8のように現れた傾きは、sin-1 0.07g = 4°という計算によって算出されます。図9に示すように、Z軸の測定値は3g、Y軸の測定値は1.3g、X軸の測定値は0.2gです。なお、Voyagerのモジュールでは、静的な条件下における傾きの分解能は約0.2°となっています。

Figure 9. Time domain plots showing vibrations measured on three axes. 図9. 3軸における振動の測定値を示した時間領域のプロット

図9. 3軸における振動の測定値を示した時間領域のプロット

傾きを検出できるMEMSセンサーをベースとして振動測定用のワイヤレス・モジュールを設計する際には、もう1つの重要なパラメータについて考慮しなければなりません。そのパラメータとは、MEMSセンサー製品のデータシートに記載されているgレンジ(測定範囲)です。MEMSセンサーがgレンジを超える振動にさらされた場合、クリッピングが生じます。それは、傾きの測定結果においてDCオフセット誤差として現れます。したがって、振動が存在する状態で傾きを検出できるようにするためには、gレンジの面で十分なマージンを備えるMEMSセンサー製品を選択する必要があります。つまり、オフセットが発生しないようにするために、予想される衝撃、打撃、振動の大きさを上回るgレンジを備えたMEMSセンサー製品を選択しなければなりません。

Figure 10. Vibration rectification in an accelerometer with ±2 g full-scale range due to asymmetric clipping. 図10. 非対称なクリッピングによる振動整流。フルスケール・レンジが±2gの加速度センサーによる測定結果です。

図10. 非対称なクリッピングによる振動整流。フルスケール・レンジが±2gの加速度センサーによる測定結果です。

Voyagerによる障害の検出

Voyagerは、振動の測定に使用可能な3軸MEMSセンサーを備えています。このソリューションは、障害を検出して知見を取得するための機能を提供します。なかには、1軸センサーを採用したソリューションでは実現できない機能もあります。振動に基づく障害の検出/診断は、多くの数学的モデルやAIを利用する複雑なプロセスによって行われます。Voyagerによって取得した結果を精査すれば、次のようなことが理解することができます。すなわち、3軸センサーによる測定をどのように利用すれば、特定の障害の診断を行うためのより堅牢な方法を実現できるのかということです。しかも、1軸センサーを使用する場合と比較して、より高い信頼性が得られることも見てとれるはずです。

図11に示したのは、機械の故障をシミュレーションするための装置「Machinery Fault Simulator-Lite(MFS-Lite)」(SpectraQuest製)です。この装置を使って現実の機械をエミュレートすることにより、制御された状態で実験を行うことができます。この装置をうまく活用するためには、各種の障害によって発生する振動のシグネチャ(兆候)について深く理解しておく必要があります。代表的な障害としては、不均衡な荷重、傾いたロータ(cocked rotor)や偏心ロータ(eccentric rotor)、曲がったロータ・シャフト、損傷したベアリング/ベアリング・ハウジングなどが挙げられます。ある程度の前提知識を得た上で、実際のアプリケーションに即したシミュレーションを行うことにより、振動のシグネチャについて更に深い理解を得ることが可能になります。以下では、MFS-LiteとVoyagerを組み合わせて、各種の障害が生じた場合の振動のデータを取得し、それぞれのシグネチャについて詳しく検討していくことにします。図11に示したMFS-Liteのハウジングには、Voyagerのワイヤレス・モートが取り付けられています。両半径方向(Z方向とY方向)の振動の振幅と、シャフトと荷重の方向の軸振動の測定に適した位置を選択して取り付けを行っています。

Figure 11. SpectraQuest lite rig. 図11. MFS-Liteの外観

図11. MFS-Liteの外観

不均衡と芯ずれ


不均衡と芯ずれは、同様のシグネチャを持つ同じグループの障害として扱われます。多くの場合、FFT(高速フーリエ変換)解析を行うと同じような結果が得られます。図12に示すように、モータのロータにおいて、重心の周りに不均一な分布があったとします。その場合、不均衡が発生してロータが振動します。結果として、ベアリングに余計な荷重がかかることがあります。また、その振動によってベアリングが過度に摩耗し、騒音が生じることもあります。メンテナンスを実施することなく放置していると、ベアリングあるいはモータ全体が故障してしまうかもしれません。

Figure 12. Uneven distribution of mass around an axis of rotation. 図12. 不均衡が生じている状態。回転軸の周りに不均一に質量が分布しています。

図12. 不均衡が生じている状態。回転軸の周りに不均一に質量が分布しています。

一方、ロータの芯ずれとは、ロータ、カップリング部材、従動シャフトの中心がずれている状態のことを指します(図13)。芯ずれは、角度ずれ、平行ずれ、あるいはそれら2つの組み合わせとして現れる可能性があります。芯ずれによる最も一般的な振動は、回転速度(rpm)の1×に相当する周波数で発生します。まれに、回転速度の2×に相当する周波数の振動が1×の周波数の振動よりも大きくなることもあります。なお、シャフトの曲がりや不均衡が生じた場合にも、回転速度の1×に相当する周波数で振動が発生します。

Figure 13. Centerlines of the rotor and the driven equipment shafts are not in line with each other. 図13. 芯ずれが生じている状態。ロータと従動シャフトの中心線が一致していません。

図13. 芯ずれが生じている状態。ロータと従動シャフトの中心線が一致していません。

不均衡な荷重

ベースラインの暗振動ノイズと比較して回転速度(1×)に対応する振動の振幅の方が大きくなっている場合、そのシステムは不均衡になっている可能性があります。筆者らは、不均衡についてのシミュレーションを実施するために、先端に質量を付加した荷重をMFS-Liteのシャフトに取り付けました。システムは3000rpmで動作させ、5kgの荷重を加えました。図14に示したのは、その状態で取得した振動のデータ(FFTの実行結果)です。予想どおり、ベースラインの振動と比較すると、Z軸の半径方向において周波数が1×の大きな振動が生じています。一方、図15に示したのは、X/Y/Z軸で取得した振動のデータのFFT結果です。Y軸、Z軸の半径方向において、周波数が1×の振動の成分が明らかに大きくなっています。また、X軸方向においては、周波数が9×と10×の大きな振動が生じています。これらの振動は、1軸センサーでは検出できないと考えられます。

Figure 14. Imbalance FFT analysis at 3000 rpm with a 5 kg load, z-axis compared to baseline. 図14. 不均衡のシグネチャ(その1)。3000rpm、5kg荷重の条件で、Z軸の振動を取得しました。不均衡が生じている場合と生じていない場合のFFT結果を示しています。

図14. 不均衡のシグネチャ(その1)。3000rpm、5kg荷重の条件で、Z軸の振動を取得しました。不均衡が生じている場合と生じていない場合のFFT結果を示しています。

Figure 15. Imbalance FFT analysis at 3000 rpm with a 5 kg load. 図15. 不均衡のシグネチャ(その2)。3000rpm、5kg荷重の条件でX/Y/Z軸の振動を取得し、FFT解析を実施した結果です。

図15. 不均衡のシグネチャ(その2)。3000rpm、5kg荷重の条件でX/Y/Z軸の振動を取得し、FFT解析を実施した結果です。

傾いたロータ

続いて、MFS-Liteに傾いたロータ(軸方向から0.5°ずれている)を取り付けました。図16に示したのは、その状態で取得した振動のデータにFFTを適用した結果です。ご覧のように、1×の周波数で振幅の大きい振動が生じています。それだけでなく、3×、4×、5×、6×、7×、8×、9×、10×の周波数にも振動が生じていることがわかります。つまり、軸方向に振動の高調波が発生しているということです。不均衡な荷重の場合と同様に、傾いたロータについても軸方向に障害のシグネチャが現れます。このシグネチャも、1軸センサーでは取得することができません。

Figure 16. Cocked rotor FFT analysis at 3000 rpm with no load and one imbalance weight. 図16. 傾いたロータのシグネチャ。3000rpm、無荷重、不均衡を生む重りが1個の条件で振動のデータを取得し、FFT解析を実施した結果です。

図16. 傾いたロータのシグネチャ。3000rpm、無荷重、不均衡を生む重りが1個の条件で振動のデータを取得し、FFT解析を実施した結果です。

偏心ロータ

次に、MFS-Liteに偏心ロータを取り付けました。図17に示したのは、その状態で取得した振動のデータにFFTを適用した結果です。ご覧のように、1×の周波数に大きな振動(1次高調波)が生じています。つまり、半径方向(Z軸)に不均衡が生じていることがわかります。また、3×の周波数にも軸方向の大きな振動が現れています。これは、芯ずれが生じていることを表しています67。3軸センサーを使用すると、偏心ロータの欠陥による芯ずれと不均衡の両方のシグネチャを捕捉することができます。1軸センサーを採用したソリューションでは、これらを見逃してしまいます。

Figure 17. Eccentric rotor FFT analysis at 3000 rpm with no load. 図17. 偏心ロータのシグネチャ。3000rpm、無荷重の条件で取得した振動のデータのFFT結果です。

図17. 偏心ロータのシグネチャ。3000rpm、無荷重の条件で取得した振動のデータのFFT結果です。

曲がったシャフト

続いて、MFS-Liteに曲がったシャフトを取り付けました。図18に示したのは、その状態で取得した振動のデータのFFT結果です。1×の周波数(1次高調波)に大きな振動が発生しており、Z軸(半径方向)とY軸の両方に不均衡が生じていることがわかります。また、3×の周波数にも軸方向の大きな振動が発生しているので、芯ずれも生じていることがわかります。Y軸に1×の周波数成分が生じているという特徴は、曲がったシャフトと偏心ロータの障害の区別に活かすことができます。3軸センサーを使用すると、曲がったシャフトによる芯ずれと不均衡の両方のシグネチャを捕捉することができます。これらのシグネチャは、1軸センサーを採用したソリューションでは見逃してしまいます。

Figure 18. Bent shaft FFT analysis at 3000 rpm with no load. 図18. 曲がったシャフトのシグネチャ。3000rpm、5kg荷重の条件で取得した振動のデータのFFT結果です。

図18. 曲がったシャフトのシグネチャ。3000rpm、5kg荷重の条件で取得した振動のデータのFFT結果です。

表1は、モータの機械的な障害についてまとめたものです。ここでは、低い周波数領域にシグネチャが現れる障害を取り上げています。

表1. シミュレーションを実施した障害とシグネチャについてのまとめ
シミュレーションを実施した障害 シャフトに配置した荷重またはロータ 不均衡のシグネチャか? 芯ずれのシグネチャか? その他の障害のシグネチャか?
荷重の不均衡(質量の不均一な分布)。荷重の端部に質量を付加。 Table Graphic 1
傾いたロータ。ロータが軸方向から0.5°ずれている。 Table Graphic 2
偏心ロータ。ロータが中心からずれている(シャフトに取り付ける際の中心点が非対称) Table Graphic 3
曲がったシャフト(右の図は、わかりやすくするために 誇張してある) Table Graphic 4

ベアリングの欠陥


ベアリングの欠陥は、いくつかに分類されます。また、ベアリングの形状に基づいて計算されるいくつかの指標が使われています。代表的なものとしては、BPFI(Ball Pass Frequency Inner)とBPFO(Ball Pass Frequency Outer)が挙げられます。それぞれ、ボール(転動体)がベアリングの内輪または外輪の欠陥を通過する際に生じる振動の周波数のことを指します。

BPFI

BPFIのシミュレーションを実施するために、内輪に欠陥があるベアリングをMFS-Liteに取り付けました。その上で、欠陥のあるベアリング・ケースを使用し、シャフトと荷重をしっかりと取り付けました。BPFIは、次式によって計算することができます。

数式 1

ここで、Fは周波数、Nはボールの数、Bはボールの直径、θは接触角、Pはピッチ円直径です。この計算方法については、MFSLiteのユーザ・マニュアルにも記載されています。この測定の場合、各パラメータの値は次のようになります。5/8インチのロータ・ベアリングで使用されているボールが8個、ボールの直径が0.3125インチ、ピッチ円直径が1.318インチです。これらを使用して計算を行うと、BPFIは基本回転速度の4.95×になることがわかります。

図19に示したのは、上記の条件で取得した振動のデータのFFT結果です。BPFIは、Y軸(半径方向)の約250Hz(約4.95×)の位置で検出されています。また、Z軸(半径方向)でも振動が計測されています。いずれの振動も、振幅はそれほど大きくないという点に注目してください。

Figure 19. BPFI FFT analysis at 3000 rpm with a 5 kg load. 図19. BPFIのシグネチャ。3000rpm、5kg荷重の条件で取得した振動のデータのFFT結果です。

図19. BPFIのシグネチャ。3000rpm、5kg荷重の条件で取得した振動のデータのFFT結果です。

BPFO

続いて、外輪に欠陥があるベアリングをMFS-Liteに取り付けました。また、欠陥のあるベアリング・ケースを使用してシャフトと荷重もしっかりと取り付けました。BPFOは、次式によって計算することができます。

数式 2

この計算方法については、MFS-Liteのユーザ・マニュアルにも記載されています。ここでは、5/8インチのロータ・ベアリングに使用されている転動体が8個、転動体の直径が0.3125インチ、ピッチ円直径が1.318インチであるとします。これらを使用してBPFOを計算すると、その値は基本回転速度の3.048×になることがわかります。

図20に示したのは、上記の条件で取得した振動のデータのFFT結果です。BPFOは、Y軸とZ軸(半径方向)の約150Hz(約3.048×)の位置で検出されています。BPFI(4.95×)とBPFO(3.048×)のシグネチャを比較すると、BPFOではBPFIよりも振動の振幅が小さくなっています。この点は注目に値します。

Figure 20. BPFO FFT analysis at 3000 rpm with a 5 kg load. 図20. BPFOのシグネチャ。3000rpm、5kg荷重の条件で取得した振動のデータのFFT結果です。

図20. BPFOのシグネチャ。3000rpm、5kg荷重の条件で取得した振動のデータのFFT結果です。

障害のシグネチャをアルゴリズムによる診断に活かす


ここまでに示したように、Voyagerの3軸センサーを使用すれば、軸方向の障害のシグネチャを検出することができます。それらを利用すれば、特定の障害を判別することが可能です(表2)。例えば、傾いたロータまたは偏心ロータの障害が生じると、いずれの場合もシステムの回転速度(1×)に相当する周波数で大きな振動が発生します。しかし、軸方向の解析を行うと、両者には異なる特徴が現れます。偏心ロータの障害が発生した場合、軸方向で生じる高調波(振動)に注目すると、3×の高調波だけ振幅が大きくなります。一方、傾きロータの障害が発生した場合、3×、4×を含めて最高で10×までの高調波の振幅が大きくなります。これら2つの障害については、高調波に関するこの単純なパターンをアルゴリズムで処理することによって区別することができます。このように、3軸センサーを備えるVoyagerを使用すれば、1軸センサーを採用したソリューションでは取得が不可能な知見を得ることができます。

表2. 機械の障害によって発生する振動のシグネチャ

障害のシグネチャ(振動)が現れる軸とその周波数(基本回転速度またはその倍数)
障害の種類 Z軸(半径/垂直方向) Y軸(半径/水平方向) X軸(軸方向)
不均衡な荷重 9×、10×
偏心ロータ
傾いたロータ
3×、4×、5×、6×、7×、8×、9×、10×
曲がったシャフト
BPFO 3×(BPFO)、4× 3×(BPFO)、4×
BPFI 5×(BPFI)

もう1つの例として、不均衡な荷重と曲がったシャフトのシグネチャを区別する方法について考えてみます。これらの障害が発生した場合、システムの回転速度(1×)に相当する振動の振幅が大きくなります。この周波数の振動は、半径方向(垂直、水平の両方向)で発生します。ただ、軸方向で見ると、不均衡な荷重では9×と10×の高調波として振動が生じます。一方、曲がったシャフトの場合、3×の高調波(芯ずれのシグネチャ)として振動が発生します。

先述したように、曲がったシャフトと偏心ロータの障害については、曲がったシャフトで生じる半径方向(Y軸)の大きな振動によって区別することができます。このような振動は、偏心ロータの障害では発生しません。

ベアリングの障害について、Voyagerを使用すれば半径/水平方向(Y軸)のBPFIに対応する障害を検出できます。しかし、半径/垂直方向(Z軸)のBPFIに対応する障害は検出されません。一方、1軸センサーを採用したソリューションでは、振動の振幅が最大になる軸を的確に推定しておかない限り、BPFIに対応する障害は検出できません。

まとめ

MEMS加速度センサーは、性能の面で大きく進化しています。そのため、CbMアプリケーションでの利用が急速に進んでいます。但し、製品によって性能は様々です。また、MEMS加速度センサーの性能や特徴などについては広く理解されているとは言えません。本稿では、CbMに適した3軸MEMSセンサー、より高性能な1軸MEMSセンサー、IEPE対応品を含む圧電センサーの性能について概観した上で、それぞれの用途や特徴について説明しました。圧電センサーの場合、通常は周波数が高くなるほどノイズが小さくなります。それに対し、MEMSセンサーは0Hz付近でもノイズは低く抑えられます。そのため、多くのCbMアプリケーションに適していると言えます。加えて、MEMSセンサーであれば3軸の測定にも対応できるので、振動が発生している状況でも、おおよその傾きを検出することが可能です。このような特徴を備えていることから、猫脚の問題の検出にも適しています。

本稿で紹介したように、故障のシミュレーションを実現するMFS-Liteと3軸MEMSセンサーを搭載するVoyagerを組み合わせることで、不均衡、芯ずれ、ベアリングの故障、傾いたロータ、曲がったシャフトといった問題のシグネチャを的確に検出することができます。また、3軸MEMSセンサーを使用すれば、特定の障害を高い信頼性で特定することが可能です。このことも、CbMアプリケーションに3軸MEMSセンサーを適用することによって得られるメリットの1つです。

次回(Part 3)は、Voyagerの様々な電力モードについて説明します。また、消費電力やソフトウェアのアーキテクチャについて解説すると共に、どのようにすれば性能を最適化することができるのか詳しく説明します。

著者について

Richard Anslow
Richard Anslowは、アナログ・デバイセズのシニア・マネージャです。産業用オートメーション・ビジネス・ユニットでソフトウェア・システム設計エンジニアリングの分野を担当。専門は状態基準保全、モータ制御、産業用通信を対象とする設計技術です。アイルランドのリムリック大学で工学分野の学士号と修士号を取得。パデュー大学でAIと機械学習を対象とした大学院の課程も修了しています。
Chris Murphy
Chris Murphyは、アイルランドのダブリンに本拠を置くEuropean Centralized Applications Centerのフィールド・テクニカル・リーダーです。2012年からアナログ・デバイセズに勤務し、モータ制御製品と工業用オートメーション製品の設計サポートを行っています。電子工学の修士号とコンピュータ・エンジニアリングの学士号を保有しています。

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