ノイズに敏感なデバイスに直接給電できるだけの低ノイズ性能を備えたスイッチモード電源
要約
これまで、スイッチモード電源(SMPS)は、ノイズに敏感なアナログ・デジタル・コンバータ(ADC)に用いるにはノイズが多すぎるため、低ドロップアウト(LDO)レギュレータを別に用いる必要がありました。しかし、Silent Switcher®(サイレント・スイッチャ)アーキテクチャや電磁場干渉(EMI)ノイズ・シールド技術など、近年のSMPS技術の進歩により、EMI放射や出力リップル電圧は低減しています。それにより、ノイズ抑制手法を用いた単一のSMPSデバイスを、ADCのS/N比に影響を与えることなくノイズに敏感なデバイスの近くに配置できます。本稿ではこの技術を詳細に解説します。
はじめに
ADCがわずかな変動やランダムな変化を伴う予期せぬ出力を示した、という経験はありますか? これは恐らく、ADCシステム内のノイズが原因です。一般的なノイズ源の1つは、電圧制御発振器(VCO)の電源レールです。このレールのノイズは、クロック信号にジッタを生じさせることがあり、これが後段でADCのサンプリング・クロックとして用いられます。ジッタが大きい場合、変換誤差が生じ、ADCから予期せぬデータが出力される可能性があります。
SMPSは、電圧変換のためにスイッチングが必要であるため、本質的にノイズが大きいことで知られています。SMPSをクロックの電源レールに用いた場合、ADCシステムにノイズが混入する可能性があります。誤差を最小限に抑えるため、ノイズに敏感なデバイスに給電する場合には、通常、ノイズ抑制能力のあるLDOレギュレータを用います。
アナログ・デバイセズのLTM8080降圧レギュレータSMPSなどの技術は、ノイズ抑制技術を用いたポスト・レギュレーション・デュアルLDOレギュレータを内蔵しています。このSMPSデバイスは、スタンドアロンのLT3045 LDOレギュレータに匹敵する低ノイズの電源レールを供給できます。
電源レールのノイズが重要な理由
電源レールのノイズは、システムの性能に大きく影響する可能性のある、重要なファクタです。図1では、LT3045 LDOレギュレータをノイズのない電源レールとして用い、ADF4372シンセサイザのVCOに給電しています。その後、ADF4372は、AD9208 ADCおよびFPGAボードへのクロック信号を発生します。図2に、LT3045 LDOレギュレータの出力から得られた位相ノイズ・プロットを示します。これは、代替電源レール・ソリューションを比較するためのリファレンスの役割を果たします。
図1 VCO/ADCセットアップの基本的なブロック図
図2 ベースラインとなるLT3045の位相ノイズ・プロット(1GHz、2MHzのスパン)
ベースライン設計の代わりにノイズの多い電源レールを用いた場合の例として、図3に、側波帯が持ち上がった、最適ではないノイズ・スペクトル・プロットを示します。これらの側波帯があるレベルに達すると、ADCのサンプリング・クロックの立上がりエッジにジッタが生じる可能性があります(図4)。その結果、ADCがアナログ入力信号をサンプリングする時点が予想外となり、ビット誤差のある予期しないデータ・ワードの原因となります。
図3 ノイズの多いSMPSの位相ノイズ・プロット例(1.23GHz、2MHzのスパン)
図4 ADCのサンプリング・クロック・エッジ・ジッタ(VCO出力)を経てADCのサンプリング誤差の原因となるノイズの多いVCO電源レール
ビット誤差の発生は、特にそれが大きい場合、明白な影響力を持つことがあります。ADCの実際のデータ・ワードと予測されるデータ・ワードの違いが、システム内で予期せぬ挙動を引き起こす可能性があります。例えば、データ・ワードが実際の電圧よりも高い入力電圧を示す場合は、システムの準備が整わないうちに早まってデバイスをアクティブにしてしまうおそれがあります。安全性が重要なアプリケーションでは、この予期せぬ状態が安全機能を損なう可能性があります。
特にEMIノイズ・シールド技術が開発されたことで、現在では、スイッチング・ノイズをLDOレギュレータの出力に混入させることなく、SMPSをLDOレギュレータに近接させて配置できます。SMPSとLDOレギュレータが1つにパッケージされれば、ノイズが減ること以上の利点を得ることができます。表1を参照してください。
設計の主眼点 | SMPS + LDOレギュレータ | LDOレギュレータ |
入力電源の柔軟性 | 広い入力範囲(3.5V~40V) 標準的な入力電圧レール |
狭い入力範囲 特定の入力電圧レール |
PCBレイアウトの簡素さ | ノイズに敏感な配線はデバイスに内蔵 基本的なPCB配線手法のみが必要 デバイスを他のノイズに敏感なデバイスの近くに配置可能 |
ノイズを最小限に抑えるために特定の配線が必要 より高度なPCB配線手法が必要 |
PCB実装面積の節約 | 12V/24VレールからLDOレギュレータ出力電圧への直接電圧変換 一般的でない中間バス電圧は不要 |
12V/24Vレールから特定の中間バス電圧への変換に追加レギュレータが必要となる可能性 |
設計の簡素さ | 設計は十分に試験/最適化済み ユーザによるプラグアンドプレイが可能 |
ノイズを最小限に抑えるためにより多くの先行設計/試験が必要 |
システム効率向上の可能性 | 少ない寄生損失 最適化されたLDOレギュレータ・ヘッドルーム 降圧レギュレータの部分が追加の外部LDOレギュレータを直接給電可能 |
スイッチング降圧コンバータとLDOレギュレータを1つのパッケージに集積する利点
スイッチング降圧コンバータ(SMPS)とLDOレギュレータを組み合わせたデバイスには、いくつかの利点があります。このようなデバイスは、12Vまたは24Vのような標準的なレールから給電可能で、入力電源を柔軟に提供できます。また、LDOレギュレータの出力を超える特定の電圧を維持するよう、中間バスを設計できます。これは、デバイスがより高い電圧で給電されている場合にも当てはまります。この電圧入出力制御(VIOC)機能は、回路の上流にあるSMPSの出力を制御することで、LDOレギュレータ用に設定されたヘッドルームを確保します。VIOCは、効率を最大にしながらも、電源電圧変動除去比(PSRR)を維持します。
SMPS + LDOレギュレータ・デバイスでは、ノイズに敏感な配線をその内部回路内に収めることができます。したがって、PCBレベルでの基本的な配線手法を用いるだけで、デバイスのノイズ性能を最適化できます。
更に、デバイスは、完全に内蔵されたEMIノイズ・シールドによる利点も備えています。EMIノイズ・シールドは、ボード上のSMPSのノイズ放射を全方向に放出させるのではなく、放出されたノイズ放射をLDOレギュレータから遠ざけるように振り向けます。この手法により、LDOレギュレータのノイズ抑制機能を損なうことなく、スイッチング・レギュレータをLDOレギュレータの近くに配置できます。その結果、ノイズの懸念があるためにこれまでSMPSには不適当と考えられていた領域に、完全に集積化されたデバイスを配置できます。
このデバイスのSMPS部分が、LDOレギュレータの定格を上回る電流を供給できる場合、パッケージに複数のLDOレギュレータを統合できます。更に、LDOレギュレータを中間バスに外付けすれば、ユーザの設計に一層の柔軟性が加わります。
デバイスのデータシートに記載されている仕様への適合性を確保するには、完全に集積化されたSMPS + LDOレギュレータ・デバイスを十分にテストする必要があります。それによって、仕様規定された条件をデバイスが確実に満たせるようになります。
LDOレギュレータに匹敵する低ノイズのスイッチング降圧コンバータ
LTM8080は、ベースラインのLDOレギュレータ・ソリューションに比べ、より柔軟性の高い入力電源電圧を備えながらも、電力損失を最小限に抑えます。図5に、LTM8080を用いたソリューションの例とその柔軟性のある設計を示します。LTM8080は、一緒にパッケージされた降圧レギュレータとLDOレギュレータの他、放射されたノイズの向きを変えるEMIノイズ・シールドを内蔵しています。
図5 LTM8080ソリューションは、ADF4372SD2Z評価用ボード上の2つのLT3045 LDOレギュレータを置き換えることに加え、ユーザ定義の第3のLDOレギュレータ出力を用いるオプションもあるため、システムの柔軟性が拡大します
LTM8080とLT3045のノイズ抑制能力を比較する測定では、ほぼ同じ結果が示されます。表2にS/N比の比較、図6に位相ノイズ・プロットを示します。したがって、LTM8080は、LT3045の置き換えとして使用しながらも、変わらずにビット誤差を最小限に抑え、効果的なノイズ抑制を確保できます。
ADF4372 : 5V PLLクロック電源 | S/N比 : AD9208 |
LT3045(ベースライン) | 53.6dBFS |
LTM8080 | 53.6dBFS |
図6 位相ノイズ・プロット:LTM8080(左)およびLT3045(右)
まとめ
テストの結果は、EMIノイズ・シールドなどの先進的なノイズ抑制技術を用いたSMPSデバイスが、効果的にLDOレギュレータに代わってノイズに敏感な電源レールに給電できることを明確に示しています。VCOの電源レールに焦点を置いて概念実証を行いましたが、SMPS + LDOレギュレータの集積化ソリューションによりもたらされる設計の柔軟性は、その他数多くのノイズに敏感なアプリケーションにも利点を提供できます。
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