要約
本稿では、アナログ・フィルタの基本について解説します。パッシブ・フィルタとアクティブ・フィルタの長所や短所、基本的な1 次/2 次のフィルタなどの話題を取り上げます。更に、オペアンプを使用したいくつかの実装例を示し、各種バイクワッド型フィルタの特徴などについて解説を加えます。
はじめに
フィルタを設計する際には、無数の構成、独特の用語、複雑な式を扱うことになります。それも理由の1 つなのか、この分野は黒魔術の世界のように例えられることも少なくありません。本稿では、様々な種類のフィルタを取り上げ、用語の意味や回路の構成要素など、設計において基盤になる基礎的な知識を提供します。フィルタの設計からできるだけ魔術的な部分を排除し、科学的に扱えるものであることを示したいと考えています。なお、本稿では主にローパス・フィルタを取り上げます。ただ、同じようなプロセスによってバンドパス・フィルタやハイパス・フィルタを設計することも可能です。
フィルタの設計が必要になったとき、最初に思い浮かぶのはどのようなことでしょうか。例えば、パッシブ・フィルタを使ってもよいのか、それともアクティブ・フィルタを使うべきなのかといったことを疑問に思う方も多いでしょう。パッシブ・フィルタは、抵抗、コンデンサ、インダクタなどの受動部品だけで構成されます。アクティブ・フィルタとは異なり、オペアンプは使用しません。パッシブ・フィルタの長所は、設計と実装がかなりシンプルであることです。また、シンプルな単極または2 極のフィルタを構成することになるので、その応答を簡単に計算することができます。単極のローパス・フィルタの場合、カットオフ周波数はfc = 1/(2×π×RC)という式で計算できます。ロールオフ率は6dB/oct または20dB/dec です。但し、パッシブ・フィルタには、以下のような明らかな欠点があります。
- フィルタの性能が、部品の値の許容誤差に非常に左右されやすい。
- 低い周波数に対応するためには、抵抗とコンデンサの値を非常に大きくしなければならない可能性がある。そうすると、回路の実装面積が大きくなる。
- 1 次または2 次のフィルタでは、アプリケーションにとって十分なロールオフ性能が得られない可能性がある。
- ゲインが必要な場合に、フィルタによってゲインを実現することはできない。
- フィルタの出力インピーダンスが高くなる可能性がある。一般的に抵抗の値は大きく設定するので、コンデンサの値をある程度抑えようとしても、次段のデバイスにとってソース・インピーダンスが非常に高くなることがある。このインピーダンスの値は、オペアンプを出力に追加すれば下げられる。しかし、オペアンプを追加すればフィルタとしての性能を高められるのに、出力インピーダンスを下げるためだけにオペアンプを追加するのは合理性に欠けると考えられる。
パッシブ・フィルタでは要件を満たせない場合には、アクティブ・フィルタを選択することになります。オペアンプを追加すれば、2 次のフィルタも簡単に実装することができます。2 次のフィルタは、より高次のフィルタを構築したい場合のビルディング・ブロックとしても使用されます。実際、2 次のフィルタを単純に連結するだけで、より高次のフィルタを実現可能です。フィルタの一般的な伝達関数は、次の式で表すことができます。
H(s) = K (s + z1)(S + z2)/[(s + p1)(s + p2)]
この式の分母と分子には2 次式が含まれています。このような伝達関数に対応するフィルタはバイクワッド・フィルタと呼ばれています。この式において、分子のzn の項はゼロ、分母のpn の項は極を表します。サレンキー(Sallen-Key)フィルタ、状態変数フィルタ、多重帰還フィルタなどは、すべてバイクワッド・フィルタの一種です。紛らわしいのは、「バイクワッド」という固有のトポロジも存在することです。そのため、正確な名称としては、バイクワッド・サレンキー・フィルタ、バイクワッド状態変数フィルタと呼ぶべきでしょう。それと並列なものとして、バイクワッド・フィルタも存在するということになります(これらについては後述します)。
以下では、ローパス・フィルタを例にとって説明を進めていきます。ローパス・フィルタの応答は次の式によって一般化することができます。
H(s) = K/(as² + bs + 1)
ここで、 a はR1R2C1C2、b はR1C1 + R2C1 です。
R1 = R2、C1 = C2 であるとすると、上の式は次のように簡略化できます。
H(s) = K/(R²C²s² + 2RCs + 1)
図1 に示したのはサレンキー型の2 次ローパス・フィルタです。このフィルタでは、出力がオペアンプの非反転入力端子に帰還されています。そのため、正帰還型のフィルタとも呼ばれます。このトポロジでは、必要なオペアンプは1 つだけです。比較的コストを低く抑えられることから、広く使われています。
図1. サレンキー型のローパス・フィルタ。値の等しい2 つの抵抗、2 つのコンデンサを使用しています。
しかし、このトポロジにはいくつかの欠点があります。まず、実現可能なQ 値(Quality Factor)の最大値が非常に低くなります。そのため、高いQ 値を必要とするアプリケーションには適していません。フィルタのQ 値は、基本的に共振時の消費エネルギーに対する蓄積エネルギーの割合を表します。Q 値の高いフィルタでは、ロールオフが非常に急峻になります。s 平面上で見ると、Q 値の高いフィルタの極の位置はjω 軸の近くになります。ここで、極がjω 軸の左側にあれば、そのデバイスは理論的に安定していることになります。Q 値は、特にバンドパス・フィルタの選定/設計を行う際によく使われます。一方、Q 値の逆数は減衰係数と呼ばれています。こちらはローパス・フィルタまたはハイパス・フィルタに関連してよく使われます。オペアンプを1 つだけ使用するサレンキー・フィルタの場合、Q 値は一般的に5 程度になります。
もう1 つの欠点は、この回路のゲインが、オペアンプに必要な最小オープンループ・ゲイン(90Q2)に対して、比較的低い(-3Q)ことです。これは、アンプのGB 積(利得帯域幅積)が、フィルタの最高カットオフ周波数よりもかなり高くなければならないということを意味します。フィルタの応答に対する制約や悪影響を確実に防ぐためには、かなり性能の高いオペアンプが必要だということです。
図2 に示したのは上記のような欠点を補える回路です。多重帰還型で無限ゲインのアーキテクチャを採用しています。これであれば、サレンキー・フィルタと比べて少し高いQ 値が得られます。このトポロジでも1 つのオペアンプを使用しますが、Q 値は25 程度になります。このトポロジでも、ゲイン(-2Q2)はオペアンプのGB 積(共振時に20Q2)に対して高いとは言えません。とはいえ、サレンキー・フィルタと比べれば問題は軽減されます。
図2. 無限インパルス応答、多重帰還型のローパス・フィルタ
このトポロジについては注目すべき点が2 つあります。1 つは信号が反転することです。もう1 つは、サレンキー型と同様に、ゲインとQ 値に密接な関係があることです。また、サレンキー型と多重帰還型のアーキテクチャは、どちらも部品のばらつきによって性能がかなり左右されます。より堅牢性の高いフィルタが必要な場合には、バイクワッド状態変数フィルタの採用を検討するとよいでしょう。同フィルタでは、3 つまたは4 つのオペアンプを使用します。以下、このアーキテクチャについて説明します。
バイクワッド状態変数フィルタ
図3 に示したのが、バイクワッド状態変数フィルタの基本的なアーキテクチャです。ご覧のように3 つのオペアンプを使用しており、サミング・ノード(加算器)に2 つの積分器が続く形で構成されています。このアーキテクチャは汎用性が高く、ハイパス、バンドパス、ローパスの応答を実現できます。それだけでなく、fc とQ 値を個別に制御できるという長所も備えています。
図3. バイクワッド状態変数フィルタのアーキテクチャ。3 つのオペアンプを使用しています。
図4 に示した回路では、4 つ目のオペアンプを追加しています。これであれば、Q 値とゲインの個別制御も実現できます。状態変数フィルタは、高いQ 値が必要な場合に理想的なものです。適切に設計を行えば、容易に500 以上のQ 値を得ることができます。また、オペアンプを1 つしか使用しないアーキテクチャとは異なり、オープンループ・ゲイン(3Q)はフィルタの出力ゲイン(Q)より少し高ければ問題ありません。ローパス・フィルタのゲインはQ なので、オペアンプのGB 積に対する要件が緩和されます。例えば、サレンキー・フィルタの場合、最小で90Q2 のオープンループ・ゲインが必要です。そのため、500 のQ 値が必要だとすると、22.5M のオープンループ・ゲインが必要になります。
図4. Q 値とゲインの個別制御が可能なバイクワッド状態変数フィルタ
以上のトポロジの中で、部品のばらつきによる影響を最も受けにくいのは状態変数型です。状態変数フィルタにはもう1 つ固有の性質があります。それは、カットオフ周波数fc が変化しても、Q 値とPBW(Percentage Bandwidth)が一定であるというものです。つまり、周波数領域においてfc を変化させてもQ 値は変化しません。また、フィルタの帯域幅はfc が高くなると減少し、低くなると増加します。なお、PBW は、100%×((FU - FL)/(√FU×FL)として定義されます。ここで、FU は3dB 帯域幅の上限周波数、FL は3dB 帯域幅の下限周波数、√FU×FL はfc です。
状態変数フィルタにも欠点は存在します。なかでも、3 つまたは4 つのオペアンプが必要になることが最大の問題になり得ます。例えば、消費電力の要件が厳しいアプリケーションではそのことが大きな課題になるでしょう。設計作業については、多くのソフトウェア・ツールや解説ドキュメントが提供されていることもあり、かなり単純明快な形で行えます。ただ、高いQ 値を扱う場合には、プリント回路基板のレイアウトと部品の選択を非常に慎重に行う必要があります。Q 値の高い回路は、部品のわずかなミスマッチによって不安定になる傾向があるからです。そのことが原因でフィルタ回路が発振に至る可能性も高くなります。
バイクワッド・フィルタ
最後に取り上げるのは、バイクワッド・フィルタです(図5)。このフィルタはバイクワッド状態変数フィルタによく似ています。ただ、構成要素は積分器、反転器、積分器の3 つとなります。このようなちょっとした違いによって、状態変数フィルタとは異なる振る舞いを示します。
図5. バイクワッド・フィルタ
大きな違いは次の点にあります。それは、バイクワッド・フィルタではfc の値が変化しても帯域幅は一定ですが、Q 値は変化するというものです。つまり、fc の値を変化させた場合、Q 値はfc が高くなると増加し、低くなると減少します。この違いを除けば、バイクワッド・フィルタは状態変数フィルタとよく似ています。Q 値を非常に大きくとることができ、3 つまたは4 つのオペアンプを使用した構成が可能で、部品のばらつきによる影響を受けにくいという点が共通しています。また、3 つまたは4 つのオペアンプを使用すると消費電力は多くなり、一般的には設計にも時間がかかるということについても同様です。特に、よりロールオフが急峻な応答を得るために複数段を連結してフィルタを構成する場合にはこの問題が顕著になります。加えて、オペアンプを4 つ使用すれば、1 つしか使用しない場合と比べてコストも高くなります。とはいえ、はるかに高い性能が得られるので、その点がトレードオフになります。
本稿では、オペアンプを使用するフィルタの設計例を紹介しました。アナログ・デバイセズは、フィルタの設計に使用できる様々な種類の高速/高精度のオペアンプを提供しています。自社で設計を行うことを避けたい場合には、代替策としてフィルタIC「MAX274」、「MAX275」を使用することも可能です。いずれもシングルチップのソリューションであり、2 次フィルタをビルディング・ブロックとして使用することで、それぞれ8 次(8 極)、4 次(4 極)のフィルタを構成しています。
バイクワッド型のアーキテクチャを採用した連続時間型のフィルタであり、ローパス応答とバンドパス応答を実現できます。
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