概要
設計リソース
設計/統合ファイル
- Schematic
- Bill of Materials
- Gerber Files
- Allegro Layout File
- Assembly Drawing
- LTspice Simulations
評価用ボード
型番に"Z"が付いているものは、RoHS対応製品です。 本回路の評価には以下の評価用ボードが必要です。
- EVAL-CN0508-RPIZ ($135.36) Software Controllable 75W Benchtop Power Supply
デバイス・ドライバ
コンポーネントのデジタル・インターフェースとを介して通信するために使用されるCコードやFPGAコードなどのソフトウェアです。
AD5686 GitHub Linux Driver Source Code (SPI)
nanoDAC+ GitHub no-OS Driver Source Code
機能と利点
- 75ワット電源
- 定電流(>3A)モードと定電圧(>25V)モード
- 真の0Vと0Aの動作
- 手動またはソフトウェアで制御可能
製品カテゴリ
マーケット & テクノロジー
使用されている製品
参考資料
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CN0508 User Guide2021/05/24WIKI
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ラピッド・プロトタイピングを実現するためのソリューション2024/04/15PDF4 M
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CN0508: 75 ワット単一出力ベンチトップ電源2020/06/01PDF393 K
回路機能とその特長
高品質のベンチトップ電源は、どんな電子工学や科学の実験室でも不可欠な機器となっています。なぜなら、電力の完全性が損なわれると、敏感な回路に予期せぬ故障が発生するおそれがあるためです。しかしながら、現在市販されている電源のほとんどは競争力のある仕様になっていますが、代償としてコストが高く、サイズや放熱が犠牲になっています。
図 1 に示す回路は、シングルチャンネルの 75W ベンチトップ電源で、0V~27.5V という広い範囲にわたって出力電圧を調整でき、電流制限/定電流動作(最大 3A)が可能です。

Raspberry Pi®互換拡張ヘッダーを用いると、ローカルのタッチスクリーンや、無線または有線のネットワーク接続を介した電子制御が可能です。出力電圧は手動またはソフトウェアで制御することができ、手動の電流制限制御により、定電圧動作から定電流動作への遷移が設定できます。
このベンチトップ電源は、ハイブリッド降圧/リニア・アーキテクチャを備えており、低出力リップル、低出力容量、優れた過渡応答、0V および 0A へのレギュレーション、およびヒート・シンクを必要としない低消費電力を実現します。このフル機能のソリューションは、低価格、小型で、スタンドアロン動作をさせる場合や他の装置に組み込む場合に容易に構成できます。
回路説明
CN-0508 は、市販の高性能電源に匹敵する性能を備えながら、低価格で調整可能なパワー・ソリューションを提供します。
この設計では、1 個の降圧コンバータ・プリレギュレータと、2個の並列リニア電圧レギュレータで構成されるハイブリッド回路を使用しています。この回路構成は、降圧コンバータが持つ高い電力効率と、リニア電圧レギュレータが持つ低出力ノイズ、低リップル、調整可能な電流制限を組み合わせたものです。
回路基板本体を除いてヒート・シンクは必要ありません。これは、十分な放熱を行うために、パス・デバイス(ディスクリート・トランジスタまたは集積回路レギュレータ)に外部ヒート・シンクを必要とするリニア・ベンチ電源と対照的です。
電源コア
LT8612 降圧コンバータ
CN-0508 の設計図の初段には、LT8612 同期整流式降圧コンバータが配置されています。降圧コンバータ、つまり降圧スイッチ・モード電源は、高い DC 電圧を低い DC 電圧に効率よく降圧します。また、降圧コンバータは、電流能力が同等のリニア電圧レギュレータと比較して、小型パッケージで低消費電力と高電力密度を実現できます。
システムへの DC 入力は、合計 32µF でフィルタリングとバイパスが行われてから降圧コンバータに入力されます。LT8612 は、30V の公称入力を LT3081 の最大ドロップアウト電圧 1.5V よりわずかに高く、電源出力より約 1.7V 高い電圧に効率よく降圧します。LT3081 レギュレータの両端の電圧降下をドロップアウトより少し高く維持すると、消費電力が最小限に抑えられ、ヒート・シンクを付加する必要がなくなります。
図 2 に、この複数の要素を内蔵したレギュレータの効率と電力損失を示します。最も厳しい条件では、全体の電力損失が 7Wになっています。基板が露出している場合は自由対流冷却が可能ですが、基板が密閉されている場合でも小さなファンしか必要としません。

一般に降圧コンバータは、次式のように帰還分圧器に基づいて出力電圧を調整します。
ここで、LT8612 の場合、VFBは 970mV です。図 3 に示すように、降圧段の出力が次段の出力より 1.7V 高い固定電圧に調整されるように、CN-0508 には改良された帰還経路が設けられています。

レギュレーション時には、FB ピンが 970mV になるように、194µA の電流が R6 を通って流れる必要があります。更に、0.85V(194µA ×1kΩ + VBE)の電圧が、VPREから Q1 のベースに加えられており、0.85Vが R8と R9の両端にかかるように、VPREは VOUTより 2 × 0.85V 高くなる必要があります。
LT3081 リニア電圧レギュレータ
降圧段の後段には、2 個の LT3081 リニア電圧レギュレータがあります。リニア電圧レギュレータは、パス・トランジスタの両端で超過電圧を降下させることによって、負荷電流や入力電圧の変化に関係なく、DC 出力電圧を一定に保ちます。リニア電圧レギュレータは、効率の低下を最小限に抑えながらスイッチング電源のリップルを抑圧するために、降圧コンバータの出力でよく使用されます。出力電圧が入力電圧に近い場合、これらのデバイスの効率を非常に高くすることができますが、レギュレーションを維持するための規定電圧(ドロップアウト電圧)未満では効率を高くすることはできません。
LT3081 は、短絡保護機能、逆入力保護機能に加えて、ヒステリシス機能と安全動作領域(SOA)保護機能付きのサーマル・シャットダウン機能も備えています。LT3081 の SOA 範囲が拡張されたことで、入力電圧中の予測できない大きなスパイクが消費電力増加の原因となるような過酷な産業環境やオートモーティブ環境での使用が可能です。
LT3081 は調整可能な電流制限/定電流機能も備えており、図 1の回路を定電圧モードまたは定電流モードで動作させることができます。内部の電流検出アンプは出力電流を測定し、図 5 に示すように、ILOAD/5000 の電流を IMONピンから出力します。この電流は更に 1kΩの抵抗によって 200mV/A の信号に変換されます。同様に、内部の温度センサーはダイの温度を測定し、1µA/°C の電流を出力します。この電流は更に 1kΩ の抵抗によって 1mV/°C の電圧出力に変換されます。
また、LT3081 は図 4 に示すように、出力電流を増やすために、容易に並列接続できる独自の機能を備えています。2 個のLT3081間は、OUTピンを除いて、一致するピン同士がすべて接続されています。OUT ピンには、出力電圧精度に及ぼす影響を最小限に抑えながら電流を正確に分担するために、10mΩ のバラスト抵抗を接続する必要があります。

Raspberry Pi プラットフォームへの給電
LT8609 同期整流式降圧レギュレータには、入力ジャックから直接給電されます。このデバイスは、最大 3A の電流で 5V の電圧を Raspberry Pi プラットフォーム基板、LTC1983-5 チャージ・ポンプ・インバータ、およびファン制御回路に給電します。出力電流は、ほとんどの Raspberry Pi 互換タッチスクリーンやその他のペリフェラルも十分に駆動できるため、別の電源を追加する必要はありません。
制御と診断
出力電流制限制御
EVAL-CN0508-RPIZ における 0A~3A の電流制限は、出力とLT3081 ILIM ピンの間に接続されたポテンショメータによって設定されます。LT3081 の電流制限機能は、0A~3A の公称範囲にわたって調整できるように設定されています。電流制限は電子的にプログラムすることはできませんが、デュアルギャング・ポテンショメータを使用しているため、電流制限設定値をソフトウェアでリード・バックすることができます。
出力電圧制御
電源の出力電圧は、LT3081 の SET ピンを介して調整されます。図 5 において、SET ピンはエラー・アンプの非反転入力であり、デバイスの動作バイアス・ポイントを設定するために用いられます。SET ピンに接続される電圧は、LT3081 のエラー・アンプと出力電圧のためのリファレンス・ポイントになります。

LT3081 には、SET ピンから 50µA の正確なリファレンス電流が供給されます。この SET ピンとグラウンドの間に固定抵抗または可変抵抗を接続することにより、出力電圧を設定することができます。一方、LT3081 が高精度のユニティ・ゲイン電力段として機能するように、SET ピンを電圧源から直接駆動することもできます。
EVAL-CN0508-RPIZ の調整可能な出力電圧 0V~27.5V は、図 6に示す高精度のアナログ AND 回路を経由して、5kΩ のポテンショメータを使用した手動方式、または AD5683R D/A コンバータ(DAC)を介したデジタル方式で設定できます。

DAC からとポテンショメータのワイパーからの 2.5Vのフルスケール出力電圧は、それぞれ非反転ゲインを 11 とした 2 個のLT6015 オペアンプの入力に接続されています。VDAC > VPOTの場合、出力 A2 のダイオードは逆バイアスされますが、出力 A1 のダイオードは導通し、VSETは VPOT × 11 になります。
VPOT > VDACの場合、動作は逆になります。このアナログ AND回路により、出力電圧は DAC とポテンショメータの出力電圧のうち低い方で決まります。このような構成とすることで、電子制御モード時に、手動制御によって過電圧フェイルセーフを機能させることができます。同様に、手動制御モード時に、アナログ・デバイセズが提供するソフトウェアにより、電圧出力をディスエーブルしたり、シーケンスしたりすることもできます。
多くのオペアンプは、入力間の大きな電圧差を許容できないことに注意してください。この回路は LT6015 独自の能力を利用して、損傷することも、入力電流をあまり引き込むこともなく、入力間の大きな電圧差を許容することができます。
2mA に設定された LT3092 電流源がアナログ AND 回路の出力を駆動するため、確実に D1 または D2 が順方向にバイアスされて帰還が維持されます。
LT6015 は最大 200pF を直接駆動できます。0.22µF のコンデンサと 150Ωの抵抗が直列に接続されたスナバ回路を付加することにより、このオペアンプはLT3081のSETピンに接続された0.02µFのフィルタ・コンデンサを駆動することができます。
0V のレギュレーションと 0A の制限
出力が 5mA の最小負荷電流をソースしている限り、LT3081 は0V の最小出力電圧を確保します。コンプライアンス電圧がわずかに負である 8mA の電流シンクが、NPN トランジスタおよびLTC1983-5 チャージ・ポンプ・レギュレータを用いて実装されています。更に、この負電源は、LT6015 で構成されるオペアンプ回路用の電源としても使用されており、グラウンドで動作可能です。
ILIM 抵抗が 200Ω より低ければ、LT3081 は、この電源における0A の最小電流制限を確保します。100Ω の小抵抗を ILIM ポテンショメータと直列に接続すると、回転範囲が最大限に拡大され、2 個のレギュレータを並列に使用した場合でもゼロ電流が確保されます。
システム診断
AD7124-4 24 ビットΣ-Δ A/D コンバータ(ADC)は、出力電圧、出力電流、および複数の診断パラメータを測定することができます。測定されるパラメータの概要を表 1 に示します。
AD7124-4 Input | Parameter | Scale Factor |
AIN0 | LT3081 (U2) temperature monitor | 1 mV/°C |
AIN1 | LT3081 (U3) temperature monitor | 1 mV/°C |
AIN2 | Output current monitor | 200 mV/A |
AIN3 | Input voltage | 14.33 V/V attenuator |
AIN4 | Output voltage | 10.52 V/V attenuator |
AIN5 | Current-limit potentiometer position | (0 V to 2.5 V = 0% to 100%) |
AIN6 | Voltage potentiometer position | (0 V to 2.5 V = 0% to 100%) |
AIN7 | Buck preregulator output/LDO input voltage | 14.33 V/V attenuator |
通常動作で使用される主な測定値は出力電圧と出力電流で、どちらも ADC が測定します。
電流制限設定値は電流制限ポテンショメータの位置から求められ、デュアルギャング・デバイス内の 2 番目のポテンショメータで測定されます。この構成により、電流制限設定値をソフトウェアで表示し、測定された出力電流が電流制限設定値に近づいた場合に警告のフラグを立てることができます。
電流制限設定値と同様に、電圧設定値もデュアルギャング・デバイス内の 2 番目のポテンショメータの位置から求められます。アナログ・デバイセズのソフトウェアはこの情報を使用して、出力電圧が低すぎて過負荷を示した場合、または出力電圧が高すぎて負荷が電源に逆電流を駆動していることを示した場合に警告のフラグを立てることができます。
両方の LT3081デバイスの温度モニタ・ピンも測定に使用されています。LT3081 デバイスでは消費電力は低く抑えられますが、空気の流れが制限された状態で、大電流で動作させると過熱状態になる場合があります。
診断を目的とした測定は他にも行われており、ソフトウェアを使用して故障状態を表示することができます。例えば、入力電圧が 28Vより低下した場合、または LDOのプリレギュレーション電圧が出力より高くはあるが、出力に対して 1.6V 未満に低下した場合、ソフトウェアは警告を発することができます。上記のどちらの状態も入力電源または CN-0508 自体が故障している可能性があります。
ファン制御回路
CN-0508 は、5V、1A 未満のファンをスイッチングする自動ファン制御回路を搭載しています。ADCMP392 は、2 個の LT3081 の温度信号と 60mV のリファレンス電圧を比較します。2 個のLT3081 のいずれかが 60ºC に達した場合に 5V の出力がイネーブルされるように、コンパレータの出力が互いにワイヤード AND接続されています。

システム性能
負荷レギュレーション
電源の出力電圧は、理想的には負荷に関係なく一定に保たれなければなりません。図 8 は、負荷電流がゼロから 2.5A に増加する間、CN-0508 の負荷レギュレーションは 20mV 以内にあり、出力インピーダンスは約 8.8mΩ に相当することを示しています。

定電圧から定電流への遷移
図 9 は、出力が短絡されたとき、CN-0508 が定電圧モードから定電流モードに遷移している様子を示しています。最初の出力電圧は 25V で、負荷抵抗は 25Ω です。その後、出力が短絡され、60µF の非常に小さな出力容量が放電するのに伴い、電流が200µs未満で急激にゼロに低下しています。この出力容量は、ほとんどの市販電源の出力容量よりも桁違いに小さいため、短絡故障時に逃がす必要のある蓄積エネルギーがその分だけ小さくなります。その後、LT3081 の電流レギュレーション・ループが2.5ms 後にレギュレーション状態になると、出力電流が 2.75A の電流制限設定値まで上昇します。

負荷ステップ・トランジェント
図 10 に、1A から 2A までの負荷ステップに対する CN-0508 の過渡応答を示します。

出力では、最初に 25Ω の負荷に 25V の電圧が加えられ、一時的に 2 つ目の 25Ω の抵抗のスイッチが入れられています。
熱性能
図 11 は、周辺温度が 30°C で自然空冷のとき、作業台から 2.5cmの高さに基板が水平に置かれ、定電流モードで 4Ω の負荷に2.75Aの電流が供給されているときのCN-0508の温度上昇を示しています。このように故意に熱状態を悪くしても、LT3081 の最高温度は 92°C となり、最高動作温度の 125°C よりもはるかに低くなっています。(密閉されている)基板に対して、40mm のファンで、毎分 0.2 立方メートル(m3/min)の気流を当てると、最高温度を 70°C に下げることができます。

バリエーション回路
LT3081 は並列動作が可能なため、アプリケーションで必要であれば、出力電流能力を 3A よりも拡大することができます。
電圧出力および電流出力の増大は、並列接続された複数のLT3081 をグループ化し、グループごとに単独の LT8612 とプリレギュレーション帰還回路を設けることによって実現できます。
回路の評価とテスト
EVAL-CN0508-RPIZ は、Raspberry Pi Zero を使用してテストしました。セットアップの全容やその他の重要な情報については、CN0508 User Guide をご覧ください。
必要な装置
- EVAL-CN0508-RPIZ 評価用ボード
- Globtek TR9CR3000T00-IM(R6B)パワー・アダプタ
- Raspberry Pi zero W
- HDMI®ディスプレイ
- HDMI ケーブル
- アナログ・デバイセズの Kuiper Linux イメージを搭載した8GB 以上の SD カード
- 消費電力が既知の様々な電力抵抗、電子負荷、またはテスト回路
- マルチメータ
- 4Ω、50W の抵抗
設計の開始にあたって
CN-0508 User Guide の指示に従って、SD カードにある CN-0508用の Raspberry Pi のイメージをロードします。
機能ブロック図
テスト・セットアップの機能ブロック図を図 12 に示します。

セットアップとテスト
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Raspberry Pi Zero W を CN-0508 の 40 ピン・コネクタの裏側に取り付けます。
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CN-0508 のデバイス・ツリー・オーバーレイを使用するために、アナログ・デバイセズの Kuiper Linux SD カードの設定を必ず行ってください。
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SD カードを Raspberry Pi Zero W に挿入します。
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キーボードとモニタを接続します。
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入力電源をオンにします。
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起動するとすぐに、IIO オシロスコープが自動的に動作し、図 13 に示すように、CN-0508 プラグイン・コントロール・パネルが表示されます。
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マルチメータを CN-0508 の出力端子に接続します。
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定電流制御ポテンショメータを最大に設定し(時計回りに回し切り)、電圧制御ポテンショメータをゼロに設定し(反時計回りに回し切り)ます。
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DAC を目的の出力電圧に設定し、出力がゼロにとどまっていることを確認します。
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電圧制御ポテンショメータを時計回りに回し、DAC の設定値に達するまで出力が増加することを確認します。
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4Ω、50W の抵抗を出力の両端に接続します。
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出力電圧を 8V に設定します(出力電流の読みを 2A にする必要があります)。
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出力電流の読みが 1A になるまで電流制限制御を減少させます。これは、回路が定電流モードに入ったことを示しています。負荷抵抗を更に減少させたり、出力を完全に短絡させたりしても出力電流は影響を受けません。

EVAL-CN0508-RPIZ の詳細なユーザ・ガイドは Analog Devices Wiki で入手できます。ハードウェアおよびソフトウェア動作のあらゆる側面に関しては、このユーザ・ガイドを参照してください。