ウェアラブル機器のLi-ionバッテリ用ワイヤレス・チャージャ、降圧DC/DCコンバータも内蔵

LTC4126」は、7.5mA出力のリチウムイオン(Li-ion)バッテリ用ワイヤレス・チャージャです。インダクタを必要としない1.2V出力のDC/DCコンバータも内蔵しています。補聴器やワイヤレス・ヘッドセットなど、スペースに制約があり、ワイヤレス充電機能が求められるウェアラブル機器向けに設計された製品です。電圧制御シリコン発振器「LTC6990」をベースとし、ZVS(Zero Voltage Switching)に対応するシングル・トランジスタ・トランスミッタとLTC4126を組み合わせることにより、完全なワイヤレス・チャージャ・ソリューションを実現できます。

効率の高いワイヤレス入力電源コントローラ

ウェアラブル機器では、バッテリのワイヤレス充電機能が広く採用されるようになっています。ウェアラブル機器からケーブルや露出コネクタを排除することにより、ユーザ・エクスペリエンスを高めることができるからです。LTC4126は、ワイヤレス電源コントローラを備えた製品であり、トランスミッタ(LTC6990をベースとする回路)側の送電コイルによって発生した交番磁界からワイヤレスで電力を受け取ることができます。ワイヤレス電源コントローラは、レシーバー側の共振タンクからのAC電圧を整流し、VCCピン向けのDC電圧を生成します(図1)。このDC電圧がリニア・チャージャに供給され、バッテリの充電に使用する電圧が生成(レギュレート)されます。

LTC4126が必要以上のエネルギーを受け取った場合、ワイヤレス電源コントローラは、レシーバー側の共振タンクをグラウンドにシャントします。それにより、リニア・チャージャの入力VCCを生成します。この方法によって、入力はバッテリ電圧VBATよりやや高めに保たれるので、リニア・チャージャは高い効率で動作します。また、共振タンクが受信する電力量は、シャント回路が働いている間は少なくなります。共振周波数は、トランスミッタの周波数によってデチューンされるからです。

図1. AC入力の整流とDCレール電圧の生成

図1. AC入力の整流とDCレール電圧の生成

フル機能のリニア・バッテリ・チャージャ

LTC4126は、定電流(CC:Constant Current)/定電圧(CV:Constant Voltage)に対応するリチウムイオン・バッテリ用リニア・チャージャを内蔵しています。また、同ICは、自動再充電、安全タイマーによる自動停止、不良バッテリの検出、動作温度範囲を外れた状態での充電の一時停止など、完全な保護機能群を備えています。それらにより、健全な充電サイクルが保証されます。加えて、同ICは、チャージャのステータスやバッテリの電圧レベルを表す信号をシステムのマイクロコントローラに通知する機能も備えています。

インダクタが不要で低ノイズのDC/DCコンバータ

LTC4126は、チャージ・ポンプをベースとするDC/DCコンバータを内蔵しています。このDC/DCコンバータにより、インダクタを使うことなくバッテリからの電圧をDC/DC変換し、システムの負荷に対して電力を供給することができます。このDC/DCコンバータは、ENピンによってターンオン/ターンオフすることが可能であり、マイクロプロセッサで制御できます。ENピンとPBENピンと併せて使用すれば、プッシュボタンによる制御も実現可能です。その際、デバウンス回路を追加する必要はありません。

チャージ・ポンプをベースとするDC/DCコンバータは、バッテリ電圧に応じて3つのモードで動作します。それにより、全般的な効率を高めます(図2)。

図2. バッテリ電圧とDC/DCコンバータの理論的な最大効率の関係

図2. バッテリ電圧とDC/DCコンバータの理論的な最大効率の関係

図3.ワイヤレス・チャージャ・システムにおけるレシーバー側の構成例。DC/DCコンバータを内蔵し、チャージャ・ステータス出力を備えるレシーバーを直径6mmのスペースに実装できます。

図3.ワイヤレス・チャージャ・システムにおけるレシーバー側の構成例。DC/DCコンバータを内蔵し、チャージャ・ステータス出力を備えるレシーバーを直径6mmのスペースに実装できます。

小さなプリント基板で完全なアプリケーション回路を実現可能

LTC4126は集積度の高い製品であり、わずか数個の外付け部品を使用するだけで、ワイヤレス・チャージャ・システムの完全なレシーバーを構成することができます。アプリケーション回路の基板のサイズは、直径6mmに収まります(図3)。これであれば、回路全体を補聴器やイヤホンの内部に実装することができます。

ZVS対応のシングル・トランジスタ・トランスミッタの構成

図4の左側に示したのは、ワイヤレス・チャージャ・システムの構成要素であるシングル・トランジスタ・トランスミッタです。これは、低消費電力のトランジスタを駆動するために発振器としてLTC6990を採用したシンプルな共振回路です。ZVS動作を実現するために、トランスミッタの共振タンク周波数fTX_TANKは、発振器の周波数fDRIVEの1.29倍に設定しています(図5)。このようにしてスイッチング損失を大幅に低減し、ワイヤレス充電における効率を全体的に高めています。このトランスミッタで使用するコンポーネントの数はわずか数個です。そのため、こちらも小型のケースに収めることができます。

図4. 完全なワイヤレス・チャージャ・ソリューションの構成例。ZVSに対応するシングル・トランジスタ・トランスミッタとLTC4126をベースとするレシーバーで実現しています。

図4. 完全なワイヤレス・チャージャ・ソリューションの構成例。ZVSに対応するシングル・トランジスタ・トランスミッタとLTC4126をベースとするレシーバーで実現しています。

図5. トランスミッタ側のZVS動作。fTX_TANK = 1.29×fDRIVEに設定しています。

図5. トランスミッタ側のZVS動作。fTX_TANK = 1.29×fDRIVEに設定しています。

まとめ

LTC4126は、ワイヤレス・チャージャ・システムのレシーバー向けソリューションです。集積度が高く、優れた保護機能を備えており、ウェアラブル機器に最適な製品となっています。LTC4126(ウェアラブル機器側)を、LTC6990を使用して構成したZVS対応のシングル・トランジスタ・トランスミッタ(充電ステーション側)と組み合わせることにより、完全なワイヤレス・チャージャ・システムを容易に実現可能です。これらのICを使用することにより、電力損失が少なく、低コストのシステムを構築することができます。

著者

Wenwei-Li

Wenwei Li

マサチューセッツ州ノース・チェルムズフォードにあるアナログ・デバイセズのパワー・プロダクト・アプリケーション・エンジニア。2014年中国長沙市の湖南大学で電気工学士号を取得、2016年オハイオ州コロンバスのオハイオ州立大学で理学修士号を取得。