トランスの2次側終端で高速ADCのゲイン平坦性を改善
要約
以下のアプリケーションノートは、高速アナログ-デジタルコンバータ(ADC)に前置されるシグナルコンディショニング回路に一般的に使用されるトランスの、1次側と2次側での終端の違いについて解説します。このアプリケーションノートは、高周波IFアプリケーション用として設計されたADCのゲイン平坦性および動特性に関して、これら2種類の終端構成の影響を詳述します。
高速なアナログ-デジタルコンバータ(ADC)の入力ネットワークの駆動および平衡のために、入力ネットワーク部品の適切な選択が重要です。(アプリケーションノート:「適切な入力ネットワークの選択によって高速ADCの最大の動特性と卓越したゲイン平坦性を達成する」を参照。)
高周波IFアプリケーションにおいて、終端インピーダンスの位置は特に重要となります。ゲイン平坦性と動特性のための要件に応じて、AC結合された入力信号は、トランスのどちらの側においても終端される場合があります。広帯域トランスは、広い周波数域のシングルエンド信号を差動信号に変換するための、高速で簡単な方法を支援する代表的な部品です。
1次側終端
このアプリケーションノートでは、異なった終端構成とADCのゲイン帯域幅および動特性への影響を示すために、マキシムが最近発売した250MHz、10ビット高周波IF ADCのMAX1124を選択しました。はじめに1次側終端の構成(図1a)から、インピーダンス50Ωの信号源がADT1-1WTトランスの1次側に供給されています。このトランスの2次側は、0.1µFのAC結合コンデンサを経由してMAX1124の入力フィルタネットワーク(10Ωのアイソレーション抵抗 + ADCの入力インピーダンス)とじかに接続されています。INPおよびINNに、入力フィルタコンデンサは接続されていません。この構成では、トランスの1次側は良好に平衡しますが、2次側はADCの公称入力インピーダンスの4kΩ/3pFとして見えます。2次側の不平衡は、トランスの漏れインダクタンスが結合することで共振回路を生成して450MHz~550MHzの間に、最大の周波数ピークを出現させます(図1b)。
図1a.
2次側終端
入力を差動駆動すると共に、周波数ピークをほぼ完全に除去するために、1次側の終端を除去し、代わりに2次側を終端したADT1-1WTにインピーダンス50Ωの信号が供給されています。この場合の2次側の終端とは、トランス(図2a)の上端/下端とセンタータップ間に配置された2個の25Ωの抵抗を意味しています。AC結合用の0.1µFのコンデンサおよび入力フィルタネットワーク(15Ωの直列抵抗 + ADCの入力インピーダンス)に続いて、良好に平衡した2次側の信号がコンバータに供給されます。図1の構成と同様に、INPおよびINNに、入力フィルタコンデンサは接続されていません。この構成によって、450MHz~550MHzの範囲の周波数ピークを完全に除去することができます。必要であれば、15Ωのアイソレーション抵抗を30Ωの抵抗と交換することによって、DC減衰量を増加させることができます。この手法は、周波数応答をより平坦にしますが、代償として周波数帯域内の損失が増加することになります(図2b)。
図2a.
図2b.
結論
掲載したこのアプリケーションノートは、高速データコンバータ用入力ネットワークの設計において重要な役割を果たす受動部品の適切な選択に役に立つのみならず、これらの部品の適切な使用方法がその上に重要であることを示しています。例えば、システムにおいてゲイン平坦性が重要な要素である場合、コンバータの本来の動特性の確実な再現を可能にするため、コンバータの差動入力における不平衡および共振を回避することに注意を払う必要があります。
また、両構成において入力フィルタコンデンサを使用しないという事は、INPとINNにおいて、さらにノイズを収集する影響についての懸念を引き起こす可能性もあります。これは同様に、簡単に解析され、0.2dBから0.5dBの信号対雑音比(SNR)の性能低下を生じる結果となります。広範な周波数域についての広い帯域幅および安定性(簡略すると: ゲイン平坦性)と高い動特性が要求される限り、ほとんどの高周波IFアプリケーションにおいて、10ビットデータコンバータのノイズ性能の少々の低下は受け入れることができるでしょう。
参考資料
¹ MAX1124EVKitのデータシート、Rev0、11/2003、Maxim Integrated, Sunnyvale, CA
² MAX1124のデータシート、Rev0、11/2003、Maxim Integrated, Sunnyvale, CA
³ Application Note 2882: 適切な入力ネットワークの選択によって高速ADCの最大の動特性と卓越したゲイン平坦性を達成する