LVDSが車載アプリケーションに高信頼性のビデオインタフェースを提供

要約

車載用ビデオアプリケーションにおいて、ビデオ信号の妨害を低減する方法の1つとして、アナログ信号の代わりにディジタル信号を用いるということが挙げられます。ディジタルビデオ伝送に最も効果的なインタフェースとして、低電圧差動信号(LVDS)がすでに知られており、その小さな信号振幅(0.35V)と差動構造によって電磁波放射が最小限に抑えられています。

今日の自動車で最も成長の著しい信号形式はビデオ信号です。数年前までは、ナビゲーション機器の周辺に設置されたナビゲーションシステム専用の小型スクリーンが、車内唯一のビデオディスプレイでした。高級車では、これに同じディスプレイで表示することができるテレビ信号が加えられました。ただし、このビデオ信号は、テレビレシーバからディスプレイまで、かなりの距離にわたって伝送する必要がありました。画像情報のフォーマットには、コンポジットビデオベースバンド信号(CVBS)と呼ばれるアナログビデオ信号が使用されていました。

近年、さまざまな開発が加速化されたことによって、ビデオソース、ディスプレイ、および関連するビデオ伝送ラインの利用可能性が大幅に向上することになりました。以下の記事では、これらの開発のいくつかについて説明しています。

以前、ナビゲーションディスプレイは本体機器から分かれていたため、比較的容易に運転者から見やすい位置に取り付けることができました。このサブシステムの分離によって、新たなビデオ伝送ラインが必要となりました。今日、ますます多くのディスプレイが自動車内に組み込まれています。その中には、速度、回転数/分、自動車の状態などを表示するための電子パネルや、後部座席の同乗者がテレビやDVDを見ることのできるマルチメディアディスプレイがあります。各ディスプレイに、それぞれビデオ伝送ラインが必要です。

将来の自動車には、バックミラーやサイドミラー用のカメラ、暗視カメラ、および路面表示の認識を行うカメラなど、運転者のサポートを目的としたさまざまな種類のカメラが搭載されるでしょう。ここでもまた、それぞれのカメラのビデオ伝送ラインをディスプレイまで接続しなければなりません。

車内の伝送ライン数の増加、特に各ラインの距離が増すことによって、アナログCVBS信号の伝送における問題がますます顕著になってきています。この信号形式は、車内で発生が予想される電磁波妨害に対してあまり耐性が高くなく、またディスプレイの大型化および解像度の向上によってビデオ信号の妨害はさらに顕著に現れます(このような妨害の発現例の1つに、マルチパス効果があります)。

ビデオ信号の妨害を最小限に低減する方法の1つは、アナログ信号の代わりにディジタル信号を用いることです。ただし、忘れてならないことは、ビデオ伝送ラインそのものは妨害の原因ではないということです。低電圧差動信号(LVDS)は、ディジタルビデオ伝送において最も適したインタフェースとしてすでに知られています。その小さな信号振幅(0.35V)および差動構造は、電磁波放射を最小限に低減する最高の品質をLVDSラインにもたらします。

車載用ビデオシステムに現在集積されているMAX9213/MAX9214チップセットなどの第1世代のデバイスは、LVDS送信/受信コンポーネントを搭載し、ナビゲーションディスプレイに接続するための、1つのクロック出力および3つのデータ出力を提供します(図1)。3つのパラレル出力は、画像伝送に必要なデータレートを実現するために必要であり、クロック出力は、伝送の同期に使用されます。

図1. 8つの出力を持つ第1世代のLVDSトランスミッタ/レシーバ

図1. 8つの出力を持つ第1世代のLVDSトランスミッタ/レシーバ

第1世代のLVDSデバイスの不利な点の1つは、必要なデータレートでの伝送を実現するために4組のツイストペア線(8出力)が必要になるということです。1組のペア線に比べ、8つの出力は機械的な柔軟性の制限から設置が困難で、当然コストも高くなります。その課題に応え、第2世代のLVDSデバイスでは、MAX9247/MAX9248チップセット(図2)などのICを改善策として提供しています。これらのICは、画像データおよびクロックの伝送に1組のペア線のみを使用します。

図2. 2つの出力を備えた第2世代のLVDSトランスミッタ/レシーバ.

図2. 2つの出力を備えた第2世代のLVDSトランスミッタ/レシーバ

この第2世代のチップセットの重要な特長の1つは、LVDSでは通常利用することができない出力の容量結合のオプション機能です。この結合によって、電位差が数ボルトにもなるトランスミッタとレシーバ間のグランドオフセットの問題を解消します。DC結合インタフェースにおけるこのような電位差は、データ伝送を完全に不可能にするばかりでなく、電子モジュールを破壊してしまうほどの電流を発生する場合もあります。

容量結合を実装する場合には、これらのコンデンサが送信データによって長時間にわたって一方向に帯電されないように気をつける必要があります。このような帯電は、たとえば、一連の長い「1」が送信されるときなどに生じます。MAX9247やMAX9248などの第2世代のデバイスは、「DCバランシング」という手法を用いてこの問題を回避しています。この手法では、通過するデータをICがモニタしており、過度に長い一連の1または0が見つかると、ICは送信する前にデータの一部を反転します。レシーバがデータを受け取ると、再度データを反転させ、元の形に戻します。このように、コンデンサの過剰帯電を避けるため、トランスミッタは一連の各データが通常か反転かを、常にレシーバに通知しています。

第2世代のデバイスは、最大42MHzでの動作が可能であるため、1.15Gbpsにも達するデータレートを実現しています。このクロック周波数の増大も、より多くの電磁波放射を発生させることになります。したがって、EMI (電磁波妨害)を最小限に低減するために、スペクトラム拡散伝送などの技術が採用されています。スペクトラム拡散技術は、低いディザ周波数でクロックをディザリングすることで、EMIピークのエネルギを周波数帯域全体にわたって拡散しています。全体のエネルギは変わらないため、EMIの最大振幅は低減されます(図3)。

図3. EMIを低減するスペクトラム拡散手法

図3. EMIを低減するスペクトラム拡散手法

第2世代のデバイスは、大型ディスプレイへの接続を主な目的として設計されています。自動車の各種カメラの接続には、ディスプレイ接続に必要な高いデータレートは必要ありません。このため、マキシムが提供する第3世代のLVDSには、最小5MHzのより低いクロック周波数で機能し、幅を低減したパラレルバスを備えたデバイスが搭載される予定です。

カメラへの接続を主な目的とし、ディスプレイへの接続にも対応した第3世代のデバイスに対してさらに求められる機能の1つには、制御データの伝送があります。制御データは、ディスプレイの輝度やコントラスト、また、カメラの感度の設定に使用されます。現在のシステムは別のインタフェース(CAN、LIN、またはUART)を用いるため、当然より多くのコンポーネントやケーブル、スペース、コストが必要となります。第3世代のLVDSデバイスは、LVDSインタフェースを経由して制御データをじかに伝送することができるようにする予定で、これによって余分なインタフェースが不要になります。