DN-183: LT1370 :500kHz、6A モノリシック・ブースト・コンバータ

現在のLT1371/LT1372®500kHzスイッチャ・ファミリを補完し拡張するために、リニアテクノロジーは6Aブースト・コンバータのLT1370を発売します。完全なスイッチング・レギュレータに必要なすべての発振器、コントロール回路および保護回路とともに、高効率のスイッチを内蔵しています。このICは、モノリシック・ソリューションの便利さと部品点数が少ないという長所と個別パワー・デバイスおよびコントローラのスイッチング機能を兼ね備えています。0.065Ωのオン抵抗、42Vの最大スイッチ電圧、および500kHzのスイッチング周波数のため、広範囲の出力電圧および電流アプリケーションに使用できます。小型で高効率のDC/DCコンバータを完成するのに、数個の表面実装部品しか必要ありません。LT1370の特長には、電流モード動作、外部同期、低電流シャットダウン・モード(標準12mA)などがあります。

回路の説明

LT1370は電流モード・スイッチャです。これはスイッチのデューティ・サイクルが出力電圧ではなく、スイッチ電流によって直接コントロールされることを意味します。この方法には次のような利点があります、すなわち入力電圧変動への即応が可能、大幅に簡略化された閉ループの周波数補償、およびスイッチの保護を強化するパルス-バイ-パルスによる電流制限です。内部低ドロップアウト・レギュレータが、すべてのコントロール回路に2.3Vの電源を供給します。この低ドロップアウト設計によって、デバイス性能を実質的に低下させることなく、入力電圧は2.7V~30Vまで変化することができます。内部の500kHzの発振器は、すべてのタイミングに対する基本クロックです。バンドギャップ・リファレンスがフィードバック誤差アンプの基準電圧を与えます。

LT1371と同様に、誤差アンプ回路によって、LT1370は負の出力電圧を直接安定化することができます。NFBピンは-2.48Vで安定化されますが、アンプの出力は内部でFBピンを1.245Vにドライブします。誤差アンプは電流出力(gm)タイプであるため、VCピンに生じる出力電圧を外部でクランプして、電流制限を下げることができます。コンデンサで結合された外部クランプによって、ソフト・スタートが可能です。

S/Sピンには、同期とシャットダウンの2つの機能があります。内部発振器は、このピンにTTLの方形波を加えると、より高い周波数に同期することができます。これによって、S/Sピンをシステム・クロックに同期させることができます。S/Sピンを“L”に保つと、LT1370はシャットダウン・モードに入ります。シャットダウン・モードでは、すべての内部回路はディセーブルされ、電源電流が12mAに減少します。内部プルアップ抵抗によって、S/Sピンがオープン回路のときでも、確実に起動できます。

5Vから12Vのブースト・コンバータ

図1に、標準的な5Vから12Vへのブースト・アプリケーションを示します。スイッチ定格が6Aと高いため、この回路は最大24Wまで出力できます。図2にコンバータ全体の効率を示します。ピークの効率が90%であり、回路の最大出力電流2Aで効率が86%以上を維持していることに注目してください。ピークの電流値に適合するよう、注意してインダクタを選択する必要があります。出力コンデンサは、このアプリケーションの場合のように、1個のコンデンサのリップル定格より大きなリップル電流を受けることがよくあります。その場合は、2個の表面実装タンタル・コンデンサを並列に使用する必要があります。両方のコンデンサは同じメーカの同じ容量のものでなければなりません。入力コンデンサは、そのような大きなリップル電流に耐える必要はなく、また通常は1個のコンデンサでも十分です。キャッチ・ダイオードD1の定格は、出力電圧と平均出力電流に適合する必要があります。補償コンデンサC2は、直列抵抗R3とともに2Hzから20Hzの範囲で通常はポールを形成して、1kHzから5kHzでゼロを加えます。この例において、S/Sピンはロジックのオン/オフ信号によってドライブされ、“L”入力はLT1370を12mAのシャットダウン・モードにします。

図1. 5Vから12Vのブースト・コンバータ

図1. 5Vから12Vのブースト・コンバータ

図2. 12V出力の効率

図2. 12V出力の効率

正から負のコンバータ

負のフィードバック・ピン(NFB)を使用すれば、直接フィードバックを用いて負出力レギュレータを設計できます。図3に示す2.7V~13V入力、-5V出力の回路で、出力はNFBピンと単純な分割器ネットワークによってモニタされます。複雑なレベル・シフト技術や一般的でない接地手法は不要です。S/Sピンは、スイッチング周波数を600kHzの外部クロック信号に同期させるのに使用します。

図3. 直接フィードバックを用いた正から負のコンバータ

図3. 直接フィードバックを用いた正から負のコンバータ

スイッチ・クランプ・ダイオードD2およびD3は、トランスT1からのリーク・スパイクがスイッチの絶対最大電圧定格を超えないようにします。D2のツェナー電圧は出力電圧よりも高くなければなりませんが、入力電圧とクランプ電圧の合計がスイッチ電圧の定格を超えないようにしなければなりません。

5V SEPICコンバータ

図4はSEPICコンバータの一例です。SEPICトポロジーは、入力電圧範囲が出力電圧を上下の両方に延長する利点があります。図4では、バッテリは固定5V出力を維持しながら、充電レベルを9Vから4V以下にすることができます。また、入力から出力への直接経路はありません。S/Sピンを接地して、LT1370をシャットダウンに強制した場合、出力にリーク電流は流れません。シャットダウン時は、バッテリ電流はLT1370の入力電流である12mAまで減少します。インダクタL1AとL1Bの磁気結合は動作に重要ではなく、通常それらのインダクタは同じコアに巻かれています。C2が2つのインダクタを結合して、スイッチ・スナバ・ネットワークを不要にします。

図4. 2つのLi-Ionセルから5VへのSEPICコンバータ

図4. 2つのLi-Ionセルから5VへのSEPICコンバータ

まとめ

スイッチ抵抗が小さく、動作電流が6Aで、しかも500kHzで動作できるため、LT1370は小型で、部品点数の少ない大電流アプリケーションに理想的です。スイッチング周波数が高いため、容積の大きい磁気部品やコンデンサは必要ありません。個別コントロール・デバイスやパワー・スイッチを使用する場合と比較すると、LT1370はモノリシック形状のため、設計作業が簡単で、より低い入力電圧での動作が可能であり、完全なDC/DCコンバータのために必要なボード・スペースが少なくてすみます。

著者

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Karl Edwards