Power over CoaxにおけるGMSLラインフォルト検出の使用方法

要約

マキシムのギガビットマルチメディアシリアルリンク(GMSL)シリアライザ/デシリアライザ(SerDes)製品の多くは、グランドへの短絡、バッテリへの短絡、およびケーブル切断に備えてラインフォルト検出回路を内蔵しています。Power over Coax (PoC)を使用する場合は、正しいラインフォルト動作を実現するために特別な構成が必要です。このアプリケーションノートでは、ラインフォルト回路をPoCに適応させる方法、および過電圧や過電流状態から保護するためのソリューションについて説明します。

はじめに

機器間にケーブルを使用するアプリケーションでは、機器を物理的に検査しなくてもラインフォルトを診断することができれば好都合です。マキシムのGMSL製品の多くは、グランドへの短絡、バッテリへの短絡、およびケーブル切断を検出するためにラインフォルト検出回路を内蔵しています。このアプリケーションノートでは、GMSLラインフォルト回路をPower over Coax (PoC)に適応させる方法を説明し、過電圧や過電流状態から保護するためのソリューションを提示します。一例としてSerDesペアのMAX96705MAX96706を取り上げます。シリアライザとデシリアライザの両方がローカル電源を持つ場合、同軸ケーブルには外付け抵抗器R1、R2、R5を通じてバイアスがかけられます(図1)。

図1. PoCなしのラインフォルト検出.

図1. PoCなしのラインフォルト検出.

Power over Coaxとは、まさにその名のとおり、同軸(Coax)ケーブルを通じた電力の伝送です。この給電方式は、電力とデータに同一のケーブルを使用することから、ファントム電源としても知られています。GMSL PoCアプリケーションでは、高速シリアルデータ、UART/I2Cコマンド、DC電力がすべて同軸ケーブル上に存在します。

GMSL製品はもともと、PoCなしのツイストペアシステムでフォルトを検出するように設計されました。PoCとラインフォルト検出の両方が必要な場合は、正しく動作させるために代替の回路が必要です。同軸ケーブルには、電源によって設定された電圧でバイアスがかけられます(カメラアプリケーションでは通常、5V~12V)。この場合、ラインフォルト抵抗器を再構成する必要があり、高速GMSLリンクにDC電力を入出力するためにPoCフィルタも必要です。この新しい構成については、図2を参照してください。

図2. PoCに対応したラインフォルト検出.

図2. PoCに対応したラインフォルト検出.

内蔵ラインフォルト回路

チップ内のラインフォルト検出回路は、発生し得る各種ライン状態(グランドへの短絡、バッテリへの短絡、ケーブル切断、通常動作)を検出するためのマルチレベルコンパレータを実装しています。これを図3に示します。表1は、MAX96706ラインフォルト検出入力コンパレータの電気的仕様をデータシートから抽出したものです

図3. 内蔵マルチレベルラインフォルトコンパレータ.

図3. 内蔵マルチレベルラインフォルトコンパレータ.

表1. DCの電気的特性:ラインフォルト検出入力(MAX96706).
Parameter Symbol Min Typ Max Units
Short-to-Ground Threshold VTG 0.3 V
Normal Threshold VTN 0.57 1.07 V
Open Threshold VTO 1.45 VIO + 0.6 V
Open-Input Voltage VIO 1.47 1.75 V
Short-to-Battery Threshold VTE 2.47 V

表1には、4つのスレッショルドと1つの定義済み電圧が記載されています。スレッショルドとは、ラインフォルト状態を保証する電圧範囲です(LMN_ピンで測定)。スレッショルド範囲外の電圧は、2つの隣接する状態のどちらかである可能性があります。たとえば、電圧がVLMN_ = 0.4Vである場合、ラインフォルト出力はグランドへの短絡または通常動作のどちらかである可能性があります。オープン入力電圧(VIO)は、ラインがオープンで、LMN_ピンが45.3kΩの抵抗器を通じてプルアップされている時にLMN_で測定される電圧です。図1では、45.3kΩはPoCなしのラインフォルトアプリケーションにおけるR1の値です。図4(a)はラインがオープンである時の等価回路を示し、図4(b)はラインフォルトスレッショルドを視覚的に示したものです。

図4. ラインフォルトスレッショルド.

図4. ラインフォルトスレッショルド.

PoCのラインフォルト

PoCでは、同軸ケーブルには通常、VAVDD = 1.8Vを上回る電圧でバイアスがかけられます。PoCの電圧として一般的な値は5Vと12Vです。ラインの電圧がVAVDD = 1.8Vを上回るため、LMN_ピンにVTN内の電圧でバイアスがかかるように図1のラインフォルト抵抗器R1、R2、R5を選択する方法はありません。選択した抵抗値にかかわらず、LMN_で測定される電圧は通常動作時でも1.8V以上です。したがって、別の抵抗分圧回路を使用する必要があります。

5V PoC

5V PoCでは、R1 = 49.9kΩ、R2 = 10.2kΩとなるように図2のR1とR2を選択します。この回路を簡略に示したものが図5です。ラインに5Vで適切にバイアスをかけると、LMN_の電圧は通常動作のスレッショルドVTNの中点である0.85Vとなります。ケーブルがグランドへの短絡の場合、LMN_の電圧は約0Vでグランドへの短絡を示します。ケーブルがバッテリへの短絡の場合、同軸ラインには約12Vの電圧がかかります。この状態ではLMN_の電圧は2.04Vで、定義されたスレッショルド範囲から外れます。ラインフォルト出力は「オープンケーブル」または「バッテリへの短絡」を示します。コントローラが「オープンケーブル」を「バッテリへの短絡」と解釈することが重要です。オープンケーブルは通常動作と同じに見えるため、PoCを使用する際に検出方法がありません。表2は、5V PoCについてラインフォルト電圧と出力をまとめたものです。

図5. 5V PoC用のラインフォルト抵抗分圧回路.

図5. 5V PoC用のラインフォルト抵抗分圧回路.

表2. 5V PoCに対するラインフォルト動作の要約
Condition LMN_ Voltage (V) Line-fault Detector Output
Short-to-Ground 0 Short-to-Ground
Normal Operation 0.85 Normal Operation
Open Cable 0.85 Normal Operation
Short-to-Battery (12V) 2.04 Open cable or short-to-battery

12V PoC

12V PoCにも5V PoCの場合と同じ抵抗分圧回路を使用しますが、R1を133kΩに変更します。図6はこれを示しています。133kΩの抵抗器を選択して、通常動作時に0.85VでLMN_にバイアスをかけます。12Vは自動車のバッテリ電圧にほぼ等しいため、バッテリへの短絡を検出する方法はありません。グランドへの短絡と通常動作は、ラインフォルト出力にそのまま示されます。12V PoCに対するラインフォルト電圧と出力のまとめについては、表3を参照してください。

図6. 12V PoC用のラインフォルト抵抗分圧回路.

図6. 12V PoC用のラインフォルト抵抗分圧回路.

表3. 12V PoCに対するラインフォルト動作の要約
Condition LMN_ Voltage (V) Line-fault Detector Output
Short-to-Ground 0 Short-to-Ground
Normal Operation 0.85 Normal Operation
Open Cable 0.85 Normal Operation
Short-to-Battery (12V) 0.85 Normal Operation

PoCシステムにおける保護

PoCを使用するGMSLアプリケーションでは、PoCフィルタ、同軸ケーブル、および電源の損傷防止に注意を払う必要があります。ケーブルがグランドへの短絡の場合、これはバッテリへの短絡に近い状態を招き、過電流状態をもたらします。5V PoCアプリケーションでは、バッテリへの短絡についても対処する必要があります。過電圧状態によって電源レールに接続された回路が損傷する恐れがあるためです。

MAX20087は、PoCアプリケーションにおける過電圧、低電圧、過電流、および過熱状態の検出と管理が可能なクワッド電源プロテクタです。このデバイスは、すべてのチャネルで個別に保護を提供します。あるレーンでフォルトが生じると隔離され、他のレーンの機能には影響が及びません。このデバイスはフォルトが一時的なものにすぎない場合、そのチャネルに対して自動的に再給電を試みます。また、MAX20087は、I2Cインタフェースを通じて高度なモニタリングと診断を提供します。このデバイスと監視コントローラを組み合わせると、セーフティクリティカルシステムでASIL-Dへの適合を達成可能です。4つの保護レーンがあり、4台のカメラによるサラウンドビューシステムに最適です。図7は、GMSLシステムにおけるMAX20087の配置を示しています。

図7. GMSL PoCアプリケーションにおけるMAX20087を使用した電源保護.

図7. GMSL PoCアプリケーションにおけるMAX20087を使用した電源保護.

結論

PoCを使用するGMSLアプリケーションでは、正しいフォルト検出を実現するために代替のラインフォルト回路が必要です。この回路の設計は、PoCの電圧レベル(通常、5Vまたは12V)によって異なります。ケーブルがバッテリへの短絡またはグランドへの短絡に際しては、電源レールに接続された部品の損傷を防止するために追加の保護回路が必要です。MAX96705とMAX96706を組み合わせて使用すると、安定した高速のSerDesとPoCが同一のケーブルで実現します。さらに、MAX20087を使用すると、4つのPoC GMSLリンクで過電流および過電圧状態からの保護を実現することができます。