オートモーティブ機器用および工業機器用の高効率同期整流式SEPIC
はじめに
LT8711は、同期整流式の昇圧、降圧、SEPIC(Single-Ended Primary-Inductor Converter)、およびZETAトポロジ、または非同期の昇降圧トポロジをサポートするDC/DCコントローラです。アナログ・デバイセズは様々な同期整流式の昇降圧コンバータとレギュレータを提供していますが、同期整流式SEPICトポロジはやや稀な存在です。しかしSEPICトポロジは、入力電圧が出力よりはるかに低くなるか、逆にはるかに高くなる場合でも、安定した電圧出力レベルを提供できるため非常に有用です。この特性は、コールド・クランクやロード・ダンプなどへの対応が要求されるオートモーティブ用電子部品や、電源ラインが長く、工場設定値ではブラウンアウトが発生する可能性のある工業用アプリケーションに不可欠なものです。オイルおよびガス機器では、SEPICコンバータを使用して複数の異なる電源から重要な負荷に電力を供給することで機器の信頼性を向上させることが可能で、1つの電源が使用できなくなった場合は、入力の電圧レベルが異なる場合でも、SEPICが別の電源を使用して負荷に対応することができます。
回路の構成と機能
LT8711を使用する同期整流式SEPICコンバータの回路図を図1に示します。LT8711は、以下で構成されるパワー・トレインを制御します。
- 2つの非結合インダクタ、L1 と L2
- ピン BG で駆動される変調 N チャンネル MOSFET、MN1
- ピン TG で駆動される 2 つの同期式 P チャンネル MOSFET、MP1 とMP2
- デカップリング・コンデンサ、C1、C2、C3
- 入力および出力フィルタ

図1. SEPIC および降圧アプリケーション用LT8711 の回路図
入力電圧14Vのコンバータの効率を図2に示します。この同期スキームにより効率は高い値に保持され、ピーク時の値は93.4%に達します。図3と図4は出力レギュレーションの状態を示したもので、入力電圧が出力電圧を大きく上回ったり下回ったりした場合でも、出力は安定した状態を維持します。

図2. LT8711 SEPICの効率

図3. コールドクランク・イベントのモデル。レール電圧VINが15Vから6Vに低下していますが、VOUTは12Vで安定。

図4. ロードダンプのモデル。レール電圧VINが10Vから20Vに上昇していますが、VOUTは安定。
標準デモ回路DC2493Aに修正を加えて出力電流を4Aから6Aに増やし、MOSFET MN1とMP1、およびインダクタL2を、図1に示すコンポーネントに置き換えました。
この設計の評価には、変更後のデモ回路DC2493Aを使用しました。変更後のボードの熱画像を図5に示します。LT8711のデモ回路には、同様のソリューションであるLTspice®モデルが組み込まれています。SEPICパワー・トレイン・コンポーネントの選択に関する推奨事項の詳細は、LT8711のデータシートを参照してください。

図5. DC2493A と、動作中のSEPIC の熱分布(6A でVIN 14V、VOUT 12V)。最大温度のコンポーネントはMNI で、温度は77°C。
このトポロジの機能を理解するために、ピーク電圧とピーク電流の基本的な式を下に示します。
IL1 = IIN + ΔIL1
IL2 = IOUT + ΔIL2
VBG = VTG = VIN + VOUT
ITG = IBG = IIN + IOUT + ΔI/2
まとめ
LT8711は、同期整流式の昇圧、降圧、SEPIC、ZETA、および非同期整流式昇降圧トポロジのコンバータでの使用を目的とした、汎用性と柔軟性の高いコントローラです。特に、同期整流式SEPICは入力電圧範囲の中央付近の効率的な出力を生成するために使用できますが、これはオートモーティブ用および工業用アプリケーションにとって非常に重要です。