DS1864を使用したAPD用の高度RSSI較正

要約

このアプリケーションノートは、SFPレーザおよび診断ICのDS1864を使用し、アバランシェフォトダイオード(APD)を使用する光レシーバ用の高度な受信信号強度インジケータ(RSSI)較正を実行する方法について説明します。この記事では、APDとRSSIの関係を検討し、DS1864での高度なRSSIの基本動作について説明します。

APD RSSIの概要

多くの光モジュールは、高感度アプリケーション用のアバランシェフォトダイオード(APD)ベースの光レシーバを使用しています。そのようなモジュールでは、受信信号強度インジケータ(RSSI)は、トランスインピーダンスアンプ(TIA)の出力における電気信号振幅でなく、光フォト電流に基づいています。図1は、電圧出力を備えた標準電流モニタ回路を示しています。

Figure 1. Schematic for a typical APD current monitor.
図1. 標準APD電流モニタ回路図

APDからの電流は、IAPD = PRX × M × η式によって求められます。ここで、

IAPD:電流(mA)
PRX:受信電力(mW)
M:APDアバランシェ利得係数
η:変換効率(A/W)

変換効率は、多くの構造係数、温度、および波長によって決まります。標準では、0.65 < η < 0.95の範囲にあります。

APD利得は、APDをそのブレイクダウン電圧VBR近くにバイアスすることによって達成されます。VBRは、標準的に、20V~80Vの範囲にあり、APD構造と動作温度の両方によって決まります。APDのバイアスがその特定のブレイクダウン電圧に近いほど、Mは高くなります。APDがアバランシェモードにある場合、Mは、M ∝ √(VBR/(VBR - VAPD))の関係で示されるように、VBRとVAP (APDに印加される電圧)に比例します。Mの正確な計算は、APD材料タイプ、利得領域サイズ、およびその他の変数によって決まります。155Mbps~40Gbps範囲の標準APD動作では、Mは、標準的に、3 < M < 10の範囲に設定されます。標準APD利得曲線は、図2のとおりです。図1に戻って参照すると、R1は、光入力電力の増大に応じてMを下げることによって、APDのダイナミックレンジを増大するために使用されています。R1からの電流が増大すると、APD上の電圧は減少します。これによって、APDはそのブレイクダウン電圧からさらに離れ、その結果、M ∝ √(V/BR/(VBR - (VBIAS - IAPD × R1)))で示すように、Mが下がります。Mは、前の式M ∝ √(VBR/(VBR - (VBIAS - PRX × M × η × R1)))に代入すると示されるように、それ自身によって決まることに注意してください。10:1モニタ比で電流ミラーを使用し、ADC (VADC)に出力される電圧は、次のような式によって求められます。

VADV = IAPD × (1/10) × R2 = PRX × M × η × (1/10) × R2

Figure 2. A typical APD gain curve.
図2. 標準APD利得曲線

高度RSSIの概要

SFPレーザおよび診断ICのDS1864は、13ビットADCへの差動入力であるMON3チャネル用の高度RSSIモードを備えています。高度RSSIは、デュアルレンジ機能としても知られています。高度RSSIモードでは、ADCは、ファインモードとコースモードという、最大2種類の読取りを受け入れます(モードについては、DS1864のデータシートの20~21ページを参照)。ファイン読取りは、小さい入力信号を測定するために自動的に使用されます。しかし、大きい信号がADCに入力された場合、コースモードが自動的に使用されます。

APD RSSI測定値の場合、高度RSSIの2つのレンジが独立したオフセットとスケールの較正係数を持つことに注意することが重要です。さらに、ファインモードは、ADC結果の最大7ビット右シフトも可能です。7ビット右シフトに設定された場合、最大ファインモード読取りは01FFhで、最小コースモード読取りは01E0hです。重複部分(01FFh~01E0h)において2つのレンジがトグルするのを防止するために、31ビットのヒステリシスが存在します。

APD RSSIのデュアルレンジ較正

SFF-8472に準拠するために、モニタ回路とADCは、1 LSB = 0.1µWとなるように較正される必要があります。Mは入力電力とともに変化するため、最適なADCステップサイズは各LSBを0.1µWに維持するように変化する必要があります。Mが3~10の範囲で、単一のADC LSBの重みが使用される場合、これによって、総誤差は10×log10(10/3) = 5.23dBとなります。DS1864では、2つの異なるADCレンジを個別に較正可能であるため、2つの異なるLSBの重みを定義することができます。これによって、Mの変化によって生じた誤差が低減されます。図3は、標準APDとモニタに基づいた理想LSB重みと2個の異なる重みを示しています。

Figure 3. A typical APD monitor's the ideal ADC LSB weight and actual calibrated weights.
図3. 標準APDモニタの理想ADC LSB重みと実際の較正済み重み

LSB重みの間の重複は、MON3ファイン変換が7ビット右シフトに設定された場合に、ADCステップ1E0hと1FFhの間で発生します。最適なLSB重み値は、APDとモニタ回路に基づいて決定される必要があります。この前の例で与えられた結果のRSSI誤差は、図4のとおりです。

Figure 4. RSSI error in a typical APD monitor application.
図4. 標準APDモニタアプリケーションのRSSI誤差