高精度計測アンプを使用した、負電圧電源レイル上の電流検出

要約

ISDNや電気通信システムのようなアプリケーションでは、負電圧の電流検出アンプが必要になります。このアプリケーションノートでは、負レイルの電流検出アンプを設計するための1つの方法について説明します。この設計は非常に柔軟性が高く、様々な負レイルの監視用に容易に変更することが可能です。単一電源計測アンプMAX4460を使用してこの設計を実証します。

はじめに

ハイサイド電流検出アンプは、主として正の電源レイルからの電流を監視するために使用されます。しかし、ISDNや電気通信の電源のようなアプリケーションでは、負レイルで動作する電流検出アンプが必要になります。このアプリケーションノートでは、負レイルの電流検出アンプを設計するための1つの方法について説明します。

アプリケーション例

Figure 1. Block diagram of a telephone central-exchange, power-supply system.
図1. 電話中央交換機、電源システムのブロック図

図1は、一般的な電話交換機の配電回路のブロック図を示しています。整流器によって主電源のACがDCに変換され、整流器からのDC出力が48Vの鉛蓄電池の充電に使用されます。その蓄電池が電話線を通してユーザの電話機への給電を行います。電池の極性は、電話線の電圧が負(-48V)になるように接続されます。ライン電圧を負にすることで、湿った電話線上での電気化学反応による腐食の発生を減少させることができます。電気通信網でも、複数のDC-DCコンバータを使用して-48VのDC入力から中間電源レイルを作り出します。この中間電源が、スイッチ、無線機、ルータ、ATXコンピュータなど、電話交換局内の各種電子機器に対する給電を行います。電流検出アンプで-48Vの電源電流を監視することによって、システムの状態を管理することが可能です。

回路の説明

Figure 2. Negative-rail, current-sense amplifier using the MAX4460.
図2. MAX4460を使用した負レイル、電流検出アンプ

図2の回路は、負レイル、電流検出ブロックの実装を示しています。MAX4460MAX4208などの計測アンプと、若干のディスクリート部品を使用しています。

ツェナーダイオードD1が、動作に十分な電源電圧を供給する一方で、過電圧による損傷から計測アンプを保護します。監視対象の電流は、検出抵抗RSENSEを通って負電源に流れます。計測アンプは、単一電源で、グランド検出機能付きで動作する必要があります。

MAX4460の出力が、MOSFET M1のゲート駆動を提供します。負帰還によって、抵抗R3の両端における電圧降下が、RSENSE両端の電圧VSENSEに等しくなることが保証されます。したがって、負荷電流に比例する電流がR3によって設定されます。

IOUT = (ILOAD × RSENSE)/R3 = VSENSE/R3(Eq. 1)

R2は、出力電圧が後続の回路(一般的にはADC)にとって望ましい範囲内になるように選択します。MOSFETのドレイン/ソース間ブレークダウン電圧定格が、2つの電源レイル間の総電圧降下(この例では+125V)を上回っている必要があります。ADCがハイインピーダンス入力を備えていない場合は、VOUTにオペアンプバッファを追加することができます。障害が発生して検出電流が定格電圧を上回ると、出力電圧が負になります。ダイオードD2が、出力の負電圧を1ダイオード降下分までに制限することによって、ADCを損傷から保護します。

設計手順

上記の設計は、簡単な修正によって高電圧、負電源、電流検出監視機能を追加することが可能です。この柔軟性を明確に示すため、負レイルとして-120Vを選択します。以下の単純明快な手順を使用することによって、様々な電源レイルに応じた電流検出アンプを設計することができます。

1. ツェナーレギュレータの特定

ツェナーの伝達特性の中で動的抵抗が低くなるポイントに(すなわち、十分に逆方向ブレークダウン領域の範囲内まで)バイアスして、PSRR誤差を防ぐことが重要です。図3は、逆バイアス構成にした標準的なツェナーダイオードについて、ツェナー電流とツェナー電圧の関係を表したグラフです。このデータからは、ブレークダウン電圧付近ではツェナー電圧が十分安定化されないことが分かります。したがって、電力定格によって規定される最大電流の約25%にバイアスポイントを選択するのが目安となります。このバイアスポイントによって、過大な電力損失を伴わずに低い動的抵抗を得ることができます。次式に基づいて抵抗R1を選ぶことによって、バイアスポイントを希望の値に設定します。

IR1 = (VCC + |VNEG| - VZ)/R1 = IS + IZ(Eq. 2)

ここで、
VCC = 正レイル電源電圧
VZ = 安定化されたツェナー電圧
|VNEG| = 負レイル電圧の絶対値
IS = MAX4460への供給電流
IZ = ツェナーダイオードを流れる電流

R1は、適切な電力定格を備え、大きな電圧に耐えることができる必要があります。あるいは、より低Wの抵抗を直並列に組み合わせて使用することによって、これらの制約を緩和することができます。

Figure 3. 1N750 Zener diode transfer characteristic, VZ = 4.7V.
図3. 1N750ツェナーダイオードの伝達特性(VZ = 4.7V)

2. パワートランジスタの選択

nチャネルMOSFET、またはJFETは、ドレイン/ソース間ブレークダウン電圧定格が|VNEG| + VCCより大きい必要があります。負電源が高電圧の場合は、これが重要な制約になります。

3. RSENSEの選択

RSENSEは、RSENSEにかかる検出電圧がフルスケールで100mV以下になるように選択します。

4a. R3の選択

R3の選択にはかなりの柔軟性があります。選択の適否は、次の2つの条件に影響されます。

  1. 利得が一定の場合、式1から、R3を小さくするほど電力損失が大きくなることが分かります。
  2. FETの熱雑音と漏れ電流によって、選択可能なR3の値の上限が決まります。

4b. R2の選択

抵抗R2とR3の比が、結果としての電流検出アンプの電圧利得に等しくなります。出力電圧は、次式で与えられます。

VOUT = VCC - IOUT × R2(Eq. 3)

式1および3から、次式を得ます。

VOUT = VCC - (VSENSE × R2/R3)

VSENSEについて微分すると次の解が得られます。

電圧利得 Av = -R2/R3(Eq. 4)

マイナス符号は、出力電圧と入力検出電圧の間に反転関係があることを示しています。式4より、R2を決定することができます。

結果

図4は、結果として得られる標準的な出力電圧を、検出電圧の関数としてグラフ化したものです。次に示す値を、電流検出アンプの標準的なパラメータと考えることができます。

入力基準の出力電圧 = (5 - 4.9831)/49.942
= 338µV

利得 = -49.942

Figure 4. Output voltage variation with variation in sense voltage at T = +25C.
図4. T = +25℃における、検出電圧の変化に対する出力電圧の変動

結論

このアプリケーションノートでは、MAX4460などの高精度、計測アンプを使用して負電圧の電流検出を行う方法を示しました。ここで説明した回路は、上述の設計手順に従うことによって、容易に設計を変更して様々な負レイルの監視に利用することができます。

同様の記事が、「Power Electronics Technology」誌(Penton Publication)の2007年8月号に掲載されています。

著者

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Akshay Bhat