株式会社近藤電子工業
株式会社近藤電子工業

 

Customer Case Study

エッジデバイスの開発は、デジタル化の加速に追いつけるか。

電源設計も1度の試作でクリア。3社の共創から生まれた、国内初、Agilex™ 5E搭載のSoM評価ボード。

株式会社近藤電子工業のロゴ

1984年設立のハードをメインとするシステム開発の設計専門会社。CRTテレビの時代から、民生用製品の基板設計サービスを提供。今日では国内に4カ所、海外に2カ所の拠点を設置し、産業/インフラ向けのIoT製品を中心に、量産品のデザインサービス、試作製造~量産までのEMSサービスを手掛ける。
https://kd-group.co.jp/

顧客課題: 高度化するエッジデバイスの短期間・低コスト・低リスクでの開発
導入製品: アナログ・デバイセズの電源製品
顧客: 株式会社近藤電子工業

高性能を短期間で。デジタル化の加速がメーカーに突き付けた難題。時代は、FPGAベースのSoMへ。

急速に進化するAI、ロボティクス、エッジコンピューティング…。近年、業界・業種を問わず、あらゆる領域にデジタル化の波が押し寄せている。それも、かつて想像できなかった速度で。デジタル化を支えるエッジデバイスへのニーズもますますシビアになり、メーカーは短いスパンで高性能製品の開発を余儀なくされている。つまり、開発に期間とコストをかけるわけにはいかないのだ。特に最近は市場のニーズが多様化。多品種少量生産を求められる傾向があり、メーカーを取り巻く環境は厳しさを増している。

高性能・短納期を実現するために、製品の性能・機能を評価する基盤である評価ボードにも進化が求められている。いかに開発の期間とコスト、そしてリスクを減らせるか。こうした中、注目を集めているのが、SoM(System on Module)搭載の評価ボードだ。

開発現場のニーズをキャッチし、早くからSoMを搭載した評価ボードの開発を手掛けてきたのが、株式会社近藤電子工業とマクニカ アルティマ カンパニー(以下マクニカ)である。「開発現場で働くお客様のニーズに耳を傾け、寄り添うのが私たちの信条です。SoMで提供すれば、お客様自らの設計作業が不要となり、開発の期間短縮、コスト・リスクの低減が可能になります。その分、競合他社との差別化ポイントとなる、AIアルゴリズムなどに注力できるため、いまや評価ボードへのSoMの搭載は必須と言っても過言ではないでしょう」と話すのは、近藤電子工業の事業統括 中村順司氏。

開発現場の課題について意見を交わす中村氏

開発現場の課題について意見を交わす中村氏

エンベデッドからSoMへと移行する中、もうひとつ変化したことがあった。それは、SoMのベースがCPUからFPGA(Field Programmable Gate Array)へ、トレンドが移行したことである。FPGAは、プログラミングによってハードレベルでのアップデートが可能な集積デバイスだ。

従来のCPUベースのSoMは仕様が固まっているため、アップデートという概念を受け付けない。一方、独自のデザインを組めるFPGAをベースに、そこに高性能CPUを内蔵する形をとれば、開発者それぞれの設計思想を柔軟に実現できる。他社差別化や検証結果への対応が容易に行えるのだ。そのため、FPGAベースのSoMにいま注目が集まっている。

お客様が望むのは短期開発だけではない、その先のいち早い上市。開発と量産、その両方に活用できるプラットフォームを。

開発現場において“いち早い開発を”というのをよく耳にするが、突き詰めればこれは“いち早く世に出したい”ということである。

こうしたニーズに応えるのが、近藤電子工業とマクニカが共同開発した「Mpression Sulfur(エムプレッション サルファー、以下Sulfur)」である。マクニカの技術ブランドMpression製品として開発されたSulfurは、国内で初めて Agilex™ 5 FPGA & SoC Eシリーズを搭載した評価ボード。SoMに加え、多様なインターフェースを搭載しているのが主な特長だ。

「 Agilex™ 5Eの登場によって、このレンジのFPGAの高集積化・高性能化は一気に進みました。もちろん、このレンジを使って開発されるお客様もいますが、設計期間やコストを考慮する必要があります。そのため現場では、二の足を踏むお客様も少なくありません。そんな開発現場のニーズを汲み取って完成したのが、この評価ボードです。Sulfurは、開発評価フェーズと量産設計フェーズの両方に活用でき、Sulfur で開発および検証した後はシームレスに量産モデルへ組み込めます。つまり、量産化にいたるプロセスをワンステップ削減できるのです。それは、そのまま開発の期間とコストの削減に直結します。多様なインターフェースも搭載しているため、様々な用途でこれらのメリットを享受していただけるでしょう」と話す中村氏。

そんなSulfurの開発はどのようなものだったのか。開発の契機や両社の挑戦について、さらに深く話を聞いた。

※Agilex™ 5 FPGA & SoC E:低消費電力で高性能、小型パッケージを特徴とする ミドルレンジ FPGA

今回共同開発した評価ボード「Sulfur」

今回共同開発した評価ボード「Sulfur」

“国内初”を目指して、ペーパースペックから始まったプロジェクト。

プロジェクト始動のきっかけは、Agilex™ 5E の登場を両社がいち早くキャッチしたことだった。「社内外の経験豊富な技術者のノウハウを詰め込んで、より高度ですぐに使えるサービス・ソリューションを提供するのが、マクニカの技術ブランドMpressionです。Agilex™ 5E の登場を聞きつけ、プロジェクトの話が持ち上がったとき、開発パートナーとして真っ先に浮かんだのが近藤電子工業さんでした。昔からお付き合いがあり、SoMの開発と製造に長けているのをよく知っていましたし、過去にもHelioボードと呼ばれる同じくMpression製品の開発実績があったことも、今回共同開発を試みた大きな理由でした」と、マクニカのアナログソリューション第1事業部に所属する笠原毅敬氏は振り返る。同氏は、マクニカの中でアナログ・デバイセズのソリューションを扱う部署に所属。Sulfur開発では電源回路設計が大きなテーマであり、同氏はアナログ・デバイセズの電源製品にも詳しいことから、このプロジェクトに参加することになった。

近藤電子工業にて打ち合わせをする笠原氏

近藤電子工業にて打ち合わせをする笠原氏

マクニカから共同開発を提案された近藤電子工業は、二つ返事で応じたという。「Agilex™ 5Eを搭載したSoMの設計が難易度の高いものであることは、これまでの経験から容易に想像がつきました。難しいプロジェクトだとは思いましたが、我々の経験や強みが活きる貴重な場を提供してもらえたこと、なによりもマクニカさんとまた新たなものを生み出せることにワクワクしました。『ぜひやらせていただきます』といった形でお引き受けしてプロジェクトはスタートしました」と中村氏。確実な成功を見通せない大きな挑戦ではあったが、それでもチームの力を信じて踏み出したのだという。

こうして、SoMを近藤電子工業、電源周りを含む技術サポートをマクニカが担うという、盤石の布陣を築き開発を進めることとなった。

開発に向け一丸となる近藤電子工業のメンバー

開発に向け一丸となる近藤電子工業のメンバー

ひときわ真剣な眼差しを向ける営業担当の近藤氏(写真中央)

ひときわ真剣な眼差しを向ける営業担当の近藤氏(写真中央)

しかし、開発をスタートした時点から、チームの前には大きな壁が立ちはだかっていた。 それは、リリースのタイミングがすでに決められていたこと。それも、かなり短納期なうえに、手元にあるのはペーパースペックのみ。時間を考慮すると、通常は複数回行うこともある試作を、今回は1発の試作で満足のゆくクオリティーまで仕上げる必要があった。

これほど納期が急がれたのには理由があった。

それは、“国内初”を目指したためである。けれど、決して名誉にこだわったわけではない。“これを必要とする人の元へいち早く届けたい”という想いがそうさせたのだという。

※Helioボード:Mpressionが開発したARMベースSoCデバイスCyclone® V SoCを搭載したスタータキット

近藤電子工業、マクニカ、アナログ・デバイセズ、それぞれの力を結集させた挑戦。

時間に追われるチーム。しかし、Agilex™ 5Eを搭載したSulfurを完成させるには、時間だけでなく、開発自体にもかつてないほど高いハードルがあった。FPGAの微細化が進み低電圧化したことで、各電源の精度がよりシビアに問われるようになったのである。

「大電流時でも、電圧ドロップを最小限に抑える必要がありました。例えば“3Vの±5%”と“1.1Vの±5%”では、電圧の許容値が大きく異なります。それだけ 電源一つひとつの精度がより高いレベルで求められたのです。電源ICの精度、PCBの配線抵抗、使用環境温度などあらゆることを考慮する必要があり、SoM側を担当した私たちにとって最大の課題に直面しました」そう語るのは、近藤電子工業 技術統括グループのマネージャー 吉本幸二氏。

続けて、同グループのPCB設計チーム所属 徳尾琢也氏。「我々近藤電子工業は、これまでもFPGA を搭載したKEIm(ケイム)シリーズ【下記参照】などの開発を手掛けており、高密度小型化設計を得意としています。吉本の言う通り電源回路設計のハードルは高かったのですが、約40年にわたりプリント基板に携わる中で培ってきたノウハウやPI解析を駆使し、電圧ドロップを抑えることができました。また、PCB設計を行う過程で、マクニカさんにも部品レイアウトやパターンを確認・フィードバックをいただけたのがとても心強く、それが結果的にデバイスの能力を最大限に引き出すことにつながりました」

開発画面を見ながら議論する吉本氏(写真奥)と徳尾氏(写真手前)

開発画面を見ながら議論する吉本氏(写真奥)と徳尾氏(写真手前)

Sulfurの評価風景

Sulfurの評価風景

Sulfurのブロック図

Sulfurのブロック図

マクニカの強みはシステム全体を熟知していること。かつ幅広い分野で培ってきた技術サポート力が、今回のプロジェクトでも大いに発揮された。そのひとつが、アナログ・デバイセズ製品の選定および提案である。

「私たちマクニカはアナログ・デバイセズの販売代理店として、Sulfurに求められる要件に適した電源ICを、迅速に、そして慎重に探っていきました。アナログ・デバイセズは、高精度の電源製品を豊富にラインナップしていることが持ち味。また、LTspice🄬やEE-Sim🄬など、信頼性の高いツールが揃っていることも大きな強みです。今回これらの製品やツールが、Sulfurの開発を大きく後押ししてくれました」と話す笠原氏。

続けて、マクニカのアナログソリューション技術統括部に所属する吉田樹正氏。「実は当初、電源周りではアナログ・デバイセズのµModule®という製品を提案していたのですが、性能面は申し分なかったものの全体最適を考えると他の電源構成の方が良いという結果に至り、振り出しに戻る事態がありました。それでも立ち止まっている暇はありません。シミュレーションを幾度となく行い、その結果に基づいて確証を持ったうえでの再提案を粘り強く繰り返しました。試行錯誤の末、トータルのQCDFと我々のサポート力が評価され、なんとか乗り越えることができました」

近藤電子工業にて笠原氏(写真右)とともに打ち合わせをする吉田氏(写真左)

近藤電子工業にて笠原氏(写真右)とともに打ち合わせをする吉田氏(写真左)

マクニカの2人を前に議論を展開する、近藤電子工業の営業担当 宮本氏(写真左)と安達氏(写真中央)

マクニカの2人を前に議論を展開する、近藤電子工業の営業担当 宮本氏(写真左)と安達氏(写真中央)

※KEIm:Alteraのエッジセントリック FPGAを搭載した量産対応のSoM。産機用途など、ライフサイクルの長い製品にも活用可能

KEImのロゴ

お客様の声とSulfurの未来

あらゆる課題を乗り越えて、2024年4月についにリリースされたSulfur。当初予定していたゴールがまさにこのタイミングであった。予定通りにリリースできたことへの安堵と、“国内初”の実現に開発チーム全体が沸いたという。

「有難いことに、すでに“Sulfurを使って開発を行いたい”という声をいくつもいただいています。チームとしての今後の目標は、Sulfurを量産設計フェーズでもどんどん使っていただけるものに発展させること。リリースして終わりではなく、この製品をもっと多くの方に手に取っていただけるように、変わらず近藤電子工業さんとともに手を携えてやっていきたいです。また、Mpresssion製品をより拡充させていき、開発現場の力になれたらと思います」と笠原氏。

「マクニカさんとアナログ・デバイセズさんのサポートがなければ、Sulfurは実現しませんでした。すでにSulfurを使われたお客様からは“いち早く開発できて良い”などポジティブな反応もいただき、このプロジェクトに携われてよかったと実感しています。デジタル化の進展とともに、メーカーは、高性能製品の短期開発を求められるようになってきています。こういったお客様の負担を少しでも減らせるよう、当社は、FPGAを搭載したSoMの製品化に今後も注力します。そして、マクニカさんのPR活動と連携したり、販売ネットワークを活用させていただきながら、SoMはもちろん、SoMをベースにした設計デザインの提案をいち早く行っていきたいと考えています。これからも、マクニカさん、アナログ・デバイセズさんとより良い関係を築きながら、国内外のお客様のさらなるニーズに応えていきます」と吉本氏。

Sulfurの活用範囲は非常に幅広い。マシンビジョン、ロボット・モーターコントローラーなどの産業用途から 、AGV・AMRやサービスロボットに代表されるスローモビリティ、物体検知、ビデオ監視および自動運転支援など、幅広いアルゴリズム開発や検証、システムの機能拡張に活用可能である。今後、あらゆるジャンルで欠かせない存在になっていくに違いない。

Sulfur開発メンバー

Sulfur開発メンバー

近藤電子工業

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