AN-713: 電圧リファレンスの長期ドリフトについて

電圧リファレンスの長期ドリフト(LTD)は、混乱と誤解を招きやすいパラメータです。データシートには代表的なパラメータとして記載されていますが、システムの精度を大きく制限する結果を招くこともあります。一度のキャリブレーションで誤差を除去できる温度係数や初期精度とは異なり、LTDを低減するには頻繁にシステム・キャリブレーションを行う必要があります。この作業には時間がかかり、コストもかさみます。したがって、LTDが何を意味しているかを理解しておくことが大切です。

大部分のデータシートでは、LTDをppm/1,000時間の単位で規定しています。1,000時間は41.5日に相当し、1年は8,766時間になります。あるデバイスが70ppm/1,000時間のドリフト変動を示すと規定されている場合、これは1年で613ppm変動することを意味するのでしょうか? そうではありません。これはよくある誤解ですが、データシートを読むだけで、LTDが実際は何を意味しているかを理解していないことが原因です。

下のグラフは、アナログ・デバイセズの標準的なバンドギャップ電圧リファレンスの代表的なLTD特性曲線を示しています。温度50°Cの管理された環境条件で、このデバイスの出力電圧を1,000時間にわたり1時間ごとに記録しました。

図1. 1,000時間の代表的な長期ドリフト

このグラフからわかるように、デバイスは最初の200時間で大きく変化します。この初期の変化の後、最後の800時間の間、出力電圧の変動はほとんど見られません。この後の1,000時間の間に発生する変動は、一般に最初の1,000時間のときの変動の1/4以下になります。この傾向はそのまま続き、ドリフトの変化は前の期間の約1/4に低減します。出力の変化は、“酔っ払いの歩き方“のようなパターンになります。つまり、変化はランダムで、予測できません。出力は最初の期間に正の方向に変動したのに、次の期間では負の方向に変動したりします。

  • 70ppm/1,000時間とは、デバイスのドリフトが1年間に613ppm変動することを意味するのではなく、1年当たり140ppmほど変化すると考えたほうが適切です。
  • 変化はランダムであるため、デバイスのドリフト変化がある方向で始まったからといって、そのまま同じ方向で変化を続けるわけではありません。

LTDの影響を除去する方法

  • 200時間が経過した後でシステムのキャリブレーションを実施し、初期の変化を除去します。
  • 短時間、デバイスにバーンイン処理を行い、初期の変化を200 除去します。

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Colm Brazil