AN-2564: 絶縁型DC/DC 電源を使用した16 ビット絶縁型工業用電圧および電流出力DAC

回路の機能とその利点

図1 に示す回路は、プログラマブル・ロジック・コントローラ(PLC)や分散型制御システム(DCS)に適した、16 ビットの完全に絶縁された+10V 電圧と4~20mA 電流を出力します。

この回路は、デジタル・アイソレーションと、PWM制御の電源レギュレーション回路およびそれに伴うフィードバック・アイソレーションを使用しています。絶縁障壁越しに電力を伝送するために外部トランスが使われており、回路全体は1 次側にある+5V の単電源で動作します。絶縁型電源モジュールではサイズが大きくなったり出力レギュレーションが不十分になったりしがちですが、その点、このソリューションは絶縁型電源モジュールより優れています。

デジタル・アイソレータは光アイソレータより優れており、特に複数チャンネルのアイソレーションが必要な場合にこれが当てはまります。集積化された設計は、ローカル・システム・コントローラから回路を分離してグラウンド・ループから保護すると共に、過酷な工業環境においてしばしば発生する外部イベントに対する信頼性を確保しています。

図1. 絶縁型電源を使用した絶縁型16 ビット電流および電圧出力DAC

図1. 絶縁型電源を使用した絶縁型16 ビット電流および電圧出力DAC

回路の説明

AD5422 は必要な機能をすべて内蔵した、設定自由度の高い16 ビットの電圧および電流出力DAC で、出力を4mA~20mA、0mA~24mA、0V~5V、0V~10V、±5V、±10V のレンジに設定できます。電圧出力ヘッドルームは通常1V で、電流出力は約2.5V のヘッドルームを必要とします。これは、15V の電源を使い、20mA の電流出力で約600Ω までの負荷を駆動できることを意味します。

ADuM347x は、PWMコントローラと低インピーダンスのトランス・ドライバ出力(X1およびX2)を内蔵する4 チャンネルのデジタル・アイソレータです。絶縁型DC/DC コンバータに唯一必要な追加部品は、トランスと簡単な全波整流ダイオードです。このデバイスは、5.0V または3.3V の電源入力使用時に、絶縁型安定化電源として最大2W の電力を供給します。このデバイスを使用することにより、別の絶縁型DC/DC コンバータが不要になります。

ロジック信号の絶縁にはiCoupler チップスケール・トランス技術を使っています。また、内蔵トランス・ドライバと絶縁された2 次側制御回路により、絶縁型DC/DC コンバータは高い効率を実現しています。内部発振周波数は200kHz~1MHz の範囲に調整可能で、これはROC の値で決まります。ROC = 100kΩ の場合、スイッチング周波数は500kHz です。

ADuM3471 は正の15V 電源をレギュレーションし、レギュレーションのフィードバックは抵抗分割回路(R1、R2、R3)によって行います。抵抗は出力電圧が15V の時にフィードバック電圧が1.25V になるように選ばれており、フィードバック電圧はADuM3471 の内部フィードバック電圧1.25V と比較されます。レギュレーションは外部トランスを駆動するPWM 信号のデューティ・サイクルを変えることにより行われます。

負電源のレギュレーションはおおまかに行われ、軽負荷の場合は−23V 程度になります。これはAD5422 の仕様における最大動作値−26.4V の範囲内です。公称負荷が1kΩ を超える場合は、より大きな非レギュレーション負電源電圧によって追加的な電力が消費されますが、これは問題となりません。高いコンプライアンス電圧を要求するアプリケーションや超低消費電力が要求されるアプリケーションの場合は、異なる電源設計を検討する必要があります。

この回路は5V、高精度、低ドリフト(B グレードで3ppm/ºC max)の外部リファレンスADR445 を使ってテストされています。これにより、−40ºC~+85ºC の工業用温度範囲全体を通じて、0.1%未満の総合システム誤差が実現されています。

AD5422 はドリフトが10ppm/ºC(max)の高精度内部リファレンスを内蔵しています。外部リファレンスを使用しないで内部リファレンスを使用した場合でも、誤差は工業用温度範囲全体でわずか0.065%増えるだけにとどまります。


テストのデータと結果


スイッチング電源によってシステム精度が低下しないことを確認するために、AD5422の積分非直線性(DNL)のテストを行っています。±10V のレンジにおけるDNL を図2 に示します。結果は、DNL 誤差が0.5LSB 未満であることを示しています。

図2. ±10V の出力レンジにおける回路の測定DNL

図2. ±10V の出力レンジにおける回路の測定DNL

図3 に示すように、平均出力ノイズの時間変化についてもテストと測定を行いました。合計ドリフトは約75μV で、これは0.25LSB に過ぎません。

図3. 測定平均DAC 出力ノイズ – DAC 出力を±10V の出力レンジで−5V に設定、垂直スケール:50μV/div(1LSB = 305μV)、2000 サンプル

図3. 測定平均DAC 出力ノイズ – DAC 出力を±10V の出力レンジで−5V に設定、垂直スケール:50μV/div(1LSB = 305μV)、2000 サンプル

図4. 異なる電流出力レンジにおける測定誤差(%FSR)

図4. 異なる電流出力レンジにおける測定誤差(%FSR)

図5. 異なる電圧出力レンジにおける測定誤差(%FSR)

図5. 異なる電圧出力レンジにおける測定誤差(%FSR)

回路の実際の誤差データを図4 と図5 に示します。出力電流と電圧の合計誤差(%FSR)は、理想出力と測定出力の差を取り、それをFSR で除した値に100 を乗じることによって計算しています。図4 と図5 にそれぞれ示すように、電流出力モードと電圧出力モードの両方で0.5%FSR 未満の誤差が実現されています。

VOUT ピンで最大1μF までの大きい容量性負荷を駆動しなければならない場合は、ジャンパを使ってボード上のP4 ピンを接続することにより、AD5422 のVOUTピンとCCOMPピンの間に3.9nF のコンデンサを接続することができます。しかし、このコンデンサを追加すると出力アンプの帯域幅が減少して、セトリング時間が長くなります。

バリエーション回路

この回路は、記載した部品値を使用し、優れた安定性と精度で問題なく動作することが実証されています。4mA~20mA の電流出力のみ必要なアプリケーションでは、単電源回路を使用することができます。この場合は正のAVCC 電源の電圧を26.4Vまで上げることができるので、出力コンプライアンスは26.4V –2.5V = 23.9V です。出力電流が20mAの場合、負荷抵抗は1kΩ 程度にすることができます。

16 ビット分解能を必要としないアプリケーションには12 ビットのAD5412 を使用できます。

ADuM347x アイソレータ・ファミリ(ADuM3470ADuM3471ADuM3472ADuM3473ADuM3474)は、4 つの独立したアイソレーション・チャンネルを様々な入力/出力チャンネル構成に組み合わせて使用できます。また、これらのデバイスには最大データ・レートが1Mbps(A グレード)のものと25Mbps(Cグレード)のものもあります。