AN-1314: AMR 角度センサー

はじめに

異方性磁気抵抗(Anisotropic MagnetoResistive:AMR)薄膜材料は、今日の位置検出技術においてその重要性を増しています。磁気抵抗(MR)位置測定は、従来の技術に比べ数多くの利点を有しています。信頼性、精度、および全般的なロバスト性が、MR 検出技術の発展に寄与している主な要素です。低コスト、相対的サイズが小さいこと、無接点動作、広い温度範囲、埃や光の影響を受けにくいこと、動作が広い磁場範囲にわたることなどは、すべてロバスト性に優れたセンサー設計につながります。MR 効果とは、外部から加わる磁場の方向または大きさの変化に伴って材料の電気的抵抗が変化する現象です。AMR 材料に関しては、高磁場と低磁場という2 つの異なる動作領域があります。このアプリケーション・ノートでは高磁場アプリケーションについて述べます。高磁場アプリケーションでは、外部から加えられる磁場がセンサーの内部磁場よりはるかに大きくなりますが、この状態をセンサーが飽和状態で動作していると言います。このモードでの抵抗の変化は、加えられた磁場の強さではなく、磁場の方向にだけ依存します。AMR 薄膜の性質上、材料の抵抗変化は方向が逆になっても同じですが、これは、センサー自体はS 極とN 極を区別できないことを意味します。したがって、単一の双極子磁石が機械的に1 回転すると、その出力情報は2 回繰り返されます。この現象によって測定範囲は180°に制限されます。抵抗の変化は次式でモデル化できます。

equation1

ここで、
R はセンサーの抵抗、
R0 は未通電状態でのセンサー抵抗、
ΔR0 はセンサー抵抗の変化量です。

一般に、AMR センサーでは、ΔR0はブリッジ抵抗全体の約3%です。このように抵抗変化が小さいので、出力信号をさらに増幅して電源電圧に比例した使用可能な値にするには、計装アンプが必要です。

磁石の構成

AMR 技術は、直線運動と回転運動両方の位置検出に使用できます。AMR 角度センサーと組み合わせて使用する磁石構成には、リニア型、オフ・シャフト型、軸端型などを始め多くの種類があります。

リニア型

リニア・アプリケーションでは、図1 に示すようにセンサーと同じ面内に磁石を置く必要があります。磁石の赤と青は、N 極とS 極の方向を示しています。AMRセンサーはS 極とN極を区別しないので、この方向は反対にすることもできます。AMR センサーから最も良好な直線応答を得るには、センサーと磁石の中心位置を互いに磁石長の半分だけ離す必要があります。

 

図 1. リニア型磁石構成

図 1. リニア型磁石構成

オフ・シャフト型

回転測定用の磁石構成の1 つで、多極リング磁石を使用します。図2 に理想的なリング磁石を示します。色付きの部分は、AMR センサーから見た外側磁場の方向を示しています。直線応答を実現するには、リニア測定の場合と同様にリングをセンサーと同一の面上に置き、互いに極長の半分だけ離す必要があります。このタイプの磁石構成でのセンサー応答は、機械的に1 回転する間に極数と同じ数だけ繰り返されます。図2 では5個のN 極と5 個のS 極があるので、センサーから見た磁極数は合計10 個です。図に示すリングのAMR センサー出力は1 回転ごとに10 回繰り返されるので、36°の絶対情報が得られます。

 

図 2. オフ・シャフト型磁石構成

図 2. オフ・シャフト型磁石構成

軸端型

このアプリケーション・ノートで検討する主要な測定構成が、軸端型と呼ばれるシンプルな磁石構成です。軸端型磁石構成では、直径方向に磁化された双極子磁石を回転軸の先端に取り付けます。センサーは、回転軸と磁石の下側に置かれます。この機械的セットアップでは、直径方向磁石のN 極とS 極が、磁石の中心上に均一な磁場を形成します。磁石と軸が回転すると磁場も回転します。均一な磁場が検出素子と同じ面になるようにセンサーを置きます。軸端型磁石構成を図3 に示します。

 

図 3. 軸端型磁石構成

図 3. 軸端型磁石構成

軸端型磁石構成は、ブラシレス DC モーターの位置検出および制御に適しています。ADA4571 あるいは任意の180°角度センサーの場合、使用するブラシレスDC モーターは偶数極ペアのモーターでなければなりません。奇数極ペアのモーターでは360°フルの位置情報が必要になるからです。

ほとんどのブラシレスDC モーターの閉ループ制御では、ホール・センサーを使用してローター位置をフィードバックし、コイルへの電流を切り替えるための正しい位置を決定しています。これらのセンサーの精度には幅がありますが、一般に5°から10°程度です。モーターの応答をよりスムーズで効率的なものとしてトルク・リップルを減らすには、より正確なローター角度情報が必要です。アナログ・デバイセズのAMRセンサーは、標準±0.1°、最大±0.5°というレベルの機械的精度を実現します。このレベルの精度は、インクリメンタル・エンコーダを使用する従来の方法でも実現できます。しかし、インクリメンタル・エンコーダでは、起動、ストール誤差、環境的影響がより大きな問題となります。アナログ・デバイセズのAMR センサーは、モーター位置に関係なく、起動時やストール状態でも絶対位置情報を提供します。この絶対位置情報があれば、はるかに良好なトルク制御、よりスムーズなモーター起動、そしてより効率的なモーター起動とストール性能を実現できます。

ブリッジ構成

アナログ・デバイセズのAMR センサーはホイートストン・ブリッジ構成で作られており、単一抵抗素子の場合と比較してより広い出力電圧スイング範囲を実現するとともに、大きなDC オフセットを除去できます。単一の双極子磁石が回転する間に単一ブリッジの出力を差動測定する場合は、使用可能範囲が90°に制限されます。単一双極子磁石が機械的に360°回転した時の単一ブリッジ素子の出力波形を図4 に示します。それぞれの電圧出力レベルに対応する機械的位置は4 箇所あります。

 

図 4. 単一ブリッジ出力

図 4. 単一ブリッジ出力

2 つの検出素子を互いに45°ずらして同じダイ上に置けば、そのセンサーの測定範囲を180°まで拡大できます。2 つのブリッジの簡略回路図を図5 に示します。

 

図 5. ダブル・ホイートストン・ブリッジ・センサーの簡略回路図

図 5. ダブル・ホイートストン・ブリッジ・センサーの簡略回路図

AMRセンサーの出力はN極に対してもS 極に対しても同じです。このため、それぞれのホイートストン・ブリッジから各チャンネルを差動的にモニタした場合、相対的に45°だけ回転させれば、2 つの正弦波出力の間に90°の位相シフトを作り出せます。双極子磁石構成が機械的に1 回転した場合に両方のAMR ブリッジから得られる2 つの出力を図6 に示します。

 

図 6. 2 つのブリッジ出力

図 6. 2 つのブリッジ出力

AMR センサー素子

AMR 検出素子のレイアウトはデバイスの最終的な性能を決定します。アナログ・デバイセズは、実績あるMR センサーのリーディング・メーカーであるSensitec社(Sensitec GmbH)のAMR 検出技術を使用しています。アナログ・デバイセズ製品に使われているSensitecのAMR センサーには、PERFECTWAVE®技術が使われています。PERFECTWAVE センサーは湾曲したセンサー素子を使用して高次高調波を減らし、精度を向上させています。

sentic

磁気的角度と機械的角度

AMR 技術においては、2 つの異なる角度スケール、つまり磁気的角度と機械的角度を理解する必要があります。AMR 技術の特性により、ADA4571 は単一双極子磁石に対する180°の機械的センサーとなります。互いに45°回転させた2 つのAMR ブリッジの出力は、相対的位相シフトが90°の正弦波なので、180°を超える絶対角度はATAN2(2 変数逆正接)を計算することによって得られます。

equation2

ATAN2 計算によって集められる情報は単一双極子磁石の場合360°で2 回繰り返され、複数極ペアの磁石ではそれ以上繰り返されます。単一双極子磁石に対してこのATAN2 計算を行った後の出力波形の例を図7 に示します。

 

図 7. 磁気的角度と機械的角度

図 7. 磁気的角度と機械的角度

ATAN2 計算を行うと、直線的な角度応答が得られます。磁気的角度の計算では、絶対電圧も絶対磁場強度も重要ではありません。磁気的角度では、他の角度センサー技術と比較して、磁場や振幅のシフトおよびドリフトによるセンサーへの影響が軽減されます。

磁石選択時に考慮すべき事項

AMR センサーを使用する場合、最大限の性能を得るために、センサーを適切な磁石と組み合わせることが重要です。磁場の方向依存性により、使用する磁石は軸方向ではなく直径方向に磁化されていなければなりません。このような磁石を図8 に示します。磁石の青と赤の部分はN 極とS 極を示しており、磁力線は磁石のN 極からS 極に向かいます。図3 に示すように、軸端型構成では磁石の上にAMR センサーを置く必要がありますが、センサーが置かれる面内では磁力線が均一になります。

 

図 8. 双極子磁石の極性

図 8. 双極子磁石の極性

一般に、AMR センサーには希土類磁石が組み合わされます。これは、重量あたりの磁気エネルギーが大きいためです。しかし、センサーの飽和磁場強度に関する要求が満たされていれば、より低コストのフェライト磁石を使用することもできます。ただし、高性能や高温下での使用が求められるアプリケーションでは、希土類磁石を使用した方が性能を向上させることができます。これは、AMRセンサーの検知対象となる磁場強度が大きくなるからです。また、大きい磁場強度は、漂遊磁場によるセンサー精度への影響を減らす助けとなります。

希土類永久磁石の最も一般的な磁性材料は、ネオジウム(NdFeB)とサマリウムコバルト(SmCo)の2 つです。これら2 つの異なる磁性材料を比較し、各材料の主な利点を示したものが表1 です。これら2 つの磁性材料には異なる等級のものが数多くあるため、ここでは等級の高い材料の比較を示しました。具体的な特性については、各等級の材料を個別に検討する必要があります。磁性材料の等級はその材料のエネルギー積を示すもので、これはメガガウス・エルステッド(MGOe)で表されます。この値は、その磁性材料のBH 曲線の最大値を取ります。一般に、同じサイズの磁石で考えた場合、MGOe が2 倍の材料は磁力も2 倍になります。

表 1. 磁性材料NdFeB とSmCo の比較
パラメータ NdFeB SmCo
価格
磁場強度 中または高
最大温度 80°C~180°C 160°C~300°C
温度係数 −0.08 %/K~−0.13 %/K −0.03 %/K~−0.04 %/K
腐食保護 ニッケル(標準) 不要

AMR技術においては、強い磁石は常に弱い磁石よりも優れた性能を発揮します。

AMR センサー素子に加わる磁場強度が強くなれば、それだけデバイスの性能も向上します。デバイスの物理的な制約により、AMRセンサーには高次高調波が存在します。アナログ・デバイセズ製品に使われているSensitec AMR センサーは湾曲構造を採用することで他の多くのセンサーに存在する4 次高調波を軽減しており、これによって磁場強度が小さくても同等の性能を得ることができます。

ADA4571 に使われているAMR検出素子の最小動作磁場強度は25kA/m です。さらに低い磁場強度で使用することも可能ですが、その場合は精度が低下します。より強い磁場強度で使用すれば精度が向上し、デバイスを損傷させることもありません。AMR センサーは磁束を測定するのではなく磁場方向を測定するので、磁場強度の温度係数が大きくなっても使用でき、その状態でもデバイスに指定された誤差範囲を実現することができます。ただし、磁石の選択にあたっては、極端な動作温度での磁場強度の低下を考慮しなければなりません。磁場強度の低下は、公称磁場強度と温度係数から計算できます。

磁石とセンサーの関係

AMRセンサーの性能を最大限に引き出すには、機械的なアライメントが非常に重要です。実際のシステムを設計する際には、留意すべき重要なパラメータがいくつかあります。センサーが検出する磁場の方向が希望の方向となるように、磁石とセンサー間のx-y 方向アライメント誤差を、十分に管理する必要があります。センサーの中心と磁石の中心の物理的なミスアライメントはシステム全体の誤差を招き、この誤差値はセンサー位置周辺での磁場のサイズと均一さに左右されます。ADA4571 の8 ピンSOIC パッケージでは、磁気センサーの中心がピン2 とピン7 の上端間のパッケージ中央に置かれています。パッケージング時の位置精度は、公称位置の各方向±50μm 以内です。具体的なアライメント図についてはADA4571 のデータシートをご覧ください。制御対象の軸端システムにおける磁気的な軸の中心は、磁気センサーの中心に合っていなければなりません。

エアギャップ、つまりz方向の間隔もAMR センサーの性能にとって重要です。絶対的アライメントはx-y 相対位置ほど決定的な影響を及ぼしませんが、エアギャップは、センサーの性能を最大限に引き出す要素として理解する必要があります。仕様に定めるAMRセンサー性能を実現するには、少なくともセンサーに最小必要磁場強度が加わるように磁気的刺激を設計する必要があります。ADA4571 を作動させるために必要な磁場強度は25kA/m です。センサーに加わる磁場強度を大きくする方法の1 つは、作動時のエアギャップを小さくすることです。ただし、磁石との距離を短くすることが、常にデバイスの性能を向上させる訳ではないことに注意が必要です。磁石の表面に近くなると、発生する磁場は均一でなくなります。

エアギャップが動作に影響しないことは、AMR 技術の重要な特長です。励磁磁場によってセンサーが完全に飽和している限り、センサーから収集される角度情報が磁場強度によって変化することはありません。磁場強度の変動が許容されるということは、振動、応力、経年変化による機械的ドリフトなどでz 軸に多少の動きが生じても、角度上の精度にはほとんど影響しないことを意味します。許容される変化量は磁石の材料や形状によって異なりますが、数mm から1cm あるいはそれ以上の範囲です。

ミスアライメントとエアギャップの測定

以下の項では、さまざまな磁石のサイズ、強度、エアギャップ、ミスアライメントに対する測定結果について述べます。その他の磁石についても、各項に概要を示す方法でテストを行いました。特定アプリケーションにおける磁石選択の詳細については、アナログ・デバイセズへお問い合わせください。


測定セットアップ


各磁石はスロットレス型のブラシレスDC モーターに取り付けられ、3000rpm の一定速度で回転します。

モーターは 2 つのリニア・アクチュエータを持つ可動プラットフォームに取り付けられていて、一方のアクチュエーターはセンサーの×方向、もう一方はy 方向の動きを受け持ちます。図9 に×方向とy 方向の動きの定義を示します。

図 9. ADA4571 パッケージを基準として定義したアライメント方向

図 9. ADA4571 パッケージを基準として定義したアライメント方向

z 方向、つまりセンサーと磁石間のエアギャップは、測定スイープ全般を通じて固定されています。各測定に対して示されているエアギャップは、磁石からパッケージ上端までの距離として定義されます。AMR センサーは、パッケージ上端から0.38mm(公称値)の位置に±0.025mm の許容差で組み込まれています。ADA4571パッケージ内のAMR センサー・ダイからの距離を求めるには、エアギャップ測定値にこの距離を加えてください。

2 個のリニア・アクチュエータは50μm 刻みで動作し、全体的な動作範囲は2mm×2mm です。つまり、AMR センサーの中心から各方向に1mm ずつ動きます。この方法によってテストされた放射状の最大ミスアライメントは1.4mm で、これはスイープ範囲のコーナーにセンサーを置いた場合の測定値です。

プロット形状をスムーズなものとするために、すべての結果にはデジタル・フィルタをかけ、アップサンプリングを行いました。絶対誤差値は同じです。


磁場強度に関する検討


表2. 比較1 の磁石寸法
パラメータ NdFeB (35 MGOe) SmCo (32 MGOe)
直径 6 mm 6 mm
厚み 3 mm 3 mm

磁場強度の違いがミスアライメントに与える影響を検討するために、2 個の磁石を使用しました。いずれも直径6mm、厚さ3mm です。一方の磁石はNdFeB 製でエネルギー等級は35MGOe、他方はSmCo 製でエネルギー等級は32MGOe です。NdFeB 磁石に対してSmCo 磁石を使用する別の理由として、SmCo の温度等級が高いこと、および磁性材料の温度係数が低いことが挙げられます。高温アプリケーションにおいては、これらがより大きく影響します。ここで選択した磁石は、磁場強度の違いによる影響を示すための例です。この他にも、さまざまなエネルギー等級のNdFeB とSmCo を使用した磁性材料があります。

図 10 と図11 において、カラー・スケールは度数で表した角度誤差を示します。これらのプロットにおける最小角度誤差はプロットの中心部に位置し、これは磁石とセンサーが完璧にアライメントされた場合で、その値は0.07°です。

図 10. SmCo(32MGOe)、エアギャップ1mm の場合

図 10. SmCo(32MGOe)、エアギャップ1mm の場合


図 11. NdFeB(35MGOe)、エアギャップ1mm の場合

図 11. NdFeB(35MGOe)、エアギャップ1mm の場合

NdFeB 磁石の場合は磁場強度が大きくなるので、SmCo磁石と比較して、この磁石はマグネット位置のずれが大きくなっても高性能を維持します。1mmのエアギャップでこれらの2 つの磁石を使用した場合のセンサー素子位置における有効磁場強度は、NdFeB 磁石で約60kA/m、SmCo 磁石で約50kA/m です。これよりも大きい、あるいは小さいエネルギー等級の磁石について以下の項で検討します。


エネルギー等級の大きい磁石と小さい磁石


表3. 比較 2 の磁石寸法
パラメータ SmCo (24 MGOe)
直径 10 mm
厚み 5 mm

表 3 のSmCO 磁石を、表4 に示すようにエアギャップ2mm、4mm、および6mmでテスト行いました。このテストで報告された最小および最大誤差(プロットの中心部と外周部)も同表に示す通りです。

表 4. 比較2 の最小および最大誤差
パラメータ 2 mm 4 mm 6 mm
最小誤差 0.0774 0.1002 0.1477
最大誤差(ミスアライメント1.4mm) 0.6118 0.7522 0.7074
概算磁場強度(kA/m) 60 35 20

図 12 から図14 において、カラー・スケールは度数で表した角度誤差を示しています。これらのプロットの最大角度誤差は0.8°です。

図 12. SmCo(24MGOe)、エアギャップ2mm の場合

図 12. SmCo(24MGOe)、エアギャップ2mm の場合


図 13. SmCo(24MGOe)、エアギャップ4mm の場合

図 13. SmCo(24MGOe)、エアギャップ4mm の場合


図 14. SmCo(24MGOe)、エアギャップ6mm の場合

図 14. SmCo(24MGOe)、エアギャップ6mm の場合

これらのプロットの中心部分および表4 に見られる最小誤差の増大は、AMR センサーにおける磁場強度が大幅に低下したことによります(特にギャップ6mm の場合)。この磁石は、3mm で25kA/m の磁場を提供できるように設計されたものです。

診断

処理後にいくつかの診断を行えば、ADA4571 をモニタしてシステムが正しく動作するようにしたり、性能をモニタしたりする助けとなります。軸端構成やオフ・シャフト構成では、機械的回転の全般を通じて磁場強度が均一でなければなりません。また、センサーを完全に飽和させて内部的な磁化を上回るようにするには、この磁場の大きさを25kA/m より大きくする必要があります。さらにこの条件を満たした上で、正弦チャンネルと余弦チャンネルの出力振幅を90°の位相差で同期させなければなりません。この出力同期の結果として、温度が一定であれば半径も一定になります。半径は以下の式で計算できます。

equation3

半径 VRAD を外部プロセッサや電子制御ユニット(ECU)でモニタすれば、公称半径から大きく外れた場合はシステムに異常があることが分かります。リアルタイムの機械的故障やミスアライメント、あるいは磁場強度の低下などは、この半径計算によってモニタできます。

ADA4571 のゲイン制御(GC)ピンに応じ、許容出力半径には以下のような境界が設定されます。この範囲は、図15 と図16 ではシェーディングされた領域によって表されています。−40°C、+25°C、+125°C、および+150°C の各温度に対する標準的なVRAD の値も示されています。最小値と最大値はADA4571 のデータシートに示されています。デバイスの温度をモニタリングすれば、さらに許容範囲を絞り込むことができます。

 

図 15. GC をオンにした時の境界半径

図 15. GC をオンにした時の境界半径

図 16. GC をオフにした時の境界半径

図 16. GC をオフにした時の境界半径

正弦信号と余弦信号の振幅は磁場強度とほとんど関係ありませんが、飽和したセンサーと比較すると、未飽和のセンサーの出力振幅は低下を示し始めます。

以下に示す半径および高速フーリエ変換(FFT)のプロット(図17~図20)は、前述の直径10mm、厚さ5mm のSmCo 磁石を使用して作成したものです。センサーは5V 電源でバイアスされ、室温に維持されています。

図 17 は、40kA/m で励磁された飽和センサーと、10kA/m で励磁された未飽和センサーの半径プロットです。

図 17. 未飽和センサーと飽和センサーの半径

図 17. 未飽和センサーと飽和センサーの半径

正弦および余弦出力信号のFFT は、センサーの性能検討や全般的なシステムのトラブルシューティングのための強力なツールとなり得ます。

良好にアライメントされたセンサーの FFT を図18 に示します。図19 は磁心から1mmミスアラインされたセンサーのFFT です。また、図20 はエアギャップの大きい未飽和センサーのFFT で、加わる磁場強度を10kA/mとした場合の結果です。

ミスアラインされたセンサーのプロットでも未飽和センサーのプロットでも、測定ノイズ・フロアは増加しています。未飽和センサーの場合、システム内では高次高調波の方がはるかに大きく影響します。これらの高調波はセンサー精度を低下させる主な要因となります。

 

図 18. 良好にアライメントが取られたセンサーのFFT

図 18. 良好にアライメントが取られたセンサーのFFT


図 19. ミスアライメントのあるセンサーのFFT

図 19. ミスアライメントのあるセンサーのFFT


図 20. 未飽和センサーのFFT

図 20. 未飽和センサーのFFT

誤差源

センサーの角度誤差を最小限に抑えるには、さまざまな誤差要因とそれらの校正方法を理解することが重要です。


オフセット誤差


センサーのオフセットによる誤差はシステムに対する最大の誤差要因ですが、「校正手順」に示す説明に従って正しい校正を行なえば、オフセット誤差をほぼゼロにすることができます。


振幅同期誤差


ADA4571 では、整合性能を良好なものとするために、検出素子とシグナル・コンディショニング回路両方に対し正弦および余弦チャンネルとも慎重にレイアウトされています。結果としてADA4571 における振幅同期による誤差は無視できる程度のもので、振幅不整合誤差に対する補正は必要ありません。


位相誤差


製品のレイアウトが1 つのダイ上に2 つのAMR ホイートストン・ブリッジを組み込んでいる結果として、正弦チャンネルと余弦チャンネル間の固有位相誤差は無視できる程度に抑えられています。しかし、出力を同期的にサンプリングしない場合、つまり、多重化されたA/D コンバータ(ADC)使用により位相誤差が発生します。磁場の回転速度が大きくなると、サンプル間での位相遅れが大きくなるので、非同期サンプリングによる誤差が大きくなります。正弦出力と余弦出力の同期サンプリングを行って位相遅れによる誤差を避けるには、2 つの別々のADC を使うか、または同時トラックアンドホールド・アンプを2 つ搭載した多重化ADC を使用することを推奨します。サンプリング位相誤差の程度は、計算電気誤差の大きさに直接影響します。

校正手順

ADA4571 の性能を最大限に引き出すには、ある校正手順を実施する必要があります。機械的許容差を固定して、磁石とセンサーのアライメントやエアギャップ距離に関する推奨事項に従い、できるだけ正確に機械的セットアップのアライメントを取ってください。システムの設定完了後は、センサーのオフセットとオフセット・ドリフトが角度誤差の主な要因となります。実施できる校正には、ダイナミック校正とシングル・ポイント校正の2 種類があります。ダイナミック校正はシングル・ポイント校正よりも角度誤差を小さくできますが、必要とされるリアルタイム処理が多くなります。

ダイナミック校正は、360°連続アプリケーションと自励アプリケーションでのみ行うことができます。このモードでは、ADA4571 を校正して、オフセットおよびオフセット・ドリフト両方による誤差要因をシステムの寿命全般および温度範囲全域にわたってゼロにするために、オフセットを継続的に監視することができます。センサー出力からオフセット情報を収集するための方法はいくつかあります。全体的な波形から最大値と最小値を収集すれば、オフセットを正確に表すことができます。また、何回かの機械的回転にわたってサンプリングした過去の値を平均しても、正確なオフセット値が得られます。各チャンネルのオフセットは異なるので、個別に保存する必要があります。

各チャンネルのオフセットを収集したら、コントローラは、ATAN2(2 変数逆正接)計算を実行してデバイスから角度情報を集める前に、それぞれのチャンネルからそのオフセットを差し引く必要があります。

 

図 21. ダイナミック校正作業のフローチャート

図 21. ダイナミック校正作業のフローチャート

シングル・ポイント校正は、角度測定位置が機械的回転の全範囲にわたって移動することがないような、自励アプリケーションまたは静的アプリケーションで行うことができます。360°の範囲でシングル・ポイント校正を行うには、正確なオフセット情報を抽出する前に、偶数個の電気的回転をキャプチャする必要があります。180°動作のアプリケーションでは、正確なオフセット情報を抽出する前にキャプチャしなければならない電気的回転は1 個だけです。オフセット補償を行うために、各出力チャンネルに関係するオフセット情報をコントローラ内に保存します。

オフセットをキャプチャする方法に関わらず、オフセット計算には少なくとも2 回機械的にフル回転させることを推奨します。このオフセット値は、角度情報を再び得る前に信号出力から減じます。最初に行うシングル・ポイント校正はオフセットによる角度誤差を減らす助けとなりますが、センサー誤差を最小限に抑えるために、可能であればダイナミック校正を行ってください。このダイナミック校正は、AMR センサー固有の温度によるオフセット・ドリフトを防ぐ助けとなります。

 

図 22. シングル・ポイント校正作業のフローチャート

図 22. シングル・ポイント校正作業のフローチャート

レイアウトに関する推奨事項と磁気干渉

磁気検出アプリケーションの性質上、センサーの近くに使用する材料は非鉄性のものか非磁気性のものでなければなりません。また、大電流が流れるAC ワイヤやDCワイヤ、あるいはトレースも、AMRセンサーの近くには配置しないようにしてください。大電流が流れるワイヤやトレースにはレンツの法則によって磁気干渉が生じ、これが検出対象磁場の方向に歪みを生じさせて、システムに新たな誤差を発生させます。磁場強度は磁石からの距離の三乗に反比例します。この三乗則により、大電流が流れるワイヤとセンサー間の距離を増やせば、センサー付近の漂遊磁場量を大幅に減らすことができます。

センサーの近くに大電流を流さなければならない場合でも、この干渉の問題を緩和する方法がいくつかあります。鉄などの透磁性材料を使ってセンサー周囲に磁気シールドを設けると、磁気センサーと外部環境からの磁気を分離する助けとなります。また、より強力な磁石を使用することも、磁場による干渉の影響を最小限にする上で有効です。

VTEMP 出力

ADA4571 は診断用に使用できる簡易的な温度センサーを内蔵しています。温度測定が必要な場合は、既知の温度で測定値の初期校正を行う必要があります。温度情報は、以下の式を使ってVTEMP ピンの測定値から計算できます。

equation4

ここで、
TVTEMP はVTEMP 出力電圧から計算した温度(°C)
VTEMP は動作中のVTEMP 出力電圧
VDD は電源電圧
VCALは校正時の制御温度下でのVTEMP 出力電圧
TCAL は校正時の制御温度
TCO は内部回路の温度係数
TCVTEMP はVTEMP 測定値の直線的な温度係数

精度を向上させるために、既知の温度を使用した初期校正時も実際の運転時もVDD を同じに保つことを推奨します。TCVTEMP はVTEMP 測定値の線形温度係数です。TCVTEMP は使用する電源電圧によって変化しますが、TC = 3.173mV/V/C の場合の標準的なTVTEMPの精度は±5°C です。システムを使用中か否かを問わず、グラウンドとの間には電磁干渉(EMI)対策用に22nF のコンデンサを付ける必要があります。

著者

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Robert Guyol