AN-1312: ADE7912/ADE7913 を使った4 mA~20 mA のDC 信号の測定
はじめに
このアプリケーション・ノートでは、ADE7912/ADE7913 を使った 4 mA ~20 mA のアナログ電流ループの測定方法について説明します。
工業用プロセス制御の分野では、RS-485 インターフェースなどにデジタル信号やデジタル通信が幅広く使用されています。しかし、多くの工業用プロセス制御アプリケーションでは、アナログ信号やアナログ・モニタリングのために4 mA ~20 mA のアナログ電流ループが今でも使用されています。その理由は、4 mA~20mA のアナログ電流ループが非常に堅牢なセンサー信号伝達の標準的方式の1 つだからです。
電流ループは本質的に電気的ノイズに強いため、データ伝送に最適です。4 mA~20 mA のアナログ電流ループでは、すべての信号電流がすべての部品を通り、ワイヤの終端が完全でなくても同じ電流が流れます。信号電流がループ内のすべての部品を通るため、これらの部品で電圧降下が生じます。20 mA の最大信号電流でループにおける電圧降下の合計より電源電圧の方が高ければ、信号電流がこれらの電圧降下の影響を受けることはありません(図1 参照)。
図 1. 電流ループの回路図
他の通信方式と比べて、4 mA ~20 mA の出力は以下のような独自の利点を備えています。
- 電流信号は干渉に対する耐性が優れています。
- 電流信号は比較的長い距離を伝送可能です。
- 4 mA ~20 mA 出力なので、短絡や開回路を容易に検出することができます。
- 最小電流が4 mA であるため、多くのトランスデューサが2 本のラインから直接電力を得ることが可能で、配線接続を簡素化できます。
- 異なるトランスデューサのゼロ・ポイントとフルスケールが類似した信号なので、変換の相関を一元的に数値化するのが容易です。
このため、多くのプロセス制御装置には、4 mA~20mA アナログDC 入力測定モジュールが内蔵されています。
ハードウェア設計
このセクションでは、ADE7912/ADE7913 を使った4mA ~20 mA 電流ループ検出のハードウェア設計について説明します。
4 mA ~20 mA のアナログ電流信号を測定するには、ADC と絶縁型電源モジュールが必要です。SPI 通信インターフェースを使用した従来のソリューションのブロック図を図 2 に示します。
図 2.従来の4 mA~20 mA DC 入力測定回路のブロック図
サンプリング抵抗を使用して4 mA~20 mA の信号を電圧信号に変換した後、A/D コンバータ(ADC) が電圧信号をデジタル信号に変換します。工業用機器ではほとんどのインターフェース回路が絶縁を必要とするので、ADC だけに電力を供給する専用の絶縁型DC/DC電源が必要です。ADC のグラウンドはマイクロ・コントローラのグラウンドから絶縁されているので、高速デジタル・アイソレータが通信経路に配置されます。例として、SPI 通信用の4 つの絶縁されたチャンネルを図 2 に示します。従って、この測定システムにはADC、絶縁型電源、高速デジタル・アイソレータの3つの主要な構成要素が必要です。
このような従来のプラットフォームに対し、ADE7912/ADE7913 絶縁型 ADC は従来のソリューションの主な構成要素をすべて内蔵しています。図 3 に示すように、ADE7912/ ADE7913 は絶縁型電源と信号絶縁回路を内蔵しています。
図 3. ADE7912 のブロック図
ADE7912/ADE7913 の動作温度範囲は−40°C~+85°Cで、工業用プロセス制御の温度要件を満たしています。4 mA ~20 mA のアナログ電流信号のダイナミックレンジは5:1 です。AN-1304 アプリケーション・ノート「ADE7912/ADE7913 のDC 測定性能」では、ダイナミックレンジが10:1 の場合、DC 測定の標準温度係数は62 ppm/°C となっています。したがって、62 ppm/°Cは、4 mA ~20 mA アナログDC 信号測定の標準温度係数とみなされます。
図 4 に示すように、ADE7912/ADE7913,を使用することにより、4 mA~20 mA 電流ループ検出回路を簡略化できます。この測定ではV1 チャンネルを使用することが推奨されているため、アナログ信号はV1P 入力に供給されます。従来の 4 mA~20 mA DC 入力測定ソリューションで必要とされる3 つの回路ブロックが1 個のチップに簡略化され、他の補助回路が不要であることに注目してください。
図 4. ADE7912/ADE7913 を使用した4 mA~20 mA DC 入力測定回路のブロック図
さらに、最大4 個のADE7912/ADE7913 をカスケード接続可能で、これらのデバイスは1 個の水晶発振器と1 本のSPI バスを共有します。通常、1 つのアプリケーションにおいて複数の4 mA~20 mA 電流ループを検出する必要があるため、これは便利な機能です。
校正および測定の手順
4 mA~20 mA のDC 信号を測定するには、V1WV レジスタの値を1 秒間に少なくとも100 回読み出します。これらの読み出し値の平均が測定値になります。
4 mA~20 mA のDC 信号を測定するための準備として、ADE7912/ADE7913 を次の2 段階で校正する必要があります。
- 校正された 4 mA 信号を供給します。V1WV レジスタの値を1 秒間に少なくとも100 回読み出します。読み出し値の平均がA 値になります。
- 校正された 20 mA の信号を供給します。V1WV レジスタの値を1 秒間に少なくとも100 回読み出します。読み出し値の平均がB 値になります。
一般的な 4 mA~20 mA のアナログ信号を測定するときは、1 秒間にわたる100 回の読み出し値の平均を計算してC 値を求め、以下の式を用いて電流値x を計算します。

測定手順: 4 mA~20 mA
4 mA ~20 mA 電流ループ・アプリケーションにおけるADE7912/ADE7913 の性能を評価するために、評価プラットフォームを利用しました(図5 参照)。AD5421 は工業用制御業界でスマート・トランスミッタ・メーカーのニーズを満たすように設計されたループ給電による完全な4 mA ~ 20 mA のD/A コンバータ(DAC) です。
図 5. 4 mA~20 mA 測定のブロック図
AD5421 は16 ビットの単調性が保証されています。標準的な条件で積分非直線性が0.0015%、オフセット誤差が0.0012%、ゲイン誤差が0.0006%です。下記のテストでは、4 mA ~20 mA 出力源としてAD5421 評価キットを使用し、ADE7913 評価キットは測定装置を設定します。
電流値を検出するために外付け抵抗RRECEIVER = 15.1 Ω を使用し、その出力をADE7913 のV1 チャンネルに接続しました。テスト手順は、AD5421 評価ボードによる制御された電流値の生成と、ADE7913 を使ったサンプリングで構成されています。
種々の DC 入力から得られたADE7913 出力を 図 6 に示します。ADC 出力の直線性を測定するには、非直線性誤差を計算します(図7 参照)。目標はこれらの誤差を非常に小さく抑えることなので、校正手順は大幅に簡略化されます。4 mA での測定値と20 mA での測定値の間を線でたどりました。誤差はADC 出力に関して計算しました。
図 6.種々のDC 入力でのADE7913 の測定値
ADE7912/ADE7913 は 4 mA ~20 mA の全範囲にわたって非直線性誤差を0.04% 未満に維持します(図7 参照)。
図 7.ADE7912/ADE79131 の非直線性誤差
結論
ADE7912/ADE7913 は 4 mA~20 mA のアナログ電流ループの測定を行う完全に絶縁されたADC です。このADC は絶縁型DC/DC コンバータとデジタル・アイソレータを1 個のチップに集積しているので、回路設計が大幅に簡素化され、システムの信頼性が向上します。5:1 のダイナミックレンジの場合、室温での非直性誤差が0.04%未満なので、校正手順が簡略化されます。