AN-117: DC/DC μModuleレギュレータのプリント回路基板設計ガイドライン(LTM802xシリーズを使用した例)
LTM8020、LTM8021、LTM8022、LTM8023 μModuleは、システム・ボードにスイッチング電源を実装する際の煩雑さをなくすことを目的として開発された、密封型の使いやすい完全な降圧DC/DCレギュレータです。μModuleで設計を完成させるのに必要なのは、入力コンデンサと出力コンデンサが各1個、そして1本または2本の抵抗だけです。当然ながら、このハイレベルの集積化によってプリント回路基板の設計が大幅に簡略化され、部品フットプリントの生成、部品配置、ネットの配線、および熱的ビアの4つのカテゴリーに対する手間が軽減されます。
部品のフットプリントの生成
プリント回路基板の設計で最初に行うことの1つは、各部品のフットプリント(デカール)を作成することです。LTM8020、LTM8021、LTM8022、LTM8023の設計を完成させるのに必要な部品は、業界標準フットプリントの一般的な抵抗とコンデンサです。LTM8020、LTM8021、LTM8022、LTM8023のフットプリントを生成するのに必要な基本情報はパッケージの外形図から得られます。この情報はデータシートの「パッケージ」のセクションに記載されており、下記のWebサイトからもアクセス可能です。
https://www.analog.com/en/design-center/packaging-quality-symbols-footprints/package-index.html
この外形図にはパッケージの図面番号が付けられており、これもデータシートの「パッケージ」のセクションに記載されています。
次に、リニアテクノロジーの「アプリケーションノート100」に従ってパッド寸法を選択します。LTM8020、LTM8021、LTM8022、LTM8023の場合、一辺の寸法が0.025~0.029”の方形パッドがほとんどのアプリケーションに適しています。アプリケーションノートの推奨項目に従って、パッドを、半田マスクをゼロ~0.002” (0.05 mm)拡張した非半田マスク定義(NMSD)にします。
LTM80xxシリーズのμModuleにはI/Oおよび電源の接続があります。I/Oの接続には通常、トレースを使います。電源およびグランドの接続には通常、プレーンを使います。μModuleのフットプリントに半田マスクの拡張分が含まれない場合、全てのパッドは同じ寸法になります。半田マスクの拡張分がゼロよりも大きい場合、電源パッドはI/Oパッドよりも大きくなります。
パッドのパターンをよく見てください。VINの周囲のパッドが取り去られています。その理由は、LTM8020、LTM8021、LTM8022、LTM8023の各μModuleが36VDCの定格で動作するからです。IPC 2221(プリント基板設計の標準規格)の表6-1に従い、半田パッドなどのプリント回路基板の外側のコーティングされていない、電圧差が31V~50Vの導体部分は、少なくとも0.6mm(0.0236”)の間隔をあける必要があります。LTM80xxシリーズのμModuleでは、方形パッドは一辺が0.025”であり、0.050”ピッチで配置されています。μModuleが31Vを上回る定常状態で動作する場合には、実際のプリント基板のパッドはIPC-2221規格に違反しないように0.0257”を超えてはなりません。この場合、フットプリントのパッド開口部を、半田マスクを拡張しない0.025”のNMSDにすることがベストです。30V以上で動作するピンが隣接していない場合には、正味開口部が0.025~0.029”のどの寸法のパッドでも構いません。
部品配置
一般に、部品は配線ができるだけ短くなるように配置します。実装する部品がほとんどなく、かつデバイスの端に近接して配置されているので、設計が容易です。例えば、LTM8020の場合、標準部品はμModule、1本の出力電圧抵抗、ならびに入力および出力のコンデンサになります。配線をできるだけ短くするには、設定抵抗RADJをADJパッドの近くに配置し、入力コンデンサCINをVINに、出力コンデンサCOUTをVOUTにそれぞれ隣接させます。この1例を図1に示します。
図1. LTM8020の部品配置の例
LTM8022とLTM8023の場合には、2個のコンデンサと2本の抵抗になります。部品配置のガイドラインはLTM8020のものと非常に似ています。設定抵抗RADJをADJパッドの近くに配置し、入力コンデンサCINをVINに、出力コンデンサCOUTをVOUTにそれぞれ隣接させます。残りの部品RTは、μModuleのRTパッドのできるだけ近くに配置します。これを図2に示します。
図2. LTM8023の部品配置の例
COUTコンデンサを、CINのGND接続から少し離れた別の場所のGND接続に配置することもできます。ほとんどのアプリケーションでは、COUTの配置はCINほど重要ではありません。出力ノイズを最小に保つことが重要な回路では、COUTを図3に示すように配置する方が有効です。この図では、COUTのGND接続はCINのGND接続からさらに離れています。CINに大きな電流パルスが流れるので、COUTのGND接続をCINのGND接続から離すと、2個のコンデンサ間の結合が低減されます。
図3. COUTコンデンサをCINコンデンサから離すと出力ノイズを低減できる
ネットの配線
部品数が少なく、トレースができるだけ短くなるように部品が配置されている場合、配線作業は非常に簡単です。ネットの配線作業は、トレースの配線とプレーンの配置に分けられます。
トレースは低電流のネットの配線に使用されます。上記のLTM8023の例では、VIN、VOUT、GNDのネット以外の全てにトレースが使用されています。RTおよびADJはそのままRT抵抗およびRADJ抵抗に接続されています。BIASおよびRUN/SSの接続は設計によって異なります。LTM8022およびLTM8023のパッドパターンはレイアウトを考慮して設計されています。ほとんどのアプリケーションではBIASはVAUXまたはVINのいずれかに接続されるので、BIASはVAUXまたはVINに接続しやすいように都合よく配置されています。さらに、外部電圧源への接続が必要な場合に備えて、BIASパッドは端の列に隣接して配置されているので、外部回路に接続しやすくなります。
RUN/SSパッドはVINまたは外部信号ソースのいずれかに接続されるので、外側の列のVINパッドの隣に配置されています。LTM8023の例を図4に示します。この図では、BIASがVAUXに、RUN/SSがVINに接続され、RTとADJの接続が示されています。トレースは灰色で示されています。その他のI/Oピン、SHARE、SYNCおよびPGも接続しやすくなっています。
図4. I/Oピンの配置によって配線しやすくなっている
次に、電源プレーンとグランド・プレーンを配置します。これらは、熱性能およびEMI性能を良好にするためにできるだけ広くする必要があります。図5に示すように、灰色で示されたこれらのプレーンは、μModuleの底面の残りの銅領域をほぼ埋めつくすようにします。図5の例では、VINとそれ以外のプレーンの間に広い間隙がありますが、これは入力電圧が30V以上の場合に適用します。
図5. LTM8023向けに推奨する電源プレーンとグランド・プレーン。高電圧のVINのネットを他から隔てる広い間隙(IPC-2221に準拠)に注意
熱的および電気的相互接続ビア
最後の作業は熱的および電気的相互接続ビアを配置することです。LTM8020、LTM8021、LTM8022、LTM8023 μModuleは、プリント回路基板を使用してデバイス内で消費される電力を放散させるので、μModuleの下と周囲にビアを配置し、プリント回路基板の層を通して熱を放散させることが重要です。一般に、プリント回路基板には複数のグランド層があるので、ビアの追加は容易に行えます。VOUTおよびVINのネットが複数の層にまたがる場合、これらにもビアを追加する必要があります。
ほとんどのプリント回路基板の設計では、プレーンが電気的にも熱的にも等位であるとみなします。つまり、プレーン両端の電圧勾配が理想的にはゼロ・ボルトであり、任意の点から別の点までの熱抵抗が無視できると想定します。これは、特に熱的観点からは事実に反しますが、ビアを使用することは、性能をこの理想に近づける設計を実現するシンプルで安価な方法です。
VIN、VOUT、GNDの各プレーンに相互接続ビアを配置したレイアウトの例を図6に示します。ビアはドリル孔が0.010”、外径が0.015”の全て同じ寸法です。この寸法のビアは同じネットのパッド間に容易に適合し、電流搬送能力も優れています。配置に注意を払うことにより、外径が0.035”のビアを隣接するパッドと重なることなく使用することができます。
図6. ビアを内部プレーンへ電力を送るのに使用し、ヒートパイプとして機能させ、プリント回路基板を通して熱を放散する。
ビアは、内部のプレーンに対する非常に優れた導電体として機能し、またヒートパイプの働きをするので、プリント回路基板をヒートシンクとして機能させることができます。最高の性能および信頼性を得るには、μModuleをできるだけ低温で動作させる必要があるので、最良の設計は収まる限り多くのビアを使用することであるといえます。ただし、各ビアは基板に穴を開けてしまうことなので、導電のためのプリント回路基板に存在する銅の量が減少します。このようにビアが過多になる可能性があるので、所属部門の設計ガイドラインを参照してください。
結論
LTM8020、LTM8021、LTM8022、LTM8023 μModuleのハイレベルの集積化により、電源システムのプリント回路基板の設計作業が簡略化されます。作業全体は、表1に示す4つの作業に要約することができます。
作業 | 概要/注記 |
フットプリントの生成 |
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部品配置 |
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ネットの配線 |
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熱的および電気的相互接続ビア |
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