AN-1051: AD9552 発振器、周波数アップコンバータのリファレンス・デザイン

はじめに

AD9552 は低周波数入力信号(約10 MHz ~70 MHz)を、高周波数出力信号(900MHz まで)にアップコンバートする低価格、プログラマブル可能な製品です。 このアプリケーション・ノートではAD9552 のリファレンス・デザインについて述べるとともに、出力信号の性能測定についても述べます。 ここでAD9552(とすべての必要なサポート部品)は9 mm × 14 mm フットプリント(ある現在供給可能な発振器のパッケージと同じサイズ)に収まっている事を説明しています。AD9552 の特徴と機能についてのさらなる詳しい情報は AN-0988 を参照してください。

プリント基板

図1は1” × 1.25” リファレンス・デザインのプリント基板の写真です。シルクスクリーン捺染法で印刷された 9mm × 14 mm 長方形の基板で、下記の部品を搭載しています。:

  • AD9552
  • クリスタル共鳴器
  • 電源バイパス・コンデンサ
  • PLL ループ・フィルタ部品

これらは発振器、周波数アップコンバータを形成するのに必要なすべての部品です。 PCB に搭載されている他の部品は補助的なものです。たとえば左上角のP1 は基板に電源(3.3 V)を引き込むだけの役目です。同様に右下角にある部品 J1, T1, C4, C5, R11, R12 は AD9552 の出力信号を測定するのに便利な手段としてだけの役割です。P1 の右にあるスウィッチ(SST)は(電源をオン・オフする変わりに)AD9552 をリセットする補助的な手段です。PCB の裏側にはAD9552 のピン・プログラムを容易にするためいくつかのグラウンディング・ジャンパー(0Ω 抵抗)用パッドがあるだけで他の部品ありません。 リファレンス・デザインでは違ったクリスタル・タイプ又は違う出力周波数の使用ができるようにジャンパーを設けています。エンドユーザーのアプリケーションでは一般的に1種類のクリスタル・タイプを使用し、出力周波数も固定です。 従ってエンドユーザーの回路基板ではジャンパーは必要とされません。代わりに特定のアプリケーション向けに必要なクリスタル周波数や出力周波数を選択するために、適切なプログラム・ピンからグランドへ直接銅線で配線するでしょう。

この特定のリファレンス・デザインでは19.44 MHz クリスタル共鳴器を使用し、OUT1 で625 MHz になるようにAD9552 のピン・プログラムを設定します。又ここでAD9552 は非整数の周波数変換(入力19.44 MHz , 出力625 MHz )が可能である事も紹介しています。さらにリフェレンス・デザインではAD9552 のデフォルトになっている出力ドライバ動作駆動モード(LVPECL)を使用しています。

図 1. AD9552 リファレンス・デザイン PCB

図 1. AD9552 リファレンス・デザイン PCB

PCB は一般的なFR4 材を使った4層基板です。表面と裏面の層は信号配線用で、中間の2 層は電源(VDD)とグランド(GND)専用の銅板です。

可能な最高の性能を得るには、AD9552 のできるだけ近くにバイパス・コンデンサを接続することが重要です。さらに各バイパス用コンデンサのグラウンド・パッドからグラウンド・プレーンへのバイパス(スルーホール)は1つではなく2つ使用した方がベストの結果が得られます。2つ使用すればバイパス・コンデンサからグランド・プレーンへのシリーズ・インダクタンスが減り、グランド層への高周波結合が改善します(図2 参照)。

図 2. ダブル・バイアスのあるPCB 表面層

図 2. ダブル・バイアスのあるPCB 表面層

回路図

OUT1 での信号の測定を容易にするために、デバイスは並行型負荷(50 Ω) を通して、同軸ケーブルコネクタに接続されている1:1 トランスを駆動します。 (図 3 参照).

図 3. 回路図

図 3. 回路図

性能測定

性能測定にはアジレント・テクノロジー社のE5052B シグナル・ソース・アナライザーを使って得られた2種類の位相ノイズのグラフ(図4と図5を参照)とRhode and Schwarz 社の FSQ-26 シグナル・アナライザーで得たスペクトル・グラフ(図6参照)があります。測定のために準備するものはP1 に接続する3.3 VDC 電源と、J1 と測定機器を接続する同軸ケーブルだけです。

図 4. 625MHz での位相ノイズ (スプリアス= オフ)

図 4. 625MHz での位相ノイズ (スプリアス= オフ)

図 5. 625MHz での位相ノイズ (スプリアス = オン)

図 5. 625MHz での位相ノイズ (スプリアス = オン)

図 6.出力信号スペクトル

図 6.出力信号スペクトル

結果解析

図5 の位相ノイズのグラフ(スプリアス=オン)からわかるように19.44 MHz の倍数のオフセット周波数でスプリアス・アーチファクトがあります。(19.44 MHz クリスタル共鳴器の影響) しかしrms ジッターの値からわかるようにスプリアス・アーチファクトの大きさは十分小さいので12 kHz ~ 20 MHz の積分帯域幅を使用したアプリケーションには問題ありません。 なぜなら図4と図5ではこの周波数帯域で4 fs しか違わないからです。

しかしスプリアス=オンでは、50 kHz ~ 80 MHz の積分帯域でのジッター特性が170 fs 減定格しており ,4 MHz~80 MHz の積分帯域では361 fs も減定格していることがわかります。 後者がこのように大きな減定格(322%のジッター増)を示すのは、4 MHz ~ 80 MHzの積分帯域ではほとんどの位相ノイズのエネルギーがランダムよりもむしろスプリアスによるからです。

スペクトル図(図6)は測定帯域幅50MHz で中心周波数625 MHz の出力信号です。ノイズフロアが相対的に低く( 3 kHz の周波数帯域分解能で−90 dBm 近く)、625MHz キャリア周波数の両側の19.44 MHz の位置に約−70dBc の大きさのスプリアスが有ることがわかります。

これらはクリスタル共鳴器の19.44 MHz 入力周波数によるリファレンス・スプリアスで、PLL 機能の一般的な現象です。 リファレンス・スプリアスの大きさはリファレンス周波数に関連したPLL ループ・フィルタの周波数帯域に直接関係しています。AD9552 のループ・フィルタの公称周波数帯域は100 kHz ですが、このフィルタによりリファレンス・スプリアスが−70 dBc レベルに低減されます。

広帯域ジッター特性はリファレンス・スプリアスとそれらに連なる高調波により減定格しますが、低広帯域ジッターが要求されるアプリケーションには、この影響を和らげる2つの方法があります。一つ目の方法は出力信号にバンドパス・フィルタを通す事です。 この特定のケースでは中心周波数625 MHz の20 MHz バンドパス・フィルタ により広帯域スプリアス信号を大きく削減され、広帯域ジッター特性が改善します。 2 つ目のオプションは出力信号を1:1 周波数変換率で,20 MHz を十分下回るループ帯域(例えば数百kHz)の2 番目のPLL を通すことです。 2 番目のPLL はそのループ帯域外の広帯域スプリアス信号(この場合のレフェランス・スプリアス)を除去することにより効果的にジッタークリーンアップPLLとしての役割を果たします。

著者

Ken Gentile

Ken Gentile

Ken Gentileは1998年にシステム設計エンジニアとしてADIに入社し、米ノースカロライナ州グリーンズボロでクロック/信号合成製品ラインを担当しました。ダイレクト・デジタル・シンセサイザやアナログ・フィルタの設計、MATLABによるGUIベースの・エンジニアリング・ツールのコーディングが専門です。10件の特許を保有するほか、さまざまな専門誌/紙に14件、ADIのアプリケーション・ノートとして十数件の論文を発表しています。また、ADIの「GTC(GeneralTechnical Conference)」では2001年、2005年、2006年に講演を行っています。1996年にノースカロライナ州立大学を優秀な成績で卒業し、電気工学の学士号を取得しています。休日には読書や数学パズルのほか、科学、技術、天体観測に関するあらゆることを楽しんでいます。