ADALM2000による実習:NMOSトランジスタで構成したカレント・ミラー

目的

今回は、エンハンスメント型のNMOSトランジスタを使用して構成したカレント・ミラーの動作を調べます。

背景

2020年8月のStudentZoneでは、バイポーラ・トランジスタ(BJT)を使用して構成したカレント・ミラーについて説明しました。NMOS(n型金属酸化物半導体)で構成したカレント・ミラーも、理論上はそれと同じように動作します。その基本原理は、「ゲート‐ソース間電圧VGSが等しい同一のトランジスタが2つあったとき、それらのドレイン電流IDの値は等しい」というものです。つまり、1つ目のトランジスタM1を流れる電流が、2つ目のトランジスタM2にミラーリングされるということです。MOSトランジスタのVGSとIDの間には、以下の関係があります。

数式 1

ここでμnCox/2(= K)とλは、プロセス技術によって決まる定数です。

「同一のトランジスタ」というのは、W/Lとプロセス技術に依存する定数の値が等しいという意味です。カレント・ミラーは、2つのトランジスタのVGSが等しくなるように構成します(図1)。そのため、IDの値も等しくなります。NMOSのゲート端子には電流は流れ込まないので、IIN = IOUTとなります。

準備するもの

  • アクティブ・ラーニング・モジュール「ADALM2000
  • ソルダーレス・ブレッドボード
  • ジャンパ線
  • 抵抗:1kΩ(2 個。抵抗値ができるだけ近いものか、3 桁以上のもの)
  • 小信号 NMOS トランジスタ:「ZVN2110A」(2 個)またはNMOS アレイ「CD4007」
  • デュアルオペアンプ:「ADTL082」など(1 個)
  • デカップリング・コンデンサ:4.7 µF(2 個)

説明

図1の回路において、入力抵抗R1と出力抵抗R2の値はどちらも1kΩです。カレント・ミラーの入出力電流を正確に測定するために、R1とR2については実際の値を必ず正確に測定してください。IINは、W2(ADALM2000の任意波形ジェネレータの出力)の電圧をR1の値で割ることにより求められます。IOUTは、オシロスコープのチャンネル2で測定された電圧をR2の値で割ることで求められます。ダイオード接続されたM1は、M2のゲート端子とソース端子の間に接続されています。

図1の回路で使用しているオペアンプは、カレント・ミラーの入力ノードが仮想グラウンドになるように機能します。また、W2から出力されるステップ状の電圧を、1kΩの抵抗を流れるステップ状の電流に変換する役割を果たします。

図1. NMOSで構成したカレント・ミラー
図1. NMOSで構成したカレント・ミラー
図2. シンプルな評価用回路
図2. シンプルな評価用回路

ハードウェアの設定

W2の出力電圧は、ファイルに収められたデータを基に生成します。ここでは、stairstep.csvというファイルを読み込むと共に、振幅を3Vp-p、オフセットを1.5Vに設定します。オシロスコープのチャンネル1(入力1+と1-)を使い、出力デバイスであるM2のVDSを差動で測定します。カレント・ミラーの出力電流は、R2の両端に接続したオシロスコープのチャンネル2(入力2+と2-)を使って計測します。AWG1(W1)から周波数が40Hzの三角波を出力することにより、M2のドレイン電圧を掃引します。なお、図1の回路を使用する場合、オペアンプが電源Vp(5V)とVn(-5V)に正しく接続されていることを確認してください。

図3. 図1の回路を実装したブレッドボード
図3. 図1の回路を実装したブレッドボード
図4. 図2の回路を実装したブレッドボード
図4. 図2の回路を実装したブレッドボード

手順

オシロスコープは、入力信号と出力信号の複数の周期を取得できるように設定します。図1の回路を使用している場合には、オペアンプの電源が投入されていることを確認してください。

ソフトウェア・パッケージ「Scopy」を使用し、2つの波形をオシロスコープ機能によって取得してください。図5に、取得した波形の例を示します。また、LTspice®によって、この回路のシミュレーションを実行してみてください。

図5. Scopyで取得したカレント・ミラーの信号波形(W2の周波数は10kHz)
図5. Scopyで取得したカレント・ミラーの信号波形(W2の周波数は10kHz)

次に、W1の周波数を200Hzに変更し、オシロスコープ機能によって2つの波形を取得します。この条件で、LTspiceによってシミュレーションを実行した結果を図6に示しました。

図6. LTspiceで取得したカレント・ミラーの信号波形(W1は200Hz、W2は40Hz)
図6. LTspiceで取得したカレント・ミラーの信号波形(W1は200Hz、W2は40Hz)

以上、今回は実験とシミュレーションによって、NMOSトランジスタで構成したカレント・ミラーの動作を確認しました。ADALM2000Scopyの使い方もご理解いただけたでしょう。

問題

バイポーラ・トランジスタで構成したカレント・ミラーと比較して、NMOS で構成したカレント・ミラーにはどのような長所がありますか。

答えはStudentZoneで確認できます。

著者

Antoniu Miclaus

Antoniu Miclaus

Antoniu Miclausは、アナログ・デバイセズのシニア・ソフトウェア・エンジニアです。Linuxやno-OSドライバを対象とした組み込みソフトウェアを担当。それ以外に、アナログ・デバイセズのアカデミック・プログラムやQAオートメーション、プロセス・マネージメントにも携わっています。2017年2月から、ルーマニアのクルジュナポカで勤務。クルジュナポカ技術大学で電子工学と通信工学の学士号、バベシュボヨイ大学でソフトウェア・エンジニアリングの修士号を取得しています。

Doug Mercer

Doug Mercer

Doug Mercerは、1977年にレンセラー工科大学で電気電子工学の学士号を取得しました。同年にアナログ・デバイセズに入社して以来、直接または間接的に30種以上のデータ・コンバータ製品の開発に携わりました。また、13件の特許を保有しています。1995年にはアナログ・デバイセズのフェローに任命されました。2009年にフルタイム勤務からは退きましたが、名誉フェローとして仕事を続けており、Active Learning Programにもかかわっています。2016年に、レンセラー工科大学 電気/コンピュータ/システム・エンジニアリング学部のEngineer in Residenceに指名されました。