ADALM2000による実習:CMOSアナログ・スイッチ

目的

今回は、CMOSトランジスタによって構成した電圧制御型のアナログ・スイッチについて検討します。

背景

理想的なアナログ・スイッチには、オン抵抗は存在しません。また、オフになったときのインピーダンスは無限大で、遅延時間はゼロです。更に、どのような振幅の信号にも、どのような値のコモンモード電圧にも対応できます。もちろん、MOSトランジスタで構成した現実のアナログ・スイッチは、そうしたいずれの性質も備えていません。言い換えれば、あらゆる面で制約や限界が存在します。しかし、現実のアナログ・スイッチについて正しく理解すれば、そうした制約のほとんどは克服可能です。今回の実習では、アナログ・スイッチが抱える制約の1つであるオン抵抗に注目し、その特性を評価してみます。

準備するもの

  • アクティブ・ラーニング・モジュール「ADALM2000
  • ソルダーレス・ブレッドボード
  • ジャンパ線
  • CMOS トランジスタ・アレイ:「CD4007」(1 個)
  • NPN トランジスタ:「2N3904」(またはそれに相当する製品、2 個)
  • 抵抗:4.7kΩ(1 個)
図1. CD4007のピン配置
図1. CD4007のピン配置

NMOSの評価に関する説明

まずは図2に示す評価用の回路を構成します。青色の四角は、ADALM2000のコネクタとの接続を表しています。NMOSトランジスタのM1とPMOSトランジスタのM2は、実際にはCD4007に集積されています(図1)。同ICの未使用のピンは、すべて開放のままで構いません。MOSトランジスタのオン抵抗RONを測定するには、既知の電流を流してその両端に現れる電圧を測定します。2つのNPNトランジスタであるQ1、Q2と抵抗R1は、電流源を構成しています。その出力電流は約1mAです。この電流の正確な値は重要ではありません。ここでの関心事は、MOSトランジスタのソース‐ドレイン間の電圧が正の電源と負の電源の範囲で変化する際に生じるRONの変化であるからです。

まずは、NMOSトランジスタのM1だけをオンにして、PMOSトランジスタのM2はオフにした状態で測定を行います。

図2. NMOSトランジスタの評価用回路。同トランジスタのRONの測定に使用します。
図2. NMOSトランジスタの評価用回路。同トランジスタのRONの測定に使用します。

ハードウェアの設定

図2に示した回路を、図3に示すようにブレッドボードに実装してください。

図3. 図2の回路を実装したブレッドボード
図3. 図2の回路を実装したブレッドボード

手順

任意波形ジェネレータ(AWG)は、ピークtoピークの振幅が9V、オフセットが500mV、周波数が100Hzの三角波を生成するように設定します。それにより、NMOSトランジスタに印加される電圧は、5V~-4Vの範囲で変化します。電流源を構成するQ2の働きにより、この電圧を-5Vまで変化することはありません。AWGを起動する前に、ADALM2000の正の電源Vpと負の電源Vnを必ずオンにしてください。オシロスコープの画面はXYモードに設定し、チャンネル1をX軸、チャンネル2(スイッチの電圧)をY軸として表示を行います。オン抵抗の値は、算術関数を使用して計算します(C2/1mA)。なお、R1の電圧とその実際の抵抗値を測定すれば、電流源の出力電流の値をより正確に見積もることができます。

オシロスコープ機能による信号の表示には、ソフトウェア・パッケージ「Scopy」を使用します。その画面には、測定の対象とする2つの信号の数周期分が表示されるように設定してください。図4に、Scopyを使用して表示したXYプロットの例を示しました。

図4. NMOSトランジスタのRONに対応するXYプロット
図4. NMOSトランジスタのRONに対応するXYプロット

PMOSの評価に関する説明

続いて、図2の回路を図5のように改変します。すなわち、M1とM2の両方のゲートを負の電源Vnに接続します。それにより、PMOSトランジスタであるM2だけをオンにして測定を行います。NMOSトランジスタのM1はオフになります。

図5. PMOSトランジスタの評価用回路。同トランジスタのRONの測定に使用します。
図5. PMOSトランジスタの評価用回路。同トランジスタのRONの測定に使用します。

ハードウェアの設定

図5に示した回路を、図6に示すようにブレッドボードに実装します。

図6. 図5の回路を実装したブレッドボード
図6. 図5の回路を実装したブレッドボード

手順

NMOSトランジスタの測定を行った場合と同様に、再度電圧の掃引を実施します。それにより、PMOSトランジスタのオン抵抗をプロットします。

オシロスコープは、測定の対象となる2つの信号の数周期分が表示されるように設定してください。図7に、Scopyを使用して表示したXYプロットの例を示しました。

図7. PMOSトランジスタのRONに対応するXYプロット

CMOSの評価に関する説明

続いて、図8に示すように回路を改変します。ご覧のように、M1のゲートを正の電源Vpに接続し、M2のゲートを負の電源Vnに接続します。ここでは、M1とM2の両方をオンにした状態で測定を行います。つまり、CMOSトランジスタで構成されたアナログ・スイッチの本来の使い方において、オン抵抗の値がどのようになるのかを確認するということです。

図8. CMOSトランジスタ(M1とM2)の評価用回路。NMOS、PMOSを同時にオンにした場合のRONの測定に使用します
図8. CMOSトランジスタ(M1とM2)の評価用回路。NMOS、PMOSを同時にオンにした場合のRONの測定に使用します

ハードウェアの設定

図8に示した回路を、図9に示したようにブレッドボードに実装してください。

図9. 図8の回路を実装したブレッドボード
図9. 図8の回路を実装したブレッドボード

手順

ここまでと同様に、再度電圧の掃引を行います。それにより、NMOSとPMOSを組み合わせたCMOSアナログ・スイッチのオン抵抗を示すプロットを取得してください。

オシロスコープは、測定の対象となる2つの信号の数周期分が表示されるように設定します。図10に、Scopyを使用して表示したXYプロットの例を示しました。

図10. CMOSトランジスタのRONに対応するXYプロット

問題

  • 図 2 の回路において、NMOS トランジスタがオフになるのは電圧の値がいくつのときですか。
  • 図 2 の回路において、NMOS トランジスタがオフになると、ドレイン‐ソース間の電圧の値はどうなりますか。
  • 図 5 の回路において、PMOS トランジスタがオフになるのは電圧の値がいくつのときですか。
  • 図5の回路において、PMOSトランジスタがオフになると、ソース‐ドレイン間の電圧の値はどうなりますか。

答えはStudentZoneで確認できます。

著者

Antoniu Miclaus

Antoniu Miclaus

Antoniu Miclausは、アナログ・デバイセズのシニア・ソフトウェア・エンジニアです。Linuxやno-OSドライバを対象とした組み込みソフトウェアを担当。それ以外に、アナログ・デバイセズのアカデミック・プログラムやQAオートメーション、プロセス・マネージメントにも携わっています。2017年2月から、ルーマニアのクルジュナポカで勤務。クルジュナポカ技術大学で電子工学と通信工学の学士号、バベシュボヨイ大学でソフトウェア・エンジニアリングの修士号を取得しています。

Doug Mercer

Doug Mercer

Doug Mercerは、1977年にレンセラー工科大学で電気電子工学の学士号を取得しました。同年にアナログ・デバイセズに入社して以来、直接または間接的に30種以上のデータ・コンバータ製品の開発に携わりました。また、13件の特許を保有しています。1995年にはアナログ・デバイセズのフェローに任命されました。2009年にフルタイム勤務からは退きましたが、名誉フェローとして仕事を続けており、Active Learning Programにもかかわっています。2016年に、レンセラー工科大学 電気/コンピュータ/システム・エンジニアリング学部のEngineer in Residenceに指名されました。