電子工学のプロジェクトに役立つ実用的なヒント

筆者が初めて回路の基礎講義を受けたのは、随分前のことです。しかし、それほど昔のことであるという実感はありません。回路に関する理論は非常に興味深いものでした――。というのは嘘で、実際には退屈な話ばかりで非常にもどかしく感じていました。ところが、ブレッドボードを使って初めて回路を実装した時、筆者はその虜になったのです。

電子回路の実験の授業は、あっという間に筆者のお気に入りの時間になりました。自分が作製したブレッドボードの問題を検出するには、全ての電源やグラウンドの接続、全ての信号のノードをトレースしてプロービングする必要があります。蜘蛛の巣のように張り巡らされた配線を、身をかがめながら何時間も確認し続けなければなりません。しかし、その作業もまったく苦ではありませんでした。そのようなトラブルシューティングがあまりにも楽しかったため、その後、電子回路の授業ではボランティアで実験の助手を務めていたほどです。

そのような経験に基づき、専門家からのヒントとして 1つの教訓をお伝えしておきます。それは、整然とした回路を構築することにより、回路のトラブルシューティングは格段に容易になるということです。図 1 に示すように、配線はきれいに切りそろえて、ブレッドボード上にフラットに配置するべきです。決して図 2 のような配線を行うべきではありません。

図 1 . ソルダーレス・ブレッドボード上で整然とした配線によって構築した回路(写真提供: ジョージア工科大学 電気/ コンピュータ工学 デジタル設計研究室 Kevin Johnson氏)

図 1 . ソルダーレス・ブレッドボード上で整然とした配線によって構築した回路(写真提供: ジョージア工科大学 電気/ コンピュータ工学 デジタル設計研究室 Kevin Johnson氏)

図 2 . 好ましくない配線の例。このようなブレッドボードを作製すると後で後悔することになります(写真提供: 図 1と同じく Kevin Johnson氏)。

図 2 . 好ましくない配線の例。このようなブレッドボードを作製すると後で後悔することになります(写真提供: 図 1と同じく Kevin Johnson氏)。

しかし、前述したような経験は、4年生の時のプロジェクトに取り組むうえでは何の役にも立たないように感じられました。筆者らは(ミニチュアの)自律走行車の開発に取り組んでいました。あまり難しいことのようには聞こえないかもしれませんが、筆者のグループは、それをアナログ回路によって実現することにしたのです(このプロジェクトのグループには、制御理論に精通した人物がいました。筆者は今でもこの人に感謝しています)。筆者らが適切に実装できたのは、壁にぶつかる前に自律的に走行を停止する機能だけでした。それでも、マイクロコントローラを使用して車両を構築しようとしたグループよりも優れた成果を上げることができたと考えています。

筆者らには、自らを導くための経験がほとんどありませんでした。そのため、設計のあらゆる側面について 1 つ1 つ調査することにしました。壁が近づいていることを認識するためにはどのようなセンサーを使えばよいのか、そのセンサーはどうやって購入するのか、センサーを入手したらそれをどのように接続すればよいのか、出力信号をどのようにして解釈するのか。こうした検討を行ううえで、電子回路の実験で培った筆者の経験はさほど役には立ちませんでした。

おそらく、そのプロジェクトを進める上で役立つリソースは豊富に存在していたはずです。しかし、筆者はその多くに気付くことができませんでした。当時は、まだインターネットが普及していなかったからですが、ここ何年かの間に、筆者は新たなプロジェクトを開始する際に参考になるリソースを数多く見つけました。そのうちのいくつかは、読者の皆さんがプロジェクトを進める際に必ず役に立つはずです。

なお、ブレッドボードによる回路の試作を始める際に知っておくべきことは、2016年11月の StudentZone の記事にまとめてあります。

analog.com/jp で無償サンプルを入手

1つ目のリソースとして、アナログ・デバイセズが提供する無償のサンプル・プログラムを紹介します。製品ページを開き、下方向にスクロールすると「サンプル&購入(Sample & Buy)」が表示されます。これにより無償でサンプルを注文することができます。すでに無償サンプルが提供されている製品の場合、「アナログ・デバイセズに注文(Order from Analog Devices)」に「サンプル注文(Sample)」ボタンが表示されます。

図 3. アナログ・デバイセズの製品ページ。無償のサンプルを注文することができます。

図 3. アナログ・デバイセズの製品ページ。無償のサンプルを注文することができます。

詳細については、その上にあるリンクを参照してください。なお、サンプルを注文するには、myAnalog のアカウントを登録する必要があります。また、アカウントの登録には、必ず所属している大学のメール・アドレスを使用してください。「Gmail」や「Yahoo!メール」といったフリー・メールのアドレスを使ってサンプルを注文することはできません。

ウェブ上での部品の検索/注文

ブレッドボードを作製する場合、IC のパッケージとしてはDIPが適しています。では、DIP版のサンプルが提供されておらず、購入することしかできない場合にはどうすればよいのでしょうか。そうしたケースでは、必要なIC を Digi-Key や Mouser などのサプライヤから購入することが選択肢となります。筆者の場合、部品の検索については Octopart も活用しています。例えば、ポテンショメータ「AD5206」の中でも DIP を採用した 10 kΩ版を入手したいとします。その場合、Octopart のサイトでAD5206を検索すると、図4のようなページが表示されます( https://octopart.com/search?q=AD5206&specs.res i s tance.value=10000&s tar t=0&specs .case_package.value=DIP

図 4 . Octopartにおける AD5206 の検索結果。電子部品のサプライヤのサイトで部品検索を行うと、このようなページが表示されます。

図 4 . Octopartにおける AD5206 の検索結果。電子部品のサプライヤのサイトで部品検索を行うと、このようなページが表示されます。

AD5206 はデジタル制御型のポテンショメータであり、さまざまなプロジェクトで活用できます。しかし、analog.com/jp では、DIP版の無償サンプルは入手できません。そのため、Octopart に一覧表示されたいずれかのサプライヤから、予算に応じて購入を行うことが1つの選択肢になります。

Octopart を参照する場合にも、いずれかのサプライヤのウェブ・サイトを直接参照する場合にも、必ずMOQ(最小発注数量)に注意してください。MOQ だけが異なる同じデバイスが、複数のSKU(最小管理単位)で販売されていることがよくあります。

DIP版が見つからない場合の対処

SOIC( またはその他のパッケージ) のデバイスを使用し、ブレッドボード上に回路を構築したいケースを考えます。例えば、AD5206 の無償サンプルは、図 5 に示した SOIC と TSSOPで提供されています。

図 5 . デジタル・ポテンショメータ「AD5206」のSOIC版とTSSOP版

図 5 . デジタル・ポテンショメータ「AD5206」のSOIC版とTSSOP版

このような場合、ブレークアウト・ボードを使用することで、SOICからDIPへピンの変換を行うことができます。SOIC のデバイスを使用してブレッドボードを製作したい場合には非常に便利です。ただし、ブレークアウト・ボードを利用するには、自分でハンダ付けを行うか、あるいはハンダ付けについて誰かに教わる必要があります。

筆者の場合、ブレークアウト・ボードと回路についてはsparkfun.comadafruit.com に掲載されているチュートリアルを参照しています。どちらのサイトにも、SOIC から DIP への変換用アダプタの情報が掲載されています。試しに、サイトの検索バーに「SOIC」と入力してみてください。その結果、次のような製品のページを参照することができます。

余談ですが、これらの製品を比較した場合、adafruit.comのブレークアウト・ボードの方が柔軟性が高く、使いやすいと考えられます。パッドが長めに設けられているため、複数種のSOICを配置できるだけでなく、ハンダ付けも少し容易になるはずです。

ハンダ付けの方法を学ぶ

ハンダ付けについての知識がない場合にも、sparkfun.com と adafruit.com を参照することをお勧めします。どちらのサイトにも、素晴らしいチュートリアルと動画が用意されています。例えば、DIPへの変換用のブレークアウト・ボードにSOICをハンダ付けしなければならない場合には、以下のページで表面実装のテクニックについて学ぶとよいでしょう。

一方、スルーホール型の部品をハンダ付けしたい場合には、以下のページが参考になります。

ハンダ付けの習得には時間がかかります。上達するには実践あるのみです。ハンダ付けを容易に行うための器具も販売されていますが、それらを全て買いそろえようとすると、費用がかさんでしまう可能性があります。1 つの方策は、そうした器具を使わせてくれるメーカーの施設や実験室が存在しないかどうか探してみることです。また、ハンダ付けの作業は、万力、照明、拡大鏡、ピンセットなどがあるだけでもかなり容易になります。ハンダごてについても、ぜひ使いやすいものを探してみてください。ここまでに紹介した各チュートリアルでは、お勧めのハンダごてが紹介されています。

今回初めて StudentZone を読んだという方は、アナログ・ダイアログのバックナンバーで過去の記事を検索してみてください。また、アナログ・ダイアログについての情報をメールで受信したい場合には、myAnalog のアカウントを登録してください。そのうえで「Manage Updates(登録の管理)」→「MyNewsletters(ニュースレターの管理)」のセクションでメールの登録を行ってください。

図 6 . MyAnalog のアカウントの設定

図 6 . MyAnalog のアカウントの設定

今月の問題

あなたの思考を刺激するというこれまでの流れに従って、今月もクイズをお届けします。図 7 に問題を示しました。正解は、EngineerZone® の StudentZone で確認することができます。

図 7. 問題:1 mAの電流源にかかるソース電圧を求めなさい。

図 7. 問題:1 mAの電流源にかかるソース電圧を求めなさい。


著者

Anne Mahaffey

Anne Mahaffey

Anne Mahaffeyは、ダイレクト・デジタル合成製品を担当するテスト技術者として2003年にアナログ・デバイセズに入社しました。2013年からはオンライン設計ツール・グループに所属し、計装アンプ・ダイヤモンド・プロット・ツール(InstrumentationAmplifier Diamond Plot Tool)やADIsimDDSなどのツールを担当しています。ジョージア工科大学で電気工学の学士号、ノースカロライナ州立大学で電気工学の修士号を取得しています。