電子機器は面白い

質問:

アナログ電子機器は面白いですか?

RAQ:  Issue 89

回答:

もちろんです! 最高のエンジニア(それに、どんな職業でも最高のプロ)は、自分の仕事を楽しむ人たちです1。以前のRAQ issue61(電子機器は面白い)2 で述べましたが、私はエンジニアにインタビューするときに「あなたは自分のスキルを活かして自分のために何をしましたか」と必ず質問します。答えの中には、非常に優れた創意工夫が認められるものがありました。プライベートなプロジェクトで開発されたアイデアから、重要な新デバイスが生まれることがよくあるのです。

MEMS加速度センサーが初めて開発されたとき、熱心なスポーツマンが大勢、トレーニングの中でそのデバイスを使って手足や身体の動きを測定しました。こうして再現性、効率、フィットネスを高めたのです。まもなくこの種の測定デバイスが市販されるようになり、今ではほぼあらゆる競技のアスリートに利用されています。

半導体冷却用のヒートパイプが開発されていた頃、開発技術者の一人がヒートパイプをロースト用のビーフに突き刺してみました。こうすると調理時間が短縮し、加熱ムラも改善することがわかりました。調理用の製品はすぐに市場に登場しました。

私の友人に、安価なデジタル血圧計の仕事をしている人がいます。血圧計はエアポンプ、圧力計、マイクロコントローラ、単純な数値表示器で構成されていますが、これを少し改造するだけで地下埋設型雨水タンク用の便利なデプスゲージ(水深計)になることを発見しました。タンクの底までチューブを入れ、空気を注入して圧力をかけ、開口部から空気を抜きます。チューブ内の空気圧は水深に対応します。このアイデアは(今のところ)商用化されていませんが、市販のタンク水深計よりも20%以上も値段が安いのです。彼の近所の人たちは安いデジタル血圧計を買って、貯水槽の水深を測っています。通常の水深計が高いのは、水中に沈める圧力計に高価な耐水性/耐食性のものを使わなければならないからです。私の友人の圧力計は水の中に入れないので、もっと簡単なもので間に合います。

余暇にエンジニアがプライベートなプロジェクトをできるよう会社の資源(それに、ある程度の部品や材料も)を使用することを認めている企業がたくさんあります。最も成功した企業(3M、Google、アップルなど)の中には、勤務時間中にそうした仕事を奨励しているところさえあります。ポストイット、Gmail、ツィッターなどはすべて、このようにして開発されたものです。

自分が興味をもったアイデアを発展させることができれば(すぐに商用化できるかどうかは別として)、有益なことを数々学び、技術に関する理解を深め、しかも楽しむことができるでしょう3



1: 自分の仕事に幸せを感じるためには、自分のやりたいことを見つけて、そのためにお金を払ってくれる人を見つけることです。

 

2: アナログ・エンジニアとして成功する上で最も重要な特性とは?

 

3: 「仕事をするのが楽しいのでも利益になるのでもないのなら、いったいここで何をしているんだ?」Robert Townsend(Avis Rent a Car社の前CEO)著『Up the Organization』 (1970年、まだ絶版ではありません)より






著者

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James Bryant

James Bryantは、1982年から2009年に定年退職するまで、アナログ・デバイセズの欧州地区アプリケーション・マネージャを務めていました。現在も当社の顧問を務めると共に、様々な記事の執筆に携わっています。リーズ大学で物理学と哲学の学位を取得しただけでなく、C.Eng.、Eur.Eng.、MIEE、FBISの資格を有しています。エンジニアリングに情熱を傾けるかたわら、アマチュア無線家としても活動しています(コールサインはG4CLF)。