A/Dコンバータ・クロックからジッタをなくすには

質問:

アンプを減衰器として使用することができますか?

RAQ:  Issue 57

回答:

クロック信号上のジッタ、またはノイズがA/Dコンバータ(ADC)のタイミングを損なうおそれがあるのは、ADC用クロックがその入力のスレッショールド領域の付近にあるときだけです。クロック信号のスルーレートを上げれば、その遷移時間が短くなり、スレッショールド期間にノイズが存在する時間も減少します。このようにして、システムに生じるRMS(実効値)ジッタが効果的に減少します。たとえば、70MHzのアナログ入力に対し、RMSジッタが最小100fsの12ビットADCの場合は、1V/nsのスルーレートが必要になります。

このように、ジッタ量を最小にするには、クロック・エッジのスルーレートを改善しなければなりません。そのための1つの方法は、クロック源そのものの性能を改善させることです。一般にアナログ・デバイセズのADCのベースライン性能を評価するときには、カスタム品(特注)の高性能クロック発振器を使用します。高速コンバータのユーザがすべて高性能の恒温槽型低ジッタ発振器のために必要なコストやスペースを割くことができるわけではないとは思いますが、手頃なコスト効率に優れた発振器でも、たとえ入力周波数が高くても十分な性能を発揮することは可能です。市販の発振器を選択するときは、ベンダーが必ずしも同じ方法でジッタの仕様を規定したり測定したりしていないという点を考慮する必要があります。特定のアプリケーション向けに最適な発振器を選ぶためのよい方法は、いくつかの発振器を直接システムの中でテストすることです。この選択だけが唯一の変数になれば、性能を予測することができます(ただし、発振器ベンダーが適切な品質管理基準を守っているということを前提とします)。できれば、発振器メーカーに問い合わせてジッタや位相ノイズのデータをもらい、デバイスの最適な終端方法についてアドバイスしてもらうとよいでしょう。発振器の終端を正しく行っていないと、コンバータのスプリアスフリー・ダイナミック・レンジ(SFDR)を極端に低下させてしまうことがあります。

コンバータの性能を最大限に引き出すには、クロック・システム全体を理解することがとても重要です。システムのクロック回路のジッタは、さまざまな方法で低減することができます。たとえば、上述したようにクロック源を改善することのほか、フィルタリング、周波数の分割、適切なクロック回路ハードウェアを選択することなどがあります。クロックのスルーレートに注意することを忘れないでください。スルーレートによって、遷移時間の間の、コンバータ・データを損なってしまうおそれのある、ノイズの量が決まります。この遷移時間を最小にすることによって、コンバータの性能を高めることができます。シグナル・チェーンの各部品が全体的なジッタ量を増大させてしまうため、クロックの駆動と分配に関しては必要な回路のみを使用するようにしてください。最後に、ちゃちな(安価な)ハードウェアは使わないでください。おそらく十分な性能は得られません。たとえ7万ドルの車でも20ドルのタイヤでは、レースに勝てるような性能が期待できないのと同じです。

 

 

著者

Rob Reeder

Rob Reeder

Rob Reeder は、1998年以降、米国ノースカロライナ州グリーンズボロにあるアナログ・デバイセズの高速コンバータ/RFグループで上級コンバータ・アプリケーション・エンジニアとして働いています。これまでに、さまざまなアプリケーションのためのコンバータ・インターフェイス、コンバータ・テスト、アナログ・シグナル・チェーン・デザインに関する多数の記事を執筆しています。また、航空宇宙および防衛グループのアプリケーション・エンジニアであり、5年間にわたってさまざまなレーダー、EW、および計装アプリケーションに注力していました。これまでには、高速コンバータ製品を9年間担当していました。それ以外にも、アナログ・デバイセズのMultichip Products グループのテスト開発とアナログ設計エンジニアリングも担当していました。そこでは、宇宙、軍事、および高信頼アプリケーションのアナログ信号チェーンモジュールを5年間設計しました。 イリノイ州デカルブの北イリノイ大学で1996年にBSEE(電気工学士)、1998 年にMSEE(電気工学修士)を取得しています。余暇には、音楽のミキシング、美術を楽しむほか、2人の息子とバスケットボールをしたりします。