ストレスは、人間にもアナログICにも良くない

質問:

最近の記事で、機械的ストレスによって高精度アナログICの キャリブレーションが変わると書かれていますね。 それは、高精度アナログICの取り付けが悪いと、 精度が低下するということでしょうか?

RAQ:  Issue 35

回答:

そのとおりです。しかし、それほど心配しなくても大丈夫。この間の記事は、作用するメカニズムについて論じたものです。導体の薄膜を絶縁体シートに取り付けた場合、絶縁体が曲がると導体の抵抗が変化します。導体が高精度ICの抵抗である場合、このストレスが回路のキャリブレーションに影響を与えます。

これが深刻な問題になることはめったにありません。高精度アナログIC回路では、抵抗の絶対値ではなく、多くの場合抵抗同士のマッチングに依存します。チップの重要な抵抗にすべて同じストレスがかかるようにレイアウトすれば、絶対値が変化しても、抵抗のマッチングは変わりません。

さらに、チップが標準のICパッケージの場合、リード線(またはパッド)とボンディング・ワイヤがICを回路基板に取り付けるときの小さなストレスからチップを守ります。高精度アナログICを装着した回路基板を曲げたりひねったりしても、精度の重大な変化が生じる以前におそらくハンダ接合部が損傷するでしょう。

問題が発生する可能性があり、実際にそういう問題が起きているのは、ICを何らかの機械アセンブリに取り付けた場合です。温度センサー、光センサー、加速度センサー、ジャイロスコープなどのセンサーでは、そのような使われ方をするのはごくふつうのことです。

エンジニアによっては、ICを「しっかり」取り付ける必要があると感じて、必要以上の、あるいは安全な範囲を超えるきわめて大きな力でクランプすることがあります。ICはきわめて小さく軽量であり、通常は数十~数百ミリグラムで、最も重くてもわずか数グラムです。せいぜい1ニュートン1 のクランプ力でも、ICのキャリブレーションを狂わすことなく、しっかり固定するには十分すぎるくらいです。

以前に見かけた温度センサーなどは、約200Nの力で「良好な熱的接触が得られるようしっかり」取り付けられており、キャリブレーションが8℃以上ずれていました。実験によれば、デバイスと基板の間の熱伝導性は、締付け力が1~200Nまで変化しても目立った変化はありませんでしたが、キャリブレーションのほうは確かにずれていました。

機械構造物にICを取り付けられるときは、できるだけ小さい力で保持するようにしてください。ICをねじ式ブラケットで保持する場合は、小さい発泡スチロールを使えば力を制限して、しかも確実に取り付けることができます。しかし、温度センサーと計測する表面の間に発泡スチロールがあれば熱伝導性が低下し、ジャイロ/加速度センサーとその取付台の間にあればHF振動が減衰してしまうため、これらの場合は発泡スチロールを使うわけにはいきません。

1 ニュートンの正式な定義については、http://en.wikipedia.org/wiki/Newtonをご覧ください。しかし、簡単に考えれば、地球の重力が小さなリンゴ(102グラム)に及ぼす力ということができます。

著者

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James Bryant

James Bryantは、1982年から2009年に定年退職するまで、アナログ・デバイセズの欧州地区アプリケーション・マネージャを務めていました。現在も当社の顧問を務めると共に、様々な記事の執筆に携わっています。リーズ大学で物理学と哲学の学位を取得しただけでなく、C.Eng.、Eur.Eng.、MIEE、FBISの資格を有しています。エンジニアリングに情熱を傾けるかたわら、アマチュア無線家としても活動しています(コールサインはG4CLF)。