最大定格の遵守、あるいは不幸な予言を避ける方法

質問:

「絶対最大」定格にはどれぐらいの安全マージンが あるのでしょうか?

RAQ:  Issue 19

回答:

全くありません!それに集積回路(IC)は占い師なんかではありません。

ICの絶対最大定格は、ICが動作できる限界の条件を示しています。この限界を超えると、ICが損傷をこうむったり、壊れたりすることがあります。

この限界をどれぐらい超えられるかについては述べられていません。デバイスによっては非常に堅牢なものもあれば、そうでないものもあります。しかし、限界を超えてもよいとするメーカーはありません。唯一の安全法則は、「決してしてはならないこと」を文字どおり守ることです。ただ、絶対最大限度を超えることによってどうして損傷が生じるのかを理解することは、より良いシステムを設計するために役に立ちます。

ツェナー・ダイオードは、ブレークダウン電圧を超える逆電圧を導通するように設計されているため、大きな逆電流を問題なく通すことができます。しかし、ほかのICダイオード(特にベースエミッタ接合)は、数マイクロ秒ほどのごくわずかな逆電流でも損傷をこうむります。同様に、MOSデバイスのゲート酸化膜が過電圧によって破壊されると、回復不能なダメージになります。つまり、絶対最大電圧を超えると、接合部やゲート酸化膜の破壊によってICが損傷することがあるのです。

絶対最大電圧をほかの電圧を基準にして表すことがあります。つまり、アンプの入力電圧(VIN)はVSS–0.3 V ≤ VIN ≤ VDD+0.3 Vと制限されたり、負電源の限度を正電源によって規定(–VSS ≤ VDD)したりします。前者は入力電圧が電源から300mV以上逸脱してはならないことを意味し、後者は負電源の絶対値が正電源の絶対値を上回ってはならないことを意味しています。だからといって、+10VのVDDを使用する場合、入力に+8Vまで許したり、あるいはVDDがターンオンされる前にVSSに-8Vの値を認めてよいということにはなりません。シリコン・チップは水晶ですが、水晶球ではないため、将来を予言することはできません。この種の絶対最大定格は、電力と信号のシーケンスが重要であることを示します。この種の限界を超えても、デバイスの破壊にはならないかもしれませんが、ICサブストレート内の寄生素子をターンオンし、これが今度は電源のラッチアップと短絡を引き起こし、結局は過電流か過熱によってデバイスが破壊されることになるかもしれません。

電圧の限界のほかにも、絶対最大定格でチップ損失、特定のピンの電流、チップ/パッケージ温度を制限することもあります。場合によっては、過渡損失と電流の限界が定常状態の値よりも高いこともあります。しかし、とにかく非常に大切なことは、定められた限界を理解し、その範囲外に出ないことです。



著者

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James Bryant

James Bryantは、1982年から2009年に定年退職するまで、アナログ・デバイセズの欧州地区アプリケーション・マネージャを務めていました。現在も当社の顧問を務めると共に、様々な記事の執筆に携わっています。リーズ大学で物理学と哲学の学位を取得しただけでなく、C.Eng.、Eur.Eng.、MIEE、FBISの資格を有しています。エンジニアリングに情熱を傾けるかたわら、アマチュア無線家としても活動しています(コールサインはG4CLF)。