チップは多いほうがいいということ(あるいはベルギーの食べ物の優れている点)

質問:

チップが1つよりも2つのほうがいいのはどんな場合ですか?

RAQ:  Issue 17

回答:

それは、2つのチップのほうがおいしく…いや失礼!うまく機能し、低コストで、短時間で製品を市場に出せる場合です。

チップを発明し、今でも世界最高のチップを作るベルギー人はマヨネーズを添えてチップを出します。アメリカ人がなぜこれを「フレンチ・フライ」と呼ぶのか、私には理由がわかりません。最近ベルギーでベルギー人の同僚と(シリコン)チップについて話し合っていたとき、私は集積回路チップも、ポテトチップスと同じく、サイズよりも品質が重要だと指摘しなければなりませんでした。ポテトチップスは多いほうがよい…これはシリコン・チップについても当てはまることがあります。

集積化はこの業界で最も強力なパワーの1つです。それを唱導するムーアの法則もあります。集積密度が高くなるにつれ、サイズが小さく、コストが低く、電力効率が高くなりました。これは確かにいいことですが、完全集積化(システム全体をシングル・チップにする)が必ずしも一番良いとは限りません。

ナノメートルCMOSは大量のデジタル回路を集積することができますが、電源電圧が低下し、S/N比も悪化します。高精度のアナログ回路や堅牢なデジタル・インターフェースが必要なシステムには対応できません。

ナノメートルCMOSと高電圧デバイス(バイポーラあるいは高電圧CMOS)を組み合わせたチップを作って、アナログや高電圧のデジタル機能を実現できるようにすることも可能です。しかし、このようなマルチプロセス・チップは歩留まりが低く、コストが高くなります。それぞれ注意深く作られた複数のチップに分割したシステムを作るほうが、歩留まりがあまりよくない大きなチップ1個より、不良品が減り、コストを削減できることがあります。

このような分割には高度な技術が必要です。設計者は、サイズ、コスト、消費電力、機能、製品化までの時間を最適化することを考えなければなりません。その手段は、回路とシステムの設計テクニックと高度なICプロセスです。

最新かつ最高のシステムオンチップを設計できたら素晴らしいことですが、市場に出すのが遅れるのであれば、代わりに釣りやショッピングに行っていたほうがましだったということになります。一般に最速のソリューションは、別々の処理/演算(アナログ・チップとハイレベル・デジタル・チップ)を使用する方法です。このようなソリューションを短時間で作るには、演算チップにFPGA を使用する方法があります。こうすると最低コストのソリューションにも最高密度のソリューションにもおそらくなりませんが、チャンスを逃がさないようにすることはできます。ただし、そのうち低コストで作られた専用チップが長い開発期間を経て登場し、製品ライフサイクルの後半に追いついてしまうことがあります。

アナログ・チップは全てがそれほど簡単なものではありません。最新のアナログ・チップには強力なデジタル処理が実装されています。たとえば、ΣΔ(S-D)コンバータやスマート補間D/Aコンバータ(DAC)などがそうです。たとえば、後者にはインタリーブされたQAM入力データとデジタル・インターポレーションを分離するファームウェアが内蔵されており、出力のアンチエイリアス・フィルタに大きな負担がかからないようにしています。

私はムーアの法則を廃棄すべきだというつもりはありません。やはり集積化には優れたところがあります。ただ、完全集積化よりも賢いパーティショニング(マルチ・チップ)のほうが製品の性能が向上し、他社より早く市場に出せることも多いのです。そうなれば祝杯も…そうそう、ベルギー人は世界で最高のビールも作っています。

 


著者

james-m-bryant

James Bryant

James Bryantは、1982年から2009年に定年退職するまで、アナログ・デバイセズの欧州地区アプリケーション・マネージャを務めていました。現在も当社の顧問を務めると共に、様々な記事の執筆に携わっています。リーズ大学で物理学と哲学の学位を取得しただけでなく、C.Eng.、Eur.Eng.、MIEE、FBISの資格を有しています。エンジニアリングに情熱を傾けるかたわら、アマチュア無線家としても活動しています(コールサインはG4CLF)。