光強度を電気量に変換する方法

質問:

様々な光源の光強度を測定する方法を教えてください。

RAQ Issue: 166

回答:

室内照明を設計する際や、写真の撮影に向けて準備する際には、光強度の計測手段が必要になるケースがあるでしょう。また、IoT(Internet of Things)を利用したスマート農業などにおいても、光強度の計測が重要な意味を持つようになりました。スマート農業では、植物に関するパラメータの監視/制御が行われます。その目的は、植物の光合成を促進し、最大限の成長を得ることです。したがって、光は極めて重要なパラメータとして位置づけられます。ほとんどの植物は、可視波長域にある赤、橙、青、紫の光を吸収します。一方、緑色と黄色の光は反射され、成長にはあまり寄与しません。植物の成長段階を通して波長域と光強度を制御することにより、成長を最大限に促し、収穫量を増やすことができます。

図1に示したのが、光強度を測定するための回路の例です。この回路は、植物の光合成に有効な可視スペクトル全体を対象としており、それぞれ異なる波長(緑、赤、青)に感度のピークを持つ3つのフォトダイオードを備えています。それらのフォトダイオードによって光強度を測定することで、対象となる植物の要件に応じて光源を制御することができます。

図1. 光強度を測定するための回路
図1. 光強度を測定するための回路

この回路では、精度の高い3つの電流‐電圧変換段(トランスインピーダンス・アンプ回路)を使用しています。それぞれ、緑色、赤色、青色の光に対応します。各トランスインピーダンス・アンプ回路は、シグマ・デルタ型A/Dコンバータ(ΣΔ ADC)の差動入力に接続されています。ΣΔ ADCは、光強度を表すアナログ電圧をデジタル・データに変換します。得られたデータは、必要な処理を行うためにマイクロコントローラに受け渡されます。

光強度から電流への変換

フォトダイオードには、光強度に応じた電流が流れます。電流と光強度の関係は、図2に示すようにほぼ線形です。図2は、3つのフォトダイオードの出力電流を光強度の関数として表したものです。赤色、緑色、青色に対応するフォトダイオードとしては、それぞれ「CLS15-22C/L213R/TR8」、「CLS15-22C/L213G/TR8」、「CLS15-22C/L213B/TR8」を使用しました。

図2 . 赤色、緑色、青色のフォトダイオードの出力電流と光強度の関係
図2 . 赤色、緑色、青色のフォトダイオードの出力電流と光強度の関係

赤色、緑色、青色のフォトダイオードは、感度がそれぞれに異なります。そのため、各トランスインピーダンス・アンプ回路の帰還抵抗をそれぞれ適切な値に設定し、ゲインを調整する必要があります。そのためには、各フォトダイオードの短絡電流ISCをデータシートで確認し、その値を基に動作点における感度S(単位はpA/lux)を求めます。そうすると、帰還抵抗RFBの値は次の式で計算できます。

数式 1

ここで、VFS,P-Pは必要な出力電圧範囲( フルスケール、ピークtoピーク)、INTMAXは最大光強度(直射日光で12万lux)です。

電流から電圧への変換

電流から電圧への変換を高い精度で行うには、バイアス電流が非常に少ないオペアンプを選択することが重要です。フォトダイオードの出力電流はpAのレベルなので、バイアス電流の影響により、大きな誤差が生じる可能性があるからです。もちろん、オフセット電圧も小さくなければなりません。アナログ・デバイセズの「AD8500」の場合、バイアス電流が1pA(代表値)、最大オフセット電圧が1mVです。そのため、このようなアプリケーションに適しています。

アナログからデジタルへの変換

測定値に対して処理を施すには、フォトダイオードの電流を電圧に変換し、更にそれをデジタル値に変換して、マイクロコントローラに受け渡す必要があります。そのために、この回路では複数の差動入力を備えるADC「AD7798」を使用しています。AD7798の分解能は16ビットなので、測定した電圧に対応する出力コードは次のようになります。

数式 2

各変数の意味は以下のとおりです。

AIN:入力電圧

N:分解能(ビット数)

GAIN:内蔵アンプのゲイン係数

VREF:外部リファレンス電圧

ノイズをより低減したい場合には、コモンモード・フィルタとディファレンシャル・フィルタをADCの各差動入力に適用します。

この回路で使用しているコンポーネントは、いずれも消費電力が非常に少ないことを1つの特徴とします。そのため、この回路は、現場で使用されるバッテリ駆動の携帯型機器に最適です。

まとめ

使用するコンポーネントについては、バイアス電流やオフセット電圧といった誤差源に注意を払う必要があります。また、トランスインピーダンス・アンプ回路において望ましくない成分が増幅されると、精度が低下して結果に悪影響が及ぶ可能性があります。図1の回路を使用することにより、比較的容易に光強度を電気量に変換することができます。その電気量をデジタル・データに変換すれば、必要に応じて様々な処理を実施することが可能になります。

著者

Thomas Brand

Thomas Brand

Thomas Brandは、2015年10月、修士論文を作成する中で、ミュンヘンのアナログ・デバイセズでのキャリアを開始しました。2016年5月~2017年1月、アナログ・デバイセズのフィールド・アプリケーション・エンジニア向けトレーニング・プログラムに参加し、その後、2017年2月よりフィールド・アプリケーション・エンジニアとしての業務を開始しました。この業務において、主に産業分野の大型顧客を担当しています。更に、産業用イーサネットを専門領域とし、中央ヨーロッパにおいてこれに関連した事項の支援を行っています。ドイツのモースバッハにあるUniversity of Cooperative Education(UCE)で電気工学を専攻。その後、ドイツのコンスタンツ応用科学大学 大学院で国際営業を学び、修士号を取得しました。