スイッチング・レギュレータを実装したいのですが、インダクタ(コイル)はプリント回路基板上のどこに配置するべきなのでしょう? ガイドラインのようなものはありますか?

質問:

コイルはどこに置くべきか?

RAQ Issue: 164

回答:

電圧の変換を実現するスイッチング・レギュレータでは、エネルギーを一時的に蓄積するためにインダクタを使用します。そのサイズはかなり大きいケースが多いのですが、プリント回路基板上では、スイッチング・レギュレータの回路レイアウト内に配置する必要があります。それ自体はさほど難しいことではありません。インダクタに流れる電流はもちろん変動するのですが、急激な変化は見られません。通常は、比較的ゆっくりとした連続的な変化が起きるだけです。

スイッチング・レギュレータは、2つの電流経路を交互に切り替えます。このスイッチングは非常に迅速に行われ、その速度はスイッチング・エッジの間隔によって決まります。一方のスイッチング状態では電流を流し、他方のスイッチング状態では電流を流さないパターン(配線)は、ホット・ループ(またはAC電流パス)と呼ばれます(図1)。基板のレイアウトでは、トレースの寄生インダクタンスが最小になるように、ホット・ループの大きさを小さく抑え、経路を短くする必要があります。トレースの寄生インダクタンスは不要な電圧オフセットの原因になり、EMI(電磁干渉)の発生源となります。

図1. 降圧用スイッチング・レギュレータの概念図。点線で示したホット・ループを小さくすることが重要です。
図1. 降圧用スイッチング・レギュレータの概念図。点線で示したホット・ループを小さくすることが重要です。

図1の降圧レギュレータでは、点線で示したホット・ループが重要な意味を持つわけですが、ご覧のとおり、インダクタL1はそのホット・ループには含まれていません。つまり、このインダクタの配置場所については、そこまで重要性は高くないと考えられます。また、インダクタをホット・ループの外側に置くというのも適切な考え方です。つまり、インダクタの配置については、格別な配慮は不要だということになりますが、それでもいくつかのルールに従う必要はあります。

ノイズの影響を受けやすい制御用のパターンは、基板の表面、直下、内層、裏側にかかわらず、インダクタの下に配置すべきではありません。インダクタに電流が流れると磁場ができ、それが制御用パターンの微弱な信号に影響を及ぼす可能性があるからです。スイッチング・レギュレータでは、クリティカルな信号パスの1つとして、出力電圧をスイッチング・レギュレータICや分圧器にフィードバックするためのパターンが挙げられます。

図2 . 降圧コンバータ(ADP2360) の基板におけるインダクタの配置例
図2 . 降圧コンバータ(ADP2360) の基板におけるインダクタの配置例

現実のインダクタは、誘導性の効果だけでなく、容量性の効果ももたらすことに注意する必要があります。図1に示したように、インダクタの一端は、降圧スイッチング・レギュレータのスイッチング・ノードに直接接続されます。つまり、インダクタの電圧は、スイッチング・ノードの電圧と全く同じ強さと速さで変化します。スイッチング時間が非常に短く、回路の入力電圧が高い場合には、基板上の他の信号線にかなり大きな結合効果が生じます。このような理由からも、ノイズの影響を受けやすいパターンは、インダクタから離れた位置に配置するべきです。

図2に、スイッチング・レギュレータIC「ADP2360」を使用する場合の基板レイアウトの例を示しました。この図では、図1のクリティカルなホット・ループを緑色の破線で示しています。橙色のフィードバック・パスは、インダクタL1から少し離れた位置にあることがわかります。このパターンは、基板の内層に設けています。

回路設計者の中には、インダクタの下に基板の銅層が存在していることを好まない人がいます。そうした設計者は、インダクタの下にあるのが、たとえグラウンド・プレーン層であったとしても、カットアウトを入れるでしょう。その目的は、グラウンド・プレーンにインダクタの磁界が原因で渦電流が発生するのを防ぐことです。このアプローチは悪くはありませんが、カットアウトのない、いわゆる“ベタ”のグラウンド・プレーンの方が望ましいとする意見もあります。その理由としては、以下のようなものが挙げられます。

  • シールド用のグラウンド・プレーンは、カットアウトがない方が効果的に働きます。
  • 基板に銅が多いほど、放熱の面で優れています。
  • 渦電流が発生したとしても、それは局所的なものです。わずかな損失が生じるだけで、グラウンド・プレーンの役割にはほとんど影響を及ぼしません。

こうした理由から、筆者も、インダクタの下にはベタなグラウンド・プレーン層を配置するべきだと考えています。

以上の内容をまとめると、スイッチング・レギュレータのインダクタがクリティカルなホット・ループに含まれていなくても、インダクタの下やすぐ近くに、制御用のパターンを配置するべきではありません。また、グラウンド・プレーンや電源プレーンにおいて、インダクタの部分をカットアウトする必要はないでしょう。

著者

Frederik Dostal

Frederik Dostal

Frederik Dostalは、アナログ・デバイセズ(ドイツ ミュンヘン)のパワー・マネージメント担当エキスパートです。20年以上にわたって蓄積した設計/アプリケーションに関する知識を活かし、パワー・マネージメント分野のエキスパートとして活躍しています。ドイツのエアランゲン大学でマイクロエレクトロニクスについて学んだ後、2001年にNational Semiconductorに入社。お客様のプロジェクトを支援するフィールド・アプリケーション・エンジニアとして、パワー・マネージメント・ソリューションの導入に携わりました。その間、アリゾナ州フェニックス(米国)で4年間にわたりスイッチング電源に取り組んだ経験も有しています。2009年にはアナログ・デバイセズに入社。製品ラインや欧州のテクニカル・サポートを担当するなど、様々なポジションで業務に携わってきました。