スイッチング・レギュレータに複数のグラウンド・ピンが存在する場合、それぞれどこにつなげばよいですか?

質問:

スイッチング・レギュレータに、複数のグラウンド・ピンが存在するケースがあります。その場合、それぞれのピンを、どこに、どのように接続すべきなのでしょうか?

RAQ Issue: 159

回答:

これは、スイッチング電源を設計している多くの開発者から寄せられる質問です。例えば、スイッチング・レギュレータ(ICまたはモジュール)にアナログ・グラウンド(AGND)とパワー・グラウンド(PGND)が存在する場合、それぞれどのように接続するべきなのでしょうか。デジタル・グラウンド(DGND)とAGNDの扱いには慣れていても、PGNDについては、そうした経験が役に立たないことも少なくありません。そのため、多くの設計者は、選択したスイッチング・レギュレータに用意されている基板レイアウトの例をそのまま模倣して済ませることになります。言い換えると、この問題について深く考えるのは止めてしまうということです。

PGNDは、大きなパルス電流が流れる個所に向けて用意されたグラウンドです。スイッチング・レギュレータのトポロジにもよりますが、パワー・トランジスタを流れる電流がそれに相当します。また、外付けのパワー・デバイスを使用するDC/DCコントローラであれば、ドライバ回路で生じるパルス電流もPGNDで処理すべきでしょう。

AGNDはSGND(シグナル・グラウンド)と呼ばれることもあります。通常、これはその他の非常に穏やかな信号のリファレンスとして使用します。そうした信号には、出力電圧の安定化に必要なDC/DCコントローラ内部の電圧リファレンスが含まれます。ソフト・スタート用の信号やイネーブル電圧も、AGNDをリファレンスとして使用します。

実は、PGNDとAGNDの扱い方については2つの異なる考え方があり、専門家の間でも意見が分かれています。

1つの考え方は、スイッチング・レギュレータのAGNDとPGNDの各ピンを最短距離で互いに接続すべきだというものです。それにより、2つのピンの間の電圧オフセットは比較的小さく抑えられます。結果として、スイッチング・レギュレータは外乱に強くなり、損傷などは起こりにくくなります。この場合、すべての回路のグラウンドへの接続とグラウンド・プレーンは、スター・トポロジにおけるこの共通のポイントで結合されることになります。図1に、この考え方を実践した例を示しました。これは10A出力の降圧レギュレータ・モジュール(µModule)「LTM4600」の基板レイアウトです。基板上で分離された2つのグラウンドが、ごく近い位置で接続されています( 図1の青色の楕円部分) 。シリコン・チップとパッケージを結ぶボンディング・ワイヤの寄生インダクタンスと各ピンのインダクタンスにより、PGNDとAGNDの間には、一定量のデカップリングが存在します。それにより、シリコン上の回路間に生じる相互干渉は、わずかな量に抑えられます。

図1 . ハンダによるPGNDとAGNDの接続
図1 . ハンダによるPGNDとAGNDの接続

もう1つの考え方は、AGNDとPGNDを2つのグラウンド・プレーンとして基板上でより明確に分離しておき、ビアなどを使って1ヵ所だけで接続するというものです。このような構成にした場合、干渉信号(電圧オフセット)はそのままPGNDの領域にとどまります。一方、AGNDの領域の電圧は変化が小さく、PGNDから十分にデカップリングされた状態になります。この方法の欠点は、パルス電流のトランジェントや電流値にもよりますが、PGNDとAGNDの各ピンの間に大きな電圧オフセットが生じる可能性があることです。そのようなオフセットが生じると、スイッチング・レギュレータが適切に動作しなかったり、場合によっては損傷してしまったりすることがあります。図2に示したのは、この考え方を適用した実装例です。ここでは、6A出力の降圧レギュレータ「ADP2386」を例にとっています。

図2. AGNDとPGNDの分離。両グラウンドはビアによってグラウンド・タブの下で接続されています。
図2. AGNDとPGNDの分離。両グラウンドはビアによってグラウンド・タブの下で接続されています。

グラウンドに関する問題について考えるときには、1つのトレードオフに直面することになります。というのは、強力な分離を図れば、ノイズや干渉信号から隔離できるというメリットが得られます。ただ、そのようにすると、2つのグラウンドの間に電圧オフセットが生じる可能性があることから、シリコン・チップが損傷したり、機能面で妥協を強いられたりするというリスクを抱えることになります。このトレードオフについて正しく判断するには、スイッチングにおける遷移速度や、電力のレベル、ボンディング・ワイヤとパッケージの寄生インダクタンス、各製造プロセスに応じた耐ラッチアップ設計など、ICの設計に関わる事柄に基づいて検討を行わなければなりません。

まとめ

AGNDとPGNDの扱い方に関する質問に簡単に答えることはできません。そのため、これに関する議論は現在も続いているのです。先述したように、スイッチング・レギュレータのユーザは、多くの場合、グラウンドへの接続に関しては、ICメーカーが提供するサンプル回路の基板レイアウトをそのまま模倣することで対処しています。通常、メーカー自身も、そのサンプル回路を使ってICの評価を行っているはずです。そのため、レイアウトを模倣する方法は有効だと言えます。図1のレギュレータでは、PGNDとAGNDを最短距離で接続しやすいようなピン配列になっています。一方、図2のレギュレータでは、PGNDとAGNDをできるだけ分離しやすいようなピン配列になっています。これは、最適なレイアウトがそれぞれの製品によって異なることを表しています。

もちろん、ICメーカーがサンプル回路を設計する際にミスを犯す可能性も皆無ではありません。したがって、基本的な考え方に関するより多くの情報を収集するよう努めることも大事だと言えるでしょう。

著者

Frederik Dostal

Frederik Dostal

Frederik Dostalは、アナログ・デバイセズ(ドイツ ミュンヘン)のパワー・マネージメント担当エキスパートです。20年以上にわたって蓄積した設計/アプリケーションに関する知識を活かし、パワー・マネージメント分野のエキスパートとして活躍しています。ドイツのエアランゲン大学でマイクロエレクトロニクスについて学んだ後、2001年にNational Semiconductorに入社。お客様のプロジェクトを支援するフィールド・アプリケーション・エンジニアとして、パワー・マネージメント・ソリューションの導入に携わりました。その間、アリゾナ州フェニックス(米国)で4年間にわたりスイッチング電源に取り組んだ経験も有しています。2009年にはアナログ・デバイセズに入社。製品ラインや欧州のテクニカル・サポートを担当するなど、様々なポジションで業務に携わってきました。