質問:
なぜストレスをかけていない部品が、明白な理由もないのに故障するのですか?

回答:
寿命で壊れる時もあるし、ストレスで壊れることもあるけれど、ご指摘のようにそれは明白ではありません。
部品の「老化」とは、物理的または化学的な変化による累積的な劣化です。電解コンデンサや一部のタイプのフィルム・コンデンサは、最終的に微量不純物(特に酸素など)と電気的ストレスの組み合わせで起こる誘電体の化学反応により、破壊することはよく知られています。集積回路の構造は Moore の法則に従い、より小型化し、通常の動作温度でのドーパント移動による故障が、数世紀ではなく、数十年以内に起こるリスクが確実に増えています。また、磁気歪みによって起こる疲労によるインダクタの機械疲労もよく知られた現象です。一部の抵抗物質は、空気中でゆっくり酸化しますが、空気中の湿度がより高くなると酸化が加速します。1 バッテリが永久に保つと思っている人は誰もいません。
部品を選定するときは、その構造を理解するとともに、たとえデバイスが理想的な条件で使用されていても進行している可能性のある経年変化による故障メカニズムを理解することが大切です。このコラムでは、これらのメカニズムについて詳しく説明しませんが、信頼できるメーカーは製品の経年劣化を理解しており、製品寿命や可能性のある故障のメカニズムについて説明する用意があります。多くのシステム・メーカーは、製品の安全な使用可能寿命に関する資料とそれを制限するメカニズムに関する資料を用意しています。2
それでも、大部分の電子部品は、適正な動作条件があれば、何十年、あるいはそれ以上でも動作すると予想されます。ただし、それでも壊れる部品もあります。その理由はしばしば予期しないストレスです。
いつも「RAQ」の読者の皆さんに申し上げていますが、Murphyの法則の中でもとても有益な法則の 1 つは、「あなたが注意を払わないからといって、物理法則が機能しなくなることはない」です。多くのストレスのメカニズムは容易に見落されます。
海洋環境で使用する電子機器を設計する人は皆、塩水飛沫や湿度の影響を考慮に入れます。当然です。ひどいものですから! しかし、多くの電子機器は、それほどではなくても、やはり潜在的に損傷を与える化学作用に遭遇します。人間(および動物)の息には湿気があり、しかも若干酸性です。台所その他の家庭環境には、各種の軽度の腐食性ガス(漂白剤、殺菌剤、調理で発生するさまざまな煙、油、アルコール)が含まれていますーいずれもさほど有害ではありませんが、回路がその使用可能寿命まで完璧に保護された安全な環境に置かれると仮定するべきではありません。設計者は、回路が遭遇すると思われる環境的な課題を常に考慮し、経済的に可能であれば、できるだけ潜在的な損傷を最小限に抑える設計をする必要があります。
静電気放電(ESD)はいつも警告されながら、通常見逃してしまうストレスのメカニズムの 1 つです。多くの PCB は、製造中には ESDを排除するために細心の注意を払って工場で組み立てられますが、システムでは通常の取り扱いで誘導されるESD を防ぐ十分な保護なしに使われます。十分な保護をすることは難しくありませんが、多少コストがかかるので、省略されてしまいます。これが逆に不経済になる場合があります。通常使用時の最も過酷な条件下でどのような ESD 保護がシステム・エレクトロニクスに必要かを評価し、それを実施することが設計の一部として行われるべきです。
もう 1 つの要因は過電圧です。半導体やコンデンサが大きな過電圧で損傷しないと考える人はほとんどいませんが、高抵抗にデータシートに記載されている絶対最大値よりもはるかに高い電圧がかかっているのをよく目にします。抵抗値が十分に高ければ高温になることはありませんーしかし問題は極小の内部アークが発生し、徐々に仕様の値を逸脱して、最終的に短絡する可能性があることです。通常、大きなワイヤ付き抵抗には、数百ボルトの降伏電圧があるので、過去にこのような問題はほとんど起きません。しかし、今日の小型の表面実装型抵抗の降伏電圧は 3 0 V 以下の可能性があるので、過電圧に対し非常に弱くなっています。また、高電流も問題の原因になります。誰でもご存知の一般的なヒューズは、一本の電線に過大な電流が流れると、高温になり、それが溶解して、電源を短絡とそれに類似した問題から守る仕組みになっています。しかし、非常に小さい導体で電流密度が非常に高い部分で、超高温にはなっていない可能性がありますーそれでも最終的には故障するでしょう。原因はエレクトロマイグレーション(3 イオン移動とも呼ばれます)です。これは、移動電子と拡散金属原子の間の運動量の交換により、導体内のイオンが徐々に移動し始めることによって生じる物質の移動です。これにより、薄い導体に大きなDC 電流が流れると時間とともにますます薄くなり、最終的に壊れてしまうわけです。
部品によっては、ヒューズのように溶解して故障してしまいますー電線や半導体チップの導電パターンなどがそうです。この現象を引き起こす高電流の一般的な原因は、コンデンサの大きな充電電流です。ESRが 1 Ω の 1 F コンデンサについて考えてみましょう:このコンデンサが 110 V、60 Hz の主電源に接続されている場合、約 41 mA の交流がコンデンサに流れます。しかし、コンデンサがあるタイミングで電源に接続されて、電圧が最大(110√2 = 155.6V)になり、電流制限は ESR のみで、たとえ 1 マイクロ秒に満たない間だとしても、155.6 A のピーク電流が流れたとしましょう。これだけでも多くの小信号半導体デバイスを破壊するのに十分な時間です。また、サージ電流が繰り返し流れることで、コンデンサ自体が損傷することがあります(特に電解コンデンサの場合)。これは、小型電子デバイスの充電に使用される安価な低電圧スイッチング電源(電源アダプタ)の特に一般的な故障メカニズムです―交流サイクルの間違った方で接続すると、整流器とコンデンサに非常に大きなサージが流れ、(これが何度も起こると)やがてそれらが破壊します。整流器と直列に小さい抵抗を配置することにより、このサージ電流を制限し、問題を最小限に抑えることができます。
運がよければ、ESD や過電圧/過電流によって部品が瞬時に壊れますーこの場合問題があることがはっきりします。しかし、一般的には、故障の引き金となったストレスが消えてからずっと後に、製品寿命よりも早い時期に故障する場合が多くあります。このような故障の原因を診断するのは非常に難しく、診断不能なことさえあります。
回路を設計するときは、使用する部品の寿命と故障メカニズム、許容される最も過酷な使用条件で発生する可能性がある問題、考えられる部品の破損の原因となるストレス要因を考慮してください。これらすべての問題を考慮し、可能であれば、最終設計で問題を最小限に抑える必要があります。
1Vishay のアプリケーション・ノート「Predictable Components:Stability of Thin Film Resistors」を参照してください。
2Emerson Corp が公開している有用な資料には、SL-24617「The Effect of Regular, Skilled Preventive Maintenance and Remote Monitoring on Critical Power System Reliability 」、SL-24628 「Longevity of Key Components in Uninterruptible Power Systems」、SL-24630「Capacitors Age and Capacitors Have an End of Life」があります。
3https://ja.wikipedia.org/wiki/エレクトロマイグレーションを参照してください。
低電源では、適切な抵抗によって大量の電力を消費することはないはずですが(たとえば、5 W/110 V 電源では 33 Ω 抵抗により、サージ電流は 5 A 以下、消費電力は 70 mW 未満になります)、しかしこの種の大型の電源には、サーミスタが必要かもしれません。