アプリケーション・エンジニアに尋ねる- 7 オペアンプのノイズ

オペアンプで生じるノイズの問題

本稿では、オペアンプに関連する様々なノイズについて、Q&A形式で解き明かしていきます。

Q. オペアンプのノイズについては、どのようなことを知っておかなければならないのでしょうか?

A. まずは、オペアンプ自身ならびにオペアンプ回路を構成する部品によって生成されるノイズと、それ以外の不要な信号成分の違いに注意する必要があります。ノイズ以外の不要な信号成分としては、電圧または電流としてオペアンプのいずれかの端子に現れたり、関連する回路内で誘導されたりする干渉(望ましくない信号、ノイズ)が挙げられます。

干渉の信号は、スパイク、ステップ、正弦波、ランダム・ノイズといった形で現れます。その発生源としては、あらゆるものが考えられます。例えば、機械類、近くの電力線、RF送受信機、コンピュータ機器、同じ装置内の回路(例えば、デジタル回路やスイッチング電源)などが挙げられます。このことについて理解し、干渉信号が回路の周辺に現れるのを防いだり、どのようにして混入したのかを突き止めたり、排除したり、共存する方法を探ったりするのは重要なことです。そうした課題については、過去のアナログ・ダイアログでも取り上げたことがあります。本稿の末尾に、それらの記事や関連する書籍の情報を参考資料としてまとめてあります。

すべての干渉を除去できたとしても、オペアンプ自身とオペアンプ回路の構成要素である抵抗から生じるランダム・ノイズは排除することができません。このランダム・ノイズは、アンプの分解能に制約を加えます。以下では、主にランダム・ノイズの話題を取り上げていきます。

Q. わかりました。では、オペアンプのランダム・ノイズについて教えてください。ランダム・ノイズはどこから発生するのですか?

A. 通常、オペアンプの出力に現れるノイズは電圧として測定されます。ただ、その種のノイズは電圧源と電流源の両方から発生します。一般に、オペアンプ内部のすべてのノイズ源は、入力値に換算して扱われます。つまり、ノイズフリーの理想的なオペアンプの入力に直列/並列に接続された無相関(独立した)のランダム・ノイズの発生源であると見なされるということです(次のQ.を参照のこと)。以下では、次の3つのノイズ源について考察します。

  • ノイズ電圧の発生源(通常は非反転入力に直列に現れる オフセット電圧など)
  • ノイズ電流の2つの発生源。2本の差動入力端子を介して 電流(バイアス電流など)を出力します。
  • オペアンプ回路に抵抗が含まれている場合、それらもノイズを  生成します。その種のノイズは、電流源 または電圧源の いずれか(対象とする回路において扱いやすい方)から 発生すると見なすことができます。

最高性能のオペアンプであれば、電圧ノイズは1nV/√Hz未満に抑えられています。電圧ノイズは、ノイズの仕様として重要視されることが多いでしょう。しかし、インピーダンスのレベルが高い場合、通常、システムのノイズ性能を制約するのは電流ノイズです。これは、オフセットに似ています。出力オフセットの主な原因はオフセット電圧だと見なされがちですが、実際に悪影響を及ぼしているのはバイアス電流です。バイポーラ・トランジスタで構成したオペアンプの方がFETで構成したオペアンプよりも電圧ノイズは小さく抑えられます。そのため、従来はバイポーラのオペアンプに注目が集まっていました。しかし、そのメリットと引き換えに、バイポーラのオペアンプでは電流ノイズがかなり大きな値になっていました。FETをベースとする今日のオペアンプは、電流ノイズを小さく維持しつつ、バイポーラのオペアンプに近い電圧ノイズ性能を発揮します。

Q. ちょっと待ってください。1nV/√Hzですって?  √Hzというのはどこから来たのでしょう?  また、それはどのようなことを意味するのですか?

A. 改めて、ランダム・ノイズについて説明しましょう。多くのノイズ源は、実用的な観点からは(つまり、設計者にとって関心のある帯域幅の範囲内では)、ホワイト・ノイズの発生源またはガウス・ノイズの発生源として存在します。ホワイト・ノイズとは、帯域内において周波数に依存しない電力ノイズのことです。一方、ガウス・ノイズとは、特定の振幅Xの確率がガウス分布に従うノイズのことを指します。ガウス・ノイズには、次のような性質があります。すなわち、複数のガウス・ノイズ源が互いに無相関である場合(一方のノイズ信号を他方のノイズ信号に変換できない場合)、それらのノイズ源から生じるノイズのRMS値の加算は、算術和ではなくRSSによって行われるというものです。ここで、ノイズの電力はリニアに加算される(二乗和)という意味合いに注意してください。例として、3つのノイズ源V1、V2、V3があったとします。その場合、RSSによる計算は次のようになります。

数式 1

ノイズの信号の異なる周波数成分は、互いに無相関です。そのため、理想的な帯域幅Δfに含まれるホワイト・ノイズをVとすると、RSSによる加算に基づいて、帯域幅2Δfに含まれるノイズは次のようになります。

数式 2
より一般的に言うと、帯域幅がK倍になればノイズは√K倍になります。対象とする周波数範囲内の任意の帯域幅Δf = 1√Hzに含まれるノイズのRMS値は、関数として定義されます。その関数のことを、(電圧または電流の)スペクトル密度関数と呼びます。この関数において、単位としてはnV/HzまたはpA/√Hzが使用されます。ホワイト・ノイズの場合、スペクトル密度は一定です。その値に帯域幅の平方根を乗じることで、トータルのRMSノイズを求めることができます。

RSSで加算を行うと、有益な結論が得られます。すなわち、2つのノイズ源がシステムのノイズに寄与していて、一方のノイズが他方の3~4倍以上である場合には、小さい方のノイズ源は通常無視できるというものです。その理由を計算によって示すと以下のようになります。

数式 3

【両者の差は3%または0.26dB未満】

数式 4

【両者の差は6%または0.5 dB未満】

つまり、より大きいノイズを発生させるノイズ源の方が支配的なものになります。

Q. よくわかりました。では、電流ノイズについてはどのようになるのですか?

A. シンプルな(バイアス電流の補償がない)バイポーラのオペアンプやJFET入力のオペアンプの場合、バイアス電流による電流ノイズはショットキー・ノイズと呼ばれます。あるいはショット・ノイズと呼ばれることもあります。その大きさは1dB~2dB程度です。このショットキー・ノイズの値は、データシートに必ず記載されているとは限りません。ショットキー・ノイズは、接合部を流れる電流に含まれる電荷キャリアのランダムな分布に起因して生じます。その電流の値をIとすると、帯域幅Bに含まれるショットキー・ノイズの電流Inは次の式によって求められます。

数式 5

ここで、qは電子の電荷(1.6×10-19C)です。上式に含まれる以下の部分に注目してください。

数式 6

この式はスペクトル密度に相当します。ノイズの種類はホワイト・ノイズです。

上の式から、バイポーラのシンプルなオペアンプの電流ノイズのスペクトル密度は、Ibが200nAの場合で約250fA/√Hzとなります。この値は、温度が変化してもあまり変わりません。また、JFET入力のオペアンプの電流ノイズはそれよりも少なく、Ibが50pAの場合で4fA/√Hzとなります。ただ、このノイズは、チップの温度が20°C上昇するごとに2倍になります。JFET入力のオペアンプでは、温度が10°C上昇するごとにバイアス電流が2倍になるからです。

バイアス電流が補償されているオペアンプの場合、電流ノイズはその入力電流から予測できる値よりもはるかに大きくなります。その場合、実質的なバイアス電流は、入力トランジスタのベース電流と補償用の電流源が生成する電流の差になります。ノイズの電流は、複数のノイズの電流をRSSで加算したものになります。

バランス入力を備える従来の電圧帰還型オペアンプでは、反転入力と非反転入力の電流ノイズの大きさはほぼ同等になります(但し無相関)。一方、両入力の構造が異なる電流帰還型オペアンプやトランスインピーダンス・アンプではそのようにはなりません。両入力におけるノイズの詳細については、データシートを確認する必要があります。

オペアンプのノイズは、広い周波数範囲にわたってスペクトル密度が一定(つまり、ホワイト・ノイズ)になるガウス・ノイズです。ただ、周波数が低くなると、スペクトル密度は約3dB/octの割合で上昇し始めます。つまり、ノイズ電力のスペクトル密度が周波数に反比例します(正確には1/fg)。そのため、この低周波のノイズは1/fノイズと呼ばれます。対数軸を使ってプロットすれば、その傾きは-1になります(ノイズ電圧/電流の1/√fのスペクトル密度は-1/2の傾きを示します)。外挿によって得られた-3dB/octのスペクトル密度の直線は、中程度の周波数におけるスペクトル密度の一定の値と交差します。その周波数は、1/fコーナー周波数と呼ばれます。同周波数は、オペアンプの性能指標の1つです。モノリシック型のICとして実現された初期のオペアンプでは、1/fコーナー周波数は500Hzを超えていました。しかし、最近のオペアンプでは同周波数の値は20~50Hz程度まで下がっています。最高性能のオペアンプ(「AD-OP27」や「AD-OP37」など)では、1/fコーナー周波数はわずか2.7Hz程度です。1/fノイズは、等比率の周波数間隔、すなわちオクターブまたはディケードごとに同じ量だけ増加していきます。

Q. ノイズ指数の値が公表されないのはなぜですか?

A. オペアンプのノイズ指数(NF:Noise Figure。単位はdB)は、ソース抵抗の熱ノイズに対するオペアンプのノイズの比率を表すために使われます(以下参照)。
Vn = 20 log { [Vn(amp)+Vn(source)]/Vn(source)}

この概念は、ほぼ間違いなく同じソース抵抗(通常は50Ωまたは75Ω)で駆動されるRFアンプに対しては有効です。ただ、オペアンプにこの指標を適用すると誤解が生じる可能性があります。オペアンプは多種多様なアプリケーションで使用され、それぞれにソース・インピーダンスが大きく異なるからです。また、同インピーダンスは抵抗性の場合もあれば、そうではない場合もあります。

Q. ソース・インピーダンスによってどのような違いが生まれるのですか?

A. 絶対零度を超える温度では、すべての抵抗がノイズ源になります。そのノイズは、抵抗値、温度、帯域帯と共に増加します(抵抗の基本的なノイズであるジョンソン・ノイズについては後述します)。一方、リアクタンスからはノイズは生じません。ただ、ノイズ電流がリアクタンスを流れると、ノイズ電圧が発生します。

オペアンプをソース抵抗から駆動する場合、入力換算ノイズは3つの電圧をRSSで加算した値になります。3つの電圧とは、アンプのノイズ電圧、ソース抵抗によって生成される電圧、アンプのInがソース・インピーダンスを流れることによって生じる電圧です。ソース抵抗の値が非常に小さい場合、ソース抵抗によって生成されるノイズとオペアンプの電流ノイズがトータルのノイズに及ぼす影響はごくわずかです。その場合、入力ノイズは実質的にオペアンプの電圧ノイズのみということになります。

ソース抵抗の値が大きくなると、それによるジョンソン・ノイズの大きさが、オペアンプのノイズ電圧と、電流ノイズに起因するノイズ電圧の両方を大きく上回る可能性があります。しかし、電流ノイズに起因するノイズ電圧は入力インピーダンスに直接比例するのに対し、ジョンソン・ノイズは抵抗値の平方根に比例して増加するだけです。したがって、入力インピーダンスが十分に高い場合には、オペアンプの電流ノイズの方が必ず支配的になります。この点には注意が必要です。オペアンプの電圧ノイズと電流ノイズが大きい場合、ジョンソン・ノイズが支配的になるような入力抵抗の値は存在しない可能性があります。

上記の内容については、下に示すグラフによって確認できます。これは、アナログ・デバイセズが提供する複数のオペアンプ製品の電圧/電流ノイズを比較したものです。ソース抵抗の値を一定の範囲内で変化させた場合の各ノイズの値をプロットしています。グラフ中の斜線は、ジョンソン・ノイズの値を縦軸にとり、横軸の抵抗値に対応する値をプロットした結果を表しています。ここでは、AD-OP27の特性に注目してみましょう。横線は、AD-OP27の電圧ノイズのレベルは約3nV/Hzで、約500Ω未満のソース抵抗のノイズと同等であることを示しています。そのノイズは、ソース・インピーダンスの値を100Ωといった値にしても減少しません。ただ、2kΩまで変化させると増加します。AD-OP27に対応する縦線を見ると、次のようなことがわかります。すなわち、ソース抵抗の値が約100kΩを超えると、同アンプの電流ノイズによって生成されるノイズ電圧がソース抵抗に起因する電圧を上回り、支配的なノイズ源になるということです。

Figure 1

ここでは、非反転入力の任意の抵抗によってジョンソン・ノイズが発生し、その抵抗によって電流ノイズがノイズ電圧に変換されるということを頭に入れておいてください。また、回路で使用する帰還抵抗のジョンソン・ノイズは、その抵抗値が大きい場合、非常に大きくなる可能性があります。オペアンプの性能を評価する際には、潜在的なすべてのノイズ源について考察しなければなりません。

Q. ジョンソン・ノイズについて詳しく教えてください。

A. 絶対零度を超える温度では、すべての抵抗から電荷キャリアの熱運動に起因するノイズが生成されます。これがジョンソン・ノイズです。この現象は、極めて低い温度を測定するために利用されることがあります。値がR(単位はΩ)の抵抗からは、以下の式で決まる電圧ノイズと電流ノイズが生じます。

数式 7

ここで、Bは帯域幅(単位はHz)、Tはケルビン温度、kはボルツマン定数(1.38×10-23〔J/K〕)です。室温における1kΩの抵抗のノイズは約4nV/Hzとなります。この数値を覚えておくと便利です。

回路内に存在するすべての抵抗はノイズを生成します。したがって、その影響について必ず考察しなければなりません。現実的に考えると、回路全体のノイズに大きな影響を与える可能性があるのは入力部の抵抗です。また、ゲインの高いフロント・エンド回路の帰還パスで使われている抵抗も影響を及ぼす可能性があります。おそらくは、これら2つに注意すれば十分でしょう。

抵抗の値を減らすか、帯域幅を狭めれば、ノイズを低減することができます。しかし、温度について工夫を施しても一般的には顕著な効果は得られません。ノイズの電力は絶対温度T([摂氏温度] + 273°C)に比例しますが、ノイズを減らすには、抵抗の温度を非常に低く抑えなければならないからです。

(続く)

参考資料

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著者

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James Bryant

James Bryantは、1982年から2009年に定年退職するまで、アナログ・デバイセズの欧州地区アプリケーション・マネージャを務めていました。現在も当社の顧問を務めると共に、様々な記事の執筆に携わっています。リーズ大学で物理学と哲学の学位を取得しただけでなく、C.Eng.、Eur.Eng.、MIEE、FBISの資格を有しています。エンジニアリングに情熱を傾けるかたわら、アマチュア無線家としても活動しています(コールサインはG4CLF)。

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Lew Counts