図1に示すオーディオ・パンポット回路は、ポテンショメータの設定に応じて、モノラルのオーディオ信号の位置を左右のステレオ・チャンネル間で連続的に変化させます。オーディオ回路では、低価格と低歪みが重要なポイントになります。低歪みのデュアル差動アンプ AD8273は、内部ゲイン設定抵抗を用いるため、2つのチャンネル間のマッチングに優れています。各チャンネルは、外付け部品なしで、ゲイン3倍の高性能アンプとして設定され、これがふたつ使われています。オーディオ周波数範囲で、全高調波歪みは0.0007%未満になります。
この回路はディスクリートでも作成できますが、アンプと抵抗をシングル・チップに集積すれば、仕様の改善、回路基板面積の削減、製造コストの低減といったメリットが得られます。

この回路では、10kΩの直列抵抗を用いて信号を2つのアンプに分割します。2つの非反転入力の間に、接地ワイパー付きのポテンショメータを挿入します。ポテンショメータと10kΩ抵抗の組み合わせによって軽い負荷となりますが、これはほとんどの音源で簡単に駆動できる範囲です。これらのアンプのゲインは3に設定されています。ポテンショメータ・ワイパーがいずれかの端にあるとき、入力の1つが接地されるため、対応する出力には信号が来ません。もう1つの入力ではVIN/2になるため、出力は1.5×VINになります。ワイパーが中央にあるときは、2つのアンプの入力がVIN/3になるため、各アンプの出力はVINになります。このようにワイパーを機械的または電子的に移動させることで、一方のチャンネルの信号レベルは0から1.5×VINまで、もう一方のチャンネルでは1.5×VINから0までそれぞれ連続的に変化します。このため、リスナーには音場の一方のチャンネルから他方のチャンネルへと音源が移動するように感じられます。これによって、見かけ上の音源である音像を左右のスピーカの間の任意の場所に置くことができます。

図2は、オーディオ周波数範囲の全高調波歪み+ノイズです。周波数とともに誤差が増大しますが、20kHzの総合誤差はやはり0.0007%未満です。図3は、ICへの接続を示しています。

参考資料
1www.analog.com/jp/audiovideo-products/audio-amplifiers/ ad8273/products/product.html