背景
バッテリ駆動型のデバイスは、充電ソース、バッテリ・ケミストリ(バッテリの種類)、電圧/電流といった面でそれぞれに異なる仕様で設計されます。そのため、バッテリ・チャージャICにも、産業用、ハイエンド用、多機能の民生用、医療用、車載用といった具合に様々な種類があります。また、最近では、各ケミストリに対応するバッテリ・パックの大規模化も進んでいます。このことから、より高い電圧と多くの電流が求められるようになりました。加えて、再充電が可能なSLAバッテリ(密閉型鉛蓄電池)やリチウム・ベースのバッテリを含む様々な革新的なシステムに対して、電力レベルが広範にわたる太陽光発電パネルから電力供給が行われるケースも増えてきました。横断歩道のマーカー・ライト、可搬型のスピーカ・システム、ゴミ圧縮機、海で使われるブイ用のライトなどがその例です。また、太陽光発電を利用する一部のアプリケーションでは、深放電に加えて長期間繰り返される充電サイクルにも耐えられるディープ・サイクル・バッテリが使われています。この種のLAバッテリ(鉛蓄電池)の実用例が深海域で使われるブイです。この種のブイは10年にもわたって設置されたままになるので、それに耐えられることが求められます。その他の例としては、オフ・グリッド(電力会社から切り離された)の太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギー・システムが挙げられます。この種のシステムの場合、頻繁にアクセスすることが困難なケースが少なくありません。そのため、システムを継続的に稼働させられることが非常に重要な要素となります。
太陽光発電以外のアプリケーションにおいても、最近では、大容量のSLAバッテリ・セルが再び注目されるようになっています。コスト/電力出力の観点から見ると、SLAセルは安価かつ瞬時に多くのパルス電流を供給できるという長所を備えています。このことから、自動車などで使われるスタータ用のバッテリとして優れた選択肢になっています。車載用の組み込みアプリケーションでは、入力電圧が30V以上にも達することがあります。例として、盗難防止用に活用されるGPSベースの位置情報システムについて考えてみます。このアプリケーションには、直列に接続した2個のリチウム(Li)イオン・バッテリ(標準値は7.4V)に対応するために、標準的な12Vの入力電圧を降圧することが可能で、高い電圧に対する保護が可能なリニア・チャージャが適しています。またディープ・サイクル・バッテリ(LAバッテリが使われます)も、産業用アプリケーションでよく使われています。この種のバッテリは、車載用バッテリよりもプレートが厚く、全容量の20%まで放電できるように設計されています。通常は、フォーク・リフトやゴルフ・カートのように、長時間一定の電力を要する用途で使用されます。但し、Liイオン・バッテリと同様に、LAバッテリも過充電に弱いため、充電サイクルにおいては慎重に取り扱うことが非常に重要です。
現在のICベースのソリューションは、入力電圧、充電電圧、充電電流について考えられる数多くの組み合わせのうち、一部にしか対応していません。そのため、それ以外の対応が難しい組み合わせやトポロジについては、扱いづらいICとディスクリート部品を組み合わせることで対処しなければなりませんでした。しかし、この状況は2011年に変化しました。アナログ・デバイセズが、バッテリ・チャージャ用のコントローラIC「LTC4000」、ならびに同ICと組み合わせて使用可能な外部補償付きDC/DCコンバータICの2つで構成される充電ソリューションを発表したからです。このソリューションにより、より簡素な構成で、上述したアプリケーション分野に対応できるようになりました。
スイッチング・チャージャとリニア・チャージャ
従来のリニア・トポロジのバッテリ・チャージャICは、小型かつ簡素で低価格であることから高い評価を受けてきました。しかし、リニア・チャージャには、いくつかの欠点もありました。入力電圧範囲とバッテリの電圧範囲に制限がある、相対的に消費電流が多い、過度に電力が消費される、充電を終了するためのアルゴリズムに制限がある、相対効率([VOUT/VIN]×100%)が低いといった具合です。一方、スイッチング方式のバッテリ・チャージャIC(以下、スイッチング・チャージャ)も、本来、有力な選択肢となり得るはずです。トポロジの柔軟性が高い、複数のバッテリ・ケミストリに対応できる、充電効率が高い(発熱を最小限に抑えつつ高速に充電できる)、動作電圧範囲が広いといった特徴を備えるからです。但し、スイッチング・チャージャにも欠点があります。比較的コストが高い、インダクタをベースとする複雑な設計が必要になる、本質的にノイズが多い、より大きな実装面積を必要とするといったことです。最新のLAバッテリや、ワイヤレス給電、エナジー・ハーベスティング、太陽光発電を利用した充電、リモート・センシング、車載用の組み込みアプリケーションでは、上述した理由から、高電圧に対応するリニア・チャージャが使われています。しかし、それらの欠点を克服した最新のスイッチング・チャージャであれば、リニア・チャージャを置き換えられるはずです。
シンプルな降圧バッテリ・チャージャ
充電ソリューションについて検討する際、設計者はいくつかの難易度の高い課題に直面することになります。それは、入力ソースとバッテリの組み合わせが多種多様である、大容量のバッテリを充電の対象としなければならない、入力電圧が高いといったことです。
入力ソースにはいくつもの選択肢があります。特に、バッテリ・チャージャ・システム向けには、より複雑な入力ソースが使われる傾向があります。例えば、電圧が5V~19V(あるいはそれ以上)で、より多くの電力を供給するACアダプタや、24Vの整流ACシステム、ハイ・インピーダンスの太陽光発電パネル、自動車/大型トラック/ハンヴィー(高機動多目的装輪車)用バッテリなどです。そのため、システムで組み合わせられるバッテリ・ケミストリ(Liイオン、Liポリマー、LiFePO4、LAバッテリ)が更に増え、設計がより一層難しくなります。
ICの設計が複雑になることから、既存のバッテリ・チャージャICに使われるのは、降圧トポロジ、あるいはそれよりも更に複雑なSEPIC(Single Ended Primary Inductor Converter)トポロジにほぼ限定されています。このような状況のなか、太陽光発電に対応する充電機能を対象として加えることになると、更に多くの複雑さがもたらされることなります。既存のソリューションの中には、複数のバッテリ・ケミストリを充電の対象とするものや、充電終了機能を内蔵しているものも存在します。しかし、1つのチャージャICにより、あらゆる問題を解決可能な性能/機能を実現しているソリューションは存在しません。
多機能かつ小型の新たなチャージャIC
上述した問題を解決するためには、降圧チャージャICが以下に挙げる項目の大半に対応している必要があります。
- 広い入力電圧範囲
- 複数のバッテリ・スタックに対応するための広い出力電圧範囲
- 複数のバッテリ・ケミストリに対応できるだけの柔軟性
- 充電終了用のアルゴリズムを内蔵し、シンプルで自律的な動作が可能(マイクロプロセッサを必要としない)
- 高速充電や、大規模/大容量のセルの充電に対応できるだけの大電流を供給可能
- 太陽光発電に対応する充電機能
- 熱性能と実装効率が高い高度なパッケージング
アナログ・デバイセズは、数年前に、バッテリ・チャージャ用の安価なコントローラICとしてLTC4000を開発しました。これを外部補償付きのDC/DCコンバータICと組み合わせることで、強力かつ柔軟性の高い2チップ構成のバッテリ・チャージャ・ソリューションを構成できます。LTC4000により、複雑で扱いにくかったソリューションが大幅に簡素化されました。PowerPath™による制御、昇降圧機能への対応、入力電流の制限を可能にするために、ソリューションとしては、スイッチング方式の昇降圧DC/DCレギュレータ(またはフロント・エンドの昇圧コントローラとスイッチング方式の充電用降圧コントローラのペア)、マイクロプロセッサ、および複数のICとディスクリート部品で構成されていました。このソリューションには、いくつかの欠点がありました。動作電圧範囲に制限がある、太陽光発電パネルに対応する入力機能がない、すべてのバッテリ・ケミストリには対応することができない、充電終了機能を内蔵していないといったことです。これらの問題を解決するために、現在、アナログ・デバイセズは、大幅な小型化を達成したシンプルなモノリシック型ソリューションを提供しています。それが、降圧バッテリ・チャージャIC「LTC4162」と「LTC4015」です。いずれも、多様な充電電流のレベルに対応すると共に、あらゆる機能を備えたシングルチップの降圧チャージャ・ソリューションです。
LTC4162の概要
LTC4162は、同期整流式方式のモノリシック型降圧バッテリ・チャージャ/PowerPath対応マネージャです。高電圧、マルチケミストリに対応する点を大きな特徴とします。また集積度が高く、テレメトリ機能を備えると共に、最大電力点追従機能(MPPT:Maximum Power Point Tracking)もオプションで提供します。ACアダプタ、バックプレーン、太陽光発電パネルなどの様々な入力ソースから電力を受け取り、Liイオン、Liポリマー、LiFePO4、LAの各バッテリ・スタックを効率的に充電しつつ、システムの負荷に対して最高35Vの電源電圧を供給することができます。また、同ICは、高度なシステム監視機能とPowerPath対応の管理機能のほか、バッテリのヘルス・モニタリング機能も備えています。同ICの最先端の機能にアクセスするためには、ホストとなるマイクロコントローラが必要になりますが、オプションでI2Cポートも使用できます。同ICの充電機能については、ピン・ストラップによって設定するか、プログラミング用の抵抗を使って調整することが可能です。充電電流は最大3.2Aまでで、±5%の精度が得られます。2.4V~35Vの入力電圧範囲で動作し、充電電圧の精度は±0.75%です。可搬型の医療用機器や、USBを使って電源を得るデバイス(USB-C対応デバイス)、防衛用機器、産業用のハンドヘルド端末、耐久性の高いノート型パソコン/タブレット端末などを主な用途とします。

図1に、LTC4162の標準的なアプリケーション回路を示しました。同ICは、コマンドによって多くのシステム・パラメータを継続的にモニタするために、分解能が16ビットのA/Dコンバータ(ADC)を内蔵しています。モニタの対象となる主なパラメータとしては、入力電圧、入力電流、バッテリ電圧、バッテリ電流、出力電圧、バッテリの温度、ダイの温度、バッテリの直列抵抗(BSR:Battery Series Resistance)が挙げられます。すべてのシステム・パラメータは、2線式のI2Cインターフェースを介してモニタすることができます。また、プログラムが可能でマスクも可能なアラートにより、特定の情報が得られた場合のみ割り込みが発生するように設定できます。同ICのアクティブなMPPTアルゴリズムは、入力が低電圧になった場合の制御を担うループにおいて掃引を行い、太陽光発電パネルや抵抗性の電源からの電力が最大になる動作点を選定します。加えて、同ICのPowerPathトポロジでは、出力電圧がバッテリから切り離されているため、バッテリ電圧が非常に低い状態でも、充電ソースが加えられたら直ちに可搬型の機器を起動することができます。同ICが内蔵する充電プロファイルは、Liイオン、Liポリマー、LiFePO4、LAを含む様々なバッテリ・ケミストリ向けに最適化されています。充電電圧と充電電流は、いずれもJEITA(電子情報技術産業協会)のガイドラインに準拠するように、バッテリの温度に基づいて自動的に調整されます。これについては、カスタムで調整できるようにもなっています。LAバッテリについては、連続温度曲線に基づき、周囲温度に応じて自動的にバッテリ電圧が調整されます。加えて、すべてのバッテリ・ケミストリに対し、ダイの接合温度を調整するシステムもオプションで用意されています。そのため、スペースに制約があったり熱の問題を抱えていたりするアプリケーションにおいて、過度に温度が上昇することを回避できます。Liイオン・バッテリの充電効率性能については、図2をご覧ください。
LTC4162は、露出金属パッド付きで熱性能に優れる4mm×5mmの28ピンQFNパッケージを採用しています。Eグレード、Iグレードの製品は、-40°C~125°Cでの動作が保証されています。

より多くの電流が必要な場合に向けて
LTC4015も同期整流方式の降圧バッテリ・チャージャです。高電圧、マルチケミストリに対応し、テレメトリ機能を搭載しています。同ICの場合、より多くの充電電流に対応できるように(最大20A以上)、外付けのパワーMOSFETを使用可能なアーキテクチャを採用しています。ACアダプタ、太陽光発電パネルなどの入力ソースを基に、Liイオン、Liポリマー、LiFePO4、LAバッテリに電力を供給します。同ICは、バッテリ用のクーロン・カウンタ機能やヘルス・モニタリング機能を含む高度なシステム監視/管理機能を備えています。同ICの最先端の機能にアクセスするためにはホストとなるマイクロコントローラが必要ですが、オプションでI2Cポートを使用することも可能です。同製品の充電機能は、ピン・ストラップによって設定したり、プログラミング用の抵抗を使って調整したりすることができます。

LTC4015は、最大20Aまでの充電電流を±2%の精度で供給できます。入力電圧は4.5V~35Vで、充電電圧の精度は±1.25%です。可搬型の医療用機器や、防衛用機器、バッテリのバックアップ、産業用のハンドヘルド端末、産業用の照明、耐久性の高いノート型パソコン/タブレット端末、リモート電力転送、テレメトリ・システムなどを主な用途とします。
LTC4015は、分解能が14ビットのADCに加え、高精度のクーロン・カウンタを備えています。ADCは、入力電圧、入力電流、バッテリ電圧、バッテリ電流など多くのシステム・パラメータを継続的にモニタするために使用します。また、コマンドによって、バッテリの温度とBSRを報告することが可能です。同ICによってこれらのパラメータをモニタすることにより、充電の状態を監視するだけでなく、バッテリのヘルス・モニタリングも実施できます。すべてのシステム・パラメータは、2線式のI2Cインターフェースを介してモニタすることができます。加えて、プログラムが可能でマスクも可能なアラートにより、特定の情報が得られた場合のみ割り込みが発生するように設定できます。同ICが内蔵する充電プロファイルは、Liイオン、Liポリマー、LiFePO4、LAを含む様々なバッテリ・ケミストリ向けに最適化されています。ユーザは、構成用のピンを使用することで、各バッテリ・ケミストリ向けに事前に定義された複数の充電アルゴリズムの中から、適切なものを選択することができます。更に、I2Cを介して複数のアルゴリズムのパラメータを調整することも可能です。充電電圧と充電電流は、いずれもJEITAのガイドラインに準拠するように、バッテリの温度に基づいて自動的に調整されます。これについては、カスタムで調整できるようにもなっています。LAバッテリの充電効率については、図4をご覧ください。LTC4015は、露出金属パッド付きで熱性能に優れる5mm×7mmのQFNパッケージで供給されます。

省スペース、高い柔軟性、より高い電力レベル
LTC4162は、パワーMOSFETも集積したモノリシックのICです。そのため、電力レベルが等しい( 例えば3A)条件で比較した場合、LTC4015を使う場合よりも、プリント回路基板上の実装面積を最大50%削減できます。一方、両製品が備える機能セットはほぼ同じなので、出力電流が3.2A以上で最大20A以上にも達するケースでは、LTC4015を使用すべきです。バッテリ・チャージャICをベースとするソリューションで、同じように高いレベルの集積度を実現しているものや、同等の電力レベルを実現できるものは他にありません。充電電流(2A~3A)がほぼ等しい競合品の場合、1つのバッテリ・ケミストリのみ( Liイオンのみ) に限定されていたり、バッテリの充電電圧が制限されていたり( 最大13V) するなど、LTC4162やLTC4015のような電力レベルや柔軟性は提供されません。また、最も類似した競合他社のモノリシック型バッテリ・チャージャ・ソリューションと必要な外付け部品も含めて比較した場合、LTC4162の方がトータルの実装面積を最大40%削減できます。この観点からも、設計上の選択肢としてより魅力的なものとなっています。
太陽光発電による充電
太陽光発電パネルを最大電力点(MPP)で動作させる方法はいくつもあります。最もシンプルな方法は、ダイオードを介して太陽光発電パネルにバッテリを接続する方法です。これは、パネルの最大出力電圧と比較的狭いバッテリの電圧範囲のマッチングに頼った方法です。利用できる電力レベルが非常に低い(約数十mW以下のレベル)場合には、最適なアプローチであるかもしれません。しかし、電力レベルは常に低いわけではありません。そのため、LTC4162/LTC4015では、光量が変化したときに太陽光発電パネルの最大出力電圧(MPV:Maximum Power Voltage)を見いだす技術であるMPPTを採用しています。この最大出力電圧は、パネルの電流が20倍以上のダイナミック・レンジで変化すると、12Vから18Vへと大幅に変化することがあります。MPPT回路のアルゴリズムは、バッテリに最大の充電電流を供給できるパネルの電圧値を探して追従します。MPPTの機能は、連続的に最大電力点に追従するというだけのものではありません。複数のピークが電力曲線上に発生している場合には、電力曲線上の適切な最大点を選択し、部分的に日陰になっているパネルからより多くの電力を取り出すことができます。MPPT機能の動作に十分な光がない期間には、チャージャは低電力モードによってわずかな充電電流を供給するように動作します。
まとめ
LTC4162とLTC4015は、あらゆる機能を備えた強力なバッテリ・チャージャ/PowerPathマネージャICです。これらを使用すれば、高電圧/大電流に対応する非常に複雑な充電システムを簡素化することができます。これらのICは、ACアダプタ、バックプレーン、太陽光発電パネルなどの入力ソースと、Liイオン、Liポリマー、LiFePO4、SLAを含む様々なバッテリ・ケミストリに対応しており、充電を実施する際の電力を効率的に分配/管理します。かつて、最先端のアプリケーションでは、SEPICのような複雑なトポロジを採用したスイッチング・レギュレータが唯一の選択肢でした。LTC4162やLTC4015を採用すれば、シンプルかつコンパクトなソリューションにより、そうしたアプリケーションに対応できます。中~大電力のバッテリ・チャージャ回路を必要とする設計者の業務を大幅に簡素化することが可能になります。